馬鹿と気が合うお調子者   作:末吉

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休日の話その3
会談


 留学生騒動が終わった週末。

 土曜日は一人夕方まで補習して帰宅し、日曜日。

 

 俺はスーツを着て喫茶店でコーヒーを飲んでいた。

 

「お、お待たせ」

「待ち合わせ時間に間に合っただけで別に」

 

 そっけなく答えながらコーヒーをすすっていると、彼女は隣の席に座り「アイスコーヒー一つ」と注文する。

 

 それが来るまでの間に話を終わらせようと思ったが、社会人としてどうかと思ったのでまずは社交辞令として「久し振り」と挨拶する。

 

「ええ、久し振り。退学してからアメリカに渡ったという話を聞いて以降音信不通になったから……心配で」

「ああそう。変わらんね、夏木さん」

「そういう流君こそ相変わらずの不機嫌さね……でもまさか本当に遇ってくれると思わなかったわ。お姉さん嬉しい♪」

「おうペド喜ぶなや」

「さらっとひどい返し!?」

「それじゃ法律上未成年男子付け狙うのやめろ」

「言い方が悪意しかない!?」

 

 何やら大真面目にショックを受けている様子だったので、「まぁ冗談ですけど」と一言添える。

 

 すると彼女は「冗談に聞こえないよ……」と力なく漏らしてから頼んだアイスコーヒーを飲んで、「はぁー」とため息を漏らす。

 

「敗けちゃったね。文月学園ってあんなに個性の強い生徒ばかりなの?」

「まぁ欲望に忠実なやつらが多いかな。感染速度は疫病をも凌ぐと思うぜ」

「そっか……それじゃもとから勝ち目なんてなかったのか……」

 

 残念そうな表情を浮かべながらコップに視線を落としてそういうので、俺は気になることを聞いた。

 

「なぁ、諦めてなかったのか?」

 

 その質問に対し彼女は一瞬動きを止めたが、「……うん」と肯定した。

 

「マジかよ」

「重い女だと思うでしょ? でも、それだけ本気なの」

「未成年だぜ?」

「言い方悪いけど、独占欲の暴走」

「なんだかなぁ……」

 

 コーヒーカップに口をつけて飲み干した俺は、表現しがたい感情を抱きながら天井を見上げる。

 

 と、ここで夏木さんの方から衝撃的な発言が飛び出した。

 

「私言っておくけど、まだ二十歳じゃないからね?」

「あ? ……気のせいか? 二十歳じゃないからって聞こえた気がしたんだが」

「気のせいでもないから……その様子だと、私のこと二十歳以上に見えてたんだ~」

「……」

 

 ジト目を向けてきたのが分かった俺は、視線を合わせないようにそっぽをむいてコーヒーを啜る。

 いやだって知るわけないじゃん夏木さんの年齢。年上だという推測しかしなかったし、それ以外にそう言う人がいるという認識しかする気もなかったから気になんて全くしなかったし。

 

 そう言い訳がましく漏らすと、彼女はテーブルに頭を打ち付けた。

 

「そ、そんな~」

「人間そんなもんだと思うけどよ」

「薄情すぎるわよ流君」

「だって俺だし」

「それで納得できるのも何か違う気がするんだけどね……」

 

 それから少し俺達は黙ったが、「で? この落とし前どうつけるんだよ?」とやっと本題に入った。

 

「私の全面的暴走ってことでこのままじゃ下ろされるのよね。そうして新しくなった学園長が上っ面だけの謝罪して終わり……そんなところかしら」

「自業自得だから擁護できねぇな」

「これで私も晴れて家から解放されるんだけど……」

 

 ん?

 確かにこんなことをして家に傷をつけたのだから家から追い出される可能性は高いだろうが、この言い方だとまるで……。

 

「夏木さんや。あんた、まさかこの展開を期待してたわけじゃないだろうな?」

「あ、やっぱりここまで言えば流君分かっちゃう? 実はそうなの」

 

 ガン。今度は俺がテーブルに頭を打ち付ける番だった。

 なんで笑顔でそういうことさらっと言いやがるんだよ。決意とか以前に家に愛着ないのかよ。

 というか、そんな感想よりもっと大事なことがあるなこの流れだと。

 そう思考がまとまったのと、彼女がその話を振ってきたのはほぼ同時だった。

 

「私実家暮らしだったから住む場所無くなるのよね、きっと。しかも大学中退で学園の経営権もなくなってあるのは私名義の貯金と通帳と印鑑と服と免許ぐらいしか残らない……それでさ、流君」

「しらねぇよ。ここまで持ってこれたなら最後まで自分で決めておけよ。なんで俺なんだよ」

「流君が一番信用できるから。私の初恋、まだ続いてるんだよ?」

「っ」

 

 あざとく瞳を潤ませながらそう頼み込んできたので正直にべもなく断りたかったが、そもそもここでそれを言う理由ってなんだ……って疑問が浮かんで状況だけで答えが予測できた俺は空になったコーヒーカップを受け皿に置いてからため息をつき、「つまり、俺がこの出会いを了承した時点で目論見自体は成功していた、と。そういう訳でいいのか、夏木さん?」と確認する。

