真・恋姫†無双~未踏世界の物語~   作:ざるそば@きよし

4 / 22
 楼桑村に住む娘・劉備は農業の傍らで草鞋や筵を織って暮らす、貧しくも清らかな少女であった。だが彼女は自分が英雄になる運命を課せられている事を知ることになる。



桃園の誓い

 厳冬はとうの昔に通り過ぎ、季節は春を迎えていた。凍てつく木枯らしは穏やかな春風に取って替わられ、人々は時折吹く風の中から仄かな暖かさを受け取っている。

 琢県の片田舎に存在する楼桑村でもその恩恵は健在で、寒起こしと天地返しを済ませた畑では新たな農作に向けての種付けが始まり、村の共同資産である桃園では蕾を付けた木々たちが、開花の時を今か今かと待ち望んでいた。

 

 背中と腰に目一杯の草鞋と筵を携え、桃色の髪の少女――劉備は笑った。今回のそれは今まで作ってきた物の中でもかなりの力作だと自負しており、街で売り捌けばそれなりの金額になるであろうと目算していた。

 畜牧と農業の合間を縫っての織物作りはいささか重労働ではあったものの、幼い頃から続けてきたおかげか自分の作った草鞋や筵は街でもかなりの評判となっており、多くの人がそれを心待ちにしているという事も彼女は十分に知っていた。

 

「じゃあ行ってくるね。上手く売れたらお土産に何か美味しいものでも買って帰るから」劉備はそう言うと、後ろの作業場で新たな筵を拵えている母に向かって明るい笑顔を投げかけた。

 

 しばらくは石のように何の反応も返さず、ただ黙々と作業を続けていた母だったが、やがて手を止めて劉備を一瞥すると、肩をすくめてかぶりを振った。「もうすぐお前の誕生日だろう。お金はお前が好きに使いなさい。年頃の娘なのだから、自分を磨くことも忘れてはいけないよ」厳かにそう言うと、再び何事もなかったかのように筵折りの作業へと戻っていった。

 

 母は慎ましやかさを絵に描いたような人物であり、いつも自分よりも他の誰かを優先していた。官吏を務めていた夫を早くに亡くし、土豪と言われながらも貧しい暮らしを強いられている事実にも嫌な顔一つせず、日々の仕事の傍らでこうして織物作りの副業に精を出すことも厭わなかった。

 

 そんな母のことが劉備は好きだった。この人こそ清貧を体現する人物であり、聖人というものがもし存在するならば、それは間違いなく母のことだろうと信じていた。

 故に劉備は母が生きているうちは出来る限りの孝行をしてあげようと幼い頃より固く心に誓っていた。

 

「いいのいいの。いつも苦労をかけてるんだから、たまには親孝行させて」そう言い返し、買ってくる土産は何がいいだろうかと頭の中で思い描きながら劉備は我が家を後にした。「それじゃあ、楽しみに待っててね」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

家がある楼桑村から、えっちらおっちらと歩み進むこと約一刻ほど。果たして劉備は目指していた琢県の城下町へとたどり着いた。

 

 春先という季節も手伝ってか、街の中は多くの人々でごった返しており、路のあちらこちらで行商人たちによる露店市が開かれている。雑踏に紛れて仄かに漂ってくる香料や焼けた肉のいい香りが、街の活気の良さに一層拍車をかけていた。

 兵士たちが守る巨大な鉄扉をくぐった劉備は市のいくつかを通り抜けると、普段から懇意にしている織物問屋を訪ねた。

 店の中では何人かの小僧が忙しなくあちらこちらで動き回り、その一方ではそんな彼らに向かって番頭と思しき中年男がてきぱきと指示を飛ばしている。

 

 できるだけ作業を邪魔しない様に気を付けながら、劉備は見知った顔の中年男の方へと歩み寄ると声をかけた。「葉さん。こんにちは」

 

「ん? おお。劉備ちゃんか」振り返った中年番頭は一瞬、何事かという顔を見せていたが、声の主が劉備だと知ると厳つい顔をくしゃりとほころばせ、不格好な笑顔を作った。「今日も織物を卸ろしに来てくれたのかい。助かるよ」

 

「いえいえ。こっちも商売ですから」愛想笑いを返した劉備は携えていた筵と草鞋を外すと、その中の一つを番頭へと手渡した。「それに今回のは、いつもより特に出来がいいんですよ。ひとつ見てみて下さい」

 

 彼女が手渡したのは数ある自信作の中でも、特にこれはと思っていた筵と草鞋だった。こういう物の値段は最初に見せた一品を基準にして全てが決まる。少しでも値を上げるためにはこうしてできる限りの見栄を張っておくのが重要なのだ。 

