プール掃除当日。
水着などを入れたバックを持って門の前にたどり着くと、すでに姫路さんと康太と秀吉と明久がいた。
「ういーっす」
「あ、流。僕達よりゆっくりだなんて珍しいね」
「俺基本的に15分前ぐらいに着くようにしてるから」
「それでも早い方なのじゃ」
「ですね。流君はマメですね」
「まぁ性格のせいでもあるかもしれんけど……雄二と霧島は?」
「二人で鍵を取りに行ってます」
ふーん。大方雄二一人で行かせられないとか言う理由なんだろうな。それか、もう夫婦の認識をしているか。
若干早いんだよなー。やっぱり教えないとダメかなーなんて思っていると、「奇遇ですねお兄様!」との声が聞こえた。
後ろを振り返りたくない俺は明久に聞いた。
「なぁ明久。気のせいだよな。お前呼んでないよな」
「え、うんよばぶれされあしね」
「明久よしっかりせい」
「もうお兄様。留美は吉井さんに話を聞いたわけじゃありませんよ」
おかしくなった明久を秀吉が戻していると幻聴ではなかった留美の声がさらに近くで聞こえたので観念して振り返ると、由美と薫もいた。見ると全員水着でも着るのかバックを持ってきていた。
まぁ明久に聞くことは絶対にないか。そう思った俺は彼女達の後ろから元気よくこちらに来て明久の鳩尾に体当たり! を目撃してスルーした。
「バカなお兄ちゃん二週間ぶりです!」
「う、うん……そうだね…」
まぁこれで全員(呼んでない奴含め)来たな。
さっさと戻ってこないかな雄二達…と思っていると、「なんか人増えたようだが……まぁ良いか。さっさと行こうぜ」と雄二の声がしたので俺達も移動することにした。
「じゃ、プールサイドで」
「はい」
そう言って俺達はそれぞれの更衣室に……って。
「こらこら葉月ちゃんだっけ? こっちは男子更衣室だから女の子はダメだって」
「そうだよ。秀吉に薫…君もこっちじゃないでしょ」
「わしはこっちであっとるぞ明久よ」
「そうですよ。僕も男ですからね」
「そうだ何言ってやがる明久。お前男に欲情するのかよ」
「やだなぁするわけないじゃないか」
「ならいいな」
「ほら葉月こっちよ」
「はーいです」
何故か秀吉や薫まで女子更衣室に行かされるところだったので阻止して更衣室に入った。
のだが。
「どれ、脱ぐかの」
「そうだね」
ブシャァァァァ!!×2
「おいどうした明久、康太!」
「やれやれ。この馬鹿どもが……」
「え、どうしたの二人とも」
「そうじゃ。一体どうしたんじゃこの二人は」
…………あ~あ。
まったく面倒なことしやがってこいつらは……。
こめかみを抑えながらそう思った俺は、ため息をついてから言った。
「悪い秀吉に薫。大変心苦しいんだが、別な場所で着替えてくれ。すまん」
そう言って俺は二人に頭を下げる。
すると二人は渋々ながらも「「まぁ流が言うのなら」」と言って着替えを持って出て行ってくれた。
残された俺達四人(実質的に俺と雄二のみ)は、鼻血を出して倒れている二人を更衣室前へ捨てて着替え、プールサイドに出てから掃除道具を持ち出して黙って掃除することにした。
効率よく掃除すること十分。
先程よりきれいになった更衣室に満足した俺はプールサイドに出た。
「あー疲れた」
「まったくだ。あいつら余計な仕事を増やしがって」
綺麗にした更衣室に明久と康太を入れて今頃着替えてるんだろうなと思いながら準備体操を雄二と二人でしていると。
「あれ? バカなお兄ちゃんはまだですか?」
大きな胸をした葉月ちゃんがプールサイドに現れた。
……。
「こらこら葉月ちゃん。その胸につけている物を返してからこっち来なさい」
「あうぅ。分かりましたです」
そう言って葉月ちゃんはすぐさま戻った。
「お前は大人だな」
「いやーあれで欲情するのは高校生としてどうかと思うぜ?」
「そりゃそうだろうけどよ」
葉月ちゃんと入れ違う様に明久と康太(カメラと何やらクーラーボックスを下げて)が来た。
