呼び出し
学園祭が終わってしばらくの事。
机といすが買えると意気込んでいたら卓袱台と座布団だけしか買えなくてどういう事だこらぁと雄二とともに乗り込んだのに結果は変わらず。
なんでもやり過ぎは良くないという事で、これ以上FクラスがFクラスじゃなくなったら他のクラスからクレームが来るとのこと。
そう言われたら意地でもAクラスに勝って設備奪わないとなという意見が一致した俺達は、その事をクラスメイトに言って来たるべき解禁時まで不満を抑えるよう言った。
臥薪嘗胆。とはいってもこのクラスの半分以上が分かるわけがないので単なる四字熟語でしかないのだが、この状況を表すにはこれ以上ピッタリな言葉はないだろうな。
で、土曜日も学校に来なくてはいけないという(補習で)罰にも似た状態で別なことをしながら授業を受け、休み時間になった時。
不意に思い出した俺は雄二がいない隙に明久に聞いた。
「そういや明久」
「? 何、流」
「プレオープンチケットお前が受け取ったわけだけど、誰に渡した?」
「はははっ。霧島さんに決まってるじゃないか」
「あ、やっぱりか」
薄々勘付いていたことだが、こいつらは本当に嫌がらせを互いにやってるわりに肝心なところじゃ息がぴったり合うよな。
そこら辺は明久の魅力なのかねなんて考えながら、「あんま嫌がらせ考えるなよ」と言っておく。
「そ、そんなことするわけないじゃないか!!」
「目がこっち向いてないぞ? おい本当にする気だったのか?」
「か、考えてなんかない! 僕はただ二人の幸せを願って……」
「誰の幸せを願って、だ? 明久」
「!」
何ともいいタイミングで雄二が登場。
驚いて視線を彷徨わせながら必死で言い訳を考えているその様を見ながら、となると多少強引ながらも対策考えないとなとぼんやり考えた。
その、次の日。
特に外に出る用事がなかったので家の大掃除をやりつつ使ってない部屋どうすっかなと考えたけど結局思いつかずに掃除が終わってしまい、暇になった時。
ポケットに入れていた携帯電話から着信が来たことを知らせるメロディーが鳴った。
相手を確認して俺は電話に出る。
「もしもし。どったの?」
『いえ…社長に会いたいと仰る女性がいたので私がうかがったのですが、本当の社長を連れてきてと言われまして』
その言葉を言えるだけで相当な奴だな…そんな感想を抱いた俺は、「で、そっちへ行くの?」と訊ねる。
『今そちらに迎えに行きますので。三十分ほど』
「了解。待ってるよ、李里香さん」
そう言って電話を切った俺は、また面倒なことになるんじゃないだろうなと思いながらもスーツを着るために自分の生活スペースへ戻った。
三十分後。
書類を入れたカバンを持って正装して玄関先で待っていると、李里香さんの車が目の前で止まった。
自分で乗り込んでから車が発車したので、そこから俺は状況を聞いてみた。
「一体どんな奴よ、会社に乗り込んで俺に会うと言った人って」
「そうですね……よく『フランス人形みたいだ』という表現がありますが、その表現が合っている人です。流暢な日本語でしたけど」
「ふ~ん」
「それは……その」
「?」
「今日は女性社員だけ会社へ来ていたもので……」
何とも歯切れの悪い答えだな。何か隠してるのか?
一瞬そう考え、たぶん当たりなのだろうと思ったが、別に詮索する必要ないかと思い「ま、別にいいよ。社員同士でのコミュニケーションは大事だし」と言っておく。
「ですよね」
「そうそう。男子会のゲームに関する盛り上がりは楽しかったけどなー。今ほとんどの奴結婚しちまったし」
「それでも偶に『どうやってあの社長をゲームで負けさせるか』を相談してますけどね」
「やっぱり嫌われてるなー。大人げなく圧勝続けてたからだろうけど」
「それもあるでしょうけど、社長は嫌われていませんよ。むしろ慕われてます」
李里香さんにそう言われ、言われてみればそうかもなと思い直した俺は、「そういえば連休とった奴いなかった?」と訊ねる。
「いましたね。確か…桜井と新妻部長だった気がします」
「あぁ。結婚したけど名字そのままなのにラブラブペアか」
「旅行へ行くと言って今日から確か休みだったはずです」
「旅行か……そういや社員旅行は?」
「行きますよちゃんと」
「いってらー」
「……たまには社長も来ればいいじゃないですか」
「学生だからいいよ俺は。景品だけは用意しておくから」
と、そんな会話をしていたらどうやら着いたようだ。
意外と早かったなぁと前回との違いを思い返しながら車を降りた俺は、誰が待っているのか知らないけどいつも通りに会社の中へ入った。
「ちーっす。元気?」
「元気ですよ。お客様はそちらのソファで待っていただいています」
そう言って入口にあるテレビの近くに置いたソファに座っている後姿を指さす。
確かにいるなと思った俺は、「ま、今日はこれでお客さん終わりだから続きしてていいよ」と受付の人に言ってソファに向かった。
「俺に用があるのってお宅? ちゃんとアポとってくれ」
近づきながらそう言うと、向こうが俺の言葉に反応して立ち上がって振り返ってきた。
段々近づいて顔がはっきりとする。
確かにフランス人形っぽい。ふんわりとした金髪。サファイアみたく青い瞳。とても白い肌。
その上ゴシックロリータファッションなものだから、人形が等身大になったのかと錯覚してしまう。
ある程度ソファに近づくと、その女性は頭を下げてから自己紹介した。
「申し訳ございません。ですが、こちらにとっては至急でしたので。ああ、自己紹介をさせていただきます。私の名前はアデール。アデール=アミエです」
「ご丁寧にどうも。俺の名前は知ってるからいいよな」
「えぇ構いません。豊橋流様」
俺の名前を彼女――アデールが呼んだ時、ほんの一瞬観察するような視線を受けた気がした。
その意図に関してすぐさまある程度の考察が出来た俺だったが、証拠がないために直球で訊ねようか悩みながら反対側のソファに座る。
アデールが座ったのを見た俺は、話を切り出した。
「至急、ね……。生憎だけど、金は貸さない主義なんだよ。その上俺はあんたの事を何一つ知らない」
「そうですね。では私の時間もないので単刀直入に言いましょう」
そう言って彼女は溜めてから、『要件』を口にした。
「今すぐ学校を退学なされて私達と一緒に活動しませんか?」
それを聞いた俺は目を瞑って考える――ふりをして、決まっていた言葉を言った。
「却下」