 番頭は手渡されたそれを受け取ると、品定めをするべくじっくりと舐めるようにそれらを見回す。

 端の織り目をじっと見たかと思えば織り込んである藁の太さを上から下まで確かめるように眺めたりと、見る目をどこまでも惜しまない。

 そうしてかぶり付くように見つめていた番頭だったが、やがて深く息をつくと大きく頷いて言った。

 

「確かに劉備ちゃんの言う通り、形と言い縫い込んだ藁の太さと言い、今回のは文句なしの逸品だ。いつもながら良い仕事をしているよ」

 

 瞬間、劉備の背中に何ともいえない心地よい衝撃が走った。「でしょでしょ! 一生懸命夜なべして頑張ったんだから!」作った物を認められる瞬間は、この仕事の中でも一番の醍醐味であり、劉備が今もめげずにこの仕事を続けていられる理由のひとつでもあった。

 

 番頭は近くを走り回っていた小僧の一人を呼びつけると、劉備の持っていた草鞋と筵を全て引き取らせ、続いて店の奥から小振りな布袋を持って来るように命じた。

 

 小僧から袋を受け取った番頭はその中から銭を一握りほど取り出すとそれを劉備に手渡して言った。「じゃあこれお代ね。ほんの気持ち程度だけど色も付けておいたから、これでお袋さんに何か美味しいものを買ってあげるといい」

 

 銭を数えた劉備は目を剥いた。何しろその量は普段のそれよりと比べても比較にならないほどに多かったのだ。「え!? こんなにもらっていいんですか!?」

 

 困惑する劉備を尻目に番頭は手を振って答えた。「いつも劉備ちゃんには世話になってるしね。評判の織物が手に入るならこれくらいどうってことないさ。また次もよろしく頼むよ」

 

「こちらこそありがとうございます! 母もきっと喜びます!」

 

 顔を歓喜で染め、劉備は手渡された銭をありがたく受け取ると、頭を下げて礼を言った。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 母への手土産を求めるべく、市場の中を浮かれ気分で劉備は練り歩いていた。自身の予想を超えた額の成果はその足取りを軽くするのに十分すぎるほどの効果があった。

 荷物ではなく銭で体が重くなる感覚というのはあまり慣れない感覚ではあったが、同時に重みの分だけ自身たちが評価されたようで嬉しい気持ちでもあった。

 

「こんなにお金貰っちゃったし、お土産はちょっと豪華な物を買っても大丈夫だよね」

 

 どんなものを買ったら良いだろうかとあれこれ思案している内に、劉備はかつて母が求めていたある物のことを思い出した。

 

「そうだ。これだけお金があれば、お母さんが一度飲んでみたいって言ってた洛陽のお茶も買えるかも」

 

 茶はよほどの重病人か高貴な身分の者でもなければ滅多に口にできるものではなく、洛陽から流れてくる量が少ないこともあって、手に入れるにはかなりの金額を必要とするものだった。

 幸い今の劉備はそれを買えるだけの金銭を十分に持っている。問題はこの街に茶が売っているかどうかだった。

 

「お茶を売ってるお店がどこかにあればいいんだけど……」

 

 そんな風に考えながら街を歩いていると、ふと通りの向こう側に大きな人だかりが出来ているのを見つけた。

 

「なんだろうあれ? 看板?」

 

 見やると、人だかりの前には何やら看板のような物が立てられており、どうやら人々はそれを眺めては、あれやこれやと己の考えを語り合っているらしかった。

 

 劉備は人だかりの一角に近寄ると、手近に居た若い男に声をかけた。「あのぉ。何かあったんですか?」

 

「ああ、兵員募集の看板だよ」若い男はなんとも他人事のように答えた。「知らないのかい? 近頃は黄巾党とかいう賊があちこちで悪さしてるから、お偉方は討伐のための人手を欲しがってるのさ」

 

https://imgur.com/a/ZjTKh

《帝国の徴募兵/Imperial Recruiter》

 

 看板を見てみるとそこには『遍く天下に義勇の士を募る』という一文と共にこう書かれていた。

 

『黄巾の匪、諸州に蜂起してより、年々の害、鬼畜の毒、惨として蒼生に青田なし。

 今にして、鬼賊を誅せずんば、天下知るべきのみ。

 太守劉焉、遂に子民の泣哭に奮って討伐の天鼓を鳴らさんとす。故に、隠れたる草廬の君子、野に潜むの義人、旗下に参ぜよ。

 欣然、各子の武勇に依って、府に迎えん―――琢軍校尉鄒靖』

 