 

「いやー正直この状況が完成しても二割ぐらいかなって思ってたんだけど、なんか昔よりだいぶ変わっていたことに気付いたから五割に上がってる」

「予測としては悪くねぇ数字だな。大体あってるんじゃね?」

「で、どうなの? 私がそんな状況になったら助けてくれる?」

「…………」

 

 リスクなどを頭の中の天秤ではかってみたが、その状況になって俺のメリットがない。

 かといって夏木さんが他に頼る人がいるかと考えると、それは否定できそうだ。

 

 俺は確認のために彼女に聞いた。

 

「家を捨てて一般人として、学歴も中途半端な富裕層になりにくいステータスで社会に出る気。そういう覚悟でいいのか?」

「うん。それぐらいの覚悟がなきゃ、こんなことしないよ」

「……はぁ。自身の政略結婚として残されるという選択肢ぐらいは何とかしてるのか?」

「あ、それもあったね」

「おい」

 

 気が付いてなかったような声をあげたので睨むと、「しょうがないじゃん。私今までそんな話両親からされなかったんだから」と弁明した。

 それ、可能性の排除させてこういうことになった場合に水面下で進めようって魂胆じゃね? それはあるかも。なんて冗談めかして言ってから、二人してため息をつく。

 

「おいどうすんだよ。綻び出たぞ」

「一から十まで揺るがない計画なんてないでしょ。流君だってずれたら修正するでしょ?」

「予め伴うずれは事前に考えておく。それでも起こる想定外はみんなで修正するかな」

「えーそこまで考えるの? ……やっぱり流君は凄い」

「はいはい。そんなことはおいといて、その可能性を排除できたと仮定してから助けるかどうかに関して答えるぞ」

「え、本当!?」

「結論から言うと、俺が表だって助ける気はない。住む場所ぐらいは不動産を紹介するが、そこから先は自分で何とかしろ」

 

 そういうと彼女は不満げだったが、「まぁ住む場所さえ確保するのが難しいし、その手助けをしてくれるなら文句は言えないね」と納得した。

 

「因みにその不動産、連帯保証人要らない代わりに全部自己責任だからうっかりで億単位の弁償なんてあり得るぞ」

「怖いそれ。裏企業じゃないの?」

「普通に上場してる」

「何でそんなところと繋がりあるの。アメリカ行ってから何があったの?」

「別によくねそんなこと。今はそっちの話だろ……というか、もう話終わっただろ」

「終わってない」

「?」

 

 これ以上話す内容があるのだろうかと夏木さんの横顔を見ていると、こちらに視線を向けてきて「もし婚約の話が持ち上がって私が嫌で流君に相談したら、助けてくれる?」と怯えた顔で可能性の高そうな質問をして来た。

 俺は少し考えてから、「状況による」と答えた。

 

「基本的に他人の家に干渉する気なんて俺にはない。だが、それが俺のテリトリー

にまで及ぶのなら話は別だ。仕方ないから助ける」

 

 だからといって故意にやりやがったら一族郎党破滅させるぞ。と付け足すのを忘れずに。

 その答えに彼女は一転して嬉しそうな表情を浮かべ、「そっか。それなら安心したよ」と答えた。

 

「と、もういいな。これ以上は雑談にしかならないだろうし、本題も終わったし。俺は帰る」

「えーもう?」

「用件が終わったら帰りたいんだよ。基本的にあんたたちとの話し合いは」

 

 そう言って俺はコーヒー代をテーブルにおき、制止の声も聞かずに店を出た。

 

 

 

 

「で、お兄様はなぜあの学園長とお茶をしていたのでしょうか?」

「スーツまで着て喫茶店は目立ちます流様」

「その前にお前ら。何で店を出た俺を捕まえて路地裏に連れ込む? 警察にでも厄介になりたいのか?」

 

 ーー店を出てしばらく歩いていたら留美と由美に路地裏に連れ込まれ尋問を受けた。着実に染まってる気がするのは気のせいだろうか。

 

 なんて考えながら答えが来るのを待っていると、「偶々です」と言った。

 

「素直に信じられると思うか?」

「お兄様のことですから信じてくれないかと思いますが、ウインドウショッピングを二人でしていたところを偶々通りかかったのです」

「本当です流様」

 

 留美の証言を肯定する由美。

 いまいち信用出来ないが、とりあえずそういうことだと飲み込んで、路地裏に連れ込まれた理由……はなんとなく想像できたので、由美に「そういえば少し前に拳銃二挺掏って一挺だけ返したんだが、もう一挺はどうしたらいい?」と質問する。

 

「あ、それは郵送で返却していただければ……」

「ちょっとお兄様。なぜSPの拳銃を掏る何て状況が発生したのでしょうか?」

「俺からはなんとも」

 

 そう言って肩を竦めると、留美は由美の方を見たので「またな」と路地裏から出て帰ることにした。




次から五巻になります……何か忘れてましたかね?

まぁいいです。ご愛読ありがとうございます。
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