本腰入れて書かないと。
次の日。
そういや明久たちってどうやって学校に行けばいいんだろうかと起きて思いながら泊っていたホテルで身支度を整えお金を払って出る。
そのまま学校に行くのが普通なのだろうが、まだ時間は五時。書類とか溜まってそうだなと思いながら家へ帰るために靄がかかっている道を歩く。
警視総監の話では銃刀法違反で補導する際妃家の者が介入して補導されかけたのが回避されたそうで。
貸しが出来ただろうなあの家~なんて振り返りながらのんびりコンビニへ立ち寄り、朝食用に適当に買いこんでから帰宅する間までにさらっと思い返す。
極聖学園。またの名を『才能者達の楽園』。
その二つ名が表す通り、あの学園には才能の塊みたいな奴しかいなかった。それらが総じて金持ちの子息息女ばかりというのも、また。
カリキュラムもまたそれに応じた厳しいものだったが、あの学園しか知らない奴からしたらそれほど苦でもないのだろう。
俺もその一人だったが、中学途中で退学して渡米。その時になって、あの学園の異常さを初めて実感した。
いや、通っている時から薄々気づいていたのかもしれない。『この学園は何かがおかしい』ということについて。
それでも実感したのはアメリカの大学に飛び級で入った時で、その時になって俺はあの学園の異常さと同時にイカレタ教育理念を発見することができた。
出来たが、ぶっちゃけもうどうでもよかったので放置することにした結果、こうして牙をむいているわけなのだが。
「あの餓鬼今度つるし上げてやろうかな……」
思わずそんな言葉を漏れる。当たりに人の気配がないので幸いだろうが、聞かれていようがいまいが、こちらにはあまり関係ないし聞いた人間にも関係ない。
そういや召喚獣システムメンテしてるとか言ってたが大丈夫だろうかババアと話題を変えつつ、自分の腕輪の能力を知らないって存外怖いよなと今更ながらの事を思い歩いていた。
で。
「おいーっす。今日から明久(アイツ)いないが、すこぶる調子がよさそうだな雄二」
「ああ。朝から翔子(アイツ)に追い掛け回されずに済んだからとてつもなく機嫌がいい」
教室に入ってそんな互いの言ってることが違う会話を楽しんでから、席に着いた俺は盛大にため息をつく。
「あー……つぶれねぇかなー」
「何が? 極聖学園がか?」
「え、いや。そんなのは適当に情報操作すれば簡単につぶせるけどよ」
「さらっと言ったな」
「財閥とか古くからの名家とか。そこら辺の金持ち全員没落しねぇかなって」
「お前どんだけ嫌ってんだよ」
「少なくとも、お前が霧島からのアプローチを逃げる以上には」
「あれがアプローチだと!? そんなかわいげ一切ないぞ!」
「なんじゃ朝から騒々しい。明久やムッツリーニがおらんから静かになると思ったんじゃが」
「秀吉おっす」「おお」
少しからかったところにちょうど秀吉が登校してきた。俺は挨拶してから、「来週からあっちの学園の生徒来るんだよなー」とぼやく。
「お前が決めたんだろ」
「ババアだよ決めたのは」
「流よ。お主までその愛称はどうかと思うぞい?」
「え、別にいいじゃん。俺の後見人だし」
「はぁ!?」
「なんじゃと!?」
さらっと出した言葉に驚く二人。その反応を内心でほくそえみながら、「本当本当。家追い出されてから拾ってくれた人が死んじゃってさ。どうすっかなと考えてたところにババアが話し持ち掛けてきたから乗ったわけ」と答える。
「あの妖怪ババアが養子だと……ありえねぇ」
「雄二よ。それはそれでひどいと思うのじゃが……まぁ理解はできるの」
秀吉もずいぶんひどいこと言うなと思いながら、「けどまぁ、来週から一週間静かになるんじゃね?」と秀吉の意見に賛同するように言う。
すると雄二も便乗した。
「だろうな。あのバカも少しはましになって帰ってくるんじゃないか?」
「あー……それはない」