 ――各所で武装蜂起した黄巾党を倒すため、太守劉焉の軍では新たな兵員を募集している。我こそはと思う者は配下に加えるので役所にて応募されたし――

 要約するとこのような事が書かれていた。

 

「どうだい。お前さん行ってみたら?」不意に別隣の男が揶揄交じりの声を男にかけた。

 

 男はいやいやと首を横に振る。「俺なんか駄目さ。鍬や鎌を握ったことはあっても、槍や剣なんかとてもとても……」

 

 そこに更に別の男が割り込んだ。「何も武器を握るだけが能じゃないぜ。軍馬の世話をするだけでも十分に雇ってくれるはずさ。他に食い扶持もねえし、俺はいくぜ」そう言うや否や、男はそのまま勇ましい足取りで役所の方へと向かって行った。

 

「俺もそうするか、この所どんどん仕事も少なくなってるしな。まったく嫌な世の中だぜ……」

 

 彼らに釣られたように口々にそう言いながら男たちは一人、また一人と受付のある役場へと向かっていく。

 そうしてついにその場には劉備一人だけが残された。

 

「兵員……か」ぽつりと劉備が呟いた。胸の内には複雑な感情が渦巻いていた。

 

 劉備は暴力というものが嫌いだった。例えそれがどんな形で振るわれたものであれ、それは他人を傷つけ、他者から笑顔と安寧を奪う悪しきものでしかった。

 暴力はだめだ、力では何も解決しないといくら綺麗事を並べ、説法の言葉を飾り立てたとしても、現実は常に力を中心にして動き、それを持たない者は容赦なく蹂躙されて無残な最期を遂げる。

 そんな世界を変えるにはどうしたらいいのかと考えたことも一度や二度ではなかったが、それを変える力というのも結局のところは暴力や武力でしかない。

 だからこそ余計に、劉備は暴力という物が嫌いだった。

 

 兵員の応募を見た時、真っ先に思い浮かべたのは村にいる母の事だった。賊の討伐が始まれば、村が戦闘に巻き込まれる可能性も高くなる。城から近い場所に住んでいるとはいえ、わずかでも母の身に危険が及ぶことは避けたかった。

 

 ――いざとなったら母を連れて親戚の所へ逃げることも考えなければならない。

 

 そんな風に考えていたその時、背中から誰のものとも知れない声が聞こえた。「それで、そなたはどうするつもりかな?」

 

 

「え……?」

 

 突然の声に劉備は驚き、振り返ってその出所を探った。すると後ろには一人の女性が毅然とした表情で立っていた。

 歳頃は見たところ自分と同じくらいで、艶のある長い黒髪を横で束ねて垂らしている。凛とした雰囲気も相まって、まるで研ぎ澄まされた刃のような印象を抱かせる女性だった。

 女が誰なのかは分からなかったが、その手に握られた大刀が、彼女が武芸者である事をはっきりと示していた。

 

 驚いた劉備は彼女に率直な質問を投げかけた。「えっと……私に話してます、か?」

 

「他に誰もいないでしょう?」女は含み笑いと共にあっけらかんとして言った。「随分と熱心に看板を読んでいたではないですか。それで、どうするつもりなのですか?」彼女はどうやら劉備があの男たちと同じように兵員の列に加わるのかと興味を示しているようだった。

 

「別に……興味ないです」劉備はかぶりを振った。満足な孝行すらまだ果たせていないというのに、母を残して一人軍に入るつもりなど欠片も無かった。「うちには年老いた母がいますし、そんな無茶な事は出来ません。それに私みたいな女の子が軍隊に入ったって、何が変わるわけじゃありませんから」

 

 恐らく彼女は軍に志願するつもりなのだろう。女が放つ殺気にも似た気配を感じ取り、劉備はそう直感した。そして看板の前でじっと考え事をしている自分を同類と見なして声をかけたという訳だ。もっとも、彼女の目論見はまんまと外れる結果になったが。

 

 女は劉備の言葉に明らかな不満を覚えたようだった。先ほどまで真っ直ぐだった鳶色の目は今ではすっかり細められ、不愉快そうに口を歪めている。言葉にするよりずっと分かりやすい態度だった。

 

「……それはどうでしょう? 女では何も変えられないというのは一体どういう理屈なのですか? 世の中には戦場で活躍する女も、知略を駆使して敵を翻弄する女も大勢居ます。だというのに、あなたはどうして何も変わらないと思うのですか?」

 

 反論の口調は強かった。彼女にも何か思うところがあるのだろう。もしかしたら過去に何かがあったのかもしれない。

 

 どう答えたものかと劉備が黙っていると、女はふと気が付いたように表情を変えた。「失礼。まだ名乗っていませんでしたな」

 

