馬鹿と気が合うお調子者   作:末吉

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清涼祭、始まります


清涼祭の話
出し物


 どうにかこうにかしてすれ違う日々を続けられていることに安堵感を覚えながら、気を抜いたら絶対遭遇しそうな気がするので未だ気の抜けていないある日。

 

 学園祭が近く、またクラスで何をやるか決まっていないにもかかわらず、俺達のクラスは――

 

『吉井! さっさと教室に戻らんか!!』

『なんで僕だけなんですか!?』

 

 ――校庭で野球をやっていた。

 

「お、ようやく戻ってくるのか。あいつらどれだけ学園祭やる気ないんだよ」

「というより、雄二の奴が興味がないからではないか? うちのクラスは雄二の指示でまとまってると言っても、過言ではないからのぉ」

「まぁそりゃな。……ところで秀吉よ」

「どうした流よ」

 

 横に来ていた秀吉の姿を見て頭を抱えそうになった俺は、意を決して言った。

 

「お前……なんで女性服着てるんだ?」

「ふむ。わしが演劇部だというのは知ってるじゃろ?」

「そうだな。女性役を嬉々としてやってるという噂なら聞いたことがあるぞ」

「そんな噂どこから流れてるんじゃ!? わしは男役をやりたいのに監督が女性役ばかり選ぶから渋々やっとるだけじゃぞ!」

「だろうな。もし本当だったなら、俺は秀吉から距離を置くことを検討する」

「後生じゃ! 雄二以外にわしが男じゃとはっきり認識できる友達が減ったら生活し辛くて構わんのじゃ!!」

「で、また女性役で?」

「う、うむ……たまには男役をやりたいのじゃがの……」

「頑張って鍛えろ。そうすればきっと――」

「ダメだよ秀吉はそのままじゃなきゃ! 秀吉はその姿だから秀吉なんだ!!」

「お主はわしをどういう目で見ておるんじゃ明久!」

 

 秀吉を男らしくする方法を提案したところ、明久が勢いよく扉を開けてそんなことを大声で叫んだので、俺はため息をついて席に戻る。

 

「お前も参加すればよかったのに野球」

「いまいちテンション上がらないから」

「ふ~ん」

 

 席に戻ってきた雄二がそんなことを言ってきたので適当に理由を言って西村先生の方へ向く。

 

「お前ら。野球やるより先に清涼祭の出し物決めろ」

 

 ため息交じりのその言葉に、クラスメイトの半数以上はそっぽを向く。

 俺は欠伸をしてから、西村先生に質問した。

 

「西村先生」

「なんだ豊橋」

「売り上げで教室の修繕って、可能ですか?」

『その手があったか!!』

 

 途端に反応を示す。これが俺の計画の始まりだというのも知らず。

 西村先生は少し考えてから「まぁ、努力と結果次第ではできるだろう」とあいまいな表現で返してくれた。

 出来るだろう、であって、出来るとは断言していない。故にできないかもしれないという可能性もあるが、耐えられない環境(俺としては意に介さないし、机があるのだから問題ないと思っている)で不満たらたらなクラスメイトはその事実に気付いていない。

 

 ……いや、雄二は気付いてるかもしれんな。

 

 だからといって最後まで勘付いているか分からないが、まぁどうでもいい。

 

 こっから先はやる気を見せたクラスメイトの勢いに任せるとするか。

 名前の通り、流れに任せて。

 

 

 

 

「……で、喫茶店に決まったのかい」

「ヨーロピアンとかいう名前で飲茶とか出すってよ」

「名前があってないというのも、ある意味じゃ奇跡かねぇ」

 

 放課後。研究室で進行状況を確認しながら学園長室にいるババアと電話で出し物の報告をしている。

 

「にしても、本当にあのバカどもが来るのかい? 来なかったら計画がご破算だよ」

「大丈夫大丈夫。教室のランクが落ちたことにより姫路さんの咳は悪化している。その上Aクラスの実力でありながら最下位のクラスにおり、周りに有意義な競争相手がいない。親だったら絶対転校を押し付けるね」

「あんただったら競争相手になるんじゃないのかね」

「ははっ。俺は競争する気なんて毛頭ないよ。高校なんて出戻りもいいところ。今更復習やってるようなものだし、もう社会人だから経験も何もかも違う。伊達に一年で会社を一部上場まで押し上げてないっての」

「……本当、あんたは化け物だね。鈴鹿財閥ですら恐れ、野放しにせざるを得ないほど」

 

 ババアの言葉に俺を押し黙り、過去の事を一瞬思いだす。

 そしてすぐさまそれを忘れ、根拠の続きを言おうとしたところ、「教頭が来たから切るよ」と言われたのでおとなしく携帯電話を閉じて床に寝転がり、天井を眺めながら呟く。

 

「……こうなったら、化け物らしく派手に、計算高く、それでいて他を圧倒する喫茶店でもつくってやろうかな」

 

 

 ちなみに島田さんと明久が実行委員である。俺が指名されたが、「俺がやりたいことしかやらないが、それでいいか?」と言ったところ、雄二がすぐに島田さんに変えた。賢明な判断だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の帰り。

 

 普通に夜八時まで作業をしていた俺は、ババアの気力がなくなったのと同時に校舎を出たところ。

 

 純白のドレスを着て校門で待っている女性を遠目で確認できたので進路方向を変え、いつも学校へ来る道から帰ろうとしたところ、あちらも見つけたのかこちらに駆け寄ってきた。

 正直遭遇したくない人物だったので逃げてもいいとは思うのだが、このまま逃げ出すのもどうかと思いたたらを踏む。

 その間も彼女は近づいてくる……と、ここで救いの手が差し伸べられた。

 

「こんな時間に校舎に何の用だ、妃。忘れ物でもとりに来たのか?」

「あ、西村先生……いえ、人を待っていたんです」

 

 どうやら校庭の周りを見回りしてたところらしい。丁度その女性の方に近づいて足止めをしてくれたので、俺はその隙に全力で壁の方へ走り、闇夜に紛れて壁を蹴って飛び越えた。

 

 っぶねー。内心で冷や汗をかいた俺はそのまま懐中電灯を取り出して山を下りた。

 

 だがしかし。そうは問屋が卸さないという言葉が現実に起こった。

 

 山を下りて坂道の入り口付近まで来た俺は、誰もいないことを確認するために顔を出して左右を確認したところ、彼女の拒絶する声が聞こえたので反射的に飛び出しそっちを見る。

 

 彼女はガラの悪い奴らに迫られていた。

 

 正直、俺は関わりたくないのでどうなろうが知ったことではないのだが、この事実が公になった場合の彼女の家の対応とその後を考えるとやってられなくなったので。

 

 俺は、

 

 バックから鉤爪付ロープを取り出して、

 

 一番俺から近い奴の足元へ投げた。

 

 計算通りに投げられたロープはそいつのズボンのすそに音もなく引っかかる。

 俺はそのまま引っ張ると、そいつはこっちにも聞こえる声で叫びながらぶっ倒れた。

 

 うっし。一人気絶。残りは二人といったところか。

 ロープを放してそっちへ駆け出しながら残りの人数を数えた俺は倒れた男から鉤爪を外すと同時にその近くにいたやつに体当たりする。

 二人まとめて吹っ飛んだので、俺はそいつ――妃の手を引きながらロープを回収してその場から逃げた。

 

 

 はぁ。こりゃ今日は家に帰れんな。




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