「ハァハアハァ………どうやら、撒いたようね」
竜牙兵達から逃走し続け、私達は海岸沿いの遊歩道へと辿り着いた。流石に長い距離走っていたので息が上がる、マシュの隣で私は地面に腰をつける。
「…………ほれ、早く立て。次が来ないっていう可能性は無いんだから」
………なんで、九条さんはあんなに走ったのにピンピンしているのだろうか。あれか、この人は元オリンピック選手なのだろうか?
「ハアハア…………、貴方は、…何故疲れてないんですか?」
「無駄に鍛えているからな」
「デミ·サーヴァントでもあるマシュの体力を超える程の鍛え方なんかあるかッ!?」
ヒステリックに叫ぶ所長を知らん顔で九条さんは海岸の方へ振り向いた。息を整えるには数分もあまり掛からず、私達は再び特異点の探索を続行した。
「そういえば、九条さん」
「…………なんだ?」
隣を歩く九条さんは訝しげな表情を見せていた。……それほど私と話したくないだろうか?
「………え、えっとですね。その、バイクはどうしたんですか、さっきの所に置いてきちゃいましたよね?」
九条さんは首を傾げたがすぐさまに何かを納得した表情をした。するとポケットに手を突っ込み何かを探すように漁っていた。マシュがその様子を見て九条さんを睨みつけていた。
「これ、バイク。」
簡単な二言、九条さんが私に突き出したのは大きな黒い錠前、中心には桜のシンボルが刻まれていた。冗談でしょ、疑いの視線で九条を見やるがその表情は至って真剣なものだった。
「……。それがあのバイクなんです、か?」
「冗談だと思うなら開けてやろうか、その時お前はバイクの下敷きになるがな」
それには丁重にお断りした、しかしそういう技術力をこの人はどうやって手に入れたのだろうか……。ますます疑惑が深まる。そんな思いで話が進む中、息を整えたのか所長が九条さんとの距離を詰めた。
「………………アナタ、聞いてなかったけど。あの力は何なの、正直な意見アナタはとても怪しいのよ。もしあなたがカルデアを襲った張本人だとしたら………………我々は貴方には対して全勢力を以って、排除するわ」
敵意と疑惑の意志が所長のその声音で解った、マシュが武器を構え、戦闘態勢を取る。
………………沈黙が痛い、居た堪れない感情が心を巡る。九条さんは呆れた様に頭を掻く、そしてその口を開く。
「…………………………《鎧武》」
「《鎧武》?それがあの力の名前なのね、それじゃああの錠前はなんなのよ、それに錠前を使った時に空間が裂けたその先の森みたいのはなんなの?」
ガンガンと質問を繰り出す所長に対して嫌そうな表情で対応をする九条さん。
「錠前は《ロックシード》、種類は豊富で《ロックシード》によって異なる武装が出現する。しかし《ロックシード》単体では効果は無い、この《戦国ドライバー》を使わなければ使用もままならない」
九条が見せてくれたの小刀が付けられていた黒いバックル。所長は不思議そうにあちこち触っている。
「《ロックシード》は《森》に実になっている果実を毟るとドライバーの何かしらの力が作用してできる、詳しい原理はよく知らん」
「《森》?どこの森かしら」
所長のその質問に九条さんは言葉が詰まってしまう、でも私は見ていたその時の九条の表情を。憎しみと哀しみの混じった苦しみの表情を。
「……………。《ヘルヘイムの森》」
「《ヘルヘイムの森》?『ヘルヘイム』と言ったら、北欧神話の死者の国の名前ですよね?」
「その森に有る果実は普通の人間が食べてしまうと、身体全身の細胞が一気に変質し、【インベス】というバケモノになってしまう。」
「【インベス】?つまり、この特異点の異常はその【インベス】が原因なのですね?」
「それは違う」
「?。それはどういう事?」
「俺が全部、皆殺しにした。」
端的に、それも理解しやすく彼は言った。九条さんの話す素振りがあまりにも無感情過ぎて、恐怖を覚えてしまった。隣のマシュも所長も皆が息を呑んだ、得体も知れない恐怖だけが体の芯を少しずつ貪っていく。その時私は失禁しかけてしまった、しかし何とか女の子の尊厳のためにそれを断固として阻止した。
「……だから、アイツらがここにいるわけが無い。それに【森】自体、全く別次元に存在するからこの世界に干渉してくることはもう絶対ない」
機械的で冷たい瞳が逸らされ九条さんは再び私達の前を歩き出した。声なんて掛けられなかった、私の本能がアレに触れてはならないと警鐘している。だから私は一歩下がった所を歩き始めた。
●●●●⬛●●●●
ーーークソ喰らえ。
悪態をつかずにはいられない、後悔の念が九条誠一の頭の中を満杯する。信用されていないことは知っていた、それは得体の知れない力を持ったやつを怪しまないのがおかしい。
自分も彼女らのことを信用しているわけでは無かった、けれども彼女らと共に行動する事でこの異変が収まるのであれば、それは止む終えないと判断した結果これだ。
『死にたくない、死にたくないよオッッッッ!!?!』
頭の中でフラシュッバックする戦いの記憶。それを振り払うように首を振った。ここから見える燃え上がるような赤い光が街を包み込んでいるのがよくわかった、似てるのだこの景色は。
《世界》が終わる景色に。
立ち上がれるだろうか?再び。その答えは誰も答えてけれない、結局自問自答の道。彼が選んだのはそういう道だ。誰もが通った道、先輩方が歩んだ過酷な世界、だったら行ってやろうじゃないか。意気込み、そして握りしめる。
「これ、なんだろ?」
藤丸の声が耳に入った。どうやら景色を見ながら歩いていたら立ち止まっていたようだ、鎖だ。道を阻むように鎖が編み込んだ蜘蛛の巣のように張られていた。藤丸が不思議そうに手を伸ばす。
ーーーヤバいッ!!
