そしてついに来てしまった留学期間初日。
頭が痛いぜ。ったくよ……ババアからメールで受け取ったリスト見て思わず吹き出しちまったし。
なんだって俺に縁があるやつらなんだろうな。合縁奇縁とは些か無縁な生活を送りたかったんだがなぁ。
――初歩の時点で無理だとか言うなよ。あいつらはなんていうか……うん。
もしかしてあっち、自己推薦で人数決めたとかじゃないだろうな。
なんて嫌な流れなんだこん畜生なんてため息をつきながらいつも通り登校していると、普段誰も会わないはずの道に誰かが立っていたのに気づいた。
顔を上げてみると、金髪ツインテールで身長百五十あるかどうかで釣り目だというのに『かわいい』とか言われる女が腕を組んでいた。
まぁ時間が時間(朝の七時前)だし、学校まである長い坂を上り始めたころにそいつがいなければ、誰も会わない道だといってもいいだろ。
というかなんでこんな時間帯にいるんだ……? と訝しみ乍らも近づいた俺は、仕方なく声をかけることにした。
「朝早くからご苦労なこったな」
「…………」
返事がない。
もう少し近づいてみると、立ったまま舟をこいでいた。
……放置だな。
俺はその状況のまま放置して学校へ向かった。
いつも通り自分の荷物を持ったまま向かうは作業室。要望なので仕方なく手伝うことにしている。メンテナンスを。
昨日買いだめしておいた朝食をレジ袋から取り出した俺は、栄養ドリンクを飲みながらコピーしたデータを百分割したものの一つを精査させていく。
正直解析ソフトをここに来る前に並行して作っていなければさらに時間がかかってどうしようもなくなっていただろうなと思いながらサンドウィッチを食べつつ眺めていると、備え付けの電話が鳴ったので食べ終わってから受話器を取る。
「はいもしもし」
『ああクソジャリかい?』
「ババアどうした?」
『どうしたも何も仁王立ちで寝てるガキがいるんさね。どうしたらいい?』
「……クラクション鳴らせ」
そういって俺は電話を切ると、外からクラクションの音が響いたので本当にやったのかよと思いながら、自分の作業を続けていた。
で、ババアが来たので交代する形で部屋を後にした俺は、自分の教室の自分の席に座り、相変わらず俺来るの早すぎるなぁと思いながら欠伸を漏らした。
八時十分前から教室に生徒が集まりだす。それより早いと秀吉やアデーレ、それに姫路さんとかぐらい。だからたまに宿題について話したり世間話したり世界情勢について話したりしている。
そんでもって明久は約五割で遅刻する。まぁあっちに行くので大丈夫……だと思いたい。
どうなるかねぇと思いながら挨拶しつつ外を眺めていると、ガラッと勢いよく扉が開き「ここに鈴鹿……いえ、今は豊橋だっけ? 豊橋流っているわよね?」と高圧的な口調で質問してきたやつが。
その瞬間俺は窓に手と足をかけたが、それと同時に黒い覆面集団――通称FFF団が包囲網を完成させていた。
その速度に戦慄しながら足を窓枠からおろした俺はどこからともなく取り出したコインを畳に叩きつける。
叩きつけられたコインは瞬時に爆発音と煙が充満する。FFF団の連中は前が見えないなどと言いながら互いで互いをつぶしてる隙に、俺は荷物をもって飛び降り、ロープを屋上のフェンスに投げる。
ロープはうまくひかっかったので俺はある程度の高さで勢いがなくなり、普通にジャンプして地面に着地。
ロープを使われたくなかったのであとで回収しようと思いつつ分かりにくい場所にまとめ、そのまましばらく姿を隠そうと思った。
まぁ、そんな都合よかったら、西村先生いりませんけどね。
「どうした豊橋。もうすぐ授業だというのにこんなところに来て」
「あっはっはっはー……ですよね」
隠れてみようと思った場所に来たら西村先生と鉢合わせしたので仕方なく一緒に向かう。
「しかし、なんだ。こうしているのに廃校の危機になっているというのはいささか信じられないな」
「でしょうね。俺だって聞かされただけなら信じてなかったと思います」
「んで? どうしてあんなところにいたんだ」
「逃げてました」
「…………またあいつらか」
はぁとため息をつく西村先生。俺は苦笑いして「まぁモテる奴は嫉妬の対象なんですよ」と一応フォローしておく。
「それで授業どころではなかったら本末転倒だろ」
「男ってそんなもんでしょ」
「お前は違うだろ」
「まぁ。結婚する気なんてないし、モテる奴は上っ面良くなくてもモテますしね」
「……お前が言うと嫌みにしか聞こえないんだろうな」
「なんででしょうね」
ここですっとぼけてみる。自分の容姿がどうかなんて所詮外見上のもの。みてくれも自分の構成要素の一つであるにもかかわらず、それよりも……なんて言ってるやつには賛同したいが同意はしない。
というより今はこの場に来ている『彼ら』とどう接していくべきなのかを模索しないと俺の命が尽きそうで怖いから考えようとしているのだが。
いい考えなんて浮かばないんだよなぁと諦めつつ歩いていると、「しかし吉井の奴、大丈夫か?」と西村先生はつぶやく。
「そこはもう、大丈夫だと思うほかありませんよ」
「それしかないのは確かだが、どうにもあいつがまともに登校してるのが想像できない」
「俺もです」
「おい」
「まぁ大丈夫かもしれませんよ。帰ってきた時どうなっているか知りませんけど」
「……それはそれでどうなんだ?」
向こうに渡したのであっちでどんなことが起こり、どんな反応になるのかがわからない以上そういう答えでしかないけれど、西村先生は顔をしかめた。
「まぁいい方向に変わっていればいいんじゃないですか?」
「……確かに。少しでも勉強に向けられて帰ってくればいいな」
あまり想像できないのかそういいながらもため息をついたのを見た俺は、そろそろ教室に着きそうなので「それでは」と言って先に教室に入った。