「ついでに流の分も買ってきちまった」
「別にいいでしょ。元々あいつのお金だし、それに、あいつもクラスメイトだし」
「昨日は何もやってなかったが……」
雄二と島田は会話をしながら屋上まで階段を上り、ドアノブに手をかける。
その時。
『グファ! な、なんだこのマ』
『くらえっ!』
『くらうかっ!』
『ぐふっ!』
『吉井君!?』
そんな会話と同時にけたたましい音が聞こえたので、二人は何事かと思い屋上へ出るとそこに広がっていたのは。
「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ……オウェ」
フェンスにしなだれかかりながら吐いている流と、
「(ピクピクピク)」
エビフライを口にしたまま倒れている康太と、
「明久よ、しっかりするのじゃ!」
「大丈夫ですか吉井君!!」
「……まってよおじいちゃん……」
三途の川を渡りかけている明久と、それに必死に呼びかけている秀吉と瑞樹の姿があった。
「……何があったんだ?」
当然、突然のことに理解できない雄二は、そんな言葉を呟いたという。
雄二と島田が戻ってくる数分前。
俺は敷いたシートに全員座るよう促し、座ったのを見て姫路さんに言った。
「催促するようで悪いが、弁当はどこだ?」
「あ、それなら……」
「僕が代わりに持つことにしたんだよ。はい」
明久。お前本当にやさしい奴だなぁと思いながら、置かれたバックを注視する……って。
「バックだと!」
「どうしたの!?」
「いや……随分作ったなと思って」
「あぁ、それもそうだね」
「はい。張り切って作ってきました」
そう言って姫路さんがバックから取り出したのは……重箱?
「……張り切ってこのレベルって……すごいな」
「そうじゃの。よほどうれしかったんじゃろ」
「…………期待大」
俺達のそんな感想をよそに、姫路さんは重箱を開け、その中身が明らかになった。
『『おぉ!』』
その種類は豊富で、なんか全部まとめてみました感が否めないが、男子高校生にとっては嬉しいものだった。
当然、俺は何から食べようかなぁと思いながら視線をさまよわせていたが、その時になって弁当からおかしなにおいをかぎ取った。
…………なんで薬品みたいな匂いがするんだ?
その答えはすぐに証明された。
「ムッツリィーーニーーーー!?」
「つ、土屋君!?」
「ど、どうしたんじゃ一体!」
土屋がエビフライを口にした瞬間ぶっ倒れ、小刻みに震えだしたのだ。
………………まさか、本当に……?
嫌な予感が頭をよぎる。
確証を得るために恐る恐る近くにあった卵焼きを食べてみると。
「ゲフォ!」
「「流!?(豊橋!?)」」
……どうやら当たりだったらしく、俺の意識は一気にレッドゾーンへ逝った。
それでも一応だが、本当に一応だが、呼吸器に異常はなかったので激しく咳き込みながら、感想を言
「ゲホッ! ゲホッ! な、なんだこのマ」
「くらえっ!」
「くらうかっ!」
「ぐふっ!」
――――おうとしたところで明久がとどめを刺しに来たのか殴ろうとしたので、思わず弁当箱に入っていたおかずの一つを奴の口に入れてしまった。
やっちまった……そう思ったが、急に動いたせいか吐き気に襲われ、俺はフェンスの外へ吐いた。
そんな時に
「……なにがあったんだ?」
雄二の奴が飲み物を持ってきた。
「皆さんすみませんでした!」
「……にしても、姫路さんにもこんな弱点あったんだな」
「…………九死に一生を得る」
「それにしては恐ろしすぎじゃろ」
「まぁみんな。そこら辺にしようよ」
「うぅ……すみません……」
あの後。弁当は全員で分け合い意識がとびとびになりながら完食した俺達は、雄二が買ってきた飲み物(お釣りは返してもらった)で一息ついていた。
