馬鹿と気が合うお調子者   作:末吉

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つけの清算

 合宿の振り替え休日二日目。

 初日は完全にババアの家に籠っていたので全て終わったのだが、そのせいで二日目に用事を全て回さなければならなくなった。

 

 その用事とは……。

 

「あの、お兄様? わたくし由美と別な日を指定したはずなのですが? どうして一緒にいるんですか?」

「その前にお前、軽く時間過ぎてるだろ」

「嬉しくて眠れなかったからと言って自分で決めた約束の時間に遅れるとは何事です」

「……色々おかしくありませんか?」

 

 現在位置如月ハイランドパーク入場門前。

 集合時間三十分前に来ていた俺はその十五分後に由美と合流し、その三十分後に留美が到着した。

 二人の格好は自分で指定した場所に合わせて来たのかそれなりに質素だが、いかんせん金銭感覚にずれが生じているので俺からしたら一着何十万とかバカじゃねぇかと思う。

 

 あ、俺? 普通にそこらのチェーン店で売ってる服。安いし。

 

 なんで服装のギャップが滅茶苦茶あって注目の的になっているんだが、まぁ留美の方はそんなことより気になることがあるらしい。

 

 答えるとしてもこの場でというのは時間の無駄なので、「ほれさっさと入ろうぜ」と言って先に門をくぐった。

 

 

 

「さて……どうして二人が俺の腕にしがみついてるかなんて聞かないからさっさと行くぞ」

「冷たいですわお兄様! そこはもう少し優しくしてもらってもいいのでは!?」

「あの、流様。わたし、ジェットコースターに乗ってみたいです」

「ああそう。そんじゃ先に乗るか」

「待ってください! でしたらわたくし、お化け屋敷に行ってみたいです!!」

「それは後な」

「そんな! 妹の頼みを後回しにするなんて!!」

「俺の貞操狙っといて今更妹使ってんな。ほら、さっさと行こうぜ」

 

 美女二人に腕を組まれている俺は完全に嫉妬の視線に晒されているが、そんなことより現状からさっさと解放されたい気持ちが強いのでどうでもいい。

 

 そんな訳で由美の言葉通りジェットコースターへ向かった。

 

「……なんで由美と一緒に乗らないといけないんですの…?」

「私も流様の隣に乗りたかったです」

「別にいいだろうが。乗れたんだから」

 

 何やらぶつくさ言われてるが、そもそも俺はお前達と付き合う気もないし好きになることもないのだから無駄なんだがな。

 冷静にそう考えた俺は後ろに乗りながら急降下に備えて口数が減っていく二人を見てこいつら大丈夫だろうかと考えた。

 

「キャァァァァ!!」

「ひゃぁぁぁぁ!!」

「やっほー」

 

 二人が本来の楽しみ方をしている中、俺だけは緊張感も何もない口調で目を開けて声を出す。

 なんかもう、こういうので恐怖を覚えるという感覚がマヒしている。人生いろいろあったというのもあるし、あのクラスの流血に慣れてしまったためでもあるだろう。一言しゃべると自分で地雷を踏み抜いてすぐに流血する奴もいるし。

 

 そんなことを考えながら悲鳴を上げる二人を尻目に後ろで欠伸をしながら終わるまでぼけっとしていた。

 

 

 ジェットコースターから降りて。

 なにやら叫び疲れたのかげっそりしている二人とは対照的に眠気が出てきた俺。

 欠伸をしながら「大丈夫か?」と一応心配すると、二人は俺を見て慄きながら似たようなことを言ってきた。

 

「「どうして眠そうにしておられるんですか(の)?」」

 

 それに対し俺は「もう慣れた」と言って腕を伸ばす。

 

「やはりお兄様は凄いですわ」

「さすがです流様」

「お世辞はいらん。さっさと次行こうぜ」

「あ、待ってくださいお兄様!」

「お待ちください!」

 

 俺が先に行ったところ二人が何とか追いかけてきたようなので、これじゃどっちが誘ったのかわかんねぇなと思いながらゆっくり歩くことにした。

 

 

 次はお化け屋敷である。どうにも庶民的なところへ行きたい人たちである。

 所詮娯楽目的で作られた施設である。どうあがいても恐怖心は一定以上を超えることがない。

 

 まぁそんなことを考えている時点で卑屈な思考の持ち主だったり夢のない奴だとか言われたりするんだろうが、そんなの関係ない。

 なぜなら人は一定の経験を超えるとそれがただの行為に成り果ててしまうからである。

 

 だから、俺の腕にしがみつきながらお化け屋敷に入る前からすでに及び腰になっている二人に対して新鮮味を感じている。

 

「確かに再現度は高いだろうがな……入る前からお前ら大丈夫か?」

「だ、大丈夫ですわお兄様」

「も、もも、問題ありませんな、流様」

「声震えてるぞお前ら」

 

 そう言いながら普通に入ろうとしたところ、二人が動かないせいで俺は前に進めなかった。

 

「おい」

「あ、な、なんですかお兄様」

「動こうぜいい加減お前ら」

「え、エスコート……お願いします」

「べ、別に怖いわけでは……ありませんけど……」

「素直に怖いって言え」

 

 作り物だしそれほど恐怖心なんてないだろうになんて思いながらため息をついた俺は、腕におもりがついてる感覚だなと酷い事を思いながら歩き出した。

 

 

「ぐわぁぁ!!」

「「キャァァァ!!」」

「作り物だろこれ。メイクの中途半端感が拭えんし」

 

「う~ら~め~し」

「「キャァァァ!!」」

「あ、おい……元気に逃げ出してまぁ。あ、どうもこんちは」

「あ、こんにちは」

 

 とまぁこんな感じで動じないで普通に歩き切った俺が建物から出てきた時に見たのは。

 

 見事にガタガタと震えている二人の憐れな姿だった。

 平然とした表情で出てきた俺に対し信じられないような目で見てきた留美は、声が震えたまま聞いてきた。

 

「お、お兄様……どうして顔色一つ変えないのですか……? 結構怖かったんですけど」

「むしろなんでそんな怯えているのか分からん。常日頃明久たちの流血沙汰に悲鳴を上げないのに」

「お化けや幽霊など実体が不明なものは怖いです普通」

「ああそうか。昔トラップハウスのポルターガイスト騒ぎを実際に観に行った時に恐怖心がごっそり消えたんだ俺」

「「ひぃぃぃ!!」」

 

 何故か知らないがもっと怯えてしまった。それほど変な事実を口走ったわけではないんだが。

 もう完全に小鹿の様に身体を震わしてる二人を見ながら首を傾げた俺は、どうしたものかと空を見上げた。

 

 

 

 二人が元に戻った時にはすでにお昼を過ぎていたが、そんなの騒いでいた二人には関係ないようで。

 

「お兄様! あそこに屋台の如く並んでいるお店は一体!?」

「お前見たことあるだろ。普通の食堂みたいな場所だ」

「流様はしたないと思われますでしょうが、お腹がすきました」

「いや別にそんなこと思わんし。適当に買ってこい」

「お兄様もご一緒にどうですか?」

「行きましょう流様」

「……えー」

 

 先程とは逆に俺が引きずられながら、昼食を食べる為に行くことになった。

 

 

 

 まぁそんな感じで振り替え休日が終わった。

 

 ちなみにだが、学校が潰れる云々の話は誰もしなかった。知ってたかどうかはさておいて。




ご愛読ありがとうございます。
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