魔法少女リリカルなのはNotViVid   作:炎の妖精

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激しく原作崩壊注意。
どのぐらい崩壊してるというと、この話で打ち切れるレベルで崩壊してます、多分。
アインハルトさんがちょろいですので注意。
ジークリンデさんがKYですので注意。


3話 過去と現在

「んーと、隣の席の……インスタント。ストラトスさんだっけ?席変わるまでの間だけどよろしく」

 

「ハイディ・アインハルト・ストラトス・イングヴァルトです。長いのでストラトスでいいです。こちらこそ、短い間でしょうがよろしくお願いします、コバルトさん」

 

俺がアインハルトと初めて言葉を交わしたのが、初等科二年に上がった時だっけ。

あの頃のアインハルトは俺を含め、誰に対しても最低限の会話しかせず、笑うどころか表情すら変えなかったっけ。

 

「ストラトスさん。この後私のお家で皆様とお茶会をしますの。ストラトスさんも如何ですか?」

 

「申し訳ありません。トレーニングがありますので……」

 

「そ、そうですか。ならば、またの機会に」

 

クラスメイツの女子から、遊びに誘われようともトレーニング一筋で、己を鍛えること以外に興味がなかったようで断っていたな。

一定の距離感を保ち、特定のラインを踏ませようとしない。話しかけてくれば、必要最低限のやり取りしかせず。

かく言う俺も、隣の席だからといって積極的に話しかけようともせず、他の人と同様ただのクラスメイトでしかなかった。

アインハルトがクラスの中で浮いた存在になるのは遅くなかった。

 

 

 

 

そんな、ただの隣の席の人関係が続いたある日のことだった。

日付が変わりかねない真夜中。コンビニでコロ○ロコミックを買った帰り道……昼間とは違い、人気のない公園を

通っていた俺。

早く帰って煎餅でも食いながら、コ○コロを読みたかったので急ぎ足で駆け抜けていた……のだが、妙な音が聞こえてきたのだった。

音がする方向は恐らく、公園の隅っこ。こんな時間に、そんな場所で、何をしているのかと妙に気になった俺は音のする場所に向かった。

近づくにつれ、音のボリュームが上がっていく。人によっては聞きなれているかもしれない。俺にとってはまぁ、馴染みがあるっちゃある。その音の正体は木に吊し上げたサンドバッグに打ち込む打撃音だった。

 

「(あぁ、なんだ。誰かが特訓してるだけか)」

 

別に珍しくもなんともなかったなーと。拍子抜けをした気分だった。

さっさ、帰ってざらめ煎餅でも食べながらコロ○ロを読もうと、踵を返そうとした――――が、打ち込んでいる人物を見て、俺は踵の方向を元に戻した。

 

「(……スト……ストア?ストなんとかじゃん……)」

 

筋肉質のお兄さんが鍛えてるんだろうと、自分の中で決めつけていたばかりに、驚きだった。

どうせ、レアレティ最低のものを引くんだろうと思って試しに引いたら、最高級レアを引いてしまった。それ程だった。

まさかのクラスメイト。隣の席の人。ぼっち街道を貫いてる人……etc。本人が聞いたら怒りそうな肩書を脳内で浮かべながら、彼女の打ち込むさまを見続ける。

 

「(へぇ……綺麗な打ち筋だな。いや、と言うより完成しているのか?)」

 

傍から見てもスプラトゥーンのフォームは整っているのがわかる。普段の様子とクラスメイトの話からわかってはいたが、俺達の年からしたらずば抜けてセンスが高いようだ。

にしても、こーんな補導されかねない時間に特訓たぁ……余程トレーニングが好きなのか。

うちのクラスのいいんちょが言ってたな。お友達になるには私も強くなればいいのかな……って。なぜそれを俺に言ってきたかわからんが。

そういうお悩み相談はもっと親しい友人か先生にでもすればいいと思う。

……それにしても。

 

「(ほんと~に笑わねーな)」

 

俺が彼女に感じた印象はいつもつまんなそーにしてんな。だった。

いや、ただの隣の席の人でしかない俺が感じただけであるので、内心実は

 

 

 

 

『ウッヒョー!!サンドバッグ殴るのたのすぃいいいいいいいいいい!!』

 

