馬鹿と気が合うお調子者   作:末吉

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ちょっとトラブル

 明久曰く雄二はトイレへ行ってから戻ってくるという事だが、今はそんなことを気にする余裕なんてない。

 全員が一心不乱に来店してくるお客さんを捌かないと、とても間に合わない。シフトは何とか回っているが、あと数倍のスピードで客が流れてきたら組んだシフトが意味をなさなくなりそうだ。

 

「……そういえば、流って休んでるの? 戻ってくるたびに接客してるんだけど…」

「ああ心配するならさっさと体を動かせ頭を使え手を動かして少しでも回転率を上げろ」

「わ、分かった!」

 

 話し掛けて来た明久を地を這うような声で追い返した俺はそのまま会計をしてお客さんを見送って座って待っているお客さんのところへ向かう。

 

 そして注文を取り、厨房に回し、会計を済ませ……の繰り返しを百ぐらいやったんじゃないかなと思う時、廊下から雄二の声が聞こえた。

 かなり呑気に歩きながら子供と喋っているようなので、たまらず俺は廊下に顔を出して叫んだ。

 

「オラぁ雄二ぃ! 次も勝てやぁ!!」

「普通そこは遅れてきたことに対する注意だろ!?」

「理由があるからよし!」

「……お前も変わったな」

 

 と、雄二の隣にいた小さい女の子――クラス内の誰かに似てる気がする――が雄二に「あの人すごい汗かいてますけど、坂本さんは大丈夫ですか?」と訊いていた。

 時間が惜しい俺はすぐさま引っ込み、慌てている明久の下へ行って「……注文ミスったら屋上から好きな人の名前を叫ばせる」と小声で脅す。

 それを聞いてすぐさま落ち着きを取り戻したようで、先程とは比べ物にならないほどの俊敏さを見せる。

 

 俺も頑張ろうかねと思いながら、在庫があるか頭の中で確認した。

 

 

 

「バカなお兄ちゃん! 葉月、会いに来ました!!」

「ぐふっ……あ、ありがと。でもごめんね。少し忙しくて」

 

 雄二が戻ってきたと同時に葉月と名乗った少女が明久めがけて突進する。本人は抱きつきのつもりだろうが、頭が見事に明久の鳩尾にヒットしている。

 明久が痛がりながらもその表情を出さずにやんわりと断っているのを聞いた俺は、「ほら休憩しろ明久」と言ってやる。

 

「え? でも大丈夫なの?」

「雄二をギリギリまで使い潰す」「おい」

「そっかー。それなら大丈夫だね」

「ヘロヘロの状態で俺に戦えと!?」

「ほら行って来い」

「分かった」

 

 そう言うと明久は葉月という少女を連れて教室を出たところ、「ウチの妹に何手を出してるのよぉぉぉ!!」と島田さんの叫び声とともに明久のうめき声が。

 そっかー誰かに似てると思ったら島田さんの妹かーと思いながら騒然となった教室内に「勘違いによる一種の修羅場になっております。皆さんもこのようなことにならないよう、お気を付け下さい」と言って一礼。

 我に返ったお客さんたちが思うところがあるのか気まずそうな顔をしながらも食べているので、あ、これヤバいと思った俺は雄二に「廊下行って止めて来い」と指示を出してからこの場でできることを考える。

 

 この場にいるのはお客さんと厨房にいる奴らとホールの奴ら。廊下は論外として、何か盛り上げることができるのは……。

 

 そこまで考えて何個か思い浮かんだ俺は、その一つとして厨房に入って中国茶の入ったポット(須川提供)を「悪いけど持ってくぞ」と断りを入れて持ち出してホールへ行き、近くのお客さんにそのポットを膝だけで支えて注いでおく。

 

「うおっ!」

 

 驚くお客さんに、俺は最大限の笑顔で「サービスでございます」と言ってポットを押し上げ手でキャッチし、その足で別なテーブルへ。

 次のお客さんに対しては手の甲に乗せて綺麗に注いでいき、他のテーブルにも順次アクロバットな演技を見せる。

 とはいったものの単純にバランス感覚がモノを言う淹れ方なのだが、お客さんはとても驚いていた。後、うちのクラスの奴らも。

 ポット片手に腰を曲げて頭を下げた俺は、「ではごゆっくり」と言って厨房に戻り、ポットを戻す。

 

「ちょっとサービスで振る舞ってきた」

「……仕方ない」

 

 康太はそう言うとポットを須川に渡し、須川はそれに予備のお茶を入れる。

 それを見た俺は、大丈夫そうだなと思いホールへ戻ることにした。

 

「ん? 雄二は?」

「明久と姫路と島田と一緒に行きおったぞ?」

「ふ~ん」

 

 先程の行動が功を奏したのか相変わらず客足が変わらない教室内を回りながらいない人間についてつぶやくと、近くにいた秀吉が答えてくれた。

 俺はそれについて簡単に相槌を打ちながら接客をすると、「お兄様!」と叫び声が聞こえたので視線をちらっと向け、秀吉の肩を叩く。

 

「秀吉よろしく」

「いや流が行けばよかろう。わしは注文を厨房へ届けねばならんからの」

「……チッ」

「どんだけ嫌なんじゃお主は!?」

 

 やっぱり無理かと思った俺は空いてるテーブルを探したところ、一テーブルだけあったのでため息をついて入口を陣取っている元妹――留美の前へ移動する。

 

「何名様ですか?」

「留美以外に誰か見えるんですかお兄様!」

「……あ、流様。三名様です」

「来ちゃったよお兄さん」

 

 案の定予想できる組み合わせが来た。というか、そのうち来るんじゃないかと思っていた。

 それを面に出さず、俺は「三名様ですね。ではこちらにどうぞ」と席に案内する。

 

「前来た時よりすごい綺麗になってるね、ここ」

「……うちのクラスに来た三年生が言ってたこととは大違いです」

「お兄様に抜かりなんてありませんわ!」

 

 ……。どうやら、うちのクラスの妨害工作をしようとして逆に宣伝になっているようだ。後でその先輩方には何か送っておかないとな。何がいいかな。六法全書? 逮捕状? それとも偽の大学推薦書? 偽証罪で捕まるのは嫌だから……無難にその二人の親に手紙を送ればいいか。やろうとしていたことに対するお礼を含めて。

 

「こちらです」

 

 そう言って俺はその場を立ち去る。今更だが、留美と由美はメイド服を着ており、薫に関してはドレスだった。

 あとは他の奴らにやってもらおう。そう思った俺は近くの席の人が呼んだのでそっちへ向かった。

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