その日の夜。
マンガ読んで寝るまで時間を潰そうと考えて荷物を漁っていると、明久が俺を呼んだので中断してテーブルに集まっている方へ向かった。
「どったの?」
「お前、俺達を脅迫した犯人誰か知ってるよな?」
口火を切ったのは雄二。確信を持った問いかけにどんだけ鋭いんだよと思いながら、「そう言うお前は見当つかないのかよ」と挑発してみる。
と、あっさりと雄二は「ああ」と認めた。
「俺達が知っている情報は、尻に火傷の跡がある女とムッツリーニ並みの技術があるということぐらいだ。それだけで絞り込むのは難しい」
そこに明久が「あのさ、工藤さんじゃないかな、犯人」と口を挟んできた。
それに対し俺は反論した。
「お前達貶めて何の得があるんだ工藤さんに?」
「え? ……あ、そうだね」
「……愉快犯の可能性」
「それはないよ。じゃぁどうしてお前達とさっき一緒に居たんだよ」
「……」
康太も黙る。
と、ここで部屋をノックする音が聞こえたので俺は立ち上がって誰が来たのか確かめることにした。
「こんばんわ、お兄ちゃん」
「どったの薫」
「遊びに来たんだよ、暇だから」
「おぉーそうか。じゃ入れ入れ」
正直あそこで全員の思考が止まったのが予想外だったので薫には気分転換の贄となってもらおう。
こういうのを楽しんでるのはやっぱり若いからかと思いながら「遊びに来たよ秀吉さん、みんな」と言いながら部屋に入った薫を見ずに廊下を見渡してから扉を閉めて、俺も混ざることにした。
「しかし薫。良かったのか?」
「え、何が?」
秀吉の隣に座って俺が持ってきた人生再現ゲームの番を待っていた薫に秀吉がそう聞いたら聞き返されたようなので、「わしら覗き未遂をやらかした奴らじゃぞ?」と補足した。
「俺はやってねぇぞっと……お、ラッキー。雄二お前から三千円頂く」
「なっ! てめぇどんだけ俺をピンポイントで狙うんだ!!」
「いや偶然だって」
「そうだよ雄二。僕なんて所持金ゼロに近いんだから」
「……それは給料を片端からつぎ込んでいるから」
「なにやら現状の縮図のような気がするの……」
「雄二さんデキ婚するんですか?」
「するか!! というかして堪るか!」
そんな風に盛り上がりながら遊んでいると、不意に雄二が話題を戻した。
「……って、こんなことしてる場合じゃないだろ」
「え、今雄二の番だから早く回してよ」
「お前呑気だな」
そう言いつつもルーレットを回す雄二。止まった数字分駒を動かしながら「流、ヒントくれ」と言ってきたので、止まったマスを読み上げてから俺は言った。
「『二人目が生まれました。男の子です。全員から祝い金として五千円もらえます』だってさ。おめでとう」
「え、ちょっと待ってよ! 五千円払ったら僕本当に一文無しになっちゃうじゃん!」
「……おめでとう」
「うむ。仕方のない事じゃの」
「スゴイね雄二さんは」
「リアルになりそうだなお前の進んだ道」
「やめろ怖いこと言うな! って、だから!」
「ヒントね。まぁ簡単なものを言うなら、犯人を女と断定した場合、どうして女子更衣室にカメラが存在していたのかっていう理由を考えろってところかな?」
「理由、だと?」
「そ。これが今回の動機の一つじゃないか? まぁ証拠能力が低いからまだ確定するには早いけど」
「え、何の話?」
明久が自分の身に降りかかっている話に対してのヒントを理解しなかったようなので無視し、「どこまで回った?」と確認することにした。
結局雄二達が風呂に入るまでこのゲームは続き、康太が優勝するという幕切れで終わった。
で、明久たちが風呂へ入りに行き。
俺と秀吉と薫は部屋に残ってのんびりしていた。
「のぉ流。さっき言っておった理由とはどういう意味じゃ?」
「ん?」
電車の中で読破した漫画を最初から読み直していたら秀吉がさっきのことを訊いてきたので、俺は本を閉じで薫に振った。
