の前の話
あぁ妖夢かわいいんじゃぁ
私パルスィ押しですけどね、妬ましい
幻想郷にはいろんな場所がある。それこそ地獄や天界、地底、冥界までも幻想郷という世界には揃っているのだ。その中でも一際静かな所と言えば、冥界だろう。なにせそこには、一人しか生きている人物がいないのだから。
冥界という所がどんな所かというと、幽霊が住む場所と言えよう。冥界という名の通り、閻魔から転生や成仏を命じられた幽霊が駐留する場所である。よって冥界には、その幽霊を管理する場所『白玉楼』がある。そして白玉楼に住み、幽霊を管理するのが西行寺幽々子という亡霊と、白玉楼の庭師兼幽々子の剣術指南役で、唯一の生き物、魂魄妖夢だった。
庭師兼剣術指南役である妖夢は、どちらかというと従者という立場の方があっている。主である西行寺幽々子に仕え、その世話をする。炊事洗濯家事全般。その合間に本来の仕事である庭の手入れ、そして自己鍛錬。妖夢は半人前と呼ばれるのが嫌いだ、自身が半人半霊という種族なので、よく幽々子に半人前だとからかわれる。だからムキになって鍛錬することもあるが、基本主従関係は良好で順風満帆な生活だった。
少し残念な所は、話し相手がいないこと。幽霊は話すことはできないし、幽々子も用事を言いつける時くらいしか話をしない。そういう所は少し不満だった。
そんな妖夢に、話し相手ができた。その話し相手とは冥界から人里に降り、買い物をしている時に偶然出会った。幽々子への土産と共に、自分も休憩しようと甘味処に立ち寄った、その先客だった。始めは、外見の事くらいしか興味はなく、お茶と茶菓子を食べながらゆっくりしようとしたのだが、その人の動作に見惚れてしまった。
お茶を飲む動作、茶菓子を口にする動作、そして味わった時に出る優しい笑顔に惚れてしまった。
見惚れていると視線に気づかれてしまい、そこから話をしたのだが、つい盛り上がってしまった。その人も誰かに仕える仕事をしているらしく、色々なことを話し合った。
日が暮れてしまい、帰らなくてはならなくなった時は気落ちしたが、その人が「また会ってお話をしよう。今度はいつ会える?」と聞いてきてくれた。妖夢が人里へ降りる時は、大体食材が少なくなってきてからなので、もって一週間だと伝えたら、なら一週間後にまたここで同じ時刻に、と会う約束をした。
それから一週間、妖夢はその人と会っていた。
それからの妖夢は、目に見えて浮かれていた。約束の日が近づくたびソワソワするし、オシャレに気を使うようになった。約束の日には時間をかけて髪を整えてから出かけるし、心なしか帰ってきたときのお土産も多くなっている気がする。
幽々子も様子が変なことには気付いているが、お土産は多くなるし、機嫌が良いと食事も豪華になるし、分かっていながら放置していた。
そのおかげで、妖夢は約三年ほど、充実した日々を送っていた。
そんな充実した日々を送っていた春、幽々子が庭にある大きな桜の木を見て言った。
「この桜の咲いているところを見てみたいわ。そして、桜の下に埋まっている何か、それが知りたい」
幽々子が言うには、桜の下には何かが封印されているらしく、桜が咲いた時にその封印が解けるらしい。
しかし妖夢は、何年も白玉楼にいるが、桜の咲いている姿を見たことがない。それは幽々子も同じらしい。
「幻想郷中の春を集めてこの桜に注げば、この桜は咲くのよ」
そう幽々子は言った。しかしそれには当然代償があり、春を集める、つまり他の場所から春を奪い、冬のままにする、ということ。桜が咲いて封印されていたものの正体がわかれば、春は返すようだが、どれだけの春を集めれば桜が咲くのかもわからない。春を集めるのに、どれだけの時間がかかるかもわからなかった。
妖夢は内心、怖かった。幽々子の考えや、桜の下に埋まっているもののことではない。このことがあの男と自分を離れさせてしまうのではないか、と。
冬になれば当然雪が降り、積もっていく。そうなると当然、人は外へ出なくなる。買い物も一度に多く買うようになり、日持ちするようなものになっていく。妖夢とその男も、冬の間だけは会うのを控えていた。その冬が長引けば長引くほど、男と会えなくなってしまう。