「あれ? 誰か来てなかった?」
「葉月ちゃん来たけど戻った」
「あ、そうなんだ」
「ところで康太よ。お前のそのクーラーボックスの中身はなんだ?」
「……輸血パック」
どうやって入手したのかは聞かない方がいい気がしてきたし、そこまで出血することが確定しているなら連れてこない方がよかったんじゃないかと思えてきた。
まぁそん時はそん時だよな……と諦観にも似た思いを抱いていると、葉月ちゃんと島田さんが来た。ただしパッドなし。
「ちゃんと準備運動やっとけよお前ら」
「あ、そうだね」
「バカなお兄ちゃん、一緒にやりましょう!」
「ぐふっ……あ、うん」
そうやって葉月ちゃんと明久が一緒に準備運動をやろうとしたところ、急に島田さんが大げさに咳き込んだ。
「あーごほんごほん。その……アキ?」
「どうしたのさ美波。身体の調子がおかしいの?」
「そうじゃなくて……その、どう?」
「どうって?」
分かってないのか素で首を傾げる明久。それを見た島田さんは一瞬拳を強く握ったがほどき、「似合うのって聞いてるのよ!」とついに叫んだ。
「え、うん。胸の小さい美波にはとっても似合って右足の骨が折れるほどにイタイィィィィィ!!」
「ふん!」
殴られるよりましだと思うのは俺も侵されつつあるからだろうか。
ちょっとヤバいかなと内心で思っていると、雄二が「島田安心しろ。明久はその姿に見惚れていた」と言った。
それを聞いた島田さんは「そ、そう……? なら素直に言いなさいよ」と頬を赤くしながら言った。
これは正しく伝わってなさそうだなーと思いながら不意に女子更衣室の方を向けると霧島がその理想的なプロポーションと長い髪をなびかせながら雄二に近づき――
「私以外の女を見ないで(ブスッ)」
「ぎゃぁぁぁ! 目が、目がぁぁぁぁ!!」
――流れる様に目つぶしを行った。
「っておい霧島! ナチュラルに目を潰すなよ!! お前の旦那がお前の姿を見れないんだぞ!?」
「誰が旦那だ流!!」
「……それはうっかり」
「うっかりじゃねぇ! 明らかに衝動的じゃねぇか!」
目を抑えながらもツッコミを入れてくる雄二。
だけどそいつは無視され、明久や美波、葉月ちゃんの視線は霧島へと向けられる。
仕方がないので俺は雄二の方を行き、「目薬あるけど使う?」とパーカーのポケットに入れていた目薬を取り出す。
「ああ。ありがたく使わせてもらう」
それが終わったので今どうなってるのかなと思ったら、姫路さんの登場で場が一気に地獄と化した。
その最大の理由はなんと言っても胸だろう。明久なんかはおそらく自分の目を自分で刺して直視を避けているが、見てしまった康太は死にかけ、美波に至ってはドイツ語で神に怒りを訴えていた。
霧島は追撃しそうだったので必死に説得して止めていると、姫路さんがこちらに来て「皆さんどうしたんですか?」と訊いてくる。
天然でこれは確実に萌え死する奴らいるだろうなと霧島が落ち着いたのを確認した俺は、雄二と一緒に姫路さんから離れてもらい、咳払いをしてから答えた。
「自分達にとっての凶器を目の当たりにしたんだよ」
「凶器、ですか?」
「ああ。ま、些細なことだと思えばいいさ」
「そうですか……分かりました」
とりあえずささっと追い払う。その間明久は覚悟を決めたようだが、すぐさま来た姫路さんを直視して鼻血が緩みきった蛇口のごとき勢いで流れ出た。
…体も正直だな。
口には出さずにそう思いながら見ていると、明久が上を見たまま出血しているのを見て姫路さんがあわてていた。
ここまで来れば笑えるもんだなと思いながら見ていると、「お兄様! 留美もあれから成長……」とだんだん元気をなくしながら留美が来た。
ま、そりゃ当然だろうな。
そう思ったが、俺は口に出さず掃除が大変だと後々の事を思いため息をついた。
それではまたお会いしましょう。