「私は関羽と言います。見ての通り修行中の旅武者です。もし良ければ、少し話をさせてもらってもよろしいですか?」

 

 劉備は困惑した。なぜ彼女は自分にここまで拘るのだろうか? 互いに既知の中でも無ければ竹馬の友でも無いというのに。

 ひょっとしたら彼女は自分が持っている金が目当てなのだろうか? だがそうだとしたら、こんなに熱心に反論してくる意味が解らない。辺りに人気が無い今、その手に持った武器で自分を脅し、金を奪い取れば良いだけだ。

 だとしたらやはり他の目的があってのことなのだろうか。

 劉備の胸の内では関羽への疑惑の感情が渦を巻き始めていた。

 その気配を読みとったのか、関羽はばつが悪そうに頬をかいた。

 

「……いきなり声をかけてきた私を疑う気持ちは分かります。ならばこうしましょう」そう言うや否や、関羽は握っていた大刀の柄を劉備に向かって突き出した。「我が偃月刀をあなたに預けます。怪しいと思ったら、いつでもこれで私の背中を突いてください」

 

「え、ちょっと!?」

 

 いきなり武器を渡され、劉備はますます混乱した。確かに疑って掛かった事は確かだったが、まさか自分に己の武器を預けてくるとは思ってもみなかった。

 困惑する劉備を差し置いて妙にすっきりした顔を浮かべた関羽は踵を返し、すでに何処かに向けて歩き始めていた。

 

「立ち話というのもなんでしょう。食事でもしながらゆっくり話を聞かせてください」

 

 どうしたものかとやや逡巡したものの、手渡された大刀を捨てる訳にもいかず、結局劉備はその背中について行く事にした。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 向かった先は街角にある酒家だった。どうやら店員とは知っている仲らしく、二人は入ってすぐに奥の席へと通された。

 差し出された酒に軽く口に傾ける。桃の香りがする上品な酒だった。

 関羽もしばらくは劉備と同じように黙々と猪口を口元へと運んでいたが、適当な食べ物を頼んだところでようやく口を開いた。

 

「先ほどは突然声をかけて済みませんでした。ああ……」そこまで言ったかと思うと関羽は突然言葉を詰まらせた。どうやら話に夢中になるあまり、名前を聞くのをすっかり忘れていたようだった。

 

 劉備は助け船を出す形で名乗りを上げた。「劉備です。百姓の家の一人娘で、多少の読み書きはできますが、関羽さんのような武人でもなければ立派な家柄でもありませんよ」

 

「では劉備どの。貴女から見て、今の世の中はどう見えていますか?」

 

「世の中って……」思わず劉備は言葉を詰まらせた。彼女がどういう答えを自分に求めているのか判らなかった。

 

 関羽は語るように言った。その声には何か深い感情が籠っていた。「地方では匪賊の横行、中央では役人の圧制、それにいくつかの農地では飢饉の兆候も出ている――今のこの世は、どこか狂っているとは思いませぬか?」

 

 確かに劉備にもその心当たりはあった。立て看板にも名が挙がっていた黄巾をはじめ、大陸の各地で賊が跋扈しており、村や街が襲われているとう話は絶えなかった。

 そしてそれに張り合うかのように、役人たちもあちらこちらで税を上げたり無理な徴兵を行ったりしているという噂も出ている。

 だが、それと自分にいったい何の関係があるのだろうか?

 

「……分かりません。私はずっと小さな村の中で暮らしてきました。賊の話はたびたび聞きますけど、実際に出遭ったことなんてないし、圧政と言われても、元々貧しいうちにはこれ以上取られる物なんてありませんから」

 

「ならばこう言い換えてはどうでしょう」関羽は顔を寄せた。「罪なき人々が次々と殺され、残された人が今日を生きるために仕方なく武器を取り、そして新たに殺す側へと移り変わる。そんな世界を貴女はどう思いますか?」

 

 質問されている間、劉備は関羽の目をじっと見つめていた。暗い翳りを帯びた鳶色の瞳を。

 彼女が語り掛けてくる言葉には静かな怒りと決意があった。恐らく彼女は過去にその狂った何かによって大切なものを失ったのだ。そしてそれを取り返す為、あるいはもう失わない為に彼女は力を求め、女だてらに武人として旅をしているに違いない。

 だがそうだとして、彼女は一体自分から何を引き出したいのか? 一体自分に何をしてほしいのか? それが劉備には未だに分からなかった。

 

「……出来る事ならそんな事が無い世界になればいいとは思います。でもだからって、私に一体何が出来るって言うんですか?」劉備は逆に聞き返した。

 

