二日目。
Aクラスと合同での自習ということなのだが、俺は一人別なことをしていた。
「あらお兄様。おはようございます。何をなさっているのですか?」
「んー? 見ての通りの事をしている」
「…留美には電卓を縦横無尽に操りながら何かを記入しているようにしか見えないのですが」
「ああその通り」
暇だからって教頭のところへ行ったら書類を回されたので現在やっている。
別にみられて困ることはないというか見られても分からないと知っているのでここでやっている。
……まぁ、雄二達が変な気を起こさないよう見張るというのもあるが。
あと十二秒で終わるなと思いながら書き連ねていると、「……流石」と年若い声が。
顔を上げずに「勉強どうした勉強」と言うと、「…つまらない」と日本語で返ってきた。
そうこうしている内に終わったのでパパッと書類をまとめてから立ち上がり、「なら広東語でも勉強してな」と言って監視している先生のところへ行き「これ持っててもらっていいですか?」と渡してから先程の場所へ戻る。
すると、留美とセリーヌが睨み合っており、その場にアデールと由美が立っていた。
何この修羅場と思いながら荷物を黙って片付けつつ気配を消して雄二達の方へ近寄り、声をかけた。
「うっす。どう? 勉強」
「まぁまぁだな」
隣に霧島がいるせいか、それとも声をかけられたからか知らないが憮然とした態度で返してくる雄二。
まぁ俺にとってはどうでもいいのでちらっとページを見てから指摘した。
「そのページの答え全部違うぞ」
「なっ、マジかよ」
「…だから私が教える」
「お前はお前の勉強しろ。俺は俺の勉強をするから」
そこまで意固地にならんでもいのにねぇなんて思いながらも隣の明久を見ると、なにやらやつれていた。
「飯食ったのにどうしたんだよ?」
「……どうして一緒なのか分からないし、反省文で眠い……」
「一緒にやる理由は、
「へぇ……そうなんだ…」
眠そうな明久に対し、俺は少し考えてから耳元でつぶやいた。
「優しく教えてもらうのと厳しく教えてもらうの、どっちがいい?」
「え? それはもちろん優しく教えてもらう方だけど……」
「オッケー。なら姫路さーん」
「どうかしたんですか、豊橋君?」
とてとてとてと言う音がしそうな感じで来た姫路さん。
そういや昨日の騒動で処罰したのかなと思いながら「明久が勉強教えてほしいってさ」と耳打ちする。
それを聞いて驚いた姫路さんは小さな声で「本当ですか?」と訊いてきたのでウインクして頷く。
訳が分からない感じの明久を放置した状態で進んだこれは、姫路さんがやる気を出して「明久君。私が勉強教えてあげますね?」と笑顔で言ったことにより決着がついた。
「……お前って本当に感情操るの上手いな」
「いや全然。正直その場しのぎの方が多いかな」
見れば明久は姫路さんの話を熱心に聴きながら問題を解いている。
正直Fクラスに染まってきている彼女がいつ物理攻撃に走るのか心配ではあるが、其の前にFクラス男子同胞の殺意及び島田さんの嫉妬心がぬぐえていない。
切り捨てたいが面倒だなと考えた俺は次に島田さんを呼ぶ。
「島田さーん。ついでだから明久の隣で姫路さんに教わったらどうよ?」
それを聞いた島田さんは一瞬驚いた顔をしてから立ち上がり、「ま、まぁそうするわ」と言ってこちらに来て明久の隣に黙って座った。
「お前……」
「勉強するなら別にいいだろうに。それよりお前はお前の勉強しろ」
「……ああ。そうするよ」
明久に対する殺意が具現化されるんじゃないかと思われるほど濃密になっているのを感じ取った俺は、Fクラスの奴らが固まっている場所へ歩いてから手を鳴らして視線を集める。
殺気がこちらに向いているのが丸わかりだが、この程度で怯える環境にいたわけではない。
この手の奴らの殺意の散らし方位心得ている俺は、咳払いしてから言った。
「さぁ諸君。君達はモテない。それは何故か知ってるか?」
『お前みたいなのがいるからだよ!!』
「ま、それもあるが……一番の理由は勉強ができていないからだ!!」
『な、なんだってー!?』
随分ノリがいいのか、それともマジなのか知らないが、まぁいいか。
そう思った俺はそのまま続けた。
「いいか? 世の中でモテる奴の大体はルックスだ。それは認めよう。だが! それでも勉強ができる奴がモテる! 勉強ができてルックスもいい! それが女性の視線の一部だ!」
まぁ実際は多種多様な好みがあるので一概には言えないのだが。
別にいいかと思いながらも興味津々な顔つきで訊いてる奴らに俺は言う。
「今ここで勉強して隣のAクラスに勝てる位になったらお前達はモテる(かもしれない)!!」
『!!?』
「やるなら今だ! トップに胡坐をかいてる奴らに目にモノ見せてやれ!!」
『オッシャァァァ!!』
そう言った瞬間殺気は消え、奴らは一斉に勉強を始めた。
集中できる時間が正直どのくらいか分からないので不安だが、まぁもうすぐ終わるので持つだろう。
いやーやり切ったと思った俺が伸びをしていると、何故かこちらに視線を向けてくるAクラスの連中+α。
特に雄二の視線とセリーヌの視線が強い気がするが、悪い事をやった気がしないので親指を突き出して笑顔で返した。
で。
「暇だな……」
「勉強したらどうじゃ?」
かなり暇なので机に落書きしながら秀吉に勉強を教えている。
「ミレニアム問題考えるのが苦痛だからいい」
「なんなのじゃそれは?」
「懸賞金が掛けられている問題で、解いたら一躍有名人。解けてないから未だに懸賞金かかったままだけど」
「何やらすごそうじゃの……」
「すごそうじゃなくて、すごい問題ばっかり。解けたら多分、価値観ひっくり返るし世の中の常識変わるだろうな……あ、そこ違うぞ」
「む。そうなのか。すまぬの」
「そこはその前の式を代入して……」
「ほうほう……おお! こういうことか!! さすがは流じゃな!!」
「これぐらいお前の姉だって解ける」
そう言いながらも机に落書きを続けるのを忘れない。
書いているのは人の顔。しかもアインシュタインの。
鉛筆一本だけど何とかなるもんだと思いながらも書いていると、「流様。ここの問題を教えていただけませんか?」という声が。
「あーちょっと待って……と。ああそれね。ひっかけが存在するから注意すれば解けるよ」
「具体的に教えてくれませんか?」
「ヒント。今のままだと間違った答えになるからもう一度やり直し。文章の裏を読み取って」
「……あ、なるほど。さすが流様です。ありがとうございます」
そう言うと由美は頭を下げてから嬉しそうに自分の席に戻っていく。
それを見送らずに似顔絵を完成させた俺は天井を見上げて息を吐く。
「ふぅー」
「のぉ流……ってお主何を書いたんじゃ机に!?」
「ん? アインシュタイン」
「教科書で見たことあるが……まるでその写しのような完成度じゃな」
「そんで? 何か聞きたいことあるの?」
「いや……それは今度にするのじゃ」
「そう…ちなみにだけど、今書いてる答え間違ってるから」
「何じゃと!?」
そんなことを話していたら急に扉が開いて何時ぞやに見かけた清水美春が乱入してきたので、もう知らんふりして狸寝入りを決めた。
……一度矯正どこかでいれようかな?
それではご愛読ありがとうございます。