今後は主に正邪とアリス、そして小間使いがメインになるのかな?
てぎすしらずたい
鬼人正邪は天邪鬼だ。その性格は天邪鬼そのもので、人とは反対のものを好み、人が嫌がる姿を見て喜ぶという、ある意味妖怪として妖怪らしい性格をしていた。『何でもひっくり返す程度の能力』というのも彼女(性別すらひっくり返すが、普段の性別が女なので彼女とする)にあっているのか、それを使って物の落ちる方向をひっくり返し、空の彼方へ消えさせたり、飲み物を顔にぶちまけたりと、しょうもない嫌がらせをして楽しんでいた。
たまにそうやって人の嫌がる顔をみるだけの生活で、彼女は満足していた。
いつの日か、彼女の周りには誰もいなくなった。人だけではない、妖怪も、鳥も、虫も、動くことのない植物でさえ、彼女が来るとその枝葉を避けるように遠ざけていた。しかしそれは彼女を喜ばせるだけで、ついに生き物以外まで嫌な顔をするようになったと笑っていた。
本当の一人ぼっちになるまでに時間はかからなかった。
道を歩けば人は顔を背け目を合わせようともしない。それどころか石を投げられた。妖怪とは言えどその力はそこらの大人と変わらないほど弱く、投げられた石が当たれば痛いし、悪戯をしたわけでもないのに非難されればそれなりに傷つく。自分が悪戯する分には楽しいが、誰かに嫌なことされれば気分を害す。
「……あれ?」
ふと思いつけば、周りには何もなかった。全てを彼女から遠ざけるように、何も聞こえない。動物の鳴き声も、鳥の囀りも、虫の蠢きも、風で擦れあう葉の音も、何も聞こえなくなっていて、そうしてようやく彼女は気づいた。
あれ、私は今一人ぼっちなのか?
そんなはずはないと、周りに何かを求めて探し回るも見つからず、枝の間に見つけられず石をどかして下を見ても何も蠢いておらず、本当に何も見つからなかった。
「まぁいいか」
そんなことで正邪はへこたれない。人とは反対のものを好む性格が本心を隠し、気にしない素振りを振るった。皆が協力して私を除け者にしているのだろうけど、そのうち飽きてくるさと楽観的にとらえていた。一部それは当たっていて、皆言葉は交わさずともそれとなく鬼人正邪とは関わらないという制約を交わしていた。正邪の誤算だったのは、誰もが飽きるどころか日に日に正邪に対して嫌悪感を増していったことだろう。数か月経っても、正邪の前には虫一匹も現れることはなかった。
「…………ぐすん」
一週間目で、ん?とは思ったものの気にせず、二週間で皆粘るなぁと内心焦って、一か月になるころには毎日歩き回って探していた。そしてついにはどれだけ探しても誰も見つからず、あまりの寂しさに涙を浮かべてしまった。べ、別に寂しくなんかねーし、と鼻を赤くして啜る様を見ればやり過ぎたかもと、少しは変わったかもしれないが、誰も見ることはない。たとえ見たとしても大半が、どうせ嘘泣きで騙すつもりなんだろうと疑ってしまう。それもすべては自業自得なのだが。
「なんで皆私から離れていくんだよぉ……」
ようやくここで思案する、自分が周りから嫌われた原因を。それは簡単で、あまりにも多い悪戯や嫌がらせ、嘘による不信感や嫌悪感が募りこうなったのだと。しかし後悔はあれど反省はしない。それは自信が天邪鬼であるためのアイデンティティなのだから。けどこのまま嫌われたままで独りで過ごしていては、アイデンティティも何もない。
とりあえず現状をどうにかしないといけない。
どうすればいいか考えるときは、まず理想から入ると良い。正邪の理想は、悪戯をしても嫌いにならない奴がいる状況だ。そうなると、まずは一人でも自分のことを信用してくれる友達、親友のような奴が必要になる。そこからどんどん人数を増やしていけたらいい。
じゃあまずは友達を作ることから始めよう、として。
「友達ってどうやって作るんだ?」
さっそく躓いた。
もう言わなくても分かるが、正邪は天邪鬼だ。人の嫌がることを生業としているので、親しい友人はおろか、好意的な感情を持っている奴を探すのすら難しい。というかまず誰かに好意的になってもらうにはどうすればいいかわからない。
そんなもの正邪の『程度の能力』でひっくり返せばいいのだが、それをしても悪戯を繰り返すうちにどんどん悪くなっていくオチは見えている。正邪が求めているのは、そう簡単に好意が下がるような存在じゃない。
となると地道に好感度を上げる作業をしないといけないのだが、そこで正邪は閃いた。
「(今までやってきたことの逆をすれば、皆から良く思われるんじゃないか)」
閃いたという割には普通だが、それでも正邪にしては考えたほうである。何せ天邪鬼だ、普通の考えとは真逆のことを考える。普段人を困らせることばかりしている奴が急に逆のことを考えようとしても、まともな案など出てこないのだから、正邪にしては頑張ったといえる。
しかしその案は正邪には中々辛いものである。その性格がどうしても人の嫌がるほうへ体を動かしていき、誰かの為になることをさせようとしないのだ。だがそれ以外に何かあるかと言われても何も思い浮かばず、それをするしかない。
「にしても逆のことかー。そうだな、前に落とし穴を作ったのは────これは関係ないか。じゃあ玄関に出たとき牛の糞を踏むように────これもダメか。なら賽銭泥棒────って言っても饅頭一個買えないはした金だったけどな」
いくつか今までやった悪戯を元に、その逆をしようと思ったのだが、そもそも逆にできることがなくて困ってしまった。これじゃあ計画は進まない。
それからもどうにかしようと考えるが、なかなか良い案は浮かばず、ついに思いついたのが。
「誰かにどうすればいいか聞こう」
というものだった。
自分のことを自分で解決しようとせず、他人の力に頼ろうとするゆがんだ精神には、逆に感心させられる。しかし正邪は忘れていた。自分がどうすればいいか聞こうにも、誰もいないことを。
「…………ひっぐ、えっぐ」
案外正邪は涙もろかった。
正邪の計画は前途多難である。