 関羽は首を左右に揺らした。「それは分かりません。だが変えようと思わなければ、それは一生変わることはないでしょう。違いますか?」

 

 次第に劉備は苛立ってきていた。一方的に質問を投げかける癖に自分は曖昧な答えしか言わない目の前の女に。

 この女は一体何なのだろうか。いきなり声をかけてきたと思ったら、こんな小娘に世の中の事をあれこれ聞きたて、さらに何かをしろと暗に促している。にも拘わらず、自分の目的が何なのかは一切語らないのだ。

 

「……さっきから関羽さんは、私に何を言いたいんですか? どうして私なんかに声をかけたんですか? あなたが気にかけるほどの事なんて、私にあるとは思えないのに」沸き立つ怒りを言葉に乗せ、劉備は言い放った。「これ以上、下らない話を続けるならもう帰らせてもらいます。私も別に暇な訳じゃないので」

 

「実は、夢を見たのです」ひどく真剣な口調で、関羽は唐突にそう言った。

 

「は?」思わぬ答えに、劉備はしばらくぽかんとした表情になった。「夢、ですか?」

 

 関羽は真っ直ぐ視線を合わせて頷いた。「はい。私はその夢の中で妹――義理のですが、それと桃色の髪をした少女の三人で、世界を正すという誓いと共に義姉妹の契りを交わしたのです。花が咲き乱れる大きな桃園の中で」

 

 この女は一体何を言っているのだろうか? ひょっとしたら彼女はどこか頭がおかしくなっているのではないのか? 唐突過ぎる話に全く付いて行けず、劉備は不意にそう考えた。

 

 更に関羽は言葉を続けた。「笑ってくれて構いません。はじめは私も、眠りの最中に見た只の夢物語に過ぎないと思っていました。ですが奇妙なことに義妹も私とまったく同じ夢を見ていたのです。そしてそれは何日も何日も続き、次第にはっきりとした予言のようなものへと変わりました。我らはこの人と出会う運命にあると――そしてついに今日、夢の少女が偶然にも私の目の前に現れた。劉備どの、これを運命と言わずして、なんだというのでしょうか?」

 

「そ、そんなこと急に言われても……」劉備は困惑した。まさかそんな突拍子もないことを突然に言い出されるなど、思ってもみなかった。

 

 自分が世界を正す? 義姉妹の契りを結ぶ? 見ず知らずの相手と共にそんなことをするなど、全く想像すらつかなかった。

 

「この関羽、頭を下げてお頼み申します。どうか私たちと共に来てはいただけませぬか?」関羽は言葉通りに頭を下げた。

 

 だが劉備は関羽の願いに付き合う気など毛頭なかった。というよりも、突然そのようなことを言われて受け入れられる人間のほうが恐らく稀だろう。

 自分には母が、家を残した村がある。苦労は多いが充実した暮らしと喜びがある。今はそこで穏やかに暮らしさえできればそれでいい。

 もし本当に自分にそんなことができるのならばと考えなくはなかったが、自分と彼女とその妹、たった三人が集まった所で、一体何ができるというのか? それだけで世界が正すことができると思うなど、思い上がりなのではないだろうかと、劉備は思わずにはいられなかった。

 

「……いえ。残念ですけれど私には」

 

 劉備が断りの言葉を切り出そうとしたその時、表から大きな鐘の音が何度も鳴り響き、二人の空気を引き裂いた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 鋭い金属の叫びが響いた。聞けば誰もが振り返る警鐘の音。それは明らかに何かの危険を知らせる類のものだった。

 

「な、何!? 何が起きたの!?」劉備は慌てて席から立ち上がり、酒家を飛び出した。

 

 街は音によって混乱をきたしていた。あちらこちらで人々は我先にと押し合い、駆け合い、隠れ、来たる何かへと備え始めていた。

 

 一体何が起こった? こんなことは劉備が街を訪れて以来、初めての出来事だった。

 

 どこかから大きな叫び声が聞こえた。「黄巾だ!黄巾が出たぞ!」続けて甲高い鐘の音が再び鳴り響いた。

 

「どうやら近くで賊が出たようです」関羽が言った。いつの間にか彼女は預かっていた大刀と共に自分の隣に立っていた。「ここは危険です。劉備殿は早くどこかに避難してください。私と妹は軍の討伐隊に合流します」

 

 黄巾――立て看板にも書かれていた賊の名前だ。それがこの街の近くに来ている?