とかフィーバーしながら殴っているという説も100%なくもない。

この説が宝くじで1等を引くくらいの確率であるとしても、今のストライクは焦ってるように見える。

トレーニングとか自分を追い詰めている時にも、楽しそうにする人はその打ち込んでいる物に対し、本当に楽しんでいる証拠だと思う。

だが、決死の表情で続ける彼女は……とても楽しんでいるてか、好きでやってるようには見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人には人生の分岐点というのが存在すると聞いたことがある。

それは当然、そんなタイミングなんて知ることは難しいだろう。だが、後にあの頃のアレが自分の人生のターニングポイントだったんだろうな……とわかることはあるはずだ。

少なくとも、ここが俺の人生のターニングポイントなのは間違いないはずだ。

 

「よっ、こんな夜遅くに精が出るねぇ。お前さん、いつも鍛えてばっかいるのな」

 

アインハルトに話しかけたこの日から……俺の新しい人生が始まったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと……ここをこうして……こうですか?」

 

「いや、もうちょっと力抑えろ。確かに力があるほうが良いとは言ったが、そんなに激しくかき混ぜたら……」

 

そして現在。

あれから3年ちょっとか……人って本当に変わるもんなんだな。

あの覇王流が全て。鍛えること以外には興味ありません、強者(きょうしゃ)強者(つわもの)!!実力者!!!上記の物は私の所に来なさい。3度の飯よりトレーニングのアインハルトが……

 

 

 

「ひゃっ!……あう、生クリームが顔にかかってしまいました」

 

「言わんこっちゃない。ほれ、じっとしてろ」

 

真剣な表情でケーキ作りしてるなんて誰が思うだろうか。誰も思わんだろう。

しかも、間抜けに泡立てに失敗し生クリームを顔に付着させてしまい、異性に顔を拭かれるなんて。

 

「も、もう一回です。シアンさん、今一度チャンスを!」

 

「あぁ。今度は卵を割るところからだな。……カラが入らないようにだぞ?」

 

「甘く見ては困りますね。以前の私と同じように見てもらっては困ります」

 

最初の頃は力が入りすぎて、卵を砕きまくっていたからな。それと比べたら、随分マシにはなっただろう。

卵を持ち、深呼吸。

 

「アインハルト・ストラトス……参ります!」

 

テーブルの上で卵にひびをいれ、そのひびが入った部分から指を入れ……卵を割った。

 

「……やりました!やりましたよ!シアンさん。見ました?これが覇王流です!!」

 

「卵割るだけなのに覇王流があるのか」

 

つーか、その覇王流式卵割りを教えたのは俺なんだけど。

綺麗に卵を割っただけでこのはしゃぎよう。

……今のアインハルト(コイツ)を昔のアインハルト(コイツ)が見たら、気絶するんじゃなかろうか。

それほどの豹変っぷりだし。……いや、ひょっとしたらこのどこか抜けた感じがアインハルトの素なのかもしれないが……

 

「では次の工程に……シアンさん?どうなさいました?」

 

今と昔を重ねるように見ていると、可愛らしいデフォルメされた猫の絵が大きくプリントされているエプロンを着て、普段のツインテールではなく、髪を後ろに束ねているアインハルトが不思議そうにこっちを見ていた。

……むむっ、意識しないようにしていたが、こうしてみるとやっぱコイツかなりかわいいよな。

俺の前だとこうして、色んな表情を見せてくれるようになっているみたいだが、それ以外の人物。クラスメイト相手だと、どこかお堅い感じがするんだよな。

それでも、以前よりは何十倍も取っつきやすくなってはいるだろうけど。

 

「アインハルトだよな?」

 

「……?えぇ、アインハルトですけど……私の名前、ちゃんと覚えていたんですね」

 

「アインハルト・ストラトスさん?」

 

「……あの、せめてさん付けはやめてください。シアンさんからさん付けされると、距離を置かれてしまったように思えて、悲しくなってしまいます……」

 

さん付けしただけで、途端に肩を落とししょんぼりするアインハルト。

………………中身が入れ替わったわけでもないよなー。

 

「急にどうかしました……?それとも、私が知らずに貴方の気に障るようなことでも……」

 

