西村先生に特例で反省文を免除された俺は、行くのが嫌だったので荷物をまとめてそのまま下校しようとしたところ西村先生に襟首をつかまれて連行された。
Aクラス前まで。
「嫌だー! 絶対に嫌だぁぁ!!」
「往生際が悪いぞ豊橋。割り切ったんじゃないのか」
「わざわざ自分から死地へ向かうのに割り切れるか! ともかく、時間切れになるまでに絶対逃げ切る!!」
「あ、おい……やれやれ」
一瞬のスキをついて逃げ出した俺を見てため息をついたらしい西村先生は次の瞬間。
「逃げられると思うなぁぁ!!」
「っ! げっ! くっそはえぇぇ!!」
ロケットスタートのごとく勢いで駆け出して追いかけてきた。
確かに明久たちが逃げるのに追いかける力が必要だろうが、瞬発力がすごい。さすがにトライアスロンを趣味でやっているだけある……って。
「捕まえたぞ豊橋!」
「ぎゃっ! 速過ぎだろ!」
すぐさま捕まった。これを逃げられる明久たちの体力どんなふうになってるんだよ。
「まったく。お前もFクラスに染まってきたな」
「いやーそれはないと思ってたんですがね」
「まぁ、実際まともなのがお前とアデーレ、姫路ぐらいしかいない」
「それ言っていいのかよ!?」
「だからこれ以上問題を起こさないでくれ」
再び引きずられる。今度は俺も抵抗する気が失せた。
これ以上やっても捕まる未来しか見えないし、それならもう腹くくっていくしかない。
覚悟を決めた俺は引きずられながらこの先に起こりうる未来の対策を考えることにした。
「行って来い」
「うす」
再びAクラスの前。
西村先生の声に後押しされた俺は普通に扉を開ける。
その先にいたのは――。
「やっと姿を現したわね鈴――豊橋流!!」
「おー今朝ぶり。早起きしてその場で寝てたせいでクラクション鳴らされたオチビちゃん」
「!? な、なんでそんなことあんたが知ってるのよ!? それと、チビなんかじゃないわよ!」
やたらとかみついてくるので適当にスルーを決め込んだ俺は、案の定見知った顔しかいないので(というか、誰が来ても一緒だった)無礼講で行くことにした。
「おっすお前ら、つぶれろ!」
『いきなりかよ』
全員が息を合わせたかのようにツッコミを入れてきたので満足そうにうなずいてから「あんなんパンフ見れば大丈夫。じゃ、これで」と言って踵を返すと再び『待て』と八人の声が。
「えー? 案内要らないじゃん。俺じゃなくても同じクラスの妃とか鈴鹿とかいるじゃん。隣のクラスにも上下院いるんだし、俺不要じゃん? 今底辺クラスで楽しくやってるからあばよ」
「いや、だから待てって」
そういって俺の肩に手を置いたのは学園祭で遭遇した空天高人。
そいつは振り返って嫌な顔をしている俺に「折角こうして再会できたんだし、お互いに情報交換しようぜ?」と言ってきたのでどういう意味か考えてから「お前、自分で言ってる意味わかってるのか?」と確認する。
「分かってるって。今回の件、うちの理事長が圧力かけて勝手に始めたことだから。巻き込まれた側で、こうしてついていけないやつらが立候補してきたんだからよ」
あっさりと内部事情をばらしたので、ひとまず信用することにした俺は「正味な話、この学園から送り込んだのはあっちの学園でついていけそうにない奴が数人いるから、多分俺達の勝ちになるだろうとは思ってる」と予想している結果だけを教える。
すると高人は「だよなー」と頷いていた。
「もともとうちの学園の基準がおかしいですもの、催眠術や洗脳でもしない限りついていくのは難しいと断言できますわ」
「ん? 時森居たのお前?」
「い、居ましたわよ最初から! はっきり認識しておりましたわよね!?」
顔を赤くさせながら精いっぱい怒る女子――時森かなえ。同い年のはずなのに身長のせいで子供が怒ってるように見えないのはかわいそうというかなんというか。
まぁチビ――正道院朱莉より身長低いからなと思いながら件のチビの方を見ると、反射的に一歩下がり、顔を赤くさせながら「な、なによ」と呟いた。
何もないんかいと言いたいのを抑え、残り二人――八人のうち三人は留美たち――に改めて視線を向ける。
片方はナルシスト。そしてもう片方が――
「師匠! お久しぶりです!!」