それに、冬を長引かせるというのは、間違いなく異常なこと。この幻想郷には博麗の巫女、というのがいて、幻想郷に振りまく災いを祓う役目がある。妖夢も人里に降りた時、その姿をチラと見たことがあったが、まず間違いなく巫女の目に触れることになるだろう。もし巫女が私たちを退治に来て、負けてしまったら、その所業はさらされる。顔が割れる。もしそうなったら、男は……。負けるつもりは毛頭ないが、もしもを考えると、気が滅入った。主の意向とはいえ、こればかりは聞きたくない願いだった。
そんな気持ちでいれば、自然と態度にはでるもので、男と会っている時にそれが出てしまい、怪しまれた。
「妖夢さん、なにかあったのかい?」
「いえ、大したことでは」
そう答えるが疑いの目は晴れず、むしろ余計に心配させる結果になった。そこで妖夢は、あえて口にした。
「冬が長くなったら、どう思いますか?」
一体何の話だ、と思われただろうが、男はちゃんと答えてくれた。
「正直、あまり好きじゃないかな」
「そう、ですか」
「冬には冬の魅力はあるけど、雪かきは面倒だし寒いし、何より妖夢さんと会えなくなる日が長くなる。私はもっと、妖夢さんと話していたいね」
急にそんなことを言われて恥ずかしくなった。聞き方によれば、恋人に逢い離れるのが悲しいと言っているようなものだ。
妖夢は傍から見ても容姿はいい、それは男も変わらない。そんな二人が仲良く隣り合い、片方がそんなことを言えば、勘違いしてしまうではないか。
妖夢は顔を真っ赤にして、俯いてしまった。喜んではいけない立場だが、つい嬉しくなってしまった。
「そろそろお暇しようかな。じゃあ妖夢さん、また一週間後」
「はい! また……」
「頑張ってね」
「え、あ、はい。頑張ります?」
男の言葉の意味を考えると、バレている可能性があった。しかし、男にそれを周りに言いふらそうという気は感じられなかった。自分の話を聞いても、まだいつも通りに接してくれる。妖夢にはそれがとてもありがたく感じられた。
それから月日が流れ、幻想郷に紅い霧が覆ってから、その男と会うことがなくなってしまった。
今まで約束を破ることはなかった男が、霧の件以降人里で見かけることはなかった。甘味処の店主に聞いてみたが、何もわからないそうだ。きっと何かあって会えないのだろうが、お互いの詳しいことまでは教えておらず、見舞いにいくことも何もできなかった。精々すれ違いになった時に困るからと、店主に男が来たら伝言を頼むくらいだったが、一度も来ることはなかったようだ。
今度は目に見えて気落ちした。ため息をよく吐き、髪の手入れも怠っているし、見るからに暗い雰囲気が漂っていた。そんなことでまともに働くことはできず、幽々子を困らせていた。
そんなときに、幽々子の客人、友人である八雲紫が訪れた。妖怪の賢者と呼ばれる彼女の前でだらしない姿を晒せば、幽々子の沽券にも関わる、とその日はしっかりとしていたのだが、紫が持ってきた手土産に、思わず開いた口が塞がらなかった。
それは妖夢が会いたがっていた男だった。
「幽々子ってば最近もう一人従者が欲しいって言ってたじゃない? だからホラ、連れてきてあげたわよ」
「でもそれ死んでるじゃない」
死んでいた。身体中に紅い染みのようなものがあり、見るからにいつもの男とは違っていた。そして死んでしまったことにショックを受け、つい涙を流してしまう。それを見て紫は、扇で口元を多い、薄く笑った。
「安心なさい、まだ生き返るわよ」
「あら、そうなの?」
「そ、そうなんですか!? よ、よかったぁ」
「ふふふ。まだ魂は切り取られていないもの」
紫はこの男を連れて閻魔に会いに行ったそうだ。そして男の魂を、肉体から離さないようにしてほしいと頼んだらしい。結果、身体と魂は繋がっている。まだ完全に死んだ、というわけではない。
体、魂、そして『死を操る程度の能力』。死に誘うことに精通しているということは、死から遠ざけることに精通しているも同義。無理やり、その身体に命を注ぎ込んでいく。
そして男は目覚めた。
「……ここは?」
「あ、起きましたね。良かったです、またこうして会うことができて」
「
「私は、何だろう?」
その代償を、身に宿して。