「……理由をお聞かせ願えても?」
あくまで丁寧な口調を崩さないアデール。それを聞きながらその声に含まれている苛立ちを読み取った俺は、それを煽る様に言った。
「逆に聞くけど、それだけではいそうですかなんて言えますかお宅? そんな怪しさ満点の勧誘言葉に」
「……それは」
「あなたひょっとして自分の組織に誰もが入りたいとか思っている性質ですか? はっはっはー……馬鹿ですね。その上あなたにスカウトの才能は無い様で残念です」
心底残念そうな表情と行動をとった俺は、足を組んで俯くアデールに追い打ちをかける。
徹底的に。もうそんな行動をとらせない様に。そんなものは自分の身の安全のためには必要なものである。
「あなたが所属している組織なんてどうせロクでもないものでしょ? なぜならこうして休日にアポなしで突然会社に押しかけてきているのだから。たまたまここに社員がいたからよかったものの、いなかったら赤っ恥ですよ? 時間がないとか言ってますが、それだったらちゃんと時間を調整してくれば良かったじゃないですか何をやっているんですかそれでも社会人ですか?」
「……」
お、ようやく人形然の顔立ちに悔しさの表情が浮かんだ。どうやら相当堪えたらしい。
どこまでやれば完全に折れるかねと思いながら、そう言えばこいつどこかで見たことあるなと思い……そして思い出した。
「そう言えばアデールさん」
「……なんですか?」
「あなたに妹とかいません? 声に抑揚がなくて身長が低い」
「…………」
「あなたに顔立ちが似ているんですよねー。表情はともかく」
「……どこでそれを?」
かかった。そう思った俺は、「やっぱりいたんですね」と呟いてから彼女達の正体を突き付けた。
「
言われた瞬間。彼女は顔を上げて驚きの表情を浮かべていた。
図星ここに極まりって感じだなと思いながら立ち上がった俺は、茫然として座ったままの彼女に対し「お疲れさん。もう国へ帰りな」と言って受付の方へ歩き、電話を掛けた。
「どんな用件だったんですか?」
「副業やらない? って誘い。確定申告とかちゃんとしないといけないから面倒くさくてやってないって断った」
「学生兼社長をやってるのに今更ですね」
「ちゃんと李里香さんが回してきた書類は終わらせてこうして持ってきたじゃないか」
今は李里香さんが運転する車の中。
送ってもらうのは楽だけど暇だなと思いながら欠伸をすると、彼女は戻ってきた時の光景について質問してきた。
「お客さん固まったままでしたが……良かったので?」
「ああ大丈夫。ヤバいところは迎撃プログラムとかいろいろあるし、当分立ち直れないんじゃないかな。背中が憐れとしか言いようがなかったけど」
「社長を出し抜くのは実質不可能ですからね」
「俺だってミス位あるっての」
そう言って自分の中のミスだと思えるものを探していると、すぐに何個か見つかった。
それでもまぁ挽回できる範囲だったなと思い出していると、「あの人、社長と同い年じゃありません?」と訊いてきた。
「そうなの?」
「えぇ。大人っぽく見せてるようでしたが、年若いのは見ればわかりました」
「そんなこと言われてもな……ぶっちゃけ、あいつが交渉ごとに慣れてないということぐらいしか分からなかったし、その上妹がいて帰国直前にここにたどり着いたって感じだということぐらいしかわからん」
話せばわかった程度の話を口にすると、李里香さんは「社長の頭の回転は一体どうなっているんですか…」と呆れたように言ってきた。
「ま、そんなことより。新作ゲーム発売したわけだけど、どうよ? 売上」
「わが社――ブリッジゲームズの新作な上予約限定版も豪華になりましたからね。そっちはもう完全に受注分全部売れました。通常版も日に日に本数を伸ばしてるとのことです」
「今回は野球にRPG合わせてみたからなー。反応としては微妙だと思ったけど……掲示板見る限りそこそこは満足頂いてるのかな?」
「おそらくは。今までの七作品全部の追加コンテンツも随時配信しておりますし、このままいけば株価もさらに上昇するかと」
「給料どうすっかねー。上げてもいいけど、不満はないだろ?」
「ですね。残業代も正当に払っていますし、手当も問題在りません。別に上げなくてもいいでしょう」
「そういやあそこから少し離れたところの支店最近行ってないけど、どう? みんな元気?」
「ええ。私が見に行ったところ皆さん元気でした。支店主任の春日部さんは若干やつれながらもその怒声は健在でした」
「……差し入れなんか持って行って? お金は俺に請求していいから」
「かしこまりました。そういえば……」
そんな風に会話を続けて李里香さんの悩みを若干解決させたところで家に着いたので、俺は「ありがとう」と言ってから車を降りて笑顔で見送った。
その後息を吐いた俺はやれやれと思いながら、鞄会社に置いてきたなと思いつつも、アパートの中に消えた。
その翌日の事。
「昨日はよくもやってくれたな明久」
「はははっ。な、なんのことかな…。僕ゲームやってたのに」
「しらばっくれるのか。まぁいい。お前に渡したいものが在るんだ」
「へぇ……って、映画のチケット? しかも二枚?」
「それで誰か気になる奴と一緒に行って来い!」
「え、普通に売……って美波に姫路さん!? どうして僕の腕をつかむの!?」
そんな会話が聞こえながらも俺もそろそろ弁当作ろうかな…と考えていたところ、雄二が「ったく。酷い目に遭った」と言いながら自分の席に座ったのでたまらず俺は訊いた。
「なにしたん?」
「昨日明久のせいで滅茶苦茶な体験をさせられた」
「素直になりゃいいのに」
「そう言うお前は素直なのかよ?」
「そりゃね。嫌いなら嫌いってはっきり言うし」
「……そういやそうだったな」
はぁっとため息をつく雄二。その横で正座している霧島をちらっと見た俺は、嫌な予感がしてすぐさま窓から飛び降りた。
『…ん? どうして流飛び降りたんだ?』
『……知らない。ところで、滅茶苦茶な体験って、どういう意味?』
『まぁ待て翔子落ち着け。お前何時からそこにいたのかは聞かないから一つだけ言わせてもらおう……その手に持っている手錠は一体なんだ!?』
『…これは雄二調きょ……ただの手錠』
『調教用と言いかけて手錠といってもアウトだ! それは拘束するために使われるものだからな!!』
『…雄二を、拘束(ポッ)』
『やられて堪るかぁぁぁぁ!!』
俺が木の上で観察していると雄二がそう言って飛び降りたと同時。
なんと霧島が投げた手錠が雄二の両足に嵌った!
両足が使えない雄二は見事に顔面からダイブした。
それを木の上で見ていた俺は、飛び降りて雄二の足についている手錠を外して揺さぶる。
「大丈夫か?」
「ッテテテテテ……あの野郎」
やろうって確か男を指す言葉であって女子を指す言葉ではないんだけどな。そんなことを思っているとチャイムが鳴ったので、「とりあえず教室戻ろうぜ」と鼻から血が出ている雄二に言った。
そしたら廊下に立たされた(明久も問答無用の上、バケツを持たされていた)。畜生西村先生のバカ!