元妹(ただし同い年)
「おう、
相手のペースに、言葉に乗らず、軽く挨拶を交わす。ここで言葉を肯定するような言動は後々命取りとなるから。
が、向こうはそんな俺の対応も織り込み済みなようで、「やっとお会いできましたわ」とこちらの話をスルーして続ける。
相変わらずの頑固さだと思いながらも会議室にあった椅子に座って鞄を机に置きながら「それで、本日は如何様で?」と確認する。
俺はピリピリとした雰囲気を出しながら。相手は自分の気持ちを抑えないまま。
その結果彼女は俯いたと思ったら、目の前で座っていた俺の首に両手を回して背後に回り、耳元で小さく、それでいて清楚そうな見た目とはギャップのある妖しい声で「あぁ……やっとお会いできましたわお兄様♡」とささやいてくる。
ハァッとため息をついた俺は、後ろで恍惚としてそうな奴に「いい加減現実を受け止めろよ」と苛立ちを隠さずに怒る。
だが彼女は「分かってますわ……」と名残惜しそうに離れてから目の前に移動し、堂々と叫んだ。
「私がお兄様と法的に結婚できます!」
「まず血がつながっている事実を見直して来い」
淡々と反論するが、まだおかしいままなのかそれともこれが素なのか分からないが「そんな些末なことより戸籍登録が抹消された時点で血がつながっていようが結婚できるじゃないですか!」と向かってくる。
俺はそんな理由で勘当されたわけじゃないしそもそもあそこにはもう戻りたくないんだが……そんなことを思いながら「跡取り娘が勘当息子になんか用か? てっきり自分達の会社が吸収されるのを恐れて全力で調べてここまで来たと思っていたんだが」と訊ねる。
それに対し彼女は不機嫌そうな顔をする。
「どうした?」
「この会社を全力で潰すと言われたら、どうしますか?」
「ふむ。道連れに失墜させるか、お前達を遠慮なしに破滅させる」
「相変わらず迷いがないようなので留美は安心しています。ですが、そんなことで来たわけじゃありません」
「あぁそう。直接こなくても良かっただろうに」
「いえ、直接こなければお兄様成分が補充できないじゃありませんか」
ドヤ顔だったので無言でそっぽを向く。そんな態度を取ったところドサッと力なく倒れる音がした。
「
「…ばれていましたか。さすがです、お兄様」
というか、このままやっていたら埒が明かないのが明白なので、ため息をついて右拳に顎をのせて「なんだ、文月学園にでも転校するのか?」と鎌をかけてみたところ。
「はい」と、迷いのない返事をいただいた。
「普通はサプライズというか、黙ったまま水面下で行われるんじゃないのか?」
「もう準備は完了し、明日から遅い転校生として通いますわ。クラスが違うのでこうして報告だけでも、と」
出ないと私達とすれ違うどころかまったく会わない様に移動するじゃありませんか。そう付け足したのが聞こえご苦労なことだと思い……違和感に気付いた。
「何人来る? お前含めて」
「三人、といったところでしょうか。あぁもちろんお兄様に接触させるつもりはありませんわ」
「お前のその思考に恐怖するって」
勘当された結果がこれだといささか将来が不安なんだが…彼女の声を聴きながらそんなくだらないことを心配した俺は「ならもう用件は済んだな。さっさと帰れ鈴鹿財閥御息女」と素っ気なく返す。
「お兄様は、まだ怒られているのですか?」
「何の話だ? 俺はあんたみたいな一財閥に怒る理由でもあるのか?」
「っ」
彼女は言葉を詰まらせる。それはきっと、俺の意志が固い事と、改めて突きつけられた隔絶されているという事実に対して。
というか三人――うち一人は目の前にいる奴だから実質二人――か……。記憶の片隅過ぎて誰が来るのか予想できないな。ま、誰が来ようが関係ないか。
それよりさっさと帰ってくれないかなと思いながらぼんやりと天井を見ていると、「お兄様は架空の後見人で戸籍を作られていますよね?」と確認してきた。
「架空じゃないぞ。ただ数か月前に亡くなった人の名字で登録してるだけだ。付き合いがあったのは事実だし、ちゃんと本人の捺印なども国に提出されている。戸籍上は何ら問題ない」
「そうですか。ところで、後見人がなくなった場合の引き取り先はいるんですか?」
「ババァの名前を借りた。手伝わせると言っていたからな」
そんなことも分かってなかったのかという顔を思いっきりしてやる。別に意趣返しとかそういう訳じゃなく、ただ本気でそう思っただけ。
それに対し彼女は悔しそうに歯軋りしたかと思うとすぐさま表情を戻し、「お兄様のその用意周到さに感服します」と褒めてきた。
だが、俺は「お前の兄じゃないって言ってるだろ。
それでも彼女は「いいえ。誰が何と言おうとお兄様はお兄様です。留美の中では」と周りに誰もいないことを良いことに本音を漏らした。
やっぱり平行線をたどるのか…と思った俺はため息をつき、立ち上がって髪の毛を掻きながら背を向けて「用件が済んだのならもう帰ってくれ。あなた達がいるだけで会社の業務が滞ってしまう。正直営業妨害だが、それをするほど財閥の財政は逼迫していたのか?」と突き放す。
彼女は――
一人になった会議室。カーペットから香る匂いを感じ取りながら、俺は大きく深呼吸をしてから壁を力の限り殴った。
壁の材質はそれなりに固いものなので俺の拳が痛くなっただけだが、とりあえず気持ちが落ち着いたのでよしとするか。
罅の入った壁をぼんやりと眺めながらそんなことを思っていた俺は、慌てて入ってきた李里香さんにこの場で何も言わせないように「それじゃ、俺は帰るよ。送ってくれる?」と頼んだ。
「…………」
「…………」
帰りの車。いつも通りの表情を浮かべながら包帯を拳に巻いている俺と、どこか心配そうな李里香さん。会話など、無くなっていた。
サクサク進んでいきます。文字数気にしないと。
ではまた