「そういうわけじゃないから心配するなって。アレだよ。覚えてるか?一度俺と本気でガチった時のこと」

 

「…………えぇ。覚えています。忘れるはずがありません。あの出来事があったからこそ、今の私がいるのですから……」

 

一度作業を中止し、アインハルトはエプロンを脱ぎ、束ねていたリボンを外して髪を下ろした。

俺達はリビングのソファーに座る。……対面ではなく隣り合って。

 

「……」

 

立ち上がって、対面の方に座る。

 

「むっ……」

 

アインハルトも俺に習ってこっちの方に座ってきた。

俺、また移動する。

 

「……ふっ!」

 

今度は素早くこちらに座ってくる。

俺氏、アインハルトが座る前に向こう側に座る。

 

「なっ……」

 

立ち上がる、座る。立ち上がる、座る。立って、座る。立って、座る。STAND UP、SIT DOWN。STAND UP、SIT DOWN。

そんな不毛なやり取りを続けていたら……

 

 

 

 

 

「……ぐすっ」

 

涙目で今にも涙をこぼしそうな覇王っ娘が出来上がりました。

 

「……!」

 

やばいと思った俺は全力でアインハルトの横に座る。

コイツをいじるのは好きだが、泣かれるのはまた話が別だ。何時の時代だって男は女の涙に弱いと思うんだ……

アインハルトにハンカチを差し出し、それで軽く目元を拭うと、俺の腕をやんわりと両腕で組んできた。

…………どうしよう。泣く一歩手前まで行くとは思わなかった。こ、こういう時はどうしたらいいんですか!?

と、取り敢えず空いている腕で頭を撫でてみよう……ぶっ飛ばされたりしないよね?

 

「…………っ」

 

ぶっ飛ばされはしなかったが、抱きしめてくる力が少し強まった。

……良かった。対応は間違えてなかったみたいだ。

にしても、トレーニング一筋だった割にはアインハルトの髪、超サラッサラだな。なんか良い匂いもするし……って、俺は変態か!女泣かせさせて、頭撫でて、そんでもって匂い堪能するとか……うん、変態じゃん。

撫でるのをやめようと、頭に置いた手をどかそうと――――

 

「あの……やめないで。もっと撫でて下さい……」

 

できませんでした。顔を俺の腕に押し付けたまま、か細い声で言われてしまったのだ。

同意の元なら……変態じゃないよね?通報されないよね?

ていうか、なんでこうなった。俺たち、さっきまでケーキ作ってたよね?なぜこうなったし……って、俺のせいじゃん。

 

 

 

「あの時は……なんてデリカシーのない人だろうと思いました」

 

そのままぽつぽつと喋り始めた。

 

「私がトレーニングに打ち込む理由を聞いてきたと思ったら、くだらないと否定してきて」

 

「あー……うん。今から思うと自分でもデリカシー無いと思うわ」

 

急にぽっと出てきて、自分の全てだと思ってたことを否定。

俺がアインハルトの立場だったら、そいつぶっ○してたな。

 

「頭の中が真っ白になりました。何も知らないくせに、どうしてそんなことを言えるのだろう……私は相手が素人なのかもしれないのに、思わず手が出ていました」

 

武術を嗜む立場として、素人相手に手を出すのはNGだろう。

ぶっちゃけ、悪いのはどう考えても俺のほうであり、アインハルトに否は一切ない。だが、それで俺が怪我でもしたら、世間の目からしたら悪いのはアインハルトになる。先に手を出すのが悪いとなっているから。

でもまぁ……

 

「素人ではなかったんだよなぁ」

 

そう。俺もそれ程ではないにしても、武術には触れていた。

一般人には反応するのが厳しいであろう、アインハルトの拳を俺は反射的に避けたのだった。

 

「驚きましたよ。今まで、武術に縁のなさそうな同級生が覇王の子孫である私の一撃を避けたのですから」

 

「まー、うん。不用意に目立って、管理局に勧誘されるのも嫌だったしな」

 

