時間を飛ばして放課後。
他の奴らの帰宅時間に合わせて帰るのが面倒なので時間をずらすという行為を明久たちに付き合ってもらっていたところ、興味を示したのか長浜、島田、姫路、そして昼に話を聞いていたから強硬的に居座った留美、由美、アミエ姉妹に薫。
ひとまず「姫路さん寄り道できないんじゃ」と質問する。
「えっと、明久君たちが帰ろうとしていないので気になりまして」
「そうよ。あんた達と但野さんが残ってるなんて不思議じゃない」
……どうやらついていきたいらしい。拡大解釈すればそういうことだろう。
で、長浜は但野に詰め寄っていた。
「どうして明久様と一緒にお待ちしているのですか、明美さん」
「心配性な家の事情ですわ、別段今日明久様をどうこうする気はありません。勉強に集中してほしいですからね」
余裕のある態度でそう返事をした彼女に「それでしたら」と納得した長浜は俺に向き直り「どうか明久様の勉強を見てください」と恭しく頭を下げてから一人で教室を出て行った。
手を振って見送ってから、視線が鬱陶しいので立ち上がり「俺達も行くか。あ、悪いけど誘ってないやつに教えるほど俺優しくないからな?」と忠告してから教室を出た。
「ねぇ流。厳しすぎない?」
「あん? 俺にとってはあれが普通だよ。誰彼構わず教えられるわけないだろ。どこで聞き耳たてられているかわからねぇのに」
「……まぁ明久よ。流にも事情があるし、そこは口を出さなくてもいいじゃろ」
「……俺達より大人びているから」
「それもそうなんだけどさ」
何やら納得のいかない様子。それに但野は諭すように教えた。
「明久様はまだピンと来ないでしょうが、個人情報というのは、とてもデリケートなのですわ。その人の何かを知っている人が悪用する可能性がありますからね」
「……へ、へぇ。そ、そういわれれば、そうだね」
「どうかしましたか明久様?」
「べ、別に何でもないよ但野さん!」
――どうやら誰かを脅したことを思い出したようだ。まぁこの学園でまともな思考で戦えるならFクラスにいないか。
ちらりと後ろを見る。露骨に尾行されている感じもせず、また見守る視線を感じていないのであいつらは来ていないだろう。
ぶっちゃけあいつらが全力で調べ上げたらすぐに判明する。それをやらないのは権力を振りかざしてまで知りたいなんて考えるほど腐ってはいないだろうし、親がそれを了承しないのもあるだろう。だからといってここまで隠しておいて自分から教える気なんてそれほどないが。
青春をしたくなったのは学校内だからであって、校外でかかわることはまだ抵抗感がある。
そんなことを考えながら坂道を大人しく下り、右に曲がってから少し歩いて「ここだ」と指をさす。
「え、こんな近かったの?」
「学園と目と鼻の先ではないか」
「……意外と普通」
三人の感想はこう。どこか広い土地を所有していると思ったのだろうか。土地の少ないこの国で新しく広い土地を買おうとしたら膨大な金がかかるんだが。
探せばあるんだろうが、正直そんな土地の使い道がないからいらねぇなと思っていると、但野はこの場所を記憶するように頷きながら「こんなところでしたか。これなら普通に生活しても分かりにくいですわね」と呟き「ありがとうございますわ頑固忍者」というと明久に向き直ってからスカートの端をつかんで広げ「それではご機嫌よう明久様方」と頭を下げた。
「あれ、もう帰るんだ?」
「ええ。目的は達しましたし、家に帰ってやることもありますから」
「大変じゃの、名家というのは」
「慣れましたわ、木下さん。それでは」
そういうと今度こそ歩き出したので、見送ることもせずに「さっさと入っていいぞ」と言いながら玄関へ入った。
とりあえず自分が生活している部屋に案内した俺は、弁当箱を流し台に置いてからお茶を人数分用意してテーブルを囲むように座らせた明久たちに一つずつ置いておく。
「ほれ」
「あ、ありがと」
「……ありがと」
「おお、すまんの」
飲み物を行き渡らせてお盆をキッチンへ置いた俺は「じゃ、勉強するか」と言いながら空いている場所に座った。色々湧き出ているであろう疑問を押さえつける形で。
明久達に二時間ほど勉強を教えた。明久は社会系に絞って勉強しているとのことだったので、テスト範囲の中で重要そうな単語の穴あき問題を五分で作成し、解かせた。秀吉や康太には他の教科を教えながら。
玲さん効果か勉強の内容が頭に入っているようでまぁまぁの正答率だった。これは他の教科を教えておけば総合教科の底上げにもなるかと考えた俺は、暗記しても問題なさそうな他の教科にシフト。それをやっていると康太たちもやってほしいというので最終的に三人同じ教科を教えることに。
そんなこんなで二時間が終わった。まだ時間に余裕はあるが、流石に二日連続で遅くなると問題になるだろうということと、キリがよかったので解散することに。
「ありがとの、流」
「……勉強が捗った」
「本当にありがとね、流。わざわざ僕の為に」
「いいっての。お前が一人でちゃんと勉強できるか不安だったし」
「そんなに信用ない!?」
「静かにせんか明久。誰かが住んでたら迷惑じゃぞ」
「あそっか……じゃ、ありがとね」
「ん、どういたしまして。ついでだから秀吉送ってくぞ。俺も買い物あるし」
「む。別にわしはいらんのじゃが」
昨日もそうだったが、やはり性別を自覚しているからか、一人で帰りたいらしい。
まぁそこまで遠くないかと彼の家の場所を思い出し、「そりゃそうか。ま、気を付けて帰れよお前ら。あと、他言無用を忘れるなよ」と忠告しておく。
「……大丈夫」
「うむ。友達の約束を違えるわけにはいかんからの」
「だ、大丈夫」
……これは無理そうだな。
秀吉以外の二人が不安要素でしかない爆弾だという事実に泣きたくなりながら、「じゃぁな」とアパートの入り口で三人を見送った。
それから少しして買い物へ向かった。
誓約書とか書かせない辺りまだ信頼しようとしているのかもしれませんね