この世界で知らぬものはいないであろう九鬼財閥。ここ何十年という短期間で瞬く間に世界最高の企業となった九鬼財閥だが身近に存在する文房具1つから、人類の希望を乗せて宇宙へ打ち上がるロケットまでその名を目にしないことはもはや不可能であろう。そんな世界を代表する巨大なグループ。国内はおろか世界に目を向けようがその目の前に立ちはだかる壁など......よもや立ちはだかる壁となろうものなど許さない。しかし、そんな九鬼財閥の地位を脅かそうとせん企業があった......。
天羽(あもう)グループである。
この天羽グループが力を顕し始めたのはここ数年の話である。現当主にして二代目当主、天羽 煌(こう)は齢14歳にして当主の座についた。煌の祖父、初代当主 天羽 蛍(けい)の急逝によって急遽、ほぼ本人の意思を無視した形で当主に任命されることとなった。当初は煌も拒否していたが2年間当主の座につき従者(部下)に命令を与えているという業務を行ううちにその才覚を現しはじめたのである。
志半ばで断念せざるを得なかった祖父の野望をそのまま受け継ぐ煌とその従者たちの物語が始まる。
side 煌
技術の発展とは素晴らしいものだな。もう4月だというのに一向に暖かくなる気配の無い日本最北端の都道府県、北海道からわずか二時間ばかりでこの川神についてしまうとは。そういえば先ほど乗った飛行機も九鬼のものだったな。どこまで力をつけるんだかな。俺もそういう方面に手を出そうと思うのだが......いや、まだ早いか?だが......
「煌様、時間が迫って参りました。車を手配致しましたので行きましょう。」
今後の事業について考えていると後ろに控えていた二人の従者のうちの一人、 白鳥 雪が思考を遮る。
「煌、また考え事? ハゲるよ? あ、もう遅いか。」
従者とは思えない言葉で俺の精神に確実にダメージを与えてくるのはもう一人の従者、白鳥 霙(みぞれ)である。名前の通りこの二人は姉妹、それも双子である。二卵性の双子であるため、そっくりというわけではないがよく見ると姉妹とわかる顔立ちをしている。ちなみに俺は禿げていない。断じて。
「こら霙、煌様に向かってなんてことを......すみません煌様。あとできつく叱って置きます」
「いや、大丈夫。それに俺禿げて無いからそんなこと言われても気にしてないしね? 本当に。」
「ふーん」
ニヤニヤするな。この双子従者は俺の幼馴染である。故に霙は全く敬語なんてものを使わない。雪は俺の従者になると決まった日からすぐにこの言葉遣いだ。少し寂しいが二人きりののときは崩すという特典がある。素晴らしいギャップ。
「時間無いんだろ? 急ぐぞ。」
そう言って俺は足を早めた。
side 直江 大和
今日から2年生。当然そんな実感は無い。風間ファミリーは3年の姉さんを除いて同じクラスになったし、日頃の人脈拡大のための行動の成果か、クラスメートはほぼ知り合いだ。担任は小島 梅子という先生らしいが鬼小島と呼ばれているらしい。そこだけが気がかりだな。
「大和ー、今日転校生が来るらしいわよ!」
真っ赤なポニーテールを揺らしながらまるで犬のように駆け寄ってくる少女は川神 一子。名前の通り川神院の子だ。そんな少女が持ってきた情報、転校生。
「ん、そんな情報は入ってないぞ?」
俺は常日頃から人脈拡大と情報収集に重点をおいている。そんな俺の耳にも入っていない情報。ただ、それは十分信憑性がある。
「じいちゃんが言うんだから間違いないわ!」
そう、この川神一子の祖父は川神鉄心。この川神学園の理事長である。故に転校生が来るというのは確実だろう。俺としては、転校生と言えば他の地域から来た可能性が高い。そうなると人脈に幅が出るから嬉しいんだけどな。
「あ、梅先生来ちゃったわ。転校生どんな人かしら。楽しみだわー」
「んー、そうだな。ワン子、後でな。」
さて、転校生はどんなやつか、俺も楽しみだ。
「よし、全員いるな。まずは自己紹介をしよう。今日からこの2-Fの担任となった小島梅子だ。よろしく頼む。お前たちにも自己紹介をしてもらおうと思う」
クラスからため息や嫌がる声が上がる。それもそうだろう。自己紹介大好き!なんて高校生はいないだろうな。
「が、その前に転校生を紹介しよう。お前たち、入っていいぞ!」
side 煌
「煌、緊張しないの?」
俺達は2-Fと書かれた教室の外で担任の声を待っていた。
「当たり前だろ。いろんな企業のえらーいおじさん方と何回も取引してるんだぞ? 霙、お前こそどうなんだ?」
「私が緊張してる姿見たことあるの?」
だろうと思ったよ。こいつが緊張してる姿なんてこの長い付き合いのなかで一度も見たことがない。それよりも......
