「キビキビ動けお前らー! 設備変えたくないのかぁ!?」
『イエッサー!!』
無駄な統率力でテキパキと内装を固めていく雄二。こいつが指揮をとったらあっという間に決まっていくのは、さすがに神童の名残なのだろうか。
なんて思う由美を秀吉の家へ泊めた次の日。
今日は手伝いに来なくていいとババアに言われたので、こっちで雄二の補佐みたいなことをやることに。
「しっかし、外貨ありなら遠慮なく改装するんだけどな」
「お前のその商売に対する情熱はなんだ?」
「色々あるんだよ。喫茶店をやるのなら、内装は基本清潔さを醸し出す。その上ウェイターたちの着こなしがあまりにもなってないのはダメ。客はそういうのでも見てるからな」
「……なんでいきなり商売談義に入ったんだよ」
「はい須川達そこの配置違う! オープンキッチンじゃなくて、遮って調理するんだから、移動する際に邪魔にならない配置だって言っただろうが!!」
「お前が一番本気じゃないのか!?」
「は? いくら文化祭でも客に金払ってもらうんだろ? だったら本気でやらないとダメだよなぁ……?」
「目が据わってるよ流! 怖い、怖いから!!」
「おらぁ衣装班! 採算以内できちっと服作ってんだろうなぁ!?」
「!……勿論!」
「時間がねぇんだ調理班後回しでとりあえず全員で内装やるぞ!!」
『イ、イエッサー!!』
「……なんか見事に仕事奪われた気がするんだが」
「テメェは勉強だろうが馬鹿野郎」
「!!」
「? どういうことじゃ?」
もう面倒になった俺が話を進めていくと雄二が力なく言ったので、俺はトーナメントの勉強しろというと、驚いてこちらを見ていた。
秀吉も近くにいたからか聞こえたらしく首をかしげたが、俺は答えずに「ほら秀吉も重いの運べ!」と指示を出す。
「まぁ後で聞くとするかの……っと。存外重いの」
『テメェ流何秀吉に重いもの運ばせてやがる!!』
「文句があるならさっさと自分たちの仕事終わらせろ馬鹿ども!!」
作業を少しでも止めたやつらに対しそう叫んだ俺は、ため息をついて康太のほうへ向かう。
「どうだ?」
「……女性用制服は完成」
そういって見せてきたのは、チャイナ服。しかも
三人目が誰なのか理解した俺は、利益の計算上必要の犠牲だと解釈して「あとは当日まで保管しておけ。さっさと内装終わらせるぞ」と指示を出す。
「ミカン箱が壊れた!」
「教科書詰め込みすぎだ馬鹿! そんなの捨てて新しいダンボールもらって来い!!」
「ちょっと、暗幕の長さ足りないわよ!!」
「寸法測ったやつに直接文句言え! つぅか暗幕どこで使うんだよ!」
「シーツが足りない!」
「今から買いに行け!!」
…………
………
……
…
「これで、終わりだな」
『おっしゃぁぁぁ!!』
内装が二時間で終わり、俺たちは歓喜に震える。
本番初日が明日とかいう状態だったので、今まで気を抜きすぎ(というか、俺が加わるまでほとんど進んでいなかった)だったというのが解るだろう。
少しばかりの解放感に浸りたいが教頭の野郎が何かしらやってきそうな予感があるので、部屋全体を見渡して考えうる限りの可能性をつぶす方法を考え、すぐさま結論を出す。
やっぱり、外貨(自分の金)を使おう。ババアにそれを承認させる。
そうでもしなきゃ、いろいろ言われそうだからな……。
そんなことを考えていると、肉体労働だけに従事することになった雄二が「まさか、お前が俺たちのことを誘導したのか?」と聞いてきた。
「ほかのことに気を取られるんじゃないっての。今は自分がやるべきことを考えてやりな」
「……その口調だと、正しいみたいだな」
「だったらどうする? 怒るか?」
他の奴らに聞こえないように二人で話す。笑顔のままで。
「まさか。ちょうどいい機会だった。翔子の手に渡ったら俺は、俺は……!」
「…自業自得のような気がするんだがな」
何やら触れてはいけないものに触れて雄二が壊れ始めたので、俺はその場から離れる。
床には死屍累々のクラスメイト達。そこには明久がなぜか青い顔をして――
「って、なんでこいつひとり顔が蒼いんだよ! やばいだろ絶対!!」
そういって原因を探すために周囲を見渡したところ、姫路が畳にめり込むぐらいに土下座していたので確定。
とりあえず姫路さんの近くまで行って顔を上げてもらったところ、なんか絶望していた。
「……私、料理のセンスないんですかね……ハハハ」
「壊れるな姫路さん! 料理は努力だ! 味見をしたり、どう考えても混ぜる必要がないものは入れなければいいんだ!! 基本に忠実に! 下手な応用は時として凶器になると心に刻んでくれ!!」
「う、うぅ……うわぁぁ!!」
……手遅れだった、か…!
