馬鹿と気が合うお調子者   作:末吉

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さらっと流れていきますけど、結構なことなんですよね。


誘拐

「そういや流」

「あ、どったの雄二」

 

 忙しないという言葉が似合うようなこの状況の中、雄二は俺に近づいて耳打ちしてきた。

 

「明久が襲われそうになった。在庫の補充へ向かった時に」

「ふ~ん。そういや教頭が明久に話しかけてたな」

「そうか……やっぱり」

 

 何やら考え込みそうだったので、俺は雄二を小突く。

 

「んなことよりさっさと仕事仕事。準決勝前まできちっと馬車馬の如く働かしてやる」

「本当に容赦ないな!?」

 

 そう言いながらもこなしていくのを見た俺はそういや飯食べてないなと思いながらも明日の分の在庫残量が六分の一しかないなと思いつつ時間が午後三時に差し掛かろうとしている現状にため息をついた。

 

「おい雄二。準決勝だぞ」

「ん? もうそんな時間か。明久、そろそろ行くぞ」

「うん」

 

 そう言って客の間を縫う様に移動する二人。その間クラスメイトが声を――

 

『さっさと負けてテメェらこっち手伝え!!』

 

 ――うん。ある意味このクラスらしい。

 

「が、頑張ってください!」

「頑張んなさいよ!」

「頑張ってくださいですバカなお兄ちゃん!」

 

 うん。まぁこっちは当然か。

 特に俺は言うことないので、普通に接客していた。

 

 ……しっかしまぁ、下手な手段しか使えないようだな、支援がないと。

 誰とは言わないが。

 

 

 

「次の相手は誰じゃったかの?」

「留美と由美」

「なぜ即答できるんじゃお主は…」

 

 だんだん慣れてきたのかこの忙しい中でも雑談が出来る様になった秀吉が話しかけてきたので即答すると、驚かれた。

 これぐらい対戦表見れば察することができるだろうと思ったが、秀吉は見てなかったなと思い、説明した。

 

「あの二人はトーナメントの同じグループだから勝ち上がると準決勝で当たる。途中霧島と木下姉が障害になるだろうが、ぶっちゃけあの二人が点数で負けることはない。腕輪の能力も分かってないだろうが、それでもあの二人が負けることはないだろ」

「どうしてそう言い切れるんじゃ?」

「いらっしゃいませ。何名様で? あちらの席へどうぞ……あの二人は元居た学園でも成績トップクラスだからな。あの、金持ちの道楽で作られた天才たちの学園でな」

「……そんな学校があるのか?」

「まぁ根拠としてはそれ位だ。あいつらが勝てる確率は、いくら保健体育だとしても二割だな……正攻法ならば」

「む。正攻法なら? だったらどうすれば勝てるんじゃ?」

 

 秀吉が俺の言い方に訝しんだようだが俺には雄二達が負ける姿が浮かばないので、勝てる方法を言った。

 

「生贄を出せば勝てる。ぶっちゃけ八百長だな」

「……なんというか、いささか卑怯なやり方じゃの」

「試召戦争だと何でもやってたんだ。卑怯汚いなんて言ってられんさ。どうせ生贄は俺だし」

「……ああ、なるほどのぉ」

 

 合点がいってくれたようで何より。そう思った俺は、「ほら働け働け」と秀吉を急かした。

 

 

 雄二達が準決勝に向かってから、人がまばらになった。

 それはそうだ。もうすぐ一日目が終わってしまうから。

 二日目の在庫まで無くなりそうになるのはさすがに予想外だったと思いながらお客さんが出て行ったのを見送った俺は、今現在こちらで働いているメンバーを思い浮かべながらそろそろ始まったかなと雄二達の心配もする。

 

 段々暇になるだろうなと思いながら息を吐くと、「お、空いてる空いてる」と声が。

 お、やっぱり来たかと思った俺は入り口に立って「いらっしゃいませ」という。

 

「おう流。十四大丈夫だろ?」

「ええ。かなり空いてるので四人一グループで適当にばらけてください」

「そうか。……お前ら、適当に座れ」

『うっす』

 

 そのまま一斉に教室に入り、言われた通りばらける。

 その接客をしていると、続いて「ようやく空いてきたようですね…」と李里香さんの声が。

 注文を聞き終えた俺はその足でそのまま向かう。

 

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

「六名ですしゃ……豊橋さん」

 

 空気を察したのかそれとも現状を思い出したのか俺の事を苗字で呼んだ。

 まぁそれでもアウトなんだがという視線を向けながら俺は席に案内し、そのまま厨房へ向かう。

 

「これ注文」

「おう……なんかすごい一気に気が抜けるな」

「頑張って最後まで持たせろ。明日もあるぞ」

「だよなぁ」

 

