そこから何とか会わずに切り抜けたある日。
いつも通り一時間早く学校に正門からではなく森の方から入った俺は、普通に開けていた自分の教室の窓枠に鉤爪をひっかけてロープを登る。
「……なんか忍者みたいだ」
靴を脱いで教室に入った俺はそんな感想を呟きながら、誰もいない教室で伸びをしてロープを回収する。
上履きを取りに行かないとと思った俺は、軽やかな足取りで昇降口へ向かった。
学園祭のトーナメント商品になるらしい腕輪達。盗聴器は一度取っ払っても何度も出てきたので、何個か指紋を採取したら教頭だった。
そこから教頭の悪事が割と簡単に調べられたので、その書類を持ってきている。
これババアに見せたらどんな反応するんだろうなと思いながら上履きを履いた俺は、下駄箱に入っている封筒を取り出して閉める。
「えーっと、何々……」
手紙を読んでみると、明久へのラブレターだった。
「間違って入れてるんじゃねぇよ」
誰もいないことを良いことに、俺は明久の下駄箱へ手紙を入れてそのまま研究室へ向かった。
「うーっす」
「さっさと仕事しな」
「了かーい」
研究室に入った俺は腕輪の調整をしているババアを尻目に奥へ行き、一際大きな機械の近くにあるケーブルにパソコンをつなげて同期させる。
腕輪に関して言うなら下地が完成したので、俺は別に手伝うことはない。
なので、俺はシステムの解析をしている。
「なぁババア」
「その減らず口叩けなくしてやろうかい」
「やってもいいが、出来るか? 俺を殺したら大変だろ」
「鈴鹿留美」
キーボードをたたく手が止まる。
その名前が出てきたのが意外だったというのもあるだろうが、名字を聞いて反射的に。
その反応を見たらしいババアは「あとは…
俺は平静を取り戻して再開させてから会話を続ける。
「まぁな。Fクラスで暴動起きるし、FFF団が粛清に日夜走ってるから」
「…西村先生も大変なクラスの担任になったもんだ」
「したのババアだろ。後俺は、クラスでは素行不良ではないが優等生ではない立ち位置にいるから」
「あんたの場合、ねじれまくったその性格で優等生とは思えないさね」
「うっせ」
送られてくるデータの詳細が表示されてるのを見ながら、そのデータをサーバに転送して保存する。
あと残り六か月って長いよな…と残り時間を見ながらぼんやり思っていると、「そういや会社の成績はどうだい?」と訊いてきたので、俺は「まぁまぁじゃね? 株価少しずつ上がってるらしいから。それに伴ってかソフト販売本数も増えてるらしいし」と答える。
「新進気鋭のゲーム会社。ジャンルを合体させたゲームで一躍有名になり、それ以降も様々なジャンルを合体させて販売している……と。社員全員プログラマー兼テスターだったかねぇ」
「ああ。まだ売り上げ的には大手に勝てないけどな。ま、勝たなくてもいいけど。会社の目標は『仕事は一生懸命に。売り上げは全員が潤うぐらいで』だし」
「確か、株主総会の時は全部副社長に任せてたんだろ?」
「そりゃね。俺子供だぜ? 株価暴落するじゃん」
「……正直言って、お前さんの名前知ってたら何をする気も起きないと思うけどねぇ」
「教頭はやってるぞ、うちの」
なんか話題がそちらに向かいやすかったので、俺はそこにブッこんだ。
「あ、なんだって?」
「だから、教頭が色々と他の学校と共謀してるって話。うちの学校の評判落とすとか」
「……証拠は?」
言われるのは分かっていたので、俺は手元にあったバックから証拠書類を取り出してババアのところへ持っていく。
「ほれ」
「そこ置いときな」
言われたのでそのままおいておく。
作業場所へ戻りながら、「ま、鈴鹿財閥の一人娘とか転校した時点でそんなことやったらこの学園破滅へ一直線だけどな」と言っておく。
「確かにやばいさね」
