前回のあとがきでも書きましたが、閑話を書くかどうかどうしようかなと
書いてほしければ感想欄にでも何か一言書いといてくだせぇ(露骨な感想稼ぎ)
めんど
弾幕はパワーだ。常日頃魔理沙はそう言っていた。勿論、弾幕ごっこにおいて火力はそこまで重要視されるものではないし、そもそも美しさを競う勝負においてパワーを求めることに、魔理沙と弾幕ごっこをしたことがある者は異を唱えることもある。しかし実際にそれを見ると、なるほど納得できるものがある。
魔理沙も最初から強力な一撃で勝てるとは思っていない、数ある弾幕で相手の動きを制限し、隙ができたところで吹き飛ばす、というやり方を使った。得意とする恋符『マスタースパーク』は、流石の一言で表される威力で、並大抵の弾幕やスペルカードは消し去るか、押し切ってしまう。多くの者はその純粋に、シンプル且つ大胆で、真っ直ぐなそれに感心してしまう。
それには霊夢も認めるものがあり、まず直撃は絶対に受けないように注意する。そもそも撃たせないように立ち回るのだが、撃たれたとしたら当たってはいかないという確信はあった。
「くらえ! 恋符『マスタースパーク』!」
「っ!?」
死角から放たれたそれを、巫女の勘で回避する。たとえ暴走し冷静さを欠いていても、本能が危険を察知したのだ。そしてそれを放った奴へ、目の前への敵からは目を離さずに抗議する。
「魔理沙、一体どういうつもり。場合によったらアンタも退治するわよ」
「まぁ落ち着けって。こっちもそうだが、あっちもあっちで用があるんだぜ」
見るとレミリアの方にも一人、誰かが攻撃をしかけながら何か話している。とりあえず注意はしておくが、その用を聞くくらいの余裕はできた。そのことを理解した霊夢は改めて魔理沙の方へと向き直る。
「で、何の用なの。時間ないんだけど」
「だから落ち着けってことだよ。時間がないのは分かってるが、それで心配する奴もいるんだぜ?」
「誰よそれ」
「あいつだよ」
魔理沙が指さした先を見て、霊夢は驚く。血を吐き慧音の家で寝ているはずの小間使いが、こちらを見上げているのだから。先までこの男のために戦っていたというのに、そもそも自身が倒れた原因の爆心地のようなところに居て大丈夫なのか? そんな思いを胸に、小間使いの元へ降り立つ。
こんな所まで無事に来れるだけの元気があって良かったと安堵するが、やがてその異常に身体を振るわせる。不覚にも同じ紅に染まった身体が、思考までも紅に染め上げていく。
(なんでこんな……。この紅い霧のせいに決まってる! やっぱり魔理沙の制しなんて無視して、今すぐにでもアイツを!)
「霊夢、こっちを向いてごらん」
「そんなことしてる場合じゃ──」
ぱぁん!
破裂音が良く響いた。霊夢は何が起こったか理解できていない。ただジンジンと痛い頬に手を当て、初めて怒った顔をする小間使いを見た。そして叩かれたことを理解した。
今まで小間使いは霊夢に対して本気で怒ったことはない。小間使いを始めたてのころ、霊夢がダラダラしているのを見て、口頭で怒ったことはあるが、怒りに顔を歪ませ、手を挙げた事など一度もない。
だから霊夢は、一瞬怯んだ。何分怒られるというのも初めての体験だったから。
「霊夢、なぜ私が怒っているか、わかるかい?」
「……わからない」
「そうかい」
首を振って、霊夢は答えた。
「先に言っておこうか。霊夢、私はもうすぐ死んでしまう」
「え……」
「だからって私は、霊夢に復讐してほしいなんて少しも思ってない。霊夢がさっきまで冷静じゃなかったのも、私を思ってのことだろうけど、そんなの嬉しくもない。もし私が死なずとも、霊夢が無事じゃなかったら意味はない。私は霊夢に傷ついてほしくなんかない」
そっと、霊夢にある傷口を撫でる。血は止まっているが、酷い傷だ。痛々しいと思わせる。小間使いは、霊夢が私の所為で傷ついたと、自分を責めていた。
「なんで無茶したんだ。霊夢は博麗の巫女として、スペルカードルールを使えばよかったじゃないか」
「でも、それじゃ時間がかかるし、アンタのことが心配で」
「たとえ早く終わっても、その結果霊夢が死ぬことだってある。霊夢の頑張りで私が助かっても、その霊夢が死んだら、私は誰に感謝したらいいかわからない」
死んでまで私を助けてほしいなんて思わない。その言葉が、霊夢に深く突き刺さる。
「ご、ごめんな、さい」
「全く、手のかかる娘だ。今から何をすればいいか、わかるね」
頷き、レミリアを見やる。そしてもう振り返らない。私は博麗の巫女だ。幻想郷を守る者、この地に仇名すものは、何人たりとも対峙する。
「魔理沙」
「ん?」
「アイツ、手こずりそうだから力貸して」
「へへっ! 貸し一、だからな!」
二人揃って宙を飛んだ。霊夢は冷静になったし、魔理沙も弾幕ごっこにおいては実力者だ。二人が協力すれば、一+一が何倍にも膨れ上がるだろう。
その頼もしい後姿を見て、小間使いはやっと一息を吐いた。
「やれやれ、親というのも大変なものだ。子を叩くのは、こっちの心が痛くなる。……さて」
壁に身体を預けるも足に力が入らず、ずり落ちていく。尻が床に着くころには足どころか、身体全体がどこかへ消えてしまったかのような浮遊感に見舞われる。意識も薄くなり、瞼が落ちていく。
死の直前、その姿は隙間の中に吸い込まれていった。
紅霧異変は霊夢と魔理沙の活躍によって解決とされた。最後はフランがレミリアの説得、いや甘言にほだされ二対二となったが、本領を発揮した霊夢が、その圧倒的才能と能力を生かし、レミリアを倒すことに成功した。その後、レミリアは負けを認め、すぐに紅い霧を消し、幻想郷はいつもの姿に戻った。
ただ一つ、不可解な現象が起きた。死に臥していたはずの小間使いがいなくなっていたのだ。男がまともに動けるなんて思わないし、たとえ動けたとしてもそう遠くへ行くことなどできないはず。
霊夢と魔理沙は、紅魔館内を探した。隈なく探したし、途中レミリアたちにも協力させたが見つからなかった。捜索範囲を拡大し、霧の湖周辺も探したが、遂に見つかることはなかった。
日も沈み辺りが暗くなったところで魔理沙が諭し、明日改めて探すことになった。
しかし、いくら探しても男が見つかることはなかった。
そして、霊夢は探すことをやめた。探さない方が良いといった。小間使いの事だから、自分の最後を見せて悲しい想いをさせないように消えた、と言った。それを聞き、魔理沙も男のことを口に出すのは止めた。
小間使いの、彼らしい最後を想い、諦めた。
「紫様、以前連れてきたあの男は、どうなされたんですか」
「幽々子にあげたわ。前にもう一人従者が欲しいって言ってたの思い出して」
「しかしあの男はもう……あぁ、だからこの間地獄へ」
「そうよ、苦労したわ色々と。幽々子ったら、友人なのに手土産持っていかないと怒るんですもの」
「いいのですか? アレは霊夢に付いていましたが」
「大丈夫でしょう。霊夢が冥界に行くことなんてないだろうし。そうなったらそうなったで面白いかもしれないわね」
「なにせ、霊夢といた時の彼とは、もう別人なのだから」