馬鹿と気が合うお調子者   作:末吉

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二日目

 次の日。

 

 昨日の忙しさから今日は暇になるかなと思いながら登校時間ギリギリに教室へ着くと、明久と雄二が欠伸をしながら出てきた。

 

 眠そうだなこいつらなんて考えながら「おはよう」と言うと、「俺達屋上で寝てくる」と雄二が言ってすれ違った。

 

「頑張れよ」

「ああ」

 

 すれ違いざまにエールを送ったらそう返事がきた。

 ここで負けたら台無しになるから頑張ってほしいところだと思いながらドアを開けると、島田さんと姫路さんが深刻そうにしていた。

 

「どうしたんだ二人とも」

「あ豊橋。別に何でもないわよ」

「ふ~ん。……明久は普通に女子が好きだぞ」

「そ、それぐらい知ってるわよ!」

「そ、そうです!!」

 

 この慌てよう。さてはホモの可能性を思い浮かべていたんだろう。

 姫路さんも徐々に侵されてるなぁと思いながら「はいはい」と言ってから須川を見つけて「おーい須川」と呼ぶ。

 

「どうしたんだ流?」

「いや、在庫の買い出ししてきたのかなと思ってよ」

「ああしたぞ。今日はどうするか悩んだが、三百人ぐらいだな」

「まぁ妥当だな。島田さんに報告は?」

「やべっ、まだしてねぇ」

「さっさとやれよ」

「分かったよ」

 

 そう言って須川は島田さんに駆け寄った。他の男子は今回邪魔をせず、それぞれ自分の役割について考えているのかもしれない。

 まぁ一日目で完全に売り切ってしまったので目標を達してしまったのだが、そのせいでモチベーションが下がっているのかと思えば、そうじゃない。

 欲の塊の男子がもっと利益をと言う雰囲気を出しているのだ。康太と秀吉と須川と俺を除いて。

 一日目は教室と味のダブルインパクトで客足が途絶えることはなかったが、今回は三百も売り切れない可能性がある。

 

 出来る事なら使いたくないが、三百売り切るにはアレを使うしかないかな……そんなことを考えていると、島田さんが俺の事を呼んだ。

 

 俺は島田さんに近寄ってから聞いた。

 

「何?」

「豊橋さ。昨日ずっと店番してたって本当?」

「ああ。おかげで昨日はぐっすり眠れた」

 

 そのせいで李里香さんが置いて行った書類を見てなかったのは、どうでもいい話になるだろう(ちゃんと起きてから終わらせた)。

 それを聞いた島田さんは目を丸くしてからため息をついて「じゃぁ今日は休みなさいよ」と言った。

 

 宣告された俺は数回瞬きして「マジで?」と確認する。

 

「当たり前よ。いくら店と言っても清涼祭なのよ。少しは学園内回ってくればいいのよ」

「いやでもよ、会計とかは島田さんや姫路さんが行えばいいとして、接客のシフトが一人減るんだぞ? そこは大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。だからあんたは今日休み。いいわね」

「お、おう」

 

 その優しさを明久に向ければいいもののなんて思いながらも頷いた俺は、ふって湧いた暇な時間をどうするか考える羽目になった。

 

 

 

 明久たちを起こした俺は、屋上で見送ってから何もすることがないためぼけっとすることにした。

 放送器具が置きっ放しだというのは些かバカなんじゃないだろうかと思いたくなるものだが、まぁここに来る人間自体が珍しい上に盗もうと考える勇気ある奴はいないだろうと思い直し校庭を見る。

 

 ひょっとしたら昨日より多いんじゃないかと思いたくなる人だかりに見知った奴らがいないことを切に願いながら見てみたが、恐らく無理だろうと考えてしまう。

 

 人ごみだからよく見えなかったというのもあるが。

 

 まぁもうすぐ二日目も始まる。そして少ししたら決勝戦。

 

 それまでどうしたものかなと思いながらも、屋上から出て行くことにした。

 

 特に何事もなく二年のクラスがある階へ戻ってきたが、見たいものがないのでどうしようかと立ち止まっていると、「あれ、豊橋君じゃない」と声をかけられたので振り向く。

 そこにいたのはボーイッシュな女の子。確か試召戦争で康太と闘った――

 

「工藤愛子、だったか」

「そうだよ。覚えてるなんてさすがだねー」

 

 メイド服の格好で仕草だけ男っぽい工藤。明久たちはとても手玉に取られているのを笑ってみていた俺としては、正直な話特に考えることはない。

 と、工藤はそんな俺を見て「そう言えばクラスの出し物は?」と訊いてきたので「今日一日暇になった」と答えた。

 

「でもどうして?」

「昨日一日ずっと働いていたからだな。休めと言われた」

「あはは……それはそうだよ」

 

 そう言うと何を思ったのか持っていたビラを一枚渡してきた。

 

「暇だったら来ない?」

 