「危機感なさそうだな」
「ま、そん時はそん時さね。最悪あんたの力で何とかしてもらうかね」
「面倒だから自力で何とかしてくれ」
すぐさま断り、パソコンと睨めっこす――――
『待て吉井テメェ!!』
「捕まってたまるかぁぁ!!」
ドダダダダ……
「……」
「……」
ババアと一緒に黙る。
「確か授業中じゃなかったかね?」
「ああ確かそうだったんだが……」
一体何があったんだろうかと該当することを思い返し……気付いた。
「多分、ラブレターで追われてるんだと思う」
「ラブレター? なんだってそんなもので起こるんだい」
「僻みじゃね? 雄二の奴は昔と変わってるし、僻む理由ないからむしろ明久を追いつめて遊んでると思う」
「……来年度からある程度合格ラインを決めようかね」
「いや、あのクラスが特別だと思う」
そう言いながらもたがいに作業をやめない。でも俺は特にやる事はない。ただパソコンのデータが異常なく流れていくのを見ているだけ。
「つぅかこの学校設立してからそれなりに経ってるだろ? なんだって解析が進んでないんだよ」
「解析より先に新技術を見せなきゃスポンサーが納得しないさね」
「……で、財閥さんから支援受けそうか?」
「そんな話一切上がってないと思うけどね。もうあんたがこの学園にいるってこと知られてると思っといたほうがいいね」
まぁそんなことをあいつが転校してきた時点で分かりきっていたので何も反論せず、「教頭どうする? 始末する?」と画面を眺めるのに飽きた俺はバックから書類の束を取り出してぱらぱらとめくる。
その作業は絶対に見えない筈なのに、ババアは「こんなところで会社の仕事するんじゃないよクソガキ」と注意してきた。
このババア悪魔に魂でも売ってこれ作ったんじゃないだろうな……そんなありもしない疑いをしたくなるほどピンポイントだったのでおとなしくしまった俺は、「ババアって勉強教えられるの?」と雑談にはしった。
「勉強教える暇なんてないさね。第一、うちの学園に相応の教師がいるんだからあたしが教える必要ないじゃないか」
「まぁ教頭に経営を一任してる時点で経営者の資質ないしな」
「それとこれとは話が別じゃないかクソガキ」
苛立った声が聞こえたので俺はその場で肩を竦め、「そっちはどうよ?」と質問する。
「暇な誰かさんとは違って調整で忙しいさね」
「ふ~ん……なぁ、新しい教頭雇うとしてもさ」
「いきなりな話だね。そりゃあの資料見たらすぐにでも首にして警察に届けるけど」
「だったらそれは少し待ってくれないか?」
今しがた思いついた作戦及び人事を話そうとあの教頭のクビについて待ったをかけると、当然のようにババアが「ハァ?」と怪訝そうな表情をしてるだろうなと思える声で言った。
「一刻も早くやらないとスポンサーが離れていくだろうに」
「いや。Fクラスがバカすぎるというのはすでにどこかで耳にされてるはずだから、若干スポンサーが離れかけていると見て良い。だからこの状況を逆手にとって、一気にこの学校のイメージアップをFクラスにやってもらう」
「……勝算は?」
「信用して八割。人事は俺に任せてくれ。当てはある」
そう言うとババアは作業する手をやめてしばらく黙った。
こちらのパソコンの音だけが部屋中に響き渡っている中、黙っていたババアは口を開いた。
「ならその作戦、乗ってやろうじゃない。学園祭が当日だろ?」
「ああ。Fクラスの底力、全員に見せつけてやるぜ」
ちなみに。
昼休みに教室に戻って雄二(霧島が隣で昼食を食べていた)にラブレターの話を聞くと、案の定俺の想像通りだった。
明久は、思いっきりやられたのか燃え尽きていた。
学園祭まで残り……忘れたある日のことだった。
……そういえば主人公、腕輪の能力考えてなかった。
ありがとうございます。