尋常じゃない回復力で一校時前に戻ってきた明久を待っていたのは、男子生徒による視線の重圧と、姫路さんと島田さんからの無言の圧力、そして俺が予想した通りの少女が二人、ぴったりと明久の両脇に座っているという状況だった。
ドンマイ。
事の起こりはHR。西村先生が来たので席に座った俺たちは、「唐突だが、わがクラスに転校生が二人、来ることになった」とという言葉でボルテージが最高潮になった。
が、予想できていた俺は関係がないので欠伸を漏らして教科書のカバーで隠した漫画をひっそりと読み始める。
「本来なら編入試験を行うのだが、本人たちたっての希望でこのままFクラスに決まった」
「先生、女子ですか!? 女子ですか!」
「……二人とも、入ってきなさい」
さらっと無視する西村先生。俺はもう我関せず。
しっかし面白いなこの漫画。何回読んでも、オチがわかっていても色褪せることがない。
こういう作品はやっぱり昔の方が多いよなぁと考えながら読み進めていると、「豊橋」と呼ばれたので中断することにした。
「なんですか?」
「今何読んでた」
「教科書です」
「そこに書いてあったのは?」
「『ふざけるな!』」
「こちらに持って来い」
…………。
……。
「先生、俺が呼んできていいですか?」
「その前に読んでいた本を俺に渡せ」
逃げ切れなかった。
――と、いうわけで、断腸の想いで入れ替えた教科書を西村先生に渡して保健室行って明久共々連れてきて自己紹介をしてもらいさっそく一校時目になった。
警戒されているだろうから漫画は読めないなと思いながらノートを適宜まとめて――冒頭になる――いると、くしゃくしゃに丸められた紙が飛んできて俺の頭に当たった。
誰だよなんて思いながら丸められた紙を広げると、「たすけて」と書かれていた。
知らんがな。
身から出た錆。自業自得。そんな言葉が頭の中で出てきたので紙を破いて窓の外に流す。
というか、なんか大ごとになってきたなぁ本当。授業を聞き流しながらノートをとっている状況でそんな感想が出てきた。
最初は廃校だけの騒ぎだったのが、今では向こうの学校から転校してくる人数が増えて向こうが瓦解しそうになってそうな。
まぁ廃校自体が滅茶苦茶大ごとなんだがな。
今更深く考えたところでミスったなぁとしか思えなくてやばいなぁと、俺が助けてほしい状況になってる気ががががが
「流」
「ががががががが………………」
「流!!」
「……んあ?」
耳元で叫ばれたので意識が覚醒する。なんかトリップ状態になってしまった。
深く考えると負けってこういうことなんだろうなと納得して声の主に向いてみると、雄二がどこか心配そうな表情をしていた。
「大丈夫か? なんか、授業の途中からお前、窓の外を見ながら全身震わせていたぞ」
「全然大丈夫じゃない。なんか自体がだんだん悪い方向に向かっている気がしてててて」
「いやだからそれだって!」
「……考えすぎて、な。それよりどうした?」
「どうしたもなにも、お前がどう見ても異常だったから心配したんだぞ」
「なんだと!?」
驚きの事実に思わず声を上げる。そしてその声に驚いた雄二が「俺が心配するのはおかしいのか!?」と言ってきたので素直にうなずく。
「だってお前、クラスメイト平然と捨て駒にするじゃん」
「作戦上必要な犠牲だな」
「明久を捨て駒以下扱いしてるじゃん」
「あいつはどうでもいいだろ」
「流石に酷くない!? 僕だって普通に人権があるんだからね!?」
「明久が人権を知っている、だと……!?」
「そこに驚くの雄二!? 流石に僕だって知っているからね!」
「……で、俺はお前の現状にツッコミを入れたらいいのか?」
明久の現状。それは
・転校してきた女子二人にしがみつかれている
・その周りをFFF団が囲んでいる
・処刑執行まで秒読み
「そして島田さんや姫路さんも第二陣として待機中……と。雄二、指示は?」
「いんや? 一人になったら捕まえて闇討ちしろとしか」
「思いっきりしてるじゃねぇか」
