また作中に登場する※はその場面に近い映像・場面のカードを挿絵の代わりに選んでいます。あとがきの部分にその名前のカードを記しておきますので、よろしければ検索してみてください。
プレインズウォーカーのサルカン・ヴォルは、短くない己の人生の中でとても多くの、常人では起こりえない数奇な体験と出会ってきた。
彼はドラゴンが絶滅し、争いに引き裂かれた次元・タルキールに生まれた。果てなき戦いを求める戦士の人生に嫌気が差した彼は、長い戦争生活の末にプレインズウォーカーへと覚醒し、故郷の次元ではすでに絶滅してしまっていたドラゴンを求めていくつもの次元を彷徨った。
そして次元を超えた果てに強大な古竜のプレインズウォーカー、ニコル・ボーラスと出会い、それを己の主と定め、仕えた。
だがボーラスは強力な力以上のその思想を邪悪に染まり切っていた。彼はゼンディカーで起こしてしまったエルドラージ復活をきっかけにボーラスと決別し、再び故郷の世界へと戻ってきた。
そして数奇なる運命の果てに時を超えて荒れ果てたタルキールの歴史を書き換え、ドラゴンを復活させたのだった。
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そうだ。俺は変えた。次元だけでなく時間をも飛び超えて歴史を。故郷の世界を生まれ変わらせた。
龍たちが滅び、争いと骨ばかりが残されたタルキールの歴史を書き換え、龍の楽園へと変えたのだ。暴力とカンと戦争が支配していた世界は消え去り、今やタルキールは5匹の龍王たちと共に大陸のいたる所でドラゴンが飛び交っている。彼らと敵対してた氏族は逆に彼らの一部となった。
すべてが俺の思い描いた通りになった。タルキールは今や俺の理想の世界だ。
だと言うのに、そこに俺の居場所は無かった。
心も体も魂すらも満足していたはずなのに、俺の中の何かはまだ満足してはいなかった。
一体何が足りないというのだ? もう頭の中から囁く幻聴はない。俺を導く亡霊もいない。そもそもウギンは、この世界において死んでなどいないのだから。
http://imgur.com/a/EPnaJ
《苦しめる声》
ではなぜだ? なぜ俺の心は満たされない? 一体なぜ?
俺は俺の心を真に満たすため、再び故郷を離れた。そして幾重もの次元を渡り歩た。
ある時は様々な神が支配する次元を彷徨い歩き、またある時は吸血鬼や狼男といった獰猛な怪物が支配する世界を横切り、またある時はいくつもの物語が絡み合った奇妙な次元へと身を置いたこともあった。
そうして幾度となく次元を渡り歩いた末、ついに俺は見つけた。
龍も大きな戦乱もない平和で穏やかな次元、人々はその世界を“外史”と呼んでいた。
外史の世界は――少なくとも俺と関わりのある人々は皆――とても親切だった。今までどんな次元を渡り歩いていても、こんなにも人から親切と好意を受けたことはなかった。
そこでようやく俺の心は少しずつ満たされ始めた。
安らぎ――若い頃からドラゴンの真髄を探求し続けてきた俺にとってそれは、あまりにも眩しく、尊く、そしてありがたかった。
俺はそれを待ち望んでいたのだろうか。心の奥底で。自分すらも知らない心のどこかで。
だが俺の心はそれをごく自然にそれを受け入れた。快く。心地よく。ありがたく。
あの獰猛なジャンドとも、エルドラージに引き裂かれてしまったであろうゼンディカーとも、氏族同士の争いが絶えなかったタルキールとも違う。安心して暮らすことができる場所。ここにこそ、本当の俺の居場所はあるのだろうか?
それがここにあるのかは分からない。だがもしこの世界の人々が、俺に親しくしてくれた人々が、戦乱や危機に晒されるというのであれば、俺はそれを守るために全力で戦うだろう。
今度こそ俺の居場所があるのだと信じて。
http://imgur.com/a/NI3X3
《龍語りのサルカン》
※1:苦しめる声/Tormenting Voice タルキール覇王譚
※2:龍語りのサルカン/Sarkhan, the Dragonspeaker タルキール覇王譚