 城下町には軍隊がいる。侵入を阻む城壁も鉄門もある。そうそう襲われたりはしないだろう。だが付近の村は? 楼桑村にも男衆の自警団は存在しているが、賊の襲撃を撃退できるほどの力は持っていない。一度暴力に屈すれば、あとはなすがままだ。

 

「……お母さんが危ない!!」劉備は故郷と母に危険が迫っているのを確信した。そして兵士によって閉まりかかっていた鉄門を見ると、そこへめがけて一目散に駆け出していた。

 

「あ、劉備どの!」

 

 関羽の声も虚しく、劉備は閉じかけていた鉄門の間をすり抜け、危機迫る楼桑村へと戻っていったのだった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 体に黄巾を纏った男たちは、各々が武器を手にしながらひたすらに街道を突き進んでいた。※1

 

http://imgur.com/a/spttj

《黄巾賊/Yellow Scarves Troops》

 

 略奪は彼らが黄巾を名乗る前から連綿と行ってきた行為だった。元々食い詰めの荒くれ集団だった彼らだが、最近では黄巾を名乗ることで追手の狙いが逸れやすくなり、一段と仕事がしやすくなっていた。

 時には本物の黄巾と共に仕事をすることもあった。尤も、仕事を終えた彼らが更に犠牲になることもしばしばであったが。

 

「今日の仕事場は二刻くらい駆けた先にある小さな村だ」黄巾の隊長は手に持っていた骨から肉を剥ぎ取り、それを口の中に収めた。「楼桑村って名前のちんけな村だが、城に近いってことで結構栄えてるらしい。夜には美味い飯と女にありつけるぞ」そして酒で肉を飲み込むと、残った骨を道の脇へと投げ捨てた。

 

 彼の言葉に後ろを歩く部下たちから歓声が上がった。お尋ね者の自分たちは常に飢えている。それが一時でも満たされるとなれば、士気はこれ以上にない程に上がるだろう。今日の仕事も上手くいくはずだ。

 

 ふと前方から同じく黄色い布を腰に巻いた男が駆け寄ってきた。偵察に向かわせた斥候だった。

 

 小柄なその男は隊長に言った。「村の連中はまだ俺らが近く居ることに気づいてないみたいっす。牛も羊もどっさりいて、どれでも食い放題っす」

 

「女はどうだ?」

 

 男はいやらしい笑みを浮かべた。「そりゃもう! 村娘の他にも胡弓を弾く妓なんかも居て、涎が出るくらい選り取り見取りっすよ!」

 

「聞いたかお前たち!」それを聞いた隊長は背後でいきり立つ部下たちに更なる発破をかけた。「俺たちの御馳走はもうすぐだ! 食い残しが無いようにしっかり気を引き締めろよ!」

 

 男の激励に勿論だと言わんばかりに部下達から大きな雄叫びが上げられる。

 これでいい。ここまで全員の士気が高まれば、万が一にもしくじることはない。

 略奪の成功を夢見て、はたまたこれから味わえる至福の時を想像しながら、隊長は欲望の笑みと共にその歩幅を強めるのだった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 全身に感じる疲労も、破れそうになる心臓の痛みも、全てを置き去りにして走り続けた。母の無事だけを願って。

 村はまだ無事だった。劉備は村の男たちに賊の出現を伝え、速やかにそれに備えるよう警告した。

 話を聞いた男たちは血相を変えて村の方々に走り去り、続いて劉備もふら付いた足取りで必死に我が家を目指した。

 こちらも急がなければならない。まだ賊が来ていない今のうちに。

 

「お母さん!」家の戸を開け、劉備は力いっぱい叫んだ。疲労で枯れた喉では声を出すのも背一杯で、実際は普段より少し大きい程度の声しか出なかった。

 

「おや劉備、早かったね」出かけた時と同じように作業場から母が顔を覗かせて出迎えた。だがそれはすぐに怪訝な顔に変わった。「そんなに慌ててどうしたんだい?」

 

「いいから早く逃げないと!」息も絶え絶えな劉備は単刀直入に言った。「黄巾っていう賊がすぐそばまで来てるの。このままじゃ村も危ない。今すぐ子敬伯父さんのところに逃げよう!」

 

 それを聞いた母はしばらく無言でじっと劉備の顔を見つめていた。劉備は最初、それが自分の言葉を理解するための沈黙だと考えていたが、すぐにそれが何か別の事を考えているのだと知れた。

 

 母は大きく息を吐くとそのまま踵を返し、家の奥へと劉備を誘った。「……劉備。今から大事な話があります。ついてきなさい」

 

「そんな事言ってる場合じゃないよ! すぐに逃げないと!」劉備はかぶりを振り、母の肩を掴んでその動きを制した。

 

 母の背中は断固として譲らなかった。「いいから来なさい。来るのです」そのまま劉備の手を振り切り、どんどん奥へと進んでいく。

 