もっとも、俺が戦うのを避ける主な理由は痛いのが嫌いだからだけど。

コイツそこそこできる奴じゃね?なんて思われて、強そうな奴に挑まれるのは極力避けていきたい。

軽く手合わせとか、特訓に付き合うみたいのは別にいいんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜ……なぜ当たらないんですか!?私はかつて無いほどの焦りを感じていた。

いつもの様に、人気がなくなった公園でトレーニングをしていたら、隣の席の男子生徒、コバルトさんと偶然出会いました。

何気なく彼に聞かれた、私がトレーニングに励む理由。

覇王流(カイザーアーツ)について、私の体質、覇王の子孫だということも。

聞かれたとはいえ、貴方には関係ない。こう答えることもできていたはずです。……ですが、なぜでしょうか。自分でもわかりませんが、私は素直に話していました。

当時の私に言っておいて置きたいです。良く話してくれました…と。もし、シアンさんに話さずにいたら、きっと私たちの関係が深まることもなく日々を過ごしていたでしょう。

 

「ちょ、ちょっと待って。タンマ、タンマ。落ち着いて、ストレートさん」

 

……そういえば、この頃からシアンさんは私の名前を呼び間違えていたんですよね……シアンさんのことですから、わざと言い間違えてるのでしょうけど。

拳、蹴り、突き、手を抜いているつもりなんて全くありませんでしたが、のらりくらりと避けられてしまっています。

今では、そこまで気にもしていませんが、その時の私は覇王流(カイザーアーツ)を否定されたこともあり、シアンさんの態度が非情に癪に障り……まだ未完成のアレを使ってしまいました。

 

 

 

「私の名前は……」

 

覇王!

 

「ハイディ・アインハルト・ストラトス・イングヴァルドです!!」

 

断空拳!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

足から練った力を拳に乗らせ、相手に叩きつける技法。

今までは空を切っていた感覚のみでしたが、今度はたしかな手応えを感じることができました。

……これが覇王流(カイザーアーツ)です。受け継がれた力……私の全て。

どうですか……コバルトさん。貴方が否定した私の――――!?

 

拳風で生じた風圧が晴れ……私の視界に入ったのは

 

 

 

「あー、びっくりした……ヒヤッとしたわ」

 

片手の手のひらで、私の拳を掴むコバルトさんが何事もない様子で立っていました……

そ、そんな……断空拳が……覇王流(カイザーアーツ)があっさりと止められ……

 

「……って、いてぇ……これだから痛いのは嫌いなんだ。さて、それじゃ今度はこっちのターンとさせてもらうぜ」

 

初めて構えを取った……!今までと雰囲気がまるで違う!!

不味い!防御態勢を――――

 

「……無駄だ。全てを……貫く」

 

 

 

『衝撃掌!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつけば、私は仰向けになって倒れていた。

……どれくらい時間が経ったのでしょうか。それとも……さっきのは夢?

雲ひとつない夜空を眺めていると、この状況が現実か、夢か。どちらが正しいのかわからなくなってくるほど……空はとても綺麗で。

 

「あーあ、コロ○ロがボロボロになっちったよ……今から買いに行くのもめんどいよなぁ……」

 

すぐ近くから聞こえるのんびりとした声。……コバルトさんの声だ。

現実……ですね。私がコバルトさんに挑み……手も足も出ず……敗北した。

あぁ、やっぱり私は弱い……こんなザマではまた――――

 

「守ることは……できない」

 

思わず涙が出てしまう。顔を腕で覆うが涙が止まる様子はない。

クラウスの悲願も……このままでは達成することもままならない。このままでは……また誰も守ることは……

 

「なぁ、そんなにご先祖様の悲願とやらが重要なのか?」

 

「……言ったはずです。覇王流(カイザーアーツ)は私の全てであり……存在理由です」

 

顔を覆ったまま、私は答える。

 

「全て……ね。でもさ、それってお前さんの記憶の中でのクラウス……さんのことだろ?」

 

「はい……この身には覇王の記憶が宿っていますから」

 

「じゃぁ、別にそっちが叶える必要ないんじゃねーの?」

 

「…………なぜ、そう思うのですか?」

 

腕をどけ、彼を見る……いえ、睨んでしまう。彼が発言する度に、私の心がざわつく。

 

「いやだって、それって本人が頼んだわけでもないんだろ?あくまで、そっちの記憶にあるご先祖様が願ってるだけ。だろ」

 

「はい。確かに記憶だけですが……記憶にいる彼が。彼の後悔と想いが……」

 

「だから、それはお前の記憶……ぶっちゃけちまえば、作り出された人物かもしれんだろ?架空の存在かもしれんのに、その願いをお前が背負う必要はないはずだろ」

 

この記憶が……覇王流(カイザーアーツ)が架空の物……そんな……そんなはずは!

