馬鹿と気が合うお調子者   作:末吉

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青空見上げて

 さぼりたい。

 

 現在の心情を一言で語るとしたらこれ以外に思い浮かばない。

 

 理由を挙げるとしたら学園がカオスになっているから。

 

 四日目という、もう少しで終わるというのに俺は学園長室に籠るという選択を一校時目からしようとしていた。

 

 だが、

 

「入ってくるんじゃないよクソガキ」

「おいちょっと待てよババァ!!」

 

 ババアに締め出されたのですぐにご破算に。

 ドアをバンバンたたいていると、向こう側から「少しは混ざれないのさね、まったく」と聞こえたので「うっせぇ!」と怒鳴ってその場を立ち去ることしかできなかった。

 

 

 そんなわけで屋上。

 さぼったので西村先生の説教があると思うと背筋が凍るが、俺は少しばかりのんびりしたくなった。

 

「はぁ……」

 

 寝転がって空を眺めながらため息をつく。本当、どうしたものかと考えて。

 大体、周りの奴が深く考えないのが悪いのだ。その行動によって派生する影響を考慮しない奴らが多すぎる。

 

 ……目の前の出来事に一生懸命な奴はなぜかまぶしく見えるが。その結果がどうなろうとも。

 

 これはやはり過去のせいなのだろうかと己に問いかけてみたが、その質問はむなしく消える。

 ハァ困った。答えが出ない。思わずため息が漏れる。

 

 人生というものに答えなんてない。自分で選んだ道を一歩一歩踏み出して満足することが納得いく答えである。

 俗にいう、後悔のない選択である。

 

 そんなことを考えて俺は不意に己に問いかける。

 

 果たして、本当に俺はあいつら(・・・・)のことが嫌いなのだろうか、と。

 

 確かに金持ちは嫌いである。だが、それとは関係なしにこの学園に来たあいつらのことを嫌う理由があるのだろうかと。

 大人になれば家を継ぎ、性格はどうあれ敷かれたレールを歩き続けていく道しかない。もっとも迷いのない道だが、それゆえ重圧は計り知れない。そんな奴らがこうして投げ打って来たというのに、俺は……。

 

「締まらねぇなぁ」

 

 思わずそんな言葉が漏れる。

 明久達との関係は楽しい。あんな風にバカやってそれでも意地通せる胆力に俺は素直に感心する。

 他人のためにあそこまで自分の体や知恵振り絞って何とかやって、出た被害なんて考えない。それは、俺だったら絶対にしない。

 

 だからこそ憧れるんだろうと分析しながらあいつらをふと思い返してみる。

 

 親に反抗してこっちに来た薫。わざわざ聞きつけて転校してきた由美と留美。明久目当てで来た二人は除外して、学園長についていけないからこちらに来たという五人。

 

 一度消えた身であるのにこうして集まって……くれたのかはなはだ疑問だが、まぁそこは考えないことにしておき。

 

 なんだかんだで俺も甘いのかもしれない。社会を渡ってきたのにどうにもここに来てから。

 流れる雲を見ながら、チャイムの音を聞きながらこれからのことを考えてみる。

 

『失敗しない人生なんてつまらんだろ』

 

 脳裏に昔言われた言葉が浮かぶ。

 

『若いうちに失敗してこそ価値があるってもんだ……年取ったらそれも忘れるけどな』

 

 懐かしいセリフだ。初めてあの人に会った時に言われた。

 

 瞼を閉じて思い出す。そして、あの人の――俺を最初に養子として引き取ってくれた人の――最期の笑顔を思い出して、ゆっくりと瞼を開ける。決意する。

 

 もう今回の件に関して考えるのはやめだ。出たとこ勝負にしよう。

 

 山積みの問題も面倒だ。とりあえずやるだけやるか。失敗してもなんとかできるだろう。

 

「………うし」

 

 飛び起きた俺は背伸びして空を見上げ、雲の切れ間から漏れている太陽の光を眺めてから屋上を出た。

 

 

 ……ま、この授業が終わるまで教室に戻る気はないがな!

 

 

 

「…………」

「……………」

「…………あの」

「……なんだ豊橋」

「確かに朝から授業出ずに屋上にいましたけど、なんで俺殴られたんですかね?」

「警告だ。次はないぞ」

「そうですか」

 

 現在は西村先生専用個室となっている生徒指導室。そんな中俺は頭の痛みに耐えながら正座し、西村先生は椅子に座って書類を書いていた。

 

「まぁお前が授業に出なかったのは学園長から事情を聴いているから特にいう気はない」

「俺、殴られ損ですよね」

「だが、言う気がないだけで態度で示しただけだ」

「言ってもらった方が良かったんですが!?」

「……その様子だと、大丈夫なようだな」

 

 その言葉に俺は一瞬言葉を詰まらせてから「まぁ」と返す。

 

「そうか。お前には色々とやってもらったからな。今回の件に関しては反省文は無しだ」

「ありがとうございます」

 

 そういって深々と頭を下げ――いわゆる土下座――て、顔を上げてから俺は思い出したように確認した。

 

「そういえば西村先生」

「なんだ」

「夏休みの補習ってどのくらいでしたっけ?」

「せいぜい二、三週間ぐらいだったはずだが」

「その補習、全部前倒しにはできません? 俺だけ」

「なぜだ」

「いやーそのー、学園長より前の後見人の墓参りが補習の日と被ってしまっていて」

「ふむ」

「俺が今疎遠になっている会社の社長だったので社員一同で行くことが決まっていたので、どうにかならないかなーと」

「そうか…………」

 

 俺の話を聞き目をつむって考え始める西村先生。

 

 ちなみに話は本当で、元息子だが盆の墓参りに参加するのは社長として跡を継いでいるからその報告の意味合いが強い。

 俺が行かないとそもそもの予定全部狂っちまうんだよな……とぼんやり考えて返事を待っていると「学園長に言ったのか?」と質問されたので「却下されましたけどね」と肩をすくめる。

 

「確かに例外を作ってしまうのはダメなんだが……お前は夏休みの補習をすべて前倒しにしてほしいと言っているんだな?」

「勿論です」

「なら、学園長に俺からも言っておこう。その返事次第では土曜日に残ってもらうことになる」

「ありがとうございます」

「別に構わん。生徒の頼みに応えるのは教師の役目だ」

 

 ……西村先生カッケー。

 俺は素直にそう思った。

 

 ちなみに明久達からの頼みならどうするか聞いたところ。

 

「ろくでもない頼みしかない奴らに応える気はない」

 

 にべもなく断るらしい。日頃の行いのせいだろうな。

 そう推測しながら生徒指導室を出た俺は、休み時間になったらAクラス行くかーと自分の教室に向かった。




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