留学生活二日目も特に何ともなく過ぎていき――強いて挙げるなら初日の報告書にて明久の遅刻が書かれていたことぐらい――三日目。
いつも通りの朝を過ごして教室に入った俺が目にした光景は、簀巻きにされてどこから調達したかわからない角材に括り付けられている明久の姿だった。
「助けて流!」
いるはずのない人間の声が聞こえた。いるはずのない人間の姿が見えた。
「幻覚でも見てるのか、俺……」
「幻覚じゃないから! ちゃんと僕だから! 生きてるから!!」
……。
「おはようみんな」
「そしてこの状況で無視!? 流、君はそんな人間じゃなかったはずだ!」
喚く他人の空似を無視し、俺は黒ずくめの一人に話を聞いた。
「どったの?」
「ああ流か。実はこの吉井明久という生物がな」
「いや僕人類に属しているから! れっきとした人間だから!!」
「ここまで女を侍らせていたんだ……!!」
『しかも結構な美少女を二人も!!』
予想通りの言葉……だと思ったが、なんか人数がおかしかったのでもう一回聞いてみる。
「二人って言った?」
「そうだ」
「……」
あれ? もう一人誰だ?
ものすごい不思議になった俺はとりあえず考えることにして「ま、ほどほどに」と言っておく。
「って、止めてよ流!」
『諸君。このにっくき野郎に今こそ正義の鉄槌を!』
『ガンホー! ガンホー!!』
「い、いやぁぁぁぁ!」
ふむ。一人は確定しているのだが、もう一人って誰だ? あのマッドはこの学園に転校する気ないだろうし、耳年増は多分、康太たちと仲良くなっているはず。マゾヒストなんて論外だ……ろう。
「やめて! 僕のイケているお顔が!!」
『不細工が黙ってろ!!』
「ぎゃぁぁぁぁ!」
となると本当、一体誰を連れ帰ってきたんだあいつなんて肩ひじをついて考えていると、処刑が終わったのか「こんなものでいいだろ」と言って解散していった。
残されたのはぼろ雑巾のように捨てられた明久らしき存在。
朝から大変だったなと思っていると、廊下を走る音が聞こえてきた。
そのまま開く我がクラスの扉。
「ちょっとアキ!? 女の子と一緒に登校してたって聞いたけど、本当!?」
「らしいぜ」
俺の言葉にピキッと何かが壊れる音を立てた島田さんはそのままずんずん明久の前まで進んでから、ぼろ雑巾になっているというのにアルゼンチンバックブリーガーをきめながら「どうしてそんなことになっているのよ!?」と叫んだ。
「痛い! 痛いよ美波!! って、ちょっと本当にしまってる! 首が! 足が!!」
「う、うるさい! う、ウチが勇気を振り絞ってあ、あんなことをしたのに他の女子と一緒に登校だなんて……!!」
「へぇっ!? あ、そ、それは…!」
「ん?」
なんか島田さんが盛大に暴露した気がするんだが……まぁいいか。
それよりもう一人本気で誰だぁ? と考え込んでいると「おはようございます……って、あ、明久君!?」と姫路さんの驚いた声が聞こえた。
この時点でもう俺の集中力は消えており、誰でもいいやと投げやりになった。
仕方ないので惨状に視線を向けると、島田さんが4の字固めで明久に追い打ちをかけており、姫路さんもそれに倣うかのようにもう片方の腕をとって4の字固めを敢行。その結果タップすることさえ許されない明久は首を必死に左右に動かして訴えるが、誰も助ける気がない。
「おはようなのじゃ……って朝から一体どうしたんじゃこの光景は!?」
「よう秀吉。明久が4の字食らってる」
「ん? 明久が来ておるのか? まだ留学中ではなかったのか?」
「そうですよ明久君! どうしてここにいるんですか!?」
「ギブッ! 説明……する、から……」
「あ、落ちた」
「「え」」
与え続けられた痛みに耐えきれなかった明久は、真っ白になった男のようにぐったりと気絶した。
とりあえず明久を保健室に西村先生が連れて行っている間、俺は詰め寄られていた。
「なぁ、どうして明久がここにいたんだよ?」
「そうよ。まだ期間中でしょ?」
「ってか、なんで俺に聞くんだよ?」
「学園長以外に向こうに行った人たちの様子を知れるのは豊橋君以外にいませんので」
「うむ」
んなこといわれても……と頭をかきながら「一応機密事項なんだが」と呟いておく。
「明久、問題起こして追い出されたんだよ。とはいっても、いじめられていた現場を助けたんだがな」
「……それって、おかしいですよ」
「そうよ。助けたんだからいじめていたほうが悪いんでしょ? なのにどうしてアキなのよ?」
「それはだな……」
「……まぁ、いいじゃねぇか。これでこっちの学園の廃校は免れたんだから」
何か心当たりでもあるのか俺の言葉を遮り、この話題を終わらそうとする雄二。
実際この学校の成績より下がってしまった場合、うちの学園のほうが有利になる。そのことぐらいは向こうもわかりきっているはずだろうに一体目的は何だろうかと勘ぐってしまう。
まぁ俺もこれ以上言いたくなかったので「そうそう。詳しい話はあいつから聞いてよ」と話題を終わらせることに。
ぶっちゃけていうなら二日連続で遅刻しかけたところで不良(位を笠に着てる奴ら)に絡まれていた(と、言うより多分高圧的態度で話しかけられていた)在学生を助けた際(勘違い)に殴り合いに発展したことが原因。
見事ボロボロになったが守り抜いて教室に入ろうとしてシャットアウトという顛末……あ
「そうか」
「どうしたんだよ流?」
「思い出した。明久が現状引っ張ってこれるもう片方の奴を」
「? 何の話じゃ?」
「だ、誰よアキなんかを好きになるもの好き」
「だ、誰なんですか?」
お前らも物好きになるんじゃないかと言いたかったが黙っておき、話題を変えることにした。
「なぁ雄二」
「なんだよ?」
「明久が零点になったところでほかの四人が劇的に成績を伸ばしたらこっち、廃校だぞ?」
「……そういやそうだな。だがカンニング根本にムッツリーニが早々成績上がると思わん」
「ねぇ誰なのよ豊橋」
「お、教えてください豊橋君」
話題は変えられなかった。
仕方がないので俺はヒントだけ教えることにした。
「白馬の王子さま好きな夢見がち超純粋お嬢様」
「? だからどういうことじゃ?」
「吉井君がここまで美少女二人をエスコートして登校してきた話ですよ、秀吉さん」
「アデールか? また珍しいの、もうすぐHRじゃぞ」
「出かけ先で少々トラブルが発生しましたのでその対処に手間取りました。話自体は学校内で噂になっていましたよ」
「もうかよ。早いな」
「仕方ねぇと思うよ? なんたって坂道上る間に大概の奴は見るんだから」
「お前ら席に着けー」
いつものメンバーになって盛り上がっていたところ西村先生が来たので俺たちは自分が普段座っている席へ移動した。