「ど、どうしましょう......きちんと自己紹介出来るでしょうか......煌様、私はご主人様に恥を欠かせてしまうかもしれません......うぅ。」
雪は相当な上がり症だ。対人スキルに問題とかは全くないんだけどな。どうやら初対面の人が大勢いるともう無理らしい。かわいいな。
「お前たち、入っていいぞ!」
その声に雪は目を見開いたのだった。
side 大和
お前たち? 一人じゃないのか? 確かにワン子は一人とは言わなかったが......これは予想してなかったな。他の人も驚いてるな。複数人が一気に転校してくるなんて今までなかったしな。
梅子の声から数秒おいて教室のドアが開けられた。
「じゃあとりあえず自己紹介を頼む」
「じゃあ私が最初ね。えっと今日からこの学校でお勉強することになりました、白鳥霙です。よろしくお願いします!」
自己紹介を終えるとほぼ同時に教室内に雄叫びが上がった。もちろん男子の。
「俺様と付き合ってくれー!!!」
岳人を筆頭にもてない男子たちの魂の叫びは続く。かく言う俺ももててるわけではないが。それにしてもまさか転校生が3人もいるとは予想外だった。今自己紹介した白鳥さんはタイプ的にはおとなしい感じでは無さそうかな。少なくとも話しにくいなんてことは無いだろう。
「ほら、次雪姉だよ。頑張って!」
「う、うん......。え、えっと、本日よりこの川神学園2-Fに配属されることになりました、白鳥雪です。よろしくお願い致します....うぅ。」
さっきからずっと下を向いていた上の長い女の子。恥ずかしがり屋なのかな。それに苗字。白鳥......霙さんが雪姉って呼んでいたから姉妹なんだろうな。こっちはおとなしいタイプだな。っていうかどっちも可愛いな。岳人がうるさすぎる。
「俺様と付き合ってくれー!!!」
お前はそれしか無いのか......。まぁ、岳人は放おっておくとして、残るは一人か。
side 煌
俺の従者二人の自己紹介が無事に終わったところだ。雪は今にも倒れそうだがな。
それに比べ霙は本当に流石だな。マジでこいつ緊張ってものを知らないんじゃないか?堂々としすぎだろ。おっと、俺の番だな。俺も無難に済ますかな。
「今自己紹介をした二人の主の天羽煌だ。よろしく頼む。」
煌の自己紹介を受け教室内を満たしていた生徒の話し声は一切消えた。おそらく3人を除いてこの場にいるものすべてが思い浮かべているであろう"主"という言葉。その沈黙を破ったのがこのクラスの担任、小島梅子だった。
「うむ、自己紹介は済んだな。では聞きたいこともあるだろうから質問タイムを取ろう。質問のあるものは挙手しろ」
「はい! 二人の主ってどういう意味ですかー?」
side 大和
ワン子が煌に向かって質問する。誰もが疑問に思っていることだろうな。だが、そんなことよりも"天羽"だって? こんな苗字そうはいないぞ。それに従者つき。天羽グループの関係者で間違いないだろう。しかしなぜFクラスに来たんだ? そんな超一流企業の関係者ならSクラスに行くべきだろう。
そんな大和の疑問を察したかのように霙は答える。
「煌は天羽グループの二代目当主、私たちは煌に仕えているだけ。ちなみにSクラスじゃなくてFクラスに入ったのは楽そうだから。でいいんだよね、煌?」
「ああ、大体そんな感じだ。」
「そういうことだったのね。」
ワン子も納得したようだ。関係者だとは思っていたがまさか当主だとはな。しかも俺たちの同い年で......。本当にこの学園はなんでもありだな。
「もう一個質問! 三人の内、武道を習っていた人はいるかしら?」
「従者だから当たり前だよー。私も雪姉も煌を守るために鍛錬してるからね。......そんな必要なかったけど......。」
あー、ワン子。決闘を挑むつもりだな。でもホームルーム中だぞ? 梅先生が許可するとは思えないんだがな。
「梅せんせー、この二人に決闘を挑みたいと思います!」
やっぱりな。だけど二人にって......ワン子、一対二で勝負するのは流石にきついだろ。
「うむ、両者の同意があれば決闘は認めるが二対一は流石に認められないぞ。相手をどちらか一人にするか、二対二のタッグマッチにするかどちらかだな。」
「うーん、どっちとも戦ってみたいのよねー......」
「はい、ワン子、それなら私も出るよ。」
その声の主は椎名京。天下五弓の一人で、弓の腕は他の者の追随を許さない。
お、京とワン子か。これは期待できそうだな。あの二人のコンビネーションはファミリー一だからな。負けるとは思えないが。ただ、相手もあの天羽グループの従者だからなぁ。ま、とにかく応援するぞ京、ワン子。
side 煌
あー、この二人に勝負挑んできちゃったか。でも相手もなかなか強そうだな。特にあの紫の髪の子。なかなかするどい目をしてるな。それともう一人の子......
「お前ら気をつけろよ。手加減はほどほどにな。」
「うん? 変わったアドバイスだね。」
間違いなくあの手の相手は手加減されてるとわかったら怒るタイプだろう。
「雪も頑張れよ。」
「はい、煌様のため真剣にお相手させて頂きます。」
「よし、じゃあ10分後グラウンドにて白鳥雪、霙対川神一子、椎名京の決闘を行う。他のものも見学は可とする。遅れるなよ。」
こうして4名による決闘が行われることとなった。
以上第一話でした。誤字脱字、文章におかしな点がございましたら指摘お願いします。