今回は文化祭編最終回となっております!
唯達は無事にライブを成功させることが出来るのか!!??
「なに!?まだ相馬が来てない!?」
軽音部の朝ミーティングは律のその一言から始まった。
現在時刻8時30分。
約束の時間は8時ちょうど、昨日と同じであった。
「まぁ相馬は演奏メンバーじゃないからまだいいとして・・・」
「あいつ、寝坊とかしてるんじゃないだろうなー・・・」
「文化祭二日目に!?今日一番混むのに!」
「未だに連絡なしか・・・」
「私、連絡とってみる!」
「唯、よろしく・・・!」
唯がすかさず携帯をバッグから取り出す。
すると画面には一通の通知がきていた。
「あ、憂からだ!」
「憂ちゃん?なんだって?」
初めはスラスラと読み上げていた唯であったが・・・。
次第にその表情は青ざめていく。
「えっ・・・大変っ。どうしよう・・・」
「唯ちゃん落ち着いて、どうしたの?」
「どうしよう・・・相馬くん・・・倒れちゃったみたいっ・・・―――ッ!」
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(SIDE:尾形)
「――――ッ。」
目覚める。
俺は一体何を―――。
「相馬くん、大丈夫ですか?」
「・・・憂ちゃん?」
なんで目の前に憂ちゃんがいるんだ・・・?
どうして・・・?
何がなんだかさっぱり分からないし、何故今俺はここにいる?
文化祭は?
・・・というか体がすごく熱い。
そして全身のダルさ。
汗でシャツが背中にくっついて気持ち悪い。
「倒れちゃったんですよ、相馬くん」
「え・・・?」
「今日、朝ジョギングしててその帰り、相馬くん見つけて話し掛けようとしたら、倒れちゃって・・・」
「俺・・・倒れたの?」
微かに記憶が蘇ってくる。
確かに文化祭に行く準備はしていたハズ・・・。
「ちかくにいた人にも手伝ってもらって私の家まで運んでもらったんです」
「貧血かな・・・?」
「多分そうだと思います。たまたま近くにお医者様がいらっしゃって、貧血だろうって。」
「じゃなかったら救急車乗ってたかもな・・・ハハハ・・・」
「無事でよかったです、ほんとに」
「憂ちゃんありがとうな・・・迷惑かけました・・・」
「いえいえっ。お粥、作っときましたんで!」
「ありがとう・・・」
ふと気が付くとここはいつものリビングじゃないか。
寝ているところはソファー。
ご両親の方がいたらなんて言われていたか・・・。
ん、何か大事なことを忘れている気が・・・。
「憂ちゃん!!今何時ッ!!!??」
「11時ですけど・・・?」
俺の中で一気に血の気が冷めていく―――。
こんなことをしている場合じゃない・・・!
「行かなきゃッ・・・!」
「え!?どこに!?」
「学校!クラスの模擬店もあるし・・・それに・・・」
「それに・・・?」
体がきついなんて関係ない。
そんなことはどうでもいい。
本当にどうでも良かった。
「あいつらの・・・あいつらのライブがあるんだ―――――ッ!」
****
憂ちゃんが作ってくれたお粥を体に流し込む。
もう光の速さで制服に着替えた。
あとは家から出るだけだ。
「相馬くん、本当に行くんですか・・・?」
「行くよ」
ぴしゃりと答える。
本当に憂ちゃんは俺の事心配してくれているのが伝わる。
・・・いい子だなぁ。
「俺さ―――」
親が出掛けに行ってしまうのを制止する子供の表情をする憂ちゃんに、優しく告げる。
何も言わず、憂ちゃんは俺の話を聞いてくれる。
「唯に初めて会った時、変な子だなって思った。」
「えっ?」
思わず驚きながら苦笑してしまう憂ちゃん。
だよな。
そうだよね。
「ドジだし、天然だし、たまに訳分かんないこと言い始めるし・・・」
「そっか・・・」
「でもな。」
目を閉じれば、浮かんでくるあの笑顔。
そして、いつも周りを元気づける性格。
そんなところが、俺は大好きだ―――。
こんなこと、憂ちゃんに言える訳ないけど。
心の中で苦笑する。
気持ち悪いな・・・俺。
「いつも笑顔で周りのことを気遣えて、」
「こんな俺に、"友達1号"って言ってきたんだぜ?ほんとおかしいよな!」
「ほんっと・・・・・スゲーよ、唯は―――。」
「知ってます。お姉ちゃんは凄い人だってことも。」
憂ちゃんは続ける。
どこか頬を赤らめながら。
「相馬くんが良い人ってことも―――。」
「憂ちゃん・・・」
「お姉ちゃんと仲良しでいてくれて・・・仲良くしてくれてありがとうございました!」
「そんなそんな!」
「自分の事のように嬉しいんです!お姉ちゃんが幸せでいることが、私にとっても幸せなんです!」
「本当に平沢姉妹は仲が良いな・・・唯も前同じことを言ってたよ」
「ウフフ・・・そっか」
さりげなく微笑むその笑顔も、俺は知っている。
唯のそれにそっくりだ。
憂ちゃんの笑顔も、俺は大好きだった。
「一緒に観に行こう、唯のライブ!」
「えっ、いいんですか?」
「当たり前だろ!今からだったらギリギリ間に合う・・・!」
「はい!行きます!」
「よし!」
憂ちゃんも着替え、俺と憂ちゃんは平沢家から飛び出る。
急いで駅に向かう。
あいつらの演奏を聴いていたい―――。
いつまでも・・・!!
