馬鹿と気が合うお調子者   作:末吉

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お久し振りでございます。


出発(別行動)

 そんでもって合宿初日。

 

 俺はあらかじめ雄二やババア、西村先生にメールを送っておいたので、現在日程が重なった社員旅行に社長として参加することになった。

 旅行地が若干遠いのでぶっちゃけ夜に着くには夕方辺りに電車に乗らないといけないのだが、久し振りに俺が来たのがそんなに嬉しいのか、借りたバスの中で俺はひっきりなしだった。

 

「社長! 今度またゲーム大会やりましょうよ!! 絶対負けさせますから!」

「言ったな? だったら今この場でやろうか? ゲーム機はあるんだから」

「ちょっ、社長が持ってるゲームで勝てるわけないじゃないですか!!」

 

「社長~。今日行く遊園地一緒に回りませんかー?」

「楽しんできな」

 

 などなど。

 

 まぁそんな感じで移動中バスに乗っていた奴と喋って(六台編成のうちの一台)疲れた俺は、自分の席に座って欠伸をする。

 

 夜更かしをしたわけではなく単純な疲れ。後二時間は移動するとなるとさすがに気が滅入る。

 

 今頃あいつら移動中かなと思いながら、何かよからぬことが起きそうだという考えが頭をよぎった。

 

 

 

「着きましたよー社長」

「別に俺最後でもいいって」

「こういうのはやっぱり偉い人が最初ですよ」

 

 そんな風に言うので、仕方なく俺はバスから最初に降りた。

 来た場所は遊園地。移動して最初の目的地がここ。

 

 ここで二時間遊んでからさらに移動して牧場で体験してからホテルというのが初日の日程らしい。

 ホテルへ移動する際に俺は消えるのでその後の日程は関われないが、まぁゲーム大会での景品は李里香さんに教えておいたからそこら辺で問題が起こることはないだろう。

 問題が起こるとしたらそうだな……ホテルへ移動する前に俺が一人消えるという点だろうか。さすがに引き止めるなんてことないだろうが、そうなった場合の対策も考えないといけないのだろうか。

 

 面倒だなと思いながら降りてくるのを待っていると、二号車に乗っていた李里香さんがこちらに来た。

 

「色々考えているようですね」

「まぁ。両立っていうのは面倒だなと思いながらね」

「社長が選んだ道ですから」

「そうなんだけどね」

 

 続々と集まる社員たち。これはツアーじゃないのでガイドはいないのだが、俺達が立っている場所に自然と集合してくる。

 まぁいいことだよな。そう考えた俺はそろったようなので「はいそれじゃ、二時間後に集合!」と叫んで手を鳴らした。

 

 

 

「さてどうすっかね……」

 

 ひとまず入園してみたのはいいが、俺は特に遊びたいアトラクションの目星をつけていないので手持無沙汰になってしまった。

 入口の方でどうすっかなとパンフレットと睨めっこしていると、「すいませーん」と誰かを呼ぶ声が聞こえたが無視。

 

「すいませーん!」

 

 つってもここ、家を出る前に遊びつくしたと言っても過言でもないからな。真新しいものもなさそうだし、ゲームコーナーで時間でも潰そうかな。

 

「すいませーん、って言ってるじゃないですか! 聞こえてませんか!?」

「ん?」

 

 何やらうるさいので顔を上げる。そこにいたのは、サングラスをかけた女の人。

 この人どこかで見たことあるな……と思いながら黙って周囲を見渡すと、「あなたです! あ・な・た!!」と指差してきた。

 

「なんですか一体?」

 

 声をかけられた理由が分からないので首を傾げる。

 が、相手はカメラを俺に見せてこう言った。

 

「一枚撮っていただけませんか?」

 

 俺はカメラを触って怪しいものがないか探し、問題なかったのでハンカチで指紋を徹底的に拭いてそのまま彼女の方へレンズを向ける。

 

「撮りますよ!」

「え、ちょっと早くないですか!?」

「はいチーズ!」

 