「……なぁ高人。こいつまだこんなこと言ってるのか? いい加減ひっぱたいて現実に戻した方がよくないか?」
「いや、それがな? お前が退学した後大泣きして。その数か月後に戻ってきたら『うじうじしていても師匠に会えぬ。だから絶対にこの学園のトップになる!』と宣言して必死に勉強してるからよ……」
「師匠! しかしながらトップになることはかなっておりません! 私の勉強不足です誠に申し訳ありません!!」
「……うっぜー」
――俺を師匠と呼ぶ少女。実際は思い込みの激しい奴である。ちなみにナルシストは鏡を見ているので話には参加していない。一応名前は宇月彦摩呂という。
そんで思い込み全開少女は遠坂華凛。武芸の方に才能が持っていかれたのか勉強の方は凡人レベル。
とはいっても、ここだとAクラスに所属できるぐらいなので、あの学園のレベルの高さがうかがえる。
どうでもいいが。
まぁそういうわけで留学生の紹介終了。用件も終わったことだし、俺は普通に背を向けて「また明日ー」と逃走を謀る。
だというのに、今度は留美達が待ったをかけた。
「お兄様。お待ちください。まだお話は終わっておりません」
「内輪で話せばいいやん。俺関係ないし」
「流様。これは流様にもかかわるお話です」
「なに」
ぶっちゃけ縁が切れたところから話が戻ってくる理由も見当もつかないので仕方なく聞くことにしたところ、薫が「お兄ちゃんのこと好きなんだって。理事長が」と言ってきた。
…………。
「あの泣き虫根暗の二十歳理事長が、ね……」
「うん」
「……忌々しいことに」
「……悲しいことですが」
「って、流はともかく鈴鹿さんと妃さん? 今何か言わなかったか?」
「「いいえ?」」
はっきりと聞こえた俺は追及する気もないので「そんなの今更じゃね?」と肩をすくめる。
その反応に対し、一同は驚きの声を上げた。
『はぁ!?』
「あれ、知らなかった? 退学するとき散々泣かれたんだけど」
「そ、そんな話聞いたことありませんわよ!?」
「俺特に何をしたわけでもないのに時々呼ばれてたじゃん」
「あんた散々私たちの事弄り回したわよね!?」
「結構露骨だったはずだけど?」
「全然わかりませんでしたよ師匠!? たまに一緒にいた時お会いしたことがありますが、そんな雰囲気一切ありませんでした!」
「お前ら鈍感だなー」
『お前マジで何なの!?』
絶叫に近いツッコミを聞いた俺は耳をふさいでから呟いた。
「断ったんだけどな。退学する時に」
シン――と、一瞬で静まったので「あのショタコン俺ほしくてこんな手に訴えているのかひょっとして」と可能性を呟いてみる。
完全に諦めたわけじゃないのだろうかと少し悩んでいると「あのお兄様? ひょっとしてですが私や由美がお兄様の事を好きだというのは承知だった、ということになるんですか?」と慎重な口調で聞いてきたのであっさりと「もちろん」と返しつつ、あの人やること子供じゃねぇかと考えてげんなりする。
「はぁ……」
「いや、ため息をつきたいのは僕たちの方だ豊橋。ずいぶんあっさりともろもろ暴露されたせいで、どうでもよくなってきたじゃないか」
「実際お前、自分以外どうでもいいんじゃないの?」
「失礼な! 確かに我が一族内で最も映えている僕自身が一番重要であるが、だからといって学校内の空気がおかしいことを容認するわけがない!」
「へー」
「つぅか鈴鹿さんと妃さん、顔真っ赤にしてぶっ倒れたんだけど、これどうやって収拾つける気?」
「しーらね。じゃ、俺帰るから。あとよろし」
『えっ』
あっけにとられている間に俺はさっさと教室を出て帰ることにした。
その日の夜。
「あ、もしもし霧島? そういえばいつぞや霧島がいない日に雄二が構ってもらえないからかとても寂しそうにしていたんだが……うん。そう。いや、でもいきなり突撃はまずいからさ、ここはひとつ穏便に悟られないようにしないと喜んでもらえないぞ? だから……」
仕返しとばかりに霧島に電話をかけて雄二の未来を確定ルートにさせるべく吹き込んだ。
ま、多分しなくても確定だろうけど。
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