放課後。
ささっと荷物をまとめた俺は明久達と軽くあいさつを交わして学校を出てタクシーを拾う。行く先は勿論……
「帰ってください」
「駄目っすか? ちょっと由美に直接会って謝りたいんですが」
「寝込ませた張本人が何を言っているんですかねぇ……帰らせなさい」
『ハッ』
「っておい汚いぞ! SP使うなんて!!」
インターホン鳴らしたらSPに引きはがされ、少し離れたところでゴミのように投げられた。
「お前んちの常務横領中!!」
SPが離れて行った後にそう事実を叫んだ俺は、やっぱりだめかと頭を掻きながら制服が破れてないか確認しつつ気を取り直して別な家へ向かうためにタクシーをまた捕まえることにした。
そこから少しして、今度は留美の家……はスルーしてアデール達の家へ向かうことにした。
なんでスルーしたかって? 同じ目に遭いたくないから。
なんかあの二人にはメールで送ればいいかなと思いながら、彼女達が借りている木造平屋の一軒家の前にいる俺は「おーい!」と引き戸のガラスをたたきながら叫ぶ。
初めて二秒ぐらいですぐさまアデールが引き戸を開け、俺を見て驚いた。
「なぜあなたがここにいるんですか?」
「住所ぐらい知っていてもおかしくないだろ?」
「確かにあなたなら違和感ありませんが……何か用ですか?」
これから夕食でも作るのか制服の上にエプロンを着ているアデールに対し、俺は「夕飯時に悪いね」と謝ってから伝言を託した。
「セリーヌに伝えといて。邪険に扱うようになるべくしないから学校に来なよって」
「……一体どういう風の吹き回しですか? 昨日まであれだけ貶しまくっていたというのに」
「うん? 青春ってのをやってみたくなったんだよ。それじゃだめか?」
「出来の悪いウソですね……分かりました。うまく伝えておきます」
「おう頼んだー……ところでさ、パスポートの期限大丈夫?」
「ええ。言われなくても問題ありません」
ま、そんなことは杞憂だったか。そう思った俺は「じゃ、また明日」と手を振って駆けだした。
で、帰宅後。
とりあえず二人にメールを送った俺はこれからのことをソファに寝転がりながら考えてみる。
これから。というのはまぁ極聖学園との勝負の話何だが……ぶっちゃけていえば五人平均の中で一人零点が確定しているので勝負にはなりそうである。
ただ、向こう側のレポートを見た限り得意な教科を重点的に押し上げていくことに並行して自分の意志で勉強させているのが肝らしく、見た感じでは印象はいい。
対しこちらに来ている奴らは元々が頭一つ抜けているので微々たる成長しか期待できない。このままいくと負けてしまいそうになる気もする。レポート見ても楽しいだけで勉強についてはそれなりにし書かれていない。
康太はなぜか勉強そっちのけで制服について散々書いてるが。あいつ鼻血出しまくってるなんて工藤のレポートにあったんだが。何で退学になってないのか不思議だ。
最終的な成績を見るのは留学する前に受けた総合テストより少し難しいテストを文科省に作ってもらい、それの平均点が留学する前より高い方の勝ち。
ちなみに向こうから来た奴らは九十ぐらいで、こちらは60も満たない。主に明久と康太のせいである。
なので相当向こうで足引っ張ってもらわないといけないことが前提の人選……にしたはずなのだが。
「霧島が満点を取ることはもう予想できるとして、明久はリタイア。ここまでは簡単だな……」
あえて口に出して確定情報だと言い聞かせ残り三人について考える。
腐ってもAクラスにいる工藤も点数は九十五を超えるだろう。根本は九十行くかもしれない。
問題は康太。あいつの点数がどう伸びていくのか俺でも予想がつかない。その点数いかんでは負ける可能性がある。
「やべぇなこりゃ。四人の予想平均時点で71点ぐらいって……マジでこれ負けるぞ」
冷静に計算してみて戦慄が走る。考えてみればバカを送り込んだ反動が結果的に自分の首を絞めている。
これで康太が零点になったとしたら万々歳なのだが、ここまで何の音沙汰もないのでテストを普通に受けるのだろう。
「つぅかちょっと待て。最悪こっちに来てる奴等がテストの時間に間に合わなくて零点になった場合……」
最悪な可能性が浮かんだので、風呂入ってから寝ることにした。