「いやそんなこと言ってないで助けて!?」
もはや明久の公開処刑はお家芸なので何も言う気が起きなくなっている。それよりなにより気になることがたくさんありすぎて構う気がしない。余裕なんてものもない。
本当、深く考えすぎなのかねとため息をついた俺は雄二に「そういや、秀吉は?」と聞くと「薫のところへ行ったんじゃないか?」と答えてくる。
「ふ~ん」
「というよりお前、少しは気を楽にしていこうぜ? 考えすぎなんだろうよ」
「確かにそうなんだけどよ……気にしないと不安でさ」
「明久がここにいるんだから何とかなるだろ。最悪根本とムッツリーニぐらいなら何とか始末できる」
「お、おう」
始末って……お前暗殺者かよ。
ここまでこの学園無法地帯だったか……? と今更な感想を抱きながら「いやーそれは最終手段だろ」と冷静に却下する。
というよりそれを真っ先に思い浮かべる雄二が本当に何があったといいたくなる。
……たぶん、霧島関連だろうけど。
ここまで変わる理由なんて、それ以外思いつかないし。そう結論付けた俺は「Aクラスの奴らには頑張ってもらいたいな。それに、高橋先生たちにも」と呟く。
「逃げたぞぉぉぉぉ!!」
「死んでたまるかぁ!」
「逃がさないわよアキ!」
「待ってください明久君!!」
「朱に交われば赤くなるとはよく言ったものですが、瑞樹は体が弱いのでは?」
「……愛の力じゃね?」
どうやって逃げ出せたのか分からないがクラスメイトのほとんどが消えたクラスで静かにアデーレと何事もなく会話していると、「今は豊橋という姓らしいですわね、流さん」と話しかけられたのでそちらに視線を向けてため息をつく。
「――そんなに明久が魅力的ですか、バカ専」
「あらジョークが効いてていいですわねその呼び名。まさに私を体現するにふさわしい」
「そっすね」
「誰です?」
アデールが俺にか本人のどちらかに聞いてきたその質問に対し「「自己紹介」」とシンクロして答え、一瞬視線が合ってすぐさま視線を逸らす。
「すいません。そうでしたね。確か……但野明美さんでしたか。ところで、お二人の息が合っていたようなのですが、どういった関係だったので?」
もしかしてリサーチなのだろうかと思いながら「「元幼馴染」」とまた意識せずにシンクロした。
「とはいっても学校が退学するまでずっと一緒で、帰る方向が大体一緒だったということぐらいですけど」
「なるほど。ではあちらの方は?」
そういって視線を向けた先にいる人物を俺たちも見てから、数年ぶりだというのにすらすらと交互に説明してしまった。
「あちらの方は長浜文華。お堅い一族の間で大切に育てられたからか、少女漫画のようなシチュエーションに弱い、純粋な方ですわ。こんな捻くれて追い出された奴と違って」
「で、俺はパーティの時にあったぐらいでそれほど面識はない。ただ、ダメ人間大好きなこいつとは昔から仲が良かったな」
「「……ッ!(メンチの切りあい)」」
「犬猿の仲、と」
と、ここまで会話に参加してくるのが珍しいことに気付いた俺は「なんだ、トラブルってセリーヌのことか?」と確認してみる。
それに対しメモをしていたアデールは書き終えてから「ええ」と悔しそうに答えた。
「大方この捻くれ超人のストレートな物言いに心が折れたのではありません? 私もそのせいで再起不能になった人たちを星の数ほど見てきましたから」
「いや、俺悪く無くね? 不正やってたあいつらが悪いだけじゃね?」
「不正暴く以外にも潰した人間何人いるのか忘れましたか?」
「興味ないし」
そうあっさり言うとアデールはため息をついて「これは……絶望的な状況のようです」と漏らした。
ちなみに。島田さんと姫路さん、そして秀吉と雄二は普通に戻ってきたのだが、それ以外の奴らは帰ってこず雄二曰く西村先生につかまり、全員生徒指導室で授業を受けることになったとのこと。
そして、セリーヌ、由美、留美の三人は寝込んだとかで学校に来ていません。原因俺だろうけど。
お読みいただきありがとうございました。