私は体を勢い良く起こし、頬を伝っていく落ちていく涙も気にせず叫ぶ。

 

「私の今までの努力…記憶、全てが偽りだったとでもいうのですか……!あんなにも鮮明で、悲しい想いが……!」

 

時折夢で見る、覇王イングヴァルドの一番かなしい記憶。

無力な自分のせいで、聖王オリヴィエを止めることができず……守るものを守れず。大切なものを失ってしまった。

その夢を見て、起きる度に私は胸が締め付けれる痛みに襲われ、泣きはらしていました……この想いも偽り……だと。

 

「……俺の言い方もあんま良くなかったな。要は何が言いたいって言うとだな、お前は覇王の記憶に縛られすぎることもなく、自分らしく……アインハルト・ストラトスとして生きろってことを言いたかったの」

 

「私……らしく?」

 

そっと差し出されたハンカチを受け取るが、私は彼の言った言葉の真意がわからず、そのまま彼の言葉の続きを待っていた。

 

「そうだ。そのまま鍛えるなり、学生生活を楽しむなり、色々すりゃいいだろ。てか、覇王だろうと一応女の子なんだし、女らしい趣味の一つや二つ持っておいたらどうだ?」

 

「……」

 

考えたこともなかった。私の行動は全て覇王のことを中心にしてきたことばかりだ。

同年代の女の子たちの話なんて全くついていけないほどに、今の私には覇王流《カイザーアーツ》しかない。

 

「ま、結局は好きにしたら良いと思うぞ。覇王の悲願を受け継ぐならそれはそれで勝手にすりゃいいさ。だが、やるからには記憶とか使命なんてものは抜きにして、自分の意志でやり遂げな」

 

「……それは今までと変わりませんが」

 

「いやいや、全然違うだろ。今までのお前は自分の記憶を盾にして、嫌々やってただろうけど。これからは楽しくやっていきな。……あ、それと遊ぶ相手とかがいなかったら、俺を誘ってくれてもいいぞ?なんか、お前友達少なそうだし」

 

「なっ…!わ、私にだって学友の一人くらいはいます!」

 

「ありゃ?そうなの?それっぽい感じのやつといたことみたことないけど」

 

まったく!コバルトさんは本当に失礼です。まるで、私が一人ぼっちの寂しい人みたいに……ちゃんと挨拶をしたら、返事も来ますし。放課後遊びに誘われたりはしませんが、ちゃんと必要最低限のコミュニケーションはとれてますし…………あれ?よくよく考えてみると、私って友達いないんじゃ……

 

「そんだけでかい声出せれば元気は十分あるみてーだな……けど、こんな時間に女子が一人なのはよろしくないな……ほれ」

 

コバルトさんは私に背を向けしゃがみ込む。……えっと、これは……

 

「あの、これはどういう……」

 

「見てわからないか?おんぶしてやるっての、おんぶ」

 

「えぇ!?ど、どうしてですか?」

 

「そりゃ、俺の一撃を浴びたからだよ。腹、痛まないのか?」

 

「それは……少し」

 

「んじゃ、遠慮しないでさっさと乗んな」

 

「いや、でも……」

 

よ、夜中で人に見られる可能性は少ないとは言え、同年代の男子におぶられるのはさすがに恥ずかしいのですが……

 

「はぁ……いいか、ストライト。これからは俺に変な遠慮しなくていいっての。拳と拳で語り合ったんだから、俺とお前はもう友達だろ」

 

「ストラトスです……あの、友達だと言うならばお互いの名前くらい覚えているべきではないかと……」

 

「細かいことは気にしなさんな。俺のことはシアンでいいぞ」

 

「では……シアンさんで」

 

「おう。今後ともよろしく。ま、ほら、さっさと乗んなよ」

 

