まぁ思い通りにはいきませんよね
多分次が春雪異変の終わりになると思います
……思います
レミリア・スカーレットの能力を知っているだろうか。聞いたことがあるのは、幻想郷においても極僅か、身内を除けば八雲紫とその式、そしてレミリアと戦ったことのある霊夢ぐらいのものだ。敗れたものの、その能力は凄まじい。
『運命を操る程度の能力』
運命を把握することができ、またそれをずらすこともできる。勝負するなら勝ちへ、今日食べたいものがあれば夕食にでるなど、万能であり他人にしたら不可避の能力。あらゆることが、自分の想いのままなのだ。ただし制限もあり、あまりに本来の運命から離れている場合、狙っている運命を引き寄せるのに時間がかかる、という点だろうか。本人の解釈ではこう語られる。
分かり易くするなら、今自分のいる時間軸に対し、選択肢一つで変わる様々な未来の一つ一つ、所謂『パラレルワールド』があり、その狙った一つを自分の未来へと置き換える。狙いが近ければ容易く変えられ、遠ければ近くなるよう動いていく。
レミリアは紅霧異変の時、自身の勝利をその運命に見ていた。しかし、その運命から浮いている霊夢によって狂わされ、敗北した。たまたま霊夢がそういう能力だったからで、もし霊夢以外が博麗の巫女だったなら、異変は解決していたのか、定かではない。
兎に角、レミリアの能力の凄さは理解できただろう。
そのレミリアは、普段運命を操っているのだろうか。
答えは否である、レミリア自身、その能力の使用に制限をかけ、どうしてもという場合以外にイタズラに運命を変えることを良しとしない。なにせそんな自分の思い通りになるなんて面白くもない、というのが持論だ。だから普段は運命を見るだけに抑えている。
そんなレミリアが今の異変、春雪異変に興味を示したのは、いつも通り自身の能力で運命を眺めていた時のこと。
いい加減寒いのが嫌いなレミリアは、未だに何の行動も起こさない霊夢に呆れ、敢えて異変の終わりを見ることで、あとどれくらいで終わるのか確認し、それまで辛抱しようかと考えた。そこで異変の終わりを探るべく、同じく異変解決の助力をする霧雨魔理沙の運命を覗き見た時のこと、動揺とはいわずとも、明らかに怪訝するものが見えた。
それは紅霧異変の時に見た奴、博麗の巫女の小間使いといったか。消息不明、おそらくは死。今より八ヵ月も前に霧に侵され、最後の姿を見せまいと姿を消した男は、死んでいるだろうと確信していた。というかあの状態で死なないこと自体ほぼ不可能、たとえ生きていたとしても霊夢たちは男を見つけることに叶わず、捜索を諦めた。どこかで妖怪か魔獣かの餌になっている、その方が自然だった。生きていることはありえない、しかし、この運命はどういうことだ。まだ運命を変えてはいないのに。
いくら考えを張り巡らせても、男が生きている理由がみつからない。顔だけ酷似した別人、というのが一番納得できる。しかし、それでは面白くない。
それから先の運命は見ない。もしかしたら自分が考えているよりももっと、面白いことが起きるかもしれない。自分を倒した霊夢も面白いが、その小間使いにも面白そうな運命が待っていそうだ。興味が湧いてくる。
「咲夜」
「何でしょう、お嬢様」
「博麗神社へと行き、霊夢に伝言を届けなさい」
「伝言は、何と?」
「冥界に求めるものがある」
「──お嬢様はそう言っていたわ」
「冥界ね」
咲夜が博麗神社へ来たのは、魔理沙が出てから二時間程経ったころだ。言われた通りの伝言をした咲夜は、恐らく今回の異変に関係するものだろうという解釈をし、霊夢もそういう結論へと至っていた。
冥界、つまりは死者の国。除霊系の御札が必要になるだろう、今手元にある分だけでは、少し心もとないか。魔理沙にも伝えて、準備をさせておくべきだろう。
情報提供してくれた咲夜に感謝し、御札を作ろうとする霊夢。魔理沙はそのうち来るだろうし、その時にでも伝えればいいか、と考えていたのだが。
「そういえば、先程襲い掛かってきた氷妖精がいたんだけど……白黒の魔法使いが冥界に向かっていくのを見たそうよ。正確には私同様に襲い掛かったらしいけど、返り討ちにされて情報集めを手伝わされた時に、冥界が怪しいって聞いたそうよ」
「……はぁ、あのバカ、勝手に一人でいくなんて」
魔理沙も悪気はないだろうが、聴いたのは不確定情報だったのだろう、その真偽を調べるために仕方なかったのだろう。それも霊夢にはわかってるし、その実力も認めている、何かあっても逃げ切ることができるだろうと踏んでいる。だから別段慌てず、今は自分のやるべきことをする。
そう思っていたのだが。
「冥界で死んだら、成仏するのかしらね」
「……どういう意味よ」
「冥界は死んだ人の魂を、輪廻転生するまで滞在させる場所と聞くわ」
それは当然、霊夢も知っている。
「魂は死んでからその人の周りに漂い続け、死神に刈り取られる。刈り取られて初めて、その権利が与えられる」
「冥界じゃ、死神は仕事をしないって言うの?」
「さぁ、そこまでは知らないわ。でも、魂を置いておく場所で魂を刈るなんて、普通しないんじゃないかしら」
貴方は墓穴の前で、死んでいるのをわざわざ確認するの?
そう言われ、顔が渋くなる。咲夜の言うことに信憑性があるかと問われれば、ないのだろうが、妙に納得できるものだった。死神の事などしらないし、実際にいるかもわからない、しかしこの幻想郷ならあってもおかしくはないのだろう。
「まぁ貴女がどうするも、私には関係のないことだけど、異変を解決するのなら早くお願いね。お嬢様が待っているのだから」
礼儀正しくお辞儀をして帰る咲夜。静まった部屋で一人考える霊夢は、やがてため息とともに、備蓄してある御札を取り、外へ出る。向かう先はもちろん冥界。
異変解決が始まる。
その冥界では、幽々子と小間使いが碁を打っていた。そもそも冥界は人里と比べ娯楽が少ない。あるのは食事と酒と、精々遊び道具が数点、碁もその一つである。妖夢は侵入者の撃退に向かうべく、白玉楼の入り口にて待機している。
「こうして誰かといるのは良いものね」
「そうですね。一人は寂しいものです」
「でもそれなのに私は、どこか寂しさを感じるの」
幽々子は常に感じるそれに疑問を持っていた。妖夢といた頃も、その前も、誰かといたにもかかわらず寂しさが消えない感覚。そしてその理由にもなんとなく気づいている。
幽々子は亡霊である。死んでなお、姿形を残し存在し続け、その能力故に白玉楼の管理を任されている。死んだときの残留思念があるのだろう、死に際の寂しさが今もなお、残り続けているのだ、と。
それは長い月日を過ごしても、拭いきれないものだった。
「あの桜が咲けば、少しはそれも和らぎそうな気がするわ」
そうして見る桜は、ほぼ咲きかけている、あと一息といった所だろう。しかし咲けば咲くほど、美しさと哀愁を小間使いは感じていた。あの桜は何を望んでいるのだろう、何をそんなに悲しんでいるのだろう。それを知ることができれば、幽々子の寂しさがなくなるのではないだろうか。
根拠はないが、小間使いはそう思った。
「これでどうかしら?」
「私の負けですね」
「もう一局いかがかしら?」
「いえ、そろそろ花見団子でも作ります。一人は寂しいので、ぜひ手伝っていただきたいのですが」
幽々子は寂しさを感じさせないように、笑った。