 そう言いながら須川は注文票を受け取る。それをちらっと見てから厨房班に指示を出す。

 割と須川って雄二に似てるよな…と思いながらホールに戻ると、李里香さんグループにホール班の集団が。

 もうどうなっても知らない俺は(この時の俺は学生であり社長ではないので)構わず他のテーブルへ向かう。

 

「おう流。いや、()と言った方がいいか?」

「冗談じゃありませんよ垣谷(かきや)さん」

「昔みたいに呼び捨てで構わねぇよ」

 

 そう言って俺の背中を叩く十四人の集団のリーダーで社長の垣谷さん。

 豪快に笑う彼につられて他の人たちも笑う。それを見た俺は苦笑せざるを得ない。

 その際囲まれている場所から視線を感じたが、俺は無視した。

 

 と、そんな時だ。

 

「大変だ流! 姫路や翔子、島田にちみっこ、それに鈴鹿や妃や秀吉が誘拐された!!」

 

 そんなことを叫びながら雄二が扉を開けてきたのは。

 現在いるお客は俺の知り合いたち。そのタイミングというのは何とも幸運なことだろうが、状況としては最悪だろう。

 が、静まった教室内で、俺はただ一人普通に言った。

 

「ああそう」

「だから……って、お前軽いな!?」

「いや姫路さん達だけなら不味いかなって思ったけど、他に財閥の娘二人誘拐されたと聞いたらとくに不安もないと判断した」

「それはどういう意味だよ!」

「言葉通りの意味だよ。あの二人が誘拐された回数は数知れないから、ぶっちゃけ自力で脱出させるように鍛えた。だから、どこだろうがケロッとした表情で戻ってくる」

 

 分かったか? というと、雄二はどこか理解し辛そうな顔をしてたので、ため息をついて雄二の肩に手を置いて耳打ちした。

 

「仕方ねぇ。霧島の事が心配なお前のために一肌脱ぐか」

「ば、バカ野郎! お、俺がいつ翔子の心配してるんだ!?」

「動揺が隠せてないぞ……つぅわけだ。ちょっくら行ってくるからお前達で後回してくれ。多分客は来ないだろうから、会計の時は少し待っててもらうようにしてくれ」

『御託はいいから我らが女神たちを連れ戻して来い!!』

 

 ……。このクラスなんか末期症状出てる気がするな。

 送り出された時のセリフにそんな感想を抱いた俺は、「さっさと行くぞ。どうせ康太辺りが先に向かって明久は教室前で待っているんだろ?」と雄二に言いながら歩き出すと、「……一瞬で判断するってことはお前…」と呟きながらついてきたので、ここまでヒント与えりゃ最後まで気付くかこいつならと考えつつ案の定教室前で慌てていた明久を小突いて「そんじゃ行くか」と言った。

 

 ここまで強硬手段に出るってのは、よっぽど焦ってるのかね……。

 

 

 

 

 

 

 そこからやってきましたカラオケ店。どうやら康太が潜入し、部屋に盗聴器を置いてきたらしい。で、俺達は部屋から少し離れた場所にいる。

 

「しかし康太の情報収集能力や潜入能力はすごいな……正直言って裏社会じゃ引く手数多だろうな」

「すぐそこに直結できるお前の人生に何があった」

「山あり谷あり。ま、一年の間だけど」

 

 そんな会話をしながら盗聴器から聞こえる音声を聞いていると、なんとまぁテンプレな会話が。

 雄二が明久を制止させているが、まぁ長くは持たないだろう。

 とか思っていたら明久が飛び出してその部屋に特攻を仕掛けた。

 

『美波に手を出すな!』

「やれやれ行っちまいやがって」

「ま、そこがあいつのいいところじゃね? お前も霧島助けに行けよ」

「うっせ! そう言うお前こそ助けてやれよ!!」

「へいへい」

 

 明久が殴られている音が聞こえたので面倒だなと思いながら向かったところ、狭い部屋で雄二が暴れまわっていた。

 手助けいらないなと思いながら逃げようとしてきた奴らにアッパーをノーモーションで打ち込んでノックダウンさせてすぐ終了。

 入ってわずか十秒ぐらいで制圧完了した現状対し未だ暴れている雄二を見た俺は、霧島の言動を少し矯正した方がいい気がしたなと思いつつ知り合いの警察官の番号に電話を掛けた。

 

 

 

 ちなみに。

 

「なんでお前ら二人で制圧しなかったの?」

「まぁお兄様! 留美がか弱い女性だというのをお忘れですか!?」

「流様。デリカシーがいつも足りませんね」

 

 ……なんで俺が怒られたんだ?

 

 

 その二。

 

「秀吉。お前男服なのに誘拐されるなんて……薫と似てるな」

「……もはや何も言えぬのじゃ」




ではまた明日会いましょう。

ご愛読ありがとうございます。
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