「ん?」
李里香さんが置いていく書類が入った封筒以外にポストの中に入ってることに気付いた俺は、封筒を先に取ってからポストの中を覗く。
「ハガキ? 一体誰がこんなの……」
入れたんだよと一人ごちに言おうとしたところで、そのハガキの差出人を見た俺はピシリと固まった。
なぜなら、差出人が無名だったからだ。
「……」
今日は土曜だが学校へは行かなければならなかったために誰もいない。
顔認識や監視カメラがある為その映像を調べれば一発で判明する。
李里香さん以外に教えていない家の場所を特定した
まぁ調べればわかるし、このハガキの内容も気になるな。
そう思った俺はハガキを裏返し――絶句した。
「……なんだこいつ」
そこに書かれていたのは、『至急連絡されたし』という文章と、電話番号だけだった。
とりあえずハガキと書類をプライベート部屋に置いてきた俺は、その隣にあるセキュリティ管理部屋となっている部屋に入って電気をつける。
「妖しさ満点の番号に電話するより特定だな」
はっきり言って人物によっては電話する必要性すら感じない気がしている俺は、テレビを点けてノートパソコンを起動し、ケーブルでつないでテレビの画面がパソコンのデスクトップになっていることを確認する。
そこからちゃちゃっとソフトを起動して、俺が学校へ向かってから帰ってくるまでの間の玄関――ポスト近くを重点的に――の映像を再生する。
犯人の姿はすぐに分かった。
「ゴスロリで女……ねぇ」
李里香さんが来る数分前に侵入し、ポストの中へ入れたようだ。
そこまでの行動力があるなら名前ぐらい書いとけよと思いながらもこれぐらいかと適当に流しかけたところで、思わずその部分で映像を止めてしまった。
そこに映っていたのは居るはずのない人間。俺の所在を知っていてはおかしいはずの人間。
その人間はポスト付近まで入ってきたが特に何をするわけでもなく周囲を見渡して頷き、そのまま背を向けて出て行った。それが、俺が帰ってくる十分ぐらい前の事。
あまりのすれ違いに安堵しそうになったが、逆に恐怖心が募った。
なんでだ。なんであいつがこの場所を知っている。この際あの女たちの方はどうでもいい。そんな些細なことより、こっちの方が何倍も重要だ。
不動産屋の口の堅さは信用しているから漏れている気はしない。万が一漏らしたという報告が上がった場合の条件を知っているのだから。
李里香さんも除外。あの人は遭遇することはないから。
他には誰も入れてないから絶対にばれることはない……はずだったのに。
漏洩の線が薄い気がした俺は、一つしか思い当たる可能性がなかったことに気付き、たまらず床に拳を叩きつけて叫んだ。
「なんでまだ監視されなきゃいけないんだよクソが!!」
その人物の名は――鈴鹿東角。
どのくらいそのままでいただろうか。ただ気が付けばノートパソコンの画面は真っ黒になっており、それと同じようにテレビも暗くなっていた。
俺はそのままパソコンの電源を切ってからテレビの電源を切り、床に叩きつけた手を握ったり開いたりして調子を確かめる。
……異常はないか。多少血が流れているけど。
包帯巻いてほっとくか。そう思った俺は立ち上がって伸びをし、部屋の電気を切って出た。
「あー畜生」
もはやハガキなんてどうでもよくなってきた俺は苛立つ心を抑えず、このアパートに俺以外誰もいないことをいいことに悪口を吐きながら李里香さんが置いて行った書類を一枚一枚確認していく。
「これで何度目だあの野郎。どんだけ追い出した人間の事を監視したいんだよバカじゃねぇの? 自分でやった癖に心配するとかどんだけなの? こっちにとっては迷惑以外の何物でもないから関わるな来るな無視してろよって言いたくなるんだから」
一瞬ストレス発散に何か殴れるものないかなと探したくなったので頭を振って書類に目を通し、必要とあらば判子を押したりする。
何時かはばれると思ってたけどこれは早すぎて笑えない。笑うどころか憎悪が噴き出てきた。
思わず持っていた判子を折りそうになったので判子をテーブルに置いて伸びをし、何も食べていないで作業をしていたのを思い出した。
現在時刻午後七時。完全に夕飯の時間である。
弁当箱も洗ってなかったなと思い出した俺はカバンから弁当箱を取り出してキッチンの流し台に放置して冷蔵庫を確認する。
「うわー相変わらずほとんど入ってねぇ」
我が冷蔵庫ながら入っているのはソースや卵、ハムやケチャップといった類のみ。野菜なんかはなく、冷凍庫の方も見てみたが氷以外入っていなかった。
外食する気なんて起きないし、今夜はどうすっかな…と頭を悩ましていると、携帯電話が鳴った。
夕食の件を一旦放置することにした俺は、相手が李里香さんだということを確認して電話に出た。
「もしもし」
『社長。今お暇ですか?』
「あー……まぁ」
さっきまで書類の確認をしていたことを伏せてそう答えると、『夕食は食べましたか?』と質問が。
「今から食べようと思っていたところだけどそれが?」
『そうですか。でしたらご一緒にどうですか? ちょうど割引券が二枚ありますので』
この瞬間。俺の頭の中では自炊するために食材を明日の分まで買いに行くのと、夕飯を李里香さんと一緒に食べて帰る時にコンビニで朝食を買い、明日は明日で買い物をするという選択肢が攻防を開始。
脳内時間にしてわずか四秒で決着がついた俺は、「その店って格式高かったりする?」と訊いてみる。
『別に高くはありません。隠れ家的なお店みたいですが』
「まぁいいや。お願いするよ」
『実はもう家の前にいます』
どこぞの都市伝説かよ…と思いながらため息をついた俺は財布と携帯電話を持って部屋を出て鍵を閉め、高校の制服のままだということに気付き急いで戻って着替えてからアパートの玄関の方へ行ったら、本当に李里香さんが待っていた。
「いつから待ってたの?」
「ほんの五分ほど前です」
怪しい人に思われなかったのか…? と考えたがそこら辺は大丈夫だろうと思った俺は「それじゃ、お願いします」と言った。
ちなみに。
「お、流。ここ来るの初めてだろ」
「そういうあんたはここで飲んでいいのかよ――警視総監」
「いいんだよ。ちゃんとやることは終わらせた」
李里香さんに連れてこられた隠れ家的なお寿司屋さんに入ってみたところ清涼祭二日目に来たサングラスをかけていた男――警視総監と再会した。
思わぬ再会があったなと思いながら李里香さんを口説こうとして失敗したのを笑ってやった。
そういや明久たちバイトするんだったなという話を思い出したのはその時だった。