「薫は分かるか?」
「えっと……犯人が女だと断定した場合女子更衣室にカメラを設置した理由?」
「ああ」
「う~ん…僕犯罪心理学まだ専攻してないからあまりわからないけど、ムッツリーニ商会みたいに商売するためじゃないの?」
「まぁその可能性が真っ先に出るだろうな。けど今回は違う」
「え?」
「じゃぁなんなのじゃ?」
薫が驚いて秀吉が首を傾げたので、俺は言った。
「あまりにも簡単な理由だ。女子の裸を鑑賞したかった。それだけだ」
「? どうしてなのじゃ?」
「……あ、ああなるほどね…………」
薫が気付いたのかため息をついたので、まぁ脱力するのも無理ないだろうなと思いながら直球で言った。
「犯人の性癖はおそらく百合だ。同性愛者だ」
「……ああ。なるほどのぉ」
「ま、確証はないから雄二たちには言うなよ。あいつらに教えたら突っ走って今日の行動が意味をなさなくなる」
「そうじゃの……雄二達に教えたら突撃しかねん」
「お兄ちゃんも大変だね…」
別に大変でもないが否定する理由がないので薫の同情に対して反論せずに締めた。
「以上。説明終了」
「……なんというか、つくづくFクラスにいる意味が分からんの」
「そう言えばどうしてFクラスにいるの?」
今更な質問を薫がしてきた。
答えたくはないが別に傷つくことなんてないかと思い直し、正直に答えた。
「テストの時に予定が重なったから電話してサボったらこの様」
「…うちの学校、テストを受けられない事情があろうと零点は零点じゃからの」
「再テストなかったの?」
「ないからFクラスなんだよ。おかげで西村先生に登校日に怒られた」
予定というのは仕事。引き継ぎと言うか実質的経営者に全権を渡す際の連絡周りで取引先を行ったり来たりしたり海外の知り合いの応対で一日潰れたせいである。
もう酷いよねあいつら。俺の都合無視してひっきりなしに電話かけてくるんだから。「副業なんかやって確定申告に色々記入するのが面倒なんだよ!」とそれぞれの国の言語で怒鳴り散らすのはもう嫌だな。
まぁまだ向こうに電話番号が残っているのでちょくちょくかかってくるのだが、もうあっちの愚痴しか最近ない。
暇なら家族サービスしろと言いたくなったり言ったりしながら電話をしているが、その内家の所在を知られるんじゃないかと危惧している。
「どうしたのお兄ちゃん?」
「いや……平穏な場所を確保したいなと」
「それは僕も分かるよ。最近お父さん達がうるさくてね」
「大丈夫かの、薫?」
「うん大丈夫だよ秀吉さん。ただお兄ちゃんの悪口を耳にタコができるほど言われてるだけ」
「……家を追い出されたと言い、悪口を言われていると言い、流よ。お主嫌われておるの」
「一部にはな。外国行ったら知り合い多いし俺の能力関係なく多分友好的な奴らばかりだから別に気にしてない」
「まぁお兄ちゃんも上流階級とか財閥嫌ってるからどっちもどっちだけどね」
「違いねぇ」
「そこはすぐに肯定できるんじゃの」
そう言って互いに笑ってから風呂の時間まで時間を潰した。
風呂に入ってあとは寝るだけとなったが、直接部屋に戻らずに食堂へ俺は向かった。
「失礼しまーす」
「来たか流」
食堂へ入ったら待っていたのはこの合宿に来ている先生達。ババアは一人で寝ており、荒木教頭は書類が終わったとか言ってすぐに寝た。
高橋女史や福原先生、大島先生や布施先生、西村先生と言った各教科及び担任の先生が揃っている中に俺が混ざっている構図は傍から見ればおかしいと思うだろうが、察しのいい奴なら理由を想像できるだろう。
そう――
「ではこれより昨日起きた覗き未遂及び覗きを行った犯人に対する対策を話し合いましょう」
――犯人探しだ(俺はすでに予測できている)。
ご愛読ありがとうございます。