 その力強さに気圧され、劉備は出来るだけ手早く済ませようと母の背中に従った。

 目的地はすぐそこだった。母の部屋。小さいながらも奇麗に掃除されており、塵や埃などは一つも舞っていない。

 劉備は母に促されるまま椅子に腰を落とした。

 

「劉備。お前はまだ、自分が本当はどういう存在なのかを知らない。今からお前はそれを知るのです」ゆっくりと語る母の口調は、なぜか少し寂しげでもあった。

 

「今から私が言うことをよくお聞きなさい」母は劉備の肩に手を置いた。「私がなぜ貴女を真名で呼ばずに『劉備』と呼び続けたのか、教えたことがありませんでしたね。それは貴女に自分の姓についてもっと深く考えてほしかったからです」

 

 確かにそうだった。母は自分を真名で呼んだ事がなかった。常に“劉備”と呼び、その名前を大切にするようにと日頃から言われてきた。

 今考えれば不思議だった。なぜ親子だというのに真名で呼び合わないのか。真名こそ人がもっとも相手に心を許したという証だというのに。

 

 大きく息を吐き、母は告げた。「貴女のご先祖は中山棲王、劉勝。つまり貴女は由緒正しい帝王の血筋なのです」

 

「は……?」

 

 瞬間、世界中の時が止まったような気がした。

 訳が分からなかった。劉勝と言えばかつて皇帝・景帝の実子であり、れっきとした皇族だ。それが自分の先祖であると、目の前の母は言っている。だがそんなことを急に告げられたところで、到底信じられる訳がなかった。

 

 母はそんな劉備の疑惑を見透かしたのか、背を向けると部屋の奥へと向かった。

 何の変哲もない壁。そこに母が手を当てるとその一部が外れ、中から黄金の鞘に包まれた一振りの剣が姿を現した。

 

「これがその証。我が劉一族に代々伝わる宝剣、靖王伝家です」

 

 手渡されたのは黄金の佩環に翡翠の緒珠をあしらった、まさに宝剣と呼ぶに相応しい代物だった。※2

 

http://imgur.com/a/ZOKAr

《戦争と平和の剣/Sword of War and Peace》

 

 鞘を外してみると、中からは鏡のように磨き上げられた見事な刀身が顔を覗かせる。恐らく母が人目につかぬよう細心の注意を払いながら、日頃から丁寧に手入れをしていたのだろう。

 だがこれほどまでに見事な代物が、なぜこんな貧しい農民のあばら家にあるというのか? あるいは本当に自分の一族は、滅びて久しい王家の血族なのだろうか。混乱した劉備の頭では何も理解できなかった。

 

 続いて母は部屋の奥から豪奢な服を取り出してきた。「そしてこれは、いつかお前がその出自を知ったときに着せようと思っていた服。どちらも正真正銘、お前のものです」

 

「私の……」手渡された剣と服を劉備はじっと見つめた。

 

 これほどまでに豪華な一品たちだ。たとえ本物でなくとも、売り払えばかなりの大金となるだろう。にも関わらず、母は貧しい田舎暮らしにも耐え、副業を粛々とこなしながらずっとこれらを持ち続けた。それの意味する所は混乱する劉備の頭でも何とか理解することができた。

 

「劉備。貴女と貴女の中に流れる血はいずれ、この荒れた世界にとって必要なものとなるでしょう。そしてその時はもう目前に迫っています」

 

「お母さん……」

 

「いきなさい」その口調は力強く厳格だった。「自分がこの家に生まれた意味を、自分に何ができるのかを考えなさい。そして気高き者の務めを果たすのです」

 

「母のことは心配いりません。私一人ならどうとでも生きていけます。あなたがいつも私の事を慮ってくれていた事は知っていました。母としてこれほど嬉しかった事はありません。お前は間違いなく私の一番の宝物です。ですがもういいのです。お前はこれからの事だけを見て、己の信じた道を生きて行けばいいのです」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 目立たぬよう服は筵で包んで背中に背負い、剣を手に持って外に出た。他のものはすべて母が持ち出していた。

 鉄の臭い、咽るような血風、どこからか聞こえる悲鳴と剣戟の音――既に賊は村の中へと入り込んでいた。

 

 剣の扱いはあまり得意ではなかった。自衛のために村の男達から軽い手ほどきを受けたことはあるが、襲い掛かる敵を打ち倒すまでにはとても及ばないだろう。

 劉備は誰とも会わないよう祈りながら、母の手を引いて暴力と死に襲われる村の中を駆け抜けた。

 賊が殺到しているであろう酒家や宿などは避け、なるべく人目に付かない裏側の道を選んで通る――だが幸運はそれほど長くは続かなかった。

 

