曹操と玄徳の前世は誰か?Ⅰ   作:高杉 十行

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老人と曹操の出会い

 魏・呉・蜀の三国時代が確立された頃、とある老人が、魏王曹操の元を訪れた。知人の重臣の紹介を経ての謁見である。曹操の周りには、護衛を含め男女数人の従者が居たが、皆、気配を消して応対した。曹操は怪しさを感じながらも、暇つぶしになる面白い話をしたいという要望に応えたのである。 白髪の老人は挨拶の後、「魏王様の前世は誰だと思いますか?」と切り出してきた。曹操はやはりそうかという顔をして、白髪の男を見つめた。すると老人は、「魏王様、不審に思われたようですね。それは仕方ないですな。唯、真面目な話です。確信があります。」と弁明した。

 「私の前世だって?勿論わからない。でも、そなたに分かると? 」 魏王が尋ねると、「ええ、ただし私は霊能者でも占い人でもありません。論理的に分析したのです。」 老人の言葉に曹操は苦笑し、その後に厳しい態度を見せた。 「御老人、根拠は?もし納得がいかなければ罰を与えるが、よいかな?」 「いいでしょう、仏教の僧に輪廻転生の奥義を教わったのです。人間の生まれ変わりは、約三百年から四百五十年だと。その前提においての分析結果です。」 「その前提においてね・・・・・。」 曹操が頷くと、周りから小さな失笑がもれた。「笑うでない。では私の前世はその期間に生きた人物ということだ。」 「そうです。」 老人が頷くと、曹操は暫し黙考した。

 「例え仮説でも面白いではないか。」 少しの間の後、曹操は口を開き、続けた。「私の前世の人物か、見当がつかんな。少し考えてみるとしよう。」「そうでしょう、幾ら魏王様でも即答は無理でしょう。」 老人はそう言って微笑んだ。 「それで誰なのだ?」「それは十日後にお答えします。是非この謎を解いていただきたい。」「十日後?」 曹操は呟いて黙考し始めた。

 暫しの沈黙の後、曹操は口を開いた。 「御老人、もし十日以内に亡くなっては困るな。暇つぶしにはよさそうだから。」「これは戯れを、でも確かに死ぬかも知れませんな。今日中に答えを竹に書いておきます。」 「そうしてくれるか、寿命ならともかく、事件や事故に遭うのも困る。これから十日の間、宮中にいてくれるか?」 その曹操の言葉に、白髪の男は当然頷いた。魏王に興味をもたらすことに成功したので、会心の笑みを浮かべてである。 「それでは失礼するよ、忙しいからね。」 曹操は退室した。

 

 

 二日後、曹操は老人を呼び出した。白髪の男は開口一番、「もう分かったのですか?」と訊いたが、「いや、見当がつかない。手がかりが欲しい。」と答えた。曹操の頼みに、老人はこう返答した。「分かりました。楚漢の時と今の時代は似た人物が多いと思いませんか?」 「楚漢の時代?ではその中にいるのか?」 曹操は訝しげに訊いた。「恐らく、例えば項羽将軍と呂布将軍は似てるでしょう?」 「項羽と呂布?呂布とは何度も戦って性格も知っているつもりだが、どうだろう・・・・・。」 曹操は回想を始めた。この頃すでに、呂布も、袁紹も、袁術も、孫策も他界していた。彼の頭の中はフル回転し始めた。

 「今、直感的に思ったが、項羽が呂布なら、劉邦は袁紹だろう?」 曹操がそう言って沈黙を破ると、老人はホウと驚きの声を挙げた。「どうした?」「あまりに意外な説なので私には浮かびませんでした。」 白髪の男はそう言って首を振った。「違うかな?そう思ったのだが・・・・・。まあ死んだ者などどうでもよい。では、孫権や劉備玄徳は誰なのだ?」 曹操が話題を変えて訊くと、老人は吐露した。 「孫権殿もその前の孫策殿も分かりません。ただし呉の地は昔の楚の地ですし、古来人材が豊富ですから、楚の誰かではないかと。」 「ほう、呉国は楚か。地理的はそうだな。」 曹操はまとめた。「全員ではないでしょうが、前世の因縁といいましょうか・・・・・。」「でもそれなら、私も河南の地に都を置いたから、この地に因縁があることになるが?」「多分そうではないかと。」 老人は自信ありげに頷き、その後は何故か魏王への説明を止めてしまった。曹操も黙考し、沈黙が訪れた。

 その曹操だが、結局彼は、袁紹、呂布、孫権、孫策の前世の人物の名は言及したが、玄徳の名は挙げなかった。その行為に意味が有るのかは、老人の気懸かりになり始めていたが、同時に、袁紹説を持ち出した魏王に対して畏怖を感じ始めていたのだった。

 

 その後も沈黙は続いたが、老人の方から玄徳の話題を持ち出してきた。「玄徳殿については?」 「関中王劉備か?はて、どうだろう・・・・・。」 曹操は歯切れの悪い言葉を返した。そしてその後、何故急に老人がその名をあげたかを思案し始め、少しだが顔をしかめたのだった。「これも手がかりなのです。」老人が笑顔で言うと、驚いた表情になり、「玄徳が?」と訊き返してきた。「ええ、玄徳殿と呂布将軍の関係も・・・・・。」  老人は意味深長な発言をしかけたが、曹操はそれを遮って次の言葉を口にした。「はは、実は気になっていた。面白くなってきたよ御老人、ひまつぶしには最高だな、この謎解きは。唯、繰り返すが納得する答え出なければ、死を与えるかも・・・・・。」 曹操が脅すと、「ええ、構いません。」と老人は微笑みながら頷いた。 「充分生きたから命は惜しくないと?」「いや、まあ私も死似たくないし、魏王様も老人など殺したくないでしょう。ただこの謎解きは遊びではないし、単なる暇つぶしではないと思っています。」 白髪の男は胸を張ってそう答えた。「そなたの覚悟はよく分かった。では私もこれに挑戦してみよう。」 曹操の言葉に、老人は会心の笑みを浮かべた。「それでは後日。」 曹操は退室した。

 

 

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