 彼女の抗議をスルーして写真を撮った俺は、写真の画像を見ずに指紋をふき取って彼女に渡す。

 

 が、彼女は受け取らなかった。

 

「不意打ちはひどいです。もう一回お願いします!」

「一枚という話でしたので引き受けましたけど」

「いいじゃないですか! もう一枚お願いします!!」

「……ハァ」

 

 面倒になったのでため息交じりに距離を取り、ハンカチを使ってカメラを持ちながら「それじゃ撮りますので」と彼女に向ける。

 言われた彼女は慣れた動作で自分が撮られたいポーズをしたので、そういやこの人CM撮影の時にいたなと思い出しながら写真を撮る。

 

 パシャという音が聞こえたのかポーズをやめて彼女は近づいてきたので「どうぞ」と返す。

 

「ありがとうございます! 一生大切にしますね!!」

「は?」

「あ、いえ! なんでもありません!! では!」

 

 おかしな言葉が聞こえたので思わず聞き返したところ誤魔化して逃げた。

 なんだったんだ一体…と思いながら彼女の正確な経歴を思い出した俺は、思わず地面を叩きそうになった。

 

 なんだってこんなところにいるんだよ財閥の嫁がぁぁ!!

 

 

 

 

 

「……どうしたんですか、社長?」

 

 自由行動が終わり移動中。頭を抱えている俺に社員の一人が声をかけてきた。

 別に言っても言わなくても変わりはしないので顔を上げて黙っていようかと思ったが、この際巻き添えになってもらおうと思い答えた。

 

「どこ巡ろうか考えていたら菊谷財閥の嫁さんと遭遇した」

「へー……え?」

「写真撮ってと言われたから指紋を残さずに撮影したが……うちの会社のゲーム宣伝のCM作成時にいたよな。あの人、タレントの方が有名だから」

「え、あれ? マジですか?」

「おおマジ。気付いた時にはあっちが消えた後だからやるせない怒りに頭を抱えていた」

「えっと……ドンマイ?」

 

 そう言われたがさすがにその言葉で解消されるほど俺の闇は浅くないので深いため息をついた。

 

「どうすんだよマジで……よりによって滅茶苦茶厄介な財閥じゃんかよ」

「そうなんですか?」

「どうやって潰そうかな……」

「いや社長正気ですか!? 財閥にケンカ売るって!!」

「ん? いやいや。喧嘩は売らないよ。売ってきたと判断したら報復するだけ」

「……一番ケンカ売っちゃいけないタイプですね、社長」

 

 何やら隣の奴が意気消沈したようだ。その代りに俺の気持ちは上向きになったので、「ありがとう」と肩を叩く。

 

「元気になって良かったです社長…」

「いやーあそこのゲーム機のスコア全部塗り替えてもまだ苛立ってたからなー熊原さんのおかげだ。お礼にこれあげる」

「……あの、社長これって……」

 

 何やら恐る恐るだったので、俺は首を傾げてから言った。

 

「別に問題ないよ。こういうのって申告する必要ないだろ?」

「いやそうですけど……この時計、結構高いですよね?」

「別に俺は安物でもいいし、たまにしか着けてない。その上メンテナンスは俺の知り合いだから万全。それに、もう一つ持ってるし別なの」

「……いいんですか?」

「あげるあげる。愚痴聞いてくれたお礼」

 

 そう言うと熊原さんは「ありがとうございます!」と頭を下げてきたので「こっちこそ」と言って目を閉じた。

 

 ……本当、どうすっかな―。

 

 

 

 

 

 で、牧場体験の方だけど……まぁそっちは何事もなくてよかったよ本当! マジで警戒心引き上げて行動したからな俺!!

 搾乳とかいろいろやって一部の奴らが『次のゲームに使えるかも…』なんて言ってるからどうしようもねぇなとか思える位何もなかった。

 

 だったらもう大丈夫だな。そう思った俺は一人でバスに移動して荷物を取り、そのままタクシーを拾って合宿所へ向かった。

 

 

 

 

 ……面倒な事態が引き起こっていることも知らずに。




では
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