そんな想いだけで。
俺は走った―――。
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「よし!今こそ・・・練習の成果を魅せるときだぜ―――ッ!!」
「そうだね~!」
「うん!!」
律のガッツポーズに唯と紬が応える。
三人とも衣装を変えていた。
さわ子先生が作ったものである。
なかなか全員の雰囲気が変わる衣装であり、男子受けがよろしいものであった。
「ねぇ・・・ちょっと律・・・!」
「ん、どうした?澪」
「本当にこんな格好で歌わなきゃいけない・・・?」
澪の服装は・・・なんというかメイドさんの服にそっくりであった。
その容姿を見て三人は絶賛する。
「なかなか似合ってますわよ澪ちゅあん!」
「うん!すっごく可愛いよ!」
「澪ちゃん、自信もって!」
三人からの誉め言葉に、今のこの状況と澪の性格上、素直に喜べる訳がない。
「んんーーもうッ!!」
若干涙目の澪。
そこにやってくる衣装を作った、さわ子がやってきた。
「皆ー、揃ってるわね~?」
「はい・・・一応揃ってるんですけど」
「一応って何よー?」
「あの・・・尾形君がいない状態なんですけど・・・」
「別にいいじゃなーい。演奏する訳でもないんだし」
「そ、そうですけど・・・」
さわ子はやれやれ、とため息を吐いた。
眼鏡をクイッとあげながら、口を開く。
「あの子なら、来るわよ。絶対―――。」
「えっ?」
四人が口を合わせて、はもる。
さわ子が言った意味がよく分からなかったのだ。
何を根拠にそんなこと言っているのか・・・。
「前にね、二人で話したことがあるのよ。軽音部についてね」
「そうなんですか?」
「ええ。一人だけ男で、しかも演奏をする訳でもない。なんで軽音部にいるのかって話をね」
「まぁそりゃあ・・・」
「そりゃあはないだろ、律・・・」
「テヘッ☆」
「1人1人に個性があって、でも演奏するとそれが一つになって・・・そんな音楽をずっと傍で聴いていたいんだって。だから居るんだって―――。」
「へ~!なんかプロポーズみたい!」
「やめなさい唯ちゃん」
「普段そんなこと言わないからな~相馬は・・・」
「じゃあそういう訳だから、頑張りなさい!いっぱい練習したんでしょ!?」
「はい!」
さわ子は少し微笑みがながら、メンバーに語り掛ける。
「ムギちゃん、あなたの奏でるピアノのメロディーは独特で、周りと合わせつつ、自分の存在感を醸し出してる。頑張ってね。」
「―――はい!」
「りっちゃん、あなたのドラムはたまに走る事があるけれど、リズム隊の要として、自分らしさを演出しなさい。頑張ってね。」
「はーい!」
「唯ちゃん、あなたの成長には目を見張るものがあったわ。その実力、ここで活かしきりなさい。頑張ってね。」
「さわちゃん先生・・・」
「澪ちゃんも緊張し過ぎないように!私もボーカルだったけど、もっと凄いの歌ってたから!」
「え・・・」
「お前等が来るのを―――」
「あぁああ、いいです!さわちゃんん!これ以上澪を陥れないで!」
「分かったわよ!じゃ、頑張ってね~!」
さわ子が幕の裏に下がっていく。
「青春ね~。私もこんな時があったのかしら?」
少し微笑むさわ子に誰も気づかない。
時期にこの垂れ幕も上に上がる。
それぞれ位置につき、"その時"をじっと待つ。
そして、その十秒後。
"軽音部の演奏です"というアナウンスと共に。
彼女等が生み出す世界が、始まった―――。
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(SIDE:尾形)
「急げ!憂ちゃん!」
「待ってくださーい!」
改札を通過し、駅の入口から飛び出す。
俺ら二人とも息が上がっていたが、そんなことは気にしていられない。
さぁ、ここからだ・・・!
