「逆滝!逆滝!ねぇ、目を覚ましなさいよ!逆滝ったら!」
「…………」
響古が泣き叫んでも、逆滝の瞳は閉ざされたままだった。
響古一行は倒れたままの逆滝を城まで急いで運んだ。
医師が逆滝を診察して、こう言った。
「何も異常ありません。むしろ、目覚めないのが不思議なくらいです…」
「そんな…。嘘でしょ!?『な~んちゃって』って笑ってよ!ねぇ…」
寝台に横たわる逆滝の体にはわずかに黒が残っていた。
「なぜ逆滝の体がわずかに黒いのか?」
「響古、どうしてにっ?」
尋ねる王とちょこらに響古は、蛍族の村であったことの一切を話した。
「それならば、心を浄化させなければならないと思うぞよ」
(心を浄化…)
響古は、しばらく考えた。
「!そうだ!」
響古が急に立ち上がった。
「輝光異邦人の力なら心の闇を浄化できるかもしれないわ!」
星奈は、響古の言葉を聞いて、すぐ異邦人としての姿を取った。
「蛍族伝統の儀式の準備をさせてください」
寝台を部屋の中心に置き、周囲に灯籠を円形に並べ、灯をともした。
「響古姫、この儀式は心の闇を祓うきっかけを生み出すものです。儀式が済めば、あとは逆滝様の心の強さにしか頼れません。それでもよろしいですね?」
「逆滝が目を覚ます可能性があるなら、私はそれにかけたい…」
その言葉に星奈は、頷いた。
「わかりました。では、儀式を始めますので、響古姫以外の方は灯籠の外に出ていただけませんか?」
「どうか、逆滝くんを…」
氷月が灯籠の外に出ると、結界が張られた。
シャン…シャン…
シャン…シャン…
シャン…シャン…
鈴の音が辺り一面響き渡った。
「高天ヶ原におはしまするアマテラスオオミカミよ…」
星奈の澄んだ声が詠唱を始めた。
「今、ここに一時の御顕現を…。そして、この者の願いを叶えたまえ…」
天から一筋の光が射し込んだ。
光の階段をゆっくりと降りてくる女性の姿があった。
(天女…?女神…?それとも…)
響古は、その女性を見たことはなかった。
女性は、古代を思わせる装飾品を着けて、光輝いていた。
階段を降りきって、女神が厳かに言った。
「…妾の名は、アマテラス。星奈よ、そなたか?妾を呼び寄せたのは」
「ええ、そうでございまする」
「妾に何の用事か?」
星奈が響古の方に顔を向けた。
「響古姫、あなたから願いをおっしゃってください」
響古は、一歩前に進み出た。
「私は、時空異邦人・響古。あなたにお願いがあるの!」
女神が答えた。
「響古…。聞いたことがあるぞ、そなたは時の神・クロノスの娘か?」
「私の真の父様は、確かにクロノスよ。父様を知っているの?」
「もちろん、知っておる。響古、そなたの願いは何ぞ?」
「この逆滝を蝕む闇を浄化してほしいの!」
「やってみようぞ」
女神は、横たわる逆滝に近づいて、手をかざした。
「…これは…、魔族によるものか…?」
「ええ」
「妾の力で祓ってやりとうのだが、祓いきれるか分からぬ。それでもよいか?」
響古は、強い眼差しをかえした。
「…覚悟はあるようだのう…。では、始めよう…」
手から光球が現れた。
…この者を蝕む闇、祓われよ…祓われよ…祓われよ…
しばらくして…
「妾の力ではここまでじゃ。すまぬ、心にわずかに魔族の闇が残ってしまった。あとは、この者の精神が闇に打ち勝てるかじゃ…」
女神の言う通り、黒に染まった逆滝の体は、元に戻っていた。
「アマテラスオオミカミよ、あなた様もお疲れでしょう。高天ヶ原へお帰りくださいませ」
星奈が女神に言った。
「さらばだ、響古、星奈…」
女神は、天に昇っていき、光が消えた。