本能的なものが危機を知らせた。鎖が捕まえようと藤丸目掛けて伸ばしていた、一瞬の内に藤丸の服の襟を掴み後ろに放り投げる。その代わりに自身の右腕に鎖が食い込む。
ーーーッ!!
捉えられた瞬間、ものすごい力が自分を喰らおうと引っ張ってくる。脚に力を入れてなんとか踏ん張るが、それでもズルズルと引き込まれる。
「九条さんッ!?」
「来るなッ!!お前も引き込まれるぞッ!!」
不要に近づいて来ようとする藤丸に怒号を飛ばす、たじろぐ藤丸を他所に腕の肉に食い込んでくる鎖が血管を破壊した音が聞こえた。激痛、腕を伝って赤い血ーーーいや、
「なに、それ」
オルガマリーの動揺が声になって伝わってくる。
『おや、どうやら獲物を一匹捕らえたと思ったら………見慣れない《人外》を捕らえたようですね』
心の奥底まで囁かれている様な悪寒が体を駆ける、全員がそれの発生源を見つけ出した。
「嗚呼、見知らぬマスターに見知らぬサーヴァント。そして………見知らぬ人外、なんて瑞々しい。」
黒いローブを纏った長身の女性、その手には鎌のような形状の槍が収まっている。只者ではないその身から発せられる存在誇示は人のそれとは比ではない。しかし、誠一が注目したのはそこではないその背後にある無数の石像だ。遅れて藤丸もそれに気づいた。
「てめぇ、それの後ろのやつはなんだッ!?」
九条は叫ぶ。答えは目に見えている、しかし問うのだ答えが出た瞬間怒りで痛い思いをしないために。盾を構えているマシュの後ろに居る藤丸も同じ様な目をしていた。
「ーーー………《人間》ですが何か?私の領域に入った獲物をどうしょうと私の勝手でしょッ?」
瞬間、近くにあった石像の人間の頭を弾き飛ばした。
「ゑ?」
藤丸の間の抜けた呟き。石像からは無くなった頭に送る血液が噴水の如く、燃え盛る街に飛び散った。
「一つ、無くなってしまいましたが………どうやら新しく四人はいるようですね」
「てめぇツツツツツツツツツツッ!!」
怒りの爆発力が九条を動かせる。その怒号は街に響き渡り、地面を揺らした。驚愕の表情が藤丸たちに浮かんだ。それもそのはず、九条はその一瞬で捕らえた右腕を自力で引きちぎったのだ。緑の鮮血が辺りを舞う、無くなった右腕は熱い何かを感じた。
純粋な怒りが九条の脳内のドーパミンを大量に排出してい、九条の痛覚を一時的にカットしていた。全ての目に映るもの全てがスローモーションの世界になる、その中を行くのは九条ただ一人だった。
疾走る、走る、奔る。不敵な汚い笑みを浮かべているこいつを殺す!!左腕で《戦国ドライバー》を装着させ、掌から《オレンジロックシード》を出現させる。
「変身ッ!!」
《オレンジッ!!》
九条の頭上からクラックが出現、現れたのはオレンジの鉄鋼。《ロックシード》を《戦国ドライバー》にロックオン!!