「えっと……でしたら、失礼しますね」

 

なるべく体重を意識させないようにと、ゆっくりとシアンさんの背中に乗ります。

……温かい、人肌を感じるのはいつ以来でしょうか……こんなにも穏やかな気持ちになれたのですね。

私らしく……か。まだ戸惑いはありますけど……これからは…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そういやそっちの家って何処に……寝てる。…………やべぇじゃん。アインハルトの家……わからねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかの同じマンションに住んでた上に、お隣さんだったからな」

 

「そうですね。きっと私たちは隣という縁が深いのかもしれませんね」

 

あの出来事以降、アインハルトは俺と関わりを持とうとするようになり、話しかけてくるようになった。

それがいつの間にか、積極具合が跳ね上がっているわけなんだが……こうなった理由の主な原因は俺なんだよなぁ……

 

「シアンさん。私は貴方に出会うまで、ずっと覇王の悲願を成すために生きてきました。ですが、貴方に出会い、私に新しい道を示していただいただけではなく、私と一緒の時間を歩んでくださいました」

 

「……俺はそんな大層なことしてないって。ただお前をぶっ飛ばしちっただけで」

 

一旦俺の腕から離れ、姿勢を正し真っ向から虹彩異色の目を向けてくるアインハルト。

学院では一緒に飯を食ったり、休み時間中に二人でできる遊びをしたり、勉強を教えてくれたり、登下校するのも一緒だったり……家では一緒に飯食ったり、作ったり、ゲームしたり、遊びに出かけたり、一緒に体動かしたり、アインハルトの特訓に付き合ったり……こう考えるとアインハルトと過ごしてる時間がほとんどだよな。

ジークと知り合って以来はジークと一緒にいる時間が増えたにせよ、それでもアインハルトと一緒にいる時間の方が長い。

 

「シアンさんからしたら、ただ思ったことを言ってくれただけかもしれません。ですが、私からしてみれば……とても救われました。こんな心が晴れやかな気持ちで過ごせることができるなんて……以前の私からは想像がつきませんでした」

 

とても穏やかな笑みをこちらに向けてくるアインハルト。

以前のアインハルトは笑うことがなかった。それがこうして、限定的にだけでも笑えるようになったのは大きな進歩だろう。

 

覇王流(カイザーアーツ)を心の底から楽しむことができるようになったのも……覇王の記憶も受け入れることができたのも貴方のおかげです」

 

片手で俺の頬にそっと触れてくるアインハルト。彼女の顔を見ると瞳は潤んでおり、何処か熱を帯びたように赤くなっている。

 

「好きです。覇王としての私ではなく、覇王であることを含めて私個人を見てくれている貴方のことが好きです。……私に新しい存在理由を与えていただき……ありがとうございました」

 

そう言って両目を閉じ、こちらに顔を近づけてくるアインハルト。

……………え、いや、ちょっとまって。コレってそういう流れ?え、そういうことなの?まてぇええええええ!!ケーキ作りから一転して、なんでこんな雰囲気になってんだあああああ!

ちょ、ちょっと一旦落ち着こうよ、アインハルトさん。ハリー、ハリー!……ってこれ違う!催促してるだけじゃねーか!

やばい、何がやばいかっていうと口を開こうとしてんのに、声がでないことにやばさを感じる。

声だけでなく、体も金縛りを受けたみたいにピクリとも動かせない。

思考は働いてはいるが、状況は何も変わらず。アインハルトさんの唇がこっちの唇に接近してくるのがわかる。

その動作に一切の迷いはない。なんて男らしいんだ。こんな時にでも覇王の力が作用してるというのだろうか。

なんて考えを張り巡らせていると、アインハルトの両目が開いた。今までみたことのないような艶のある笑みを浮かべてきた。

信じられるか?コイツまだ11歳なんだぜ……?

