清涼祭初日が始まって少し経過した。
人の流れというのはそれほど多いものではない。にも拘らずうちのクラスは――
「四番テーブルに胡麻団子と飲茶二つずつ!!」
「六番に肉まん四つ!!」
「おい誰だオーダーミスった奴! 流につるし上げられるぞ!!」
「三番上がりだ! 早く持っていけ!!」
――思いの外忙しなく動き回っていた。
事の起こりは数分前。明久と雄二が言葉を濁してトーナメントへ行ってすぐ。
康太が俺を呼んだので行ってみると、なぜか喫茶店のウェイターの制服が。
「これを着ろと?」
「…話が早くて助かる」
まぁ売り上げ伸ばすのに必死なのだろうとピッタリなサイズであることに驚きを隠せない制服を着た俺は、そのままホールへ。
それで対応していたらFクラスの教室の綺麗さも相まってからものの見事に拡散されたようで……いまじゃ満席になっている。さすがに行列はないが。
「これはさすがに予想外だ!」
「そうじゃの!! 島田たちも行ってしもうたし!」
今はシフト勢が一丸となって客の注文をさばききっている。ホールが俺と秀吉と他数名。厨房班が須川を中心に数名。
一般はもとより、教室に驚いた生徒がそのまま入ってくるケースが多く、売り上げはこのままいったら本当に机と椅子へ到達するんじゃないかと思えてくる。
だが気が抜けない。どこで妨害が入ってくるのかわからない。受け身で行かなければいけない以上、警戒が緩むと大変だ。
そんなことを考えながらもきちっと対応して客を回転させていると、「「なんだここ!? 本当にFクラスか!?」」と叫ぶ声が。
客かと思いながら視線を向けると、同学年で見たことない二人組。となると上か下だな。
なんか坊主とモヒカンがいるなと思いながらも満席なので「すいません。どのくらいかかるか知りませんが、お待ちいただくか、またお時間を見て来店してくれませんか?」と懇切丁寧にお願いする。
それに対しその二人は「んなことよりこの教室は一体なんだよ!」「そうだ滅茶苦茶汚かったじゃねぇか!!」と喚きだす。
時間がもったいない上にこいつら妨害しに来ただけかと思った俺は、二人に耳打ちした。
「……どうせ教頭の独りよがりの暴走だろ? そんなのに付き合うなんて、お前ら馬鹿だな」
「「!!?」」
驚きと血の気の引いた顔を同時に二人がする。それを少し距離を置いた俺は笑顔で「では、またの来店をお待ちしております」と言い渡す。
それを聞いたその二人は怖いものを見るような顔で慌てて逃げて行った。
……ふむ。教頭は切り捨てられたかな?
そんな予想をしながらも、俺は警戒を緩めずなおかつ普通に接客に努めた。
「ただいまー……って、なにこれ!?」
「どうした……って、おいおい」
「固まってるなお前ら勝っても負けてもさっさと手伝え!!」
「「う、うん! (お、おう!)」」
先程よりさらに忙しに拍車がかかった状態で戻って来た明久と雄二。これ幸いと思った俺は怒鳴って手伝わせることにした。
急いで手伝い始めた二人。だが雄二は俺に近づいて「…妨害は?」と訊いてきた。
「ねぇよ。する前に帰りやがった」
「そうか。なら良かった」
「ほら働け働け! 負けた以外の報告はいらねぇから働け!!」
「そこは普通勝った報告以外だろ!?」
うるせぇいいからオーダー聞いて来いと一蹴しながらも俺は別なテーブルへ向かう。
「ご注文は?」
「……それじゃ、飲茶と胡麻団子一つずつ」
「かしこまりました」
そう言って素早くメモに注文された品を書いた俺はそのまま厨房に持っていき叫んだ。
「六番テーブル飲茶と胡麻団子一つずつ!!」
「…了解した!!」
そしてホールへ戻ると、秀吉が六番テーブルをちらっと見てから俺に小声で訊いてきた。
「……あそこのテーブルにいる女子、ずいぶん粘るの」
「ああ。始まってからずっとだ。一人で三千円近く使ってるんじゃないか?」
「それはまたすごいのぉ」
そう言って秀吉はそのまま厨房へ消える。
俺はというと、六番テーブルにいる女性に視線を向けていた。
金髪のショートだが、髪の毛が跳ねているのを機にしないたちなのかそのまま所々跳ねているが手入れはしているのか艶がありそう。
身長は高くなく、一瞬中学生と見間違いになりそうなほど幼い印象を受ける。
表情を面に出さないながらも美人度のレベルで行ったら高い…そんな女性が一人で甘味と中国茶を貪っていた。
……まぁ色々と思うところはあるぜ? さっさとほかのところ行けよとか回転率悪い一端はお前なんだけどとか。
けれどまぁ、この女性の食べる姿がどうにも他のお客さんを駆り立てるようで――あとうちのクラスの男子連中も必要以上に頑張る――いいこともあるといえばある。
出来れば行列は避けたいんだよなぁと思いながらどうにかこうにか回っていると、明久が「姫路さん達も手伝って!!」と普段とは考えられなさそうなほど必死な声を出す。
それを聞いた二人はすぐさま手伝いだしたので、とりあえず一人あたりの負担は軽くなったなと息を吐いて気合を入れなおした。
「俺達二回戦行ってくるわ!」
「行って来い! 負けんなよ!!」
「分かってるよ!!」
気合十分な声を聴きながらも、俺自身働くのを忘れない。
秀吉たちは適度に休みを入れているが、フルタイムスケジュールの俺にそんなことは関係ない。
久し振りに駆け回った時と似たような状況を体感してるなと実感しながらも問題なく対応していると、六番テーブルの人が席を立った。
基本的に会計するのは俺なので(金銭面で一番信用できると言われ)立つのが分かった瞬間にはそちらへ向かう。
「お会計ですか?」
「……うん」
頷いた。
ようやくかと思った俺はすぐさま厨房に戻って六番テーブルの注文書の束を持ってその子の近くへ行き、「合計で三千七百円になります」と告げると「……これで」と万札を渡してきた。
偽札ではなさそうだなと思った俺は受け取ってお釣りを渡す。
そのまま「ありがとうございます」というと、その子が漏らした。
「……豊橋流。今回の件に
「!!」
驚いて動けない俺。対し彼女はそのまま綺麗な足取りで教室を出て行く。
おいおいおい……あんな子が『参謀貴族』の一員ってか。
実態自体がつかめないと言われている組織に属している人と遭遇した事に対しての驚きが覚めたのは、秀吉に声をかけられた時だった。
つぅか、わざわざ声をかけてくるなんて……敵に塩を送る形でいいのだろうかあの組織は?
我に返った俺がそんなことをふと思ったのは――明久が戻って来てすぐだった。
どうやら根本と小山(Cクラス代表)ペアに交渉で勝ちを譲ってもらったらしい。
何かが終わったなと俺は悟った。
また次にお会いしましょう。