「いや、どう考えてもあんたがとどめ刺したんじゃないの?」
「おう島田さん。明久がまた姫路さんの改善されていない料理を食べたらしくてな」
「ちょっとアキ大丈夫!? ちゃんと生きてる!?」
「う、うぅ……美波……僕は、僕ハード!!」
「アキィィィ!!」
なんか安っぽいドラマみたいになったな。
冷静になった俺はとりあえずカオスな現状を放置して教室を出ようとしたところ。
こちらに向かってくる秀吉と、幼さが残る知ってる奴の声が聞こえた。
『薫はどうしてこの学校に来たのじゃ?』
『僕が勝手に呼んでる「お兄ちゃん」に会えるって聞いたからだよ。……それにしても、秀吉さんって女っぽいね。Aクラスにいる優子さんの弟?』
『いやいや薫の方が女っぽいぞい』
『いやいや秀吉さんの方こそ』
『『……』』
どちらがより女っぽいかでどうやら喧嘩腰になったらしい二人。
俺としてはどっちもどっちのような気がするほど差がないと思うが、まぁそこはあの二人にとっては些細なことではないのだろうと納得しておく。
とりあえずどうやって逃げたものかと思いながら窓の方へ移動しようとしたところ、教室のドアが開いた。
「見事に屍の山となっておるの」
「うわ……あ」
「どうしたんじゃ薫」
あー見つかった。動こうとした足を戻しながら結論付けた俺は、とりあえずなにかされる前に近づくことにした。
「よぉ薫」
片手をあげて渋々さを面に出さないように注意を払い声をかける。クラスメイトを一切ふまずに。
その声で確信したのか秀吉の隣にいる身長百五十近くのあどけなさが残る、薫という外見がとても女に見える少年は、満面の笑みを浮かべた状態で「お兄ちゃん!!」と俺の事を呼ぶ。
その瞬間、クラスメイトが一斉に、勢いよく起き上がった!