そしてまた、瞳を閉じこちらに近づいてくる。

普段の俺なら、適当にあしらって回避していたのだろうが、さっきまでの雰囲気が俺を飲み込んだのか、俺は両目を瞑ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、二人の唇が重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほーーーー!!シアン、遊びにきたよー。なぁなぁ、今日暇だったりする?実はさっきヴィクターと会ってな、お茶会でもしないかって誘われたんや!で、よかったらシアンもハルにゃんも一緒にどうやって誘いにきたんだけど失礼しました!」

 

と思った?重なる寸前に突然の来訪者が来ました。そして去って行きました。

あ、そういやジークに合鍵渡してたんだよな。あいつ、俺が不在時はドアノブをぶっ壊して侵入するか、ベランダのガラスに穴を開けて、内側の鍵を開けるという強盗みたいな技を使って、侵入してきやがったからな。

こう何度も何度もヴィクターの方に請求書を送るのも嫌だったので、渋々合鍵を渡した。

それがこんな時に生きるとは。完全にさっきまでの雰囲気は消えてなくなり、金縛り状態も開放された。

 

「さ、さーて、ケーキ作りはまた次回だな。せっかくのヴィクターのお誘いなんだし、招かれてやりますか!」

 

神速の領域で立ち上がり、不自然なくらいに伸びをする。チラリと後ろの様子を横目で見ると……俯いていて、表情がわからんかったが、アインハルトの周りの空気がおかしいような気がする……覇王色のオーラが見える気がする。

 

「……武装形態」

 

ポツリと呟いたその言葉は地獄の底から響くような声だった。顔の筋肉が引き攣る。

アインハルトの戦闘モード体型。体を大人に成長させることで、身体能力やら、リーチの長さを上げたり、背が伸びたりする。あのモードのアインハルトは俺より当然背が大きい。後胸もでかい。

あの未来の大人(予定)verになられると途端に見下されたようでイラつく(※本人にそんなつもりはありません)

なんだよ、ちょっと背と胸がでかくなっただけで態度もでかくなりやがって!(※何度も言いますが本人はそのつもりは一切ありません。むしろ、武装形態をする時気を遣われていたりします)

ちくしょー、俺だって……俺だって使えたらなぁ……!けど、変身系統の姿を変える変異型の魔法は苦手だしなぁ……

って、今はそんなこと言ってる場合じゃない。今のアインハルトさんは覇王っつーか、魔王にしか見えない。

見てるだけでこっちの背筋が寒くなる。

アインハルトさんは影で表情が見えぬまま、こちらにツカツカと歩いてきて。

 

「シアンさん?」

 

「は、はいぃ!!」

 

今度はピンと背筋を反射的に伸ばしてしまう。見たもの全てを天国に叩き落としそうな笑みをこちらに向けてくるアインハルトさん。

いくら、笑うようになったといいましてもこんな笑みはいらないですよ!アインハルトさんだって、種類は違っても笑うことくらいできるんですよ……

 

「私、ジークさんに用ができましたので先に行きますね?」

 

ア、ハイ。と俺の返事を聞くまでもなくアインハルトさんは窓を開き、ベランダから飛び降りていった。

…………なんてアクティブな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ジークさんんんんんん!!!』

 

『ひえっ!?ハルにゃん?なんで戦闘モードになってんの!?う、ウチなにも見てないから!同級生の男子を押し倒して、身を拘束して迫ろうとしたハルにゃんなんて見てないから!!』

 

『見てるもなにもそんなことしてませんからね!?あぁっ!周りの人達の目が痛い!ち、違いますからねっ!?そんなことしてないですから!……もうっ!!ジークさん!!!!今日という今日は絶対に許しませんから!!!』




原作ではあんなに悩んでたアインハルトさんですが、このSSではアインハルトさんの悩みは原作前だというのにほとんど解決しております。
現段階の記憶は……ですが。
すごい、強引にまとめた感がある気がする……ちなみに今回の戦闘っぽい雰囲気がありましたが、あんなのは戦闘描写に含まれないです。シリアスっぽい空気が流れてましたけどシリアスもどきです。
シリアスとかっこいい戦闘描写を欲してる人は、まともな人のSSをお気に入りするか、原作を全巻買って読むなりすると良いと思います。
ちょうどうでもいいですが、実は頭おかしい話を書くよりもっとほのぼのとした話書きたかったり…

追記
シアン君の技

『衝撃掌』

文字通り、掌底でターゲットに衝撃を与える技。
RPGで例えるなら、防御力を無視して一定ダメージを与える感じ。
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