博麗霊夢の小間使い   作:喜怒哀LUCK

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春雪異変の終わり

結局西行妖を復活させるのは諦めました


その代わりに、修羅場ってます


再会による絶望

 弾幕ごっこに置いて、魔理沙の実力は相当なもので、紅霧異変でも七曜の魔女『パチュリー・ノーレッジ』を倒していることからも伺える。生まれた時から生粋の魔女で、幾年も研究を重ねてきたパチュリーに、人間から魔法使いになった新米の魔理沙では、そもそもの地力が違う。特殊なルールを用いたり、身体が病弱だったのもあるが、勝利したのには賞賛を送る。

 魔理沙は強い。箒に跨り、魔力を放出することで推進力を生みだし、高い速度を維持した空中戦、恋符『マスタースパーク』を軸としたスペルカードの構成、戦略の数々。その実力は、幻想郷の中でも高く位置する。

 そんな魔理沙の放つ弾幕が、全て切り落とされた。

 弾幕には殺傷能力がない、ほとんどがスペルカード発動までの目晦まし、相手の行動を阻害するものだ。それが分かっている者は、自身も弾幕を飛ばし相殺するか、避けるかして相手の思い通りにさせないよう立ち回るのが普通だ。それが切り落とされたということは、相手がまだ弾幕ごっこを始めて日が浅い初心者か、自信がある者かである。

 妖夢は後者だった。

 別に油断しているわけでも、相手を見下しているわけでもない。妖夢もその気になれば弾幕を打ち落とすし、斬撃の形をした弾幕で反撃をする。しかし今回それをしないのは、弾幕を放つ余裕がないということだ。

 となれば魔理沙が優位に立っているのか? いや、魔理沙の額から流れる汗は、焦りを意味していた。それもそのはず、妖夢は魔理沙へと接近し、直接刀を振るっていたのだから。

 弾幕ごっこには距離をおいて戦うのは当たり前の話だ。そもそも弾幕ごっことは美しさを競う勝負であり、種族の差をなくして平等な勝負をするという目的のもとに作られた。それなのに接近戦を行うのは愚の骨頂といえた。ルールを乏しているのだから、魔理沙が叫弾すれば妖夢の負けとなるだろう。

 しかし、魔理沙はそれをしなかった。思わず見惚れていたのだ、妖夢のその刀捌きに。

 弾幕の速度は、決して遅いものではない。それこそ距離を置かなければ回避すら困難なものだ。それなのに妖夢は魔理沙の放つ弾幕を、ひとつ残らず切って、なお追撃を仕掛けていた。いや、追撃するだけなら、自身に当たらないように目の前の弾幕のみを切ればいい。しかし妖夢は、弾幕すべてを切っていたのだ、何かを守るように。

 弾幕を放たないのは切ることに集中しているから、一度でも弾幕を撃ち漏らすようなら自ら負けを認める、そんな気迫があった。

 その姿に、魔理沙は見惚れた。

 愚かと言っていいほどに無駄な行為、それをしなければ魔理沙はもっと苦戦していただろう。だがそうしてまで守りたいものがある、そういった意志が妖夢からは感じ取れた。

 以前魔理沙の『弾幕はパワーだ』ということについて解説しただろう、その素直さには感心する。同じように傍から見れば無駄と言われる行為を、純粋に真っ直ぐにやり遂げる妖夢に、魔理沙は

 

(ちくしょう、カッコいいぜ)

 

 そう思ってしまった。

 だからこそ魔理沙は指摘しない。その志に敬意を表し、それを受け入れた。故に苦戦していた。攻勢にでているのは自分だ。妖夢も反撃こそすれど、ほとんど弾幕を切ることに集中していて、攻勢にでたことはない。しかし、それゆえに困難とされることをやってのける妖夢に、心の奥で力の差を感じ始めていた。

 それが顕わになったのは、自分が得意としている恋符『マスタースパーク』を切り裂かれたときだった。なんとか不意を突き、必死になって繰り出したそれは、自他共に認めるほどの強さがある。並大抵の攻撃では反撃はできず、押し切る威力のあるそれを、妖夢は切り裂いた。