「あっさりと断言しおったぞい、流」
「だろうな。俺もそんな想像できない」
「いった本人もか!? ならどうして言ったんじゃ!」
「一縷の儚い望み」
「俺は静かになるといっただけ」
そんな三人で他愛のない話をしていると、姫路さんと島田さんがなにやらひそひそと話をしているのが見えた。
面白そうなので黙って近づいてみると、二人とも明久について話していた。
「アキったら大丈夫かしら? 極聖学園って結構厳しい学校なんでしょ?」
「そうらしいですね。でもわたしたちの学園も存続の危機ですから、明久君もそこはわかっているはずです」
「だといいわね」
「……口挟んで悪いけど、あの学園、美男美女が普通にいるから。明久それで緊張するんじゃないか?」
「! 流!?」
「豊橋君!? き、聞いてたんですか?」
「まぁ。なにやら不安そうに話し合ってたから二人が目下心配するであろう明久のモテ期について確信的な答えを教えようと思って」
「そ、そんな心配ウチがするわけないじゃない!」
「そ、そうですよ! そんな可能性なんて存在しません!!」
わたわたしながら結構残酷な答えを出す二人に乾いた笑いを漏らしてから、俺は教えた。
「結論から言えば、明久が恋愛対象として見られる可能性はほぼない。なにせバカで常識が欠落していて平然と友達を裏切り、陥れる。そんなやつがあの学園でモテるわけがない」
「……ウチが言うのもなんだけど、あんたも結構ひどいこと言ってるわよ?」
「けれど」
そこでいったん言葉を区切って一呼吸置き、少しだけ声色をまじめにしてからこう言った。
「観察対象としてストーカーまがいをする連中だってあの学園にいるから、そういう意味では明久はモテるだろうぜ」
「「……」」
実際に言うとほんの一部に馬鹿な男ほど好きになる属性を持った生徒が在籍してるので下手するとお持ち帰りされる可能性があるのだが、そこはあえて触れない。絶対に触れたくない。
二人が黙ったので帰りに明久の家に突撃するのかねと思いながら自分の席に戻ったとき、西村先生がちょうど入ってきたので今日も頑張りますかと首を回した。
このクラスにあの学園の生徒は誰も来ない。そんなのいたらあの学園に在籍できないし。
そんなことを思いながら授業を聞いていると、「流。この問題をこいつらにわかりやすく説明してやれ」と呼ばれたので顔を上げて内容を推測して、とりあえず立ち上がってから「えっと……この化合物に関するものですか?」と質問すると「ああそうだ」と言って周囲を見渡すので俺もつられてみる。
すると、雄二や姫路、島田や秀吉以外‐‐つまり生徒ほぼ全員――が真面目に聞いていなかった。
よくこんな状態でここまでこれたなと思った俺は仕方なく黒板の方へ移動し、「はいそれじゃ説明しまーす」と言ってからチョークでさらさらと絵を描いていく。
「とりあえずこの人物を今から説明する前のものとしようか。この容姿だ。他の奴らからすごい声をかけられるのは想像つくだろ?」
『『『そうだな』』』
とりあえず美少女キャラ書いて説明を始めたところ、案の定食いついたのでこのまま続ける。
「だがしかし。彼女は他の男になびくことはない。なぜなら――」
そういって彼女の隣に化合物に必要な記号とイラストを描いていく。
「このようにすでにこの男が彼女のハートを射止めたから」
『『『チッ。この―――野郎』』』
「はい放送禁止用語使うのやめろよ。で、このカップルの特徴というのが――」
と、このようにわかりやすーく説明し終えたころには、授業を聞いていなかった男子生徒たちがすごい興奮しながらノートを描いていた。
本当にわかりやすいなと思いながら黒板に書いたものを消さないで「席戻りまーす」と言って席に戻り、校庭に視線を向けた。
今頃あいつらどうしてるかね……? あ、準備や道順確認で休みになったんだっけ。明久と康太。
ご愛読ありがとうございます。