「私、ここから歩いていきます・・・!相馬くんは行ってあげてください!」
息を荒げながら言う憂ちゃん。
「えっ・・・でも―――」
「いいんです!お姉ちゃんの為に・・・軽音部の為にも・・・行ってあげてくださいっ!」
「憂ちゃん―――」
「お姉ちゃんは・・・相馬くんに見て欲しいハズだから・・・」
「どうして・・・」
「いつも楽しそうに話してました・・・!相馬くんのこと!今日は二人でこんな練習をしたとか、教わったとか・・・!」
「そうなんだ―――」
「だから行ってあげてください!お姉ちゃんの為に!」
「分かった、後で会おうな、憂ちゃん!」
それだけ告げると、俺は全速力で学校へと駆け出す。
まだ体のダルさと吐き気は残っていたが、そんなことはどうでもいい。
唯の為に、軽音部の為に、俺が何を出来るのか。
それだけを考えれば、自然と答えが出るはずだ―――ッ!
信号を渡り、交差点を右に曲がる。
そして見えてくる桜ヶ丘高等学校の校門―――。
試合をしているかのようなスピードで俺は駆け抜ける。
人通りを掻き分けながら、進んでいく。
そして。
講堂への扉を開けた―――。
**
「えっと・・・軽音部です・・・。よろしくお願いします・・・!」
澪がカッチコチになりながら、挨拶をしている。
まだ序盤か!
良かった!
ヒューヒューとあちらこちらで声援が聞こえてくる。
これがライブというものなのか。
熱気が凄い。
人も込み合っており、どうしても遠くから覗き込む形になってしまう。
そんなのは・・・嫌だ!
だがどうすれば・・・!
「相馬!こっち!」
背後から声が聞こえ、振り返るとそこには和がいた。
「和!」
「こっちから入れるわ!来て!」
和が手招きをしているで、つられて俺もそちらへ向かう。
するとそこは外に通じており、一気にステージ前へと向かうことが出来た。
「後で憂ちゃんも来るだろうから、入れてあげてくれ!」
「分かったわ」
和は頷くと、仕事へと戻っていった。
本当に頼りになる奴だ・・・!
そして・・・。
ステージの上に立つ彼女らを見る。
スゲェ―――――。
この一言しか出てこなかった。
あんなにいつもお菓子ばかり食べていて。
ロクに練習もサボっていた彼女らなのに。
どうしてこんなにも輝いて見えるんだろう。
どうしてこんなにも素敵に見えるんだろう。
「それでは聴いてください・・・。ふわふわタイム!!」
「ワン・ツー・スリー・フォーッッッ!!!」
律がドラムスティックがカウントを取る。
すると、ジャカジャカと唯がソロを弾き始めた・・・!!
ここは夏合宿で練習していたフレーズだ!
思わず涙が出そうになる。
「"君を見てると、いつもハートDOKI☆DOKI☆"」
これは・・・いつか見たメルヘンな歌詞だ。
澪の声に合わせて、歌われるとこんなになるんだ・・・!
「"揺れる想いはマシュマロみたいにフワフワ"」
いいぞ、頑張れ澪・・・!
あいつが頑張ってるの・・・知っていた!
「"お気に入りのウサちゃん抱いて~今夜もオヤスミ☆"」
これは―――。
ふと蘇るあの記憶。
そういえば、夏祭りで俺がウサギのぬいぐるみをあげたような―――。
考えすぎか・・・。
ふわふわタイム・・・スゲー良い曲じゃねーか。
完敗だ・・・。
最高にお前等・・・カッコイイよ―――。
***
「みんな・・ありがとーーーーッ!!」
一通り、演奏が終了し、澪が叫んだ。
それに合わせ皆が声援を送る。
俺も憂ちゃんもそれに合わせ、声援を送った。
演奏中に一瞬澪を目が合った気もするが、よく分からない。
でも彼女達は最高に頑張ったし、最高のライブだったハズだ。
成功して良かった。
心の底からそう思える・・・。
刹那。
ビビッ!と頭の中で何かが警告音を鳴らした。
考えるよりも早くに俺は体を動かす。
それと同時に澪がシールドに引っ掛かり、大勢を崩した・・・!
俺はステージ上に颯爽と上がり、スライディングをするかのように倒れこむ澪を抱きかかえる・・・!!
間一髪だ・・・!危ない!
目の前に澪の顔。
そして俺に浴びせられるスポット。
俺が心の中で大絶叫するのは、言うまでもない話だ。
その一瞬一瞬を、刻んでいく―――。