その時は全員が悲鳴やら何やら上げていて決して和やかなお食事シーンではないので、割愛しておく。
あー、死にかけた。昔薬品研究所で無理矢理薬品の匂いを覚えさせられたからな。そのおかげかもしれん。どこで何が役に立つか分かったもんじゃねぇな。
……特に嬉しいわけでもないが。
ちょっとブルーになっていると、島田が雄二に今後のことについて訊いていた。
「次はBクラス?」
「ああ」
その答えに、ここにいるメンバーのほとんどが首を傾げる。俺はというと、少し話を聞いていなかったのと、少しばかりブルーになっていたので反応できなかった。
「どうして? Aクラスが目標なんでしょ?」
「そこら辺は流に説明させたいんだが……お前、大丈夫か?」
「……ん? まぁ、なんとか」
「無理そうだな……仕方ない。ざっくりと説明すると、一騎打ちに持ち込みたいからBクラスを脅しに使うために戦う」
「なんで? Bクラスの人たちが了承するとは思えないんだけど」
「明久。試召戦争で負けたら設備はどうなるか知ってるか?」
「え、えーっと」
「よし。ムッツリーニ、ペンチ」
「なんで!?」
明久のバカな回答に雄二が即応対。本当、漫才に見えなくない光景だが、これ以上ブルーになってもいられないので口をはさむことにした。
「要はあれだろ? 設備交換したくなかったらAクラスと戦えってBクラスを脅して、それを盾にAクラスも脅すんだろ?」
「そういうことだ」
「脅しの二重構造じゃの」
「Aクラスを倒すんだ。これくらいしないとな」
いや。これでも少ない方だと思うんだが。
雄二と秀吉の会話を聞き俺はそう思ったが、別にいう事もないだろうと思い何も言わなかった。
「というわけだ。テスト終わったら逝って来い、明久」
「いやだ。今度こそ雄二が行けばいい」
使者の件でまたもめたが、結局明久が行く運命だったらしく、盛大な失敗セリフを吐いて逃げて行った。
テストが終わり放課後。
「言い訳を聞こうか」
「予想通りだ」
「昨日の二の舞だな」
ちょうど帰ろうとしたところにボロボロの明久が戻ってきて口論になりかけたが、雄二のパンチによって沈み、俺は何事もなく教室を出た。
「明日の作戦って何ぞや?」
「ああ。ちょっとお前を軸に据えている」
「ついに俺も戦えるのか」
「ビビったか?」
「まさか」
帰り道。昔仲が良かったからか一緒に帰っている雄二と明日についての話をしていた。
「だろうな。お前の事だ。一回戦えば扱えるんじゃないか?」
「そこは知らん。継続は力なりっていうからな。一回だけじゃどうしようもないかも」
「まぁそれはBクラス戦でやってもらうさ」
「気楽なもんだな」
ここで俺は昼休みに訊けなかったことを聞いてみた。
「勝算はどのくらいだ?」
どこのとは聞いていないのに、雄二は俺が聞きたいことが分かったのか自信がなさそうに答えた。
「……正直、六割あればいい方だ」
「見栄でもそれはすごいと思うぜ?」
「お前はどのくらいだと思う?」
「う~~ん。二割」
「低いな!」
「他の奴らの頑張り次第だし、お前の今の学力を鑑みた結果」
「…………聞いたのか、お前」
「まさか。昔を知っている人間がお前の変わり様で考えた結果だよ」
「へっ。勘当されてもその頭脳は衰えていないようだな」
「まぁな」
そんな軽口を叩きながら、昨日と同じように坂を降りたところで俺達は別れ、それぞれ帰路についた。
夜。
『社長。お疲れ様でした』
「あれぐらい自分でやれ」
『ですが社員の皆様も言っておりますよ。本当の社長はあなたしかしない、と』
「……まったく」
『ところで次の会議なのですが……』
「それはだな…………」
こんな感じで、気付けば深夜を回っていた。
ではまたしばらく消えます。