 受け取った俺は一瞬考えて「まぁ行ってみるか」と結論を出すことに。

 どうせ暇だし。そんな思いの中、俺は工藤の後ろをついて行くように人ごみの中を縫って移動した。

 

「まぁメイド喫茶だよな」

 

 Aクラスの看板を見て真っ先に思い付いた感想を呟いた俺は、空いているのか普通に入る。

 

「お帰りなさいませご主人様」

 

 すると、真っ先に霧島が出迎えてくれた。

 が、俺は特に驚くことなく「一人で大丈夫か? 埋まってるみたいだが」とクラスを見渡しながら質問する。

 それにつられてクラスを見渡した霧島は、「……あちらになります」と指をさす。

 丁度そこだけ誰も座っていなかった。

 まぁ良いか別に。本来なら喜んだりするべきなのだろうがそれほど興味があって入ったわけではないので、満席でもよかったというのが本音。

 

 案内を受けず普通にその席へ進んだ俺は、座ってからもう一度見渡す。

 

 ……大体親や同年代が多いな。同年代の男はおそらく女性陣目当てで入って来てるんだろう。

 俺もその一人にカウントされるというのはさすがに嫌だなと思いながらぼけっと片肘をつきながら待っていると、携帯電話がポケットの中で振動したので取り出す。

 

 どうやらメールのようで、相手は李里香さん。

 用件は、『ゲームの試作品が完成しました』というもの。

 実質的権限は李里香さんに譲渡しているからわざわざ報告しなくていいんだけどな…と思いながら携帯電話を閉じると同時に水とメニューが置かれた。

 

 礼を言おうとしたら駆け足で立ち去られたので、切り替えてメニューを水を飲みながら見る。

 

 ……意外とまともなものだな。もっと変なものかと思った。

 そんな感想を抱きながら何にするか決めていると、外の方からアナウンスが聞こえ始めた。どうやら、決勝戦が始まるらしい。

 

 そういや俺の召喚獣って腕輪の能力知らないんだよな…と思考がそれたままメニューを見ていると、「お、流じゃねぇか」と聞き覚えはあるけれど、記憶にない声が。

 どうせ大した奴じゃない気がすると思いながら注文するものを決めたら、「相席いいか?」と聞かれたので「どちらでも」と簡潔に返す。

 すると向こうが座ったようなので、「俺はショートケーキに紅茶で」と言って注文を終える。

 そのメニュー表をテーブルに置くと、そいつは勝手にとって勝手に開きながら話し掛けてきた。

 

「つぅか偶然だな、まったく。何年ぶりだ? 学校やめたの中等部の頃だから……三年前か? そこから何していたんだ?」

 

 顔を見ていない俺はどうでもいいので返答しないでいると、注文していたのを運んだ帰りだったのか、留美が通り過ぎる時に俺達を見て声を上げた。

 

「あら……豊橋さんに空天さん。どうぞごゆっくり」

「す、鈴鹿さん。や、やっぱりこのクラスだったんですね……って、豊橋?」

 

 俺の名字が変わっていることに気付いたのだろう。そいつ――空天(くうてん)高人(たかと)は俺の方を向いて訊いてきた。

 

「お前…鈴鹿じゃないのか?」

「つい最近追い出された」

「ハァ!?」

 

 高人の声が一瞬で教室に響き渡る。それを聞いて全員がこちらに視線を向けてきたが、俺は気にせずに携帯電話を弄る。

 

「そんな話聞いてないぞ!?」

「身内の汚点を消すのが財閥だろうが。それとも、そうじゃないと言い切れるのか財閥の人間の癖に」

「!」

 

 知らず知らずの内に嫌悪感からか威圧感のある口調で言ってしまった。黙ってくれたのは良かったことだが。

 しかし撤回する気も何もなかったのでそのまま黙っていると、そいつはため息をついて席に着き「…すまん」とだけ言ってきた。

 ちょうどよくそんな険悪になりかけている雰囲気に料理が運ばれてきたので黙って食べていると、注文したらしい高人が俺を見てこう言った。

 

「…すごいなお前って」

「あ?」

「追い出されたのに普通にこうして居られるってことだよ。俺だったらまず恨むね」

「俺は元々あんなクソみたいなところに居たくなかったからな。最初から馬が合わなかったんだよ」

「……確かにな。今となってはこうして普通の学校の奴らの方が羨ましくて仕方ない」

 

 そう言いながら笑うそいつの顔を見てどういう人間だったか思い出した俺は、「そういやお前、あの学校にいた時よく一緒に行動してたな」と紅茶を飲んでから言った。

 

「いや、ようやくかよ!」

「主にツッコミを入れてくる奴だと認識してる」

「主にお前にな」

「……」

「……」

「ふっ」

「はっ」

「「はっはっはっはっ!!」」

 

 高人が注文した料理がテーブルに置かれてるのにあいつは気付かず、俺達は少しの間笑いあった。

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