「な、なんじゃいきなり!」
秀吉が驚くのも無理はないだろう。何せ息も絶え絶えだった奴らが薫の声で一斉に起き上がったのだ。しかも、ほぼ全員同じタイミングで。
さらに、セリフまで一致していた。
『お兄ちゃん、だと!?』
ここまで欲望に忠実だと逆に尊敬したくなるのはどうしてだろうか。動くのをやめて騒ぎだしたクラスメイトの中で立ちながら考えていると、一人が秀吉たちの方へ向かった。
それはきっと声をかけたかっただけに違いない。断じてやましい気持ちなどなかった筈だ。
だが、それでも、このクラスは阻む。
『おんどれなに抜け駆けしようとしてるんだ須川ゴラァァァァ!!』
「いつの間にあんなの作ってたんだよ……」
クラスの大多数が声をかけようとした須川にそう叫ぶや否や、いつの間にか黒い布で全身を覆ったクラスメイト(男子)が追いかけていた。
残ったのは壊れた雄二に死にかけの明久、絶望している姫路さんに、介抱している島田さん、そして秀吉と薫だけ。
一応セッティングしたものが壊れてないのでよかったが、あいつらの怨念はどこまで強化されるのだろうと観察してみたくなった思いが浮かんだ。
……まぁ、俺が標的になる可能性が高いけどな。
今後を予想した場合の可能性を今考えてため息をつくと、目をぱちくりとさせてから薫は言った。
「……すごいね、このクラス」
「そうだろ。ここなら俺でも目立つことはない」
「うちのクラスじゃお兄ちゃん、とっても恐れられてるけどね。数学九百点越えでしょ? やっぱりお兄ちゃんは頭いいなぁ」
それに対し俺は「十三歳で高校二年に来たやつが何言ってやがる」と以前と同じように凸ピンをする。
その言葉を聞いた秀吉は、案の定驚いていた。
「十三歳じゃと!?」
「はい! 改めて自己紹介しますと、僕の名前は上下院薫。十三歳です。クラスはBクラスで、なんとか馴染んでます」
「愛でられる対象だろうな、お前の立ち位置」
「良く分かったね、お兄ちゃん」
「……流よ、昨日と言い、今日といい、お主は一体何ものじゃ?」
「あれ、由美から聞いてないのか?」
「姉上がわしの部屋をあてがったおかげでソファで寝る羽目になったのじゃ」
よっぽど部屋の中身を見られたくないのかね…なんて思っていると、「お兄ちゃん、由美さんと会ったの?」と不満げな表情を浮かべる薫が。
俺は「成り行き」と短く答えてから、「一体何しに来たんだよ」と訊ねることにした。
「お兄ちゃんちで暮らしていい?」
「却下。素直に自分の家へ帰れ」
「まぁ予想はできてたけど……」
「なにも俺にこだわる必要はないだろ」
「だって、『一人暮らしさせる位ならあの化け物と一緒に居た方がいい』ってお父さんたち言うし、化け物なんて
「……」
なんというか、上流社会ではやっぱり爪弾きにされているんだなと再認識できた。
それを否定している薫は感心するが、実際俺は
薫の頭に手を乗せてなでながら、諭すように言った。
「社会で生きる時はな、好き嫌いを公言できないんだよ。好きでも出来ないことはあるし、嫌いでもやらないといけない時があるんだ」
「そうだけど……」
「だから却下な」
「え!?」
諭すような発言から一転して明るく答えたところ、思った通りに薫が驚く。
それを見て笑いが込み上げてきた俺は、「なんでも思い通りに行くと思うなよ?」と笑顔で言っておく。
その発言に呆けた薫は、しかしすぐさま笑顔になり、「やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんだ! 変わってなくて安心したよ!」と嬉しそうに言ったところ。
逆側の扉が勢いよく開いて「お兄様! 一緒に坂道を降りましょう!!」と言う声が聞こえたので、反射的に荷物のところまでダッシュして片手で取り、そのまま窓から飛び降りた。
「ああ! お兄様のいけず!!」
そんな声が聞こえた時には、俺はすでにFクラスの連中に追いかけられていた。
何とか逃げ切ったその日の夜。
何もしたくない衝動に負けず、俺はあるところに電話した。
「あ、もしもし? おひさー。いやー急な依頼で悪いんだけどさ、頼める? 期日は明日の学校が始まる前――七時ぐらいまでで。依頼内容は、Fクラスの教室の内装をリフォームしてほしいんだよ。あ、やっぱり無理? 金? 350万までなら。こんな急な依頼だからそれこみ。え、いいの? マジで助かるわ。そうそう。とりあえずクラスの写真を転送しておいたから。そんで要望は、畳や教室の内装は全て新品同様に。テーブルは現物と似た大きさで、なおかつ清潔感があるもの。それと、見回りの先生にはちゃんと断りを入れておいたから、そこには必ず顔を出して証明してくれ。いい? じゃ、お願いするわ」
相手が承諾してくれたので、俺は自分の通帳から消える貯金額の四割を必要上の物だと思いながら寝た。
最後の最後で何か頼んだようですね……