 当然、妖夢もそれをするにあたって集中し、凄まじいそれを切り裂くのに多くの力を使った。もう同じことはできないだろうし、弾幕を撃たれたら全て切るなんて無理だろうというくらい消耗していた。

 実際、魔理沙と妖夢の実力は互角くらいだ。たまたま今回、妖夢の方が上回っただけ。異変の主犯者側で必死だったことと、守りたいものがあったからこそ、いつも以上の実力が出せたのだった。それに魔理沙も劣っていたわけではないが、マスタースパークを破られたことにより、精神的に負けを認めていた。

 そこから魔理沙が負けたのは実に数分後、魔力が尽き機動力を失ったことにより満足な回避もできなくなった首筋に、刃が添えられた。

 

「私の負け、だな。お前凄いな、全然歯が立たなかったぜ」

「いえ、私ももうヘロヘロです」

 

 お互いの健闘を称えたが、正直妖夢には余裕がなかった。弾幕を切り落とす、その行為は無駄な物、精神を著しく消耗させていた。守りたい存在、主である幽々子と、想い人である小間使いのために、弾幕一つですら近づけさせないという、枷の様なものを無意識にかけていた。

 口にした通り、妖夢にはもう体力はほとんど残っていない。今の状態でもう一戦したとしても、負ける。足止めか、時間稼ぎにしかならないだろう。

 

「あっ! 魔理沙、アンタ一人で勝手に行かないでよね。てゆーか負けてんじゃないのよ!」

「おぉ霊夢。悪い、負けちゃったぜ。こいつ相当強いぞ」

「博麗の……巫女」

 

 それが博麗の巫女なら、どうだろうか。体力がある時ならいざ知らず、この状況では足止めにすらなるかどうか。

 それでも、やるしかないのだが。

 

「博麗の巫女、ここは通しません!」

「悪いけど、通させてもらうわよ。いい加減寒いのはもうこりごりなの」

 

「魂魄妖夢、推して参る!」

 

 

 妖夢を打ち倒した霊夢が、苦戦しつつも幽々子に勝てたのは、御札のおかげだろう。以前現れた霊系の妖怪に対抗するために作ってあったものが残っていたため、効くかどうかは不安だったものの、幽々子の行動を阻害する程度には効果があり、隙を突くことで勝つことができた。

 幽々子が負けるということは、異変の解決を指し、西行妖に集まっていた春が散り、戻っていく。これで数日もしない内に、幻想郷に春は戻るだろう。これで博麗の巫女としての使命は終わった。

 だからこれから始まるのは、博麗霊夢個人の問題である。

 

「桜、散っちゃいましたね」

「お花見、楽しみだったのだけどね」

「名残雪ならぬ名残桜というのもいいと思います。花は散り際の方が綺麗です」

 

 その声はどこか聞き覚えのあるもので、その姿も見覚えがある。ただその笑顔の向ける先が自分ではないことに困惑してしまう。霊夢に倒され座り込んでいる幽々子と、体力を回復し戻ってきた妖夢に気遣いながら手を差し伸べるのは何故だ。

 

「立てますか?」

「ちょっと無理みたい」

「幽々子様、私が寝室までお運び」

「いいよ、妖夢も疲れているだろうし私が運ぼう。ちょっと失礼します」

 

 あまつさえ自分をいないものとしているのに、敵である幽々子を抱きかかえるなんて、信じられない。もしかして似て非なる別人かとも考えたが、衣服の合間から見えた紅い染みは、誰にでもあるものではなく、以前見たものに間違いなかった。

 だからこそ、異変解決をした私が労われるはずなのに、なぜ彼は敵を心配するのか。

 

「ちょっと待ちなさい」

 

 意識外から言葉が出たことに、今回ばかりは感謝する。あのまま放っておいたら、なぜか二度と会えないような気がした。

 言葉をかけられた男は振り向く。

 

「なにか?」

「なにって……アンタ、私のこと分かんないなんて言わないわよね?」

「えーっと──」

 

「──どちら様ですか?」

 

 その眼に映っているのは『今』の主と同僚であって、『前』の主ではない。




修・羅・場! 修・羅・場!

Fuuuuu!
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