《ロックオンッ!!》
《ソイヤッ!!》
《オレンジアームズ!!花道オン·ステージッ!!》
花開くように鎧が展開されていく、次の刹那には九条はアームズウェポンの《大橙丸》で斬りかかった。しかし女はその手にある槍で受け止めた。
「なんて初々しい、瑞々しい。あなた達、サーヴァントと戦うのは初めてかしら?なら先輩として色々と教えてあげましょうッ!?」
九条の攻撃を受け止めた槍を女サーヴァントは押し返し、九条を藤丸の下に吹き飛ばす。
「九条さんッ!!」
「うっせぇ!!ちゃんと前を見ろ!!」
「応戦します、先輩指示を」
「言論には気をつけなさい、『する』と言ったからには
もう、すでに『行為』は始まっているのですからッ!!」
瞬時に女サーヴァントが加速する、それに即座に対応した九条はマシュの前に出る。左手の《無双ナギナタ》で女サーヴァントの攻撃を捌いていく、しかし。
「左手だけでは、戦闘もままならない様ですねッ!!」
「ぐっ!?」
「ッ!?九条さん!!どりゃあああッ!!」
力及ばず吹き飛ばされた九条、入れ替わるようにマシュがお得意の盾で突進を仕掛ける。しかし、激突する前に女サーヴァントは回避し、後退する。怪訝そうな表情の女サーヴァントが顎に手を当てて、暫し考える。
「…………瑞々しいのも癪に障りますね」
女サーヴァントが紫の髪の毛をたくし上げる。するとそれは蛇の形をもち、次の瞬間藤丸達を囲う一つの檻と化す、逃げ道を完全に絶たれた瞬間だった。見下ろすように鎖の上から女が嘲笑う。
「このままでは不利です、先輩逃げてください」
「えっ!マシュを置いてなんか行けないよ!?」
「纏めて私の髪で絡め取ってあげましょう!!」
絶望的な状況、右腕しかない自分、戦闘不慣れのマシュ、戦う覚悟もできていない藤丸、戦う技術はあるが膝が笑っているオルガーマリー。
覚悟した、自分の死ではない。《禁断の一片》を使うことに対してだ。いつの間にか握られていた黄金の鍵を強く握りしめた、その瞬間。
『小僧はまともに動けないで小娘は未熟だが、中々の兵たちじゃねぇか。これじゃあ助けない道理はねぇな』
何処からか声がした、援軍かと思ったが女の慌てた様子を見ると違うようだ。
「何者です!?」
「何者って、オイオイ忘れちまったのかよ同郷!!」
現れたのは青いローブを着た青い髪の爽やかな青年、その手には木製の杖を携えていた。不敵に笑う青年に対して女サーヴァントの表情が一転し自分の旧来の憎敵に出会ったような目をしていた。
「キャスター、何故漂流者の肩を持つのです!?」
「あぁ?決まってんだろ、お前らよりマシだからだ!!」
瞬間、キャスターが空中でなぞった文字が特大の炎へ変化し女サーヴァントに轟ッ!と直撃する。咄嗟のことに対応しきれない藤丸の前に降り立つキャスター。
「譲ちゃん、アンタは腕は未熟だが意気込みは負けてねぇ。気張っていけ!」
「は、はい!」
「坊主!女を守るために腕を差し出したのはイイ判断だが、その珍妙な力をまだ出し切ってねぇだろ?もっと本気でいけ!」
見破られていたようだ、なんとも気の抜けない奴だ。と感嘆する自分がいた。そしてキャスターは次に藤丸を横目で見た。
「アンタがマスターか、故あって奴とは敵対中でね……敵の敵は味方って言うしな、仮契約だが俺があんたのサーヴァントになってやる。指示をしな」
「え、でも…」
「譲ちゃんのマスターなら、覚悟をしろぉッ!!」
戸惑う藤丸にキャスターが喝を入れる、盾を構え勇敢にも立ち向かうマシュの姿が何かを琴線に触れたのだろうか藤丸は後退しかけていた足をザッと前に繰り出した。その表情には先程までのような弱々しい藤丸は居ない。
「………こういう時なんて言うのかな、そう『こっからは俺達のステージだッ!!』」
《イチゴ!!》
頭上からチャックが開くような音がし、クラックが開封される。現れたのはイチゴの形の鉄鋼。九条の左手にはイチゴの形を模した錠前が解錠されていた。そして《オレンジロックシード》を外すと同時にオレンジアームズが霧のように霧散する。
《ロックオン!!》
《ソイヤッ!!》
ベルトの法螺貝の音楽を待たず、カッティングブレードを降ろす。イチゴの鉄鋼は九条の頭に覆いかぶさり、花が開くように上半身に鎧が展開される。特徴的な右肩のイチゴの緑の葉。その手には《イチゴアームズ》のアームズウェポン、《イチゴクナイ》が握られていた。
《イチゴアームズ!!》
《シュシュッと、スパーキングッ!!》
『鎧武·イチゴアームズ』
それが今の鎧武の名前だ。
「って、イチゴッ!?」
「今更だろ」
次回の《仮面ライダースロットル》は!?
「俺達の聖杯戦争はいつの間にかすり替わっちまった」
「この空にも『青空』はあったのでしょうか?」
「じゃあ、私がマシュの『夢』手伝ってあげる」
「何者なの、九条誠一?」
「王の選定、岩の剣の二振り目」
「彼ら、いやアレらは世界を滅ぼす『害悪』にしかなりかねん」
「それでも俺は、俺達は【変身】するッ!!」
次回、『かつてのモノ』
運命は、廻り始めた………。