屋上でのんびり空を眺めていると、チラホラと登校してくる生徒の気配を感じたので伸びをしてババアのところへ行くか教室へ行くか考える。
俺のシフトは丸一日なので、今顔を出さないとババアと最終確認ができない。
かといって教室へ行かないと事情を説明しづらい。
ま、どっちが優先かってことだよなと思った俺は、迷わずに学園長室へ向かうことにした。
「はよーっす」
「また随分な挨拶じゃないか、クソガキ」
「木造の方リフォームしたからその報告。西村先生が手伝ってくれたらしいんだよね」
「……道理で真新しくなった気がしたわけだ。余計なことするんじゃないよ」
「大丈夫大丈夫。備品の方は何もやってないから」
そう言いながら俺はソファに座って足を組む。
盗聴器に関しては別な話がされている感じで流れるように細工したので、校舎が変わった理由に気付かないだろう。
ババアはため息をついて、「んで? 一体あんたは何しに来たのさね」と質問してきた。
「いやーそれがどうも
「面倒な組織? 教頭と他の学校だけじゃないのかい?」
「良く考えてみればそのつながりって割と変じゃね? なんだって自分の学校貶めようとするんだよ」
「金に目がくらんだんじゃないのかい?」
「だろうな。だけど、その金を他の学校が本当に前払いで払ったのかってなると、どうよ?」
沈黙するババア。それを見た俺は「いやーすっかり見落としていたね。化け物と言われてもミス位はするってことかね?」と言ってから、種明かしをした。
「それに気付いたのは教頭とつながっている奴の詳細な金の出入りを調べてもらった時でさ。そいつはどう足掻いても手に入れなさそうな金を持っていて、その何割かを小分けで教頭に振り込んでいる。そこで違和感に気付いた俺は、そのお金の出入りを調べさせたところ……
「ハァ?」
「つまり、そいつが元々そのぐらいの金を持っていたことになっているんだよ。だけど何度調べてもそんな金を持つことになった経緯がない。隠し財産だろうがなんだろうが、国税局が怪しいと思ったら調べてなければいけないのに」
「……あんた、それって機密漏洩なんじゃないかい?」
「俺ってほら、信用されてるから」
「……」
なにやら信じられなさそうな目を向けてくるババア。
それに気付いてる俺は、肩を竦めてから続けた。
「まぁぶっちゃけるとネット使えば大抵の事は調べられるのよ。国税局に知り合いいるってのも確かだけど」
「……あんた
「色々。で、まぁその知り合いに話を聞いたら上から圧力かかって調べられなかったとか言われたそうでね。そこでそんなことができるのを脳内でピックアップしてみたところ、『どう考えても俺恨まれているなぁ』と思える組織がヒット。七割でそこって結論付けたわけ」
「なんであんたを恨むって条件が付くんだい?」
「本格的に始まったのは俺が転校してきた今年。だったら、俺に恨みを晴らすために学園を潰そうと考えられるからな」
「……あんたもバカさね」
「恨みなんて俺のせいじゃねぇって。あいつらが勝手に恨んでるだけだよ」
そう。俺は単純にその組織に関してスルーする気でいた。にも拘らず、こちらの重要案件にかなりの確率で被せてくるからこちらも全力で応戦することになるのだ。おとなしく手を引けばいいものの、懲りずにまた別会社に手を貸してくるから悪いのだ。
社会の勝負に負けたのは会社とその組織の計画の詰めが甘いのが問題だというのにそれを俺のせいみたいに考えているんだろうなぁと考えていると、ババアがその組織について思い至ったのか、盛大にため息をついた。
「まさか、『参謀貴族』じゃないだろうね?」
「正解。あいつらマジ面倒だわ」
「ったく。あんた本当に恨まれ過ぎじゃないかい? 少しはおとなしくしたらどうだい?」
「それは無理かなー。俺社長兼学生だし。ほら、ライオンは何やるにしても全力っていうだろ?」
「……これじゃ、財閥でも手綱は握れないだろうね。あんた、人の目気にせずにとことんやってメンツ潰しまくったんじゃないか?」
「若気の至りだと思って見逃してくれればいいのにな。心が狭い大人はこれだから」
「ひねくれモノにとっては誰でも心が狭く見えると思うけどね」
その言葉を無視した俺は、「ともかくそこら辺の組織が計画を修正してくる可能性が無きにしも非ずだと心に留めといて。俺は今日一日喫茶店で仕事して来るから」と言って立ち上がる。
「ふぅん。そうかい。なら売り上げで元の卓袱台になるぐらい頑張りな」
「どうだろ? それぐらいなら何とかなると思うぜ。二日共にすべて売り切るという条件で机といすが可能ってところだな」
「ま、どうなるか楽しみだね」
「トーナメントもな」
そう言って俺は背を向けて学園長室から出た。
そして教室に戻ったところ、なぜかほとんどのクラスメイトが涙を流していた。
とりあえず呆気にとられている雄二の肩を叩いて訊いてみる。
「よっ。どうした雄二?」
「……あ、ああ流か。教室が一晩で大分様変わりしてたから驚いただけだ。ある程度クレームが出ることを予想していたのが、見事に裏切られたって感じだ」
「で、なんで横溝とか泣いてるの?」
「あいつらは『まじめに働いた俺達に神様が奇跡を起こしてくれに違いない!!』とむせび泣いてる」
……このまま黙ってようかな。俺が頼んだこと。
そうすれば深く追及されずに済むだろうと思った俺はそのまま「ま、これで問題の一つは解決したも同然だし、雄二と明久は頑張ってトーナメント優勝してくれよ?」と言う。
それに対し雄二は胡散臭そうな目で俺を見ながら「……白々しい」と吐き捨てる。
どこまで分かったのかなぁと思いながらその言葉に反応しないでいると、姫路さんが俺の言葉を聞きつけたらしく、「吉井君たちも参加するんですか?」と質問した。
明久はすぐさま「うん」と頷くと、今度は島田が「……誰と幸せになりに行きたいの?」と怒気を孕んだ声で質問する。
副賞かなんかか? と思いながら、俺は雄二に訊いた。
「幸せになりに行くってどういう事よ?」
するとあいつは苦々しく答えた。
「……今度オープンする如月ハイランドのプレオープンチケットが景品として送られるんだよ。しかもウェディング体験とか言うおまけつきでな!」
「へぇ。だから幸せに、ね」
「だから俺はどうしても優勝しなければならない。そしてそのチケットを処分して自由を手にするんだ!!」
そこで俺は気付いた。確か財閥のつながりって思いのほか強いよなと。
となると元妹――留美経由でプレチケットが渡される可能性もあるんじゃないかと。
ま、別にいいか。他人の心配できるほど俺も安全ってわけじゃないし。
そんなこと思いながら辺りを見渡し、ふと康太がいないことに気付いた。
「あれ。康太どこよ?」
「……ああ、ムッツリーニか」
「悪友の名前忘れるなよ」
「あやつなら今胡麻団子と飲茶の試作をしてるところじゃ。なんだかんだで須川たちと早目に来たらしいしの」
「ふ~ん」
「……出来た」
なんというか、とても素晴らしいタイミングで現れたのだが、明久は答えに窮している。
とりあえず一旦落ち着かせたいので、俺は女性陣に「康太が試作品持ってきたから食べて落ち着け」と言っておく。
康太が持ってきたものを見た二人は渋々と言った感じで従って飲茶を飲んだ瞬間、とても穏やかな顔をした。
「ふむ。自負するだけあって良さそうだな」
「だな。これなら心配なさそうだ」
「じゃな」
「そうだね」
そんな感じで確信しているとこれから始めますというアナウンスがあったので、俺は手を打ち鳴らして全員の視線を集め、「これから二日間、俺達は備品奪還のために社畜のように働く! 弱音、反論は一切聞かないからそのつもりでシフト通りに動けテメェら!!」と言うと、全員の目が真剣になって『オオー!!』と声を張り上げた。
さぁ妨害すならしてみろ。その瞬間俺が全力で破滅させてやる!!
「お兄様! 今日のお昼一緒に回りませんか!」
「は? 無理無理。俺今日ずっとここだから」
「そ、そんな……!!」
メイド服を着た留美がここまで来てそんなことを言ってきたのでさっさと追い返した。
それでは