 不意に路の向こう側から手斧を持った一人の男が姿を現した。彼は劉備たちを見つけるとすぐさま舌なめずりし、こちらに向けて歩き始めていた。

 

「お母さんはこのまま逃げて」劉備は剣を引き抜き、ぎこちなく構えた。「あいつは私が食い止めるから」

 

 強引に母を別の路へと突き飛ばすと、劉備は男に向かって剣を突き付ける。その切っ先は恐怖と緊張で震えていた。

 

「いい剣だなぁ」男は劉備には目もくれず、掲げられた宝剣をしげしげと眺めて言った。「そんなに豪華なモンなら高く売れそうだ。おらがお前と一緒に貰ってやるよ」

 

 醜悪な笑みと共に男が劉備へと手斧を向ける。血塗られた刃が彼女に狙いを定めた。

 初めは運よく避けることができた。その次も。だが三撃目の斧が肩をかすめ、四撃目はついに劉備の腹の薄皮を服ごと引き裂いた。

 

 悲鳴は上げなかった。あまりの痛さと傷口に走る熱さでそれどころではなかった。劉備は体制を崩し、その場に仰向けに倒れた。

 

 眼前の大空に賊の男が入り込んだ。「もう終わりかぁ? それじゃあ連れて帰る前にちょいと楽しませてもらうべ」男はそのまま劉備の破れた服に手をかけ、それを脱がそうとする。

 

 彼女が恐怖で目をつぶるのと、男の首が体から転げ落ちるのはほぼ同時だった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 屈辱の時はなぜか一向に訪れなかった。それどころか数瞬前まで聞こえていた男の声も聞こえなくなっていた。

 恐る恐る劉備が目を開けると、目の前には首を失った男の体と矛を持った幼い少女の姿があった。

 

「大丈夫なのだ?」少女が口を開いた。修羅場にとても似合わない、底抜けに明るい声だった。

 

 呆然としながらも劉備は聞き返した。「あ、あなたは……?」

 

「鈴々の名前は張飛なのだ! お姉ちゃんが愛紗……じゃなかった。関羽が言ってた劉備なのか? 夢で見た女の子にそっくりなのだ!」張飛と名乗った少女は先程と同じく明るい声でそう言うと、まるで宝物でも見るような目つきで劉備を見ていた。

 

 関羽。街で出くわした黒髪の女武人の名。だとしたら彼女が話の中に上がっていた義理の妹なのだろうか。

 

 男の体を退かして劉備は立ち上がった。腹の傷がじくじくと熱を帯びて痛んだが、今は構っている場合ではなかった。「あの、関羽さんは……?」

 

「関羽はいま他の賊と戦ってるのだ。鈴々は関羽から劉備っていうお姉ちゃんを守るように頼まれたのだ」

 

「私を……」劉備の予想は確信に変わった。「じゃあやっぱり、あなたが関羽さんの言ってた義理の妹なんだ」

 

 張飛は力いっぱい頷いた。「そうなのだ。鈴々も関羽と同じ夢を見たのだ。お姉ちゃんと関羽と鈴々が三人で一緒に世界を救う夢で、それはとっても大変だけど、みんなが笑顔になれるとっても良い世界なのだ」

 

 彼女も関羽と同じように言った。自分たち三人は夢の中で世界を救うのだと。

 だがなぜ彼女たちは、見ず知らずの自分にそこまで期待できるのだろうか。たった三人でなぜ世界を救う事が出来ると思えるのだろうか?

 

「……ねえ張飛ちゃん。私に……私たちにそんな事、本当にできると思う?」劉備は真剣な眼差しで尋ねた。「私は張飛ちゃんや関羽さんみたいに誰かと戦える訳じゃない。織物くらいしか得意な事がないただの女の子なんだよ? それに世界を救うっていっても、具体的な方法だって何も分からない。それでも本当に、その夢みたいに世界を救う事なんて出来ると思う?」

 

 張飛は劉備の質問にしばらく唸っていたが、やがて覚悟を決めたように目を開くと、堂々と言い切った。

 

「ん~……鈴々には難しいことは分からないけど、きっと何とかなるのだ!」その言葉にはいささかの迷いも見られなかった。本気でそう思っているのだ。「でももしお姉ちゃんが困った時は、鈴々と関羽が助けるのだ! それがたぶん、鈴々たちの使命なのだ!」

 

 本気なのだ。理由や根拠はどうであれ、彼女たちは本気で自分と共に世界を正そうとしており、そのために自分の元までやって来たのだ。

 ――自分がこの家に生まれた意味を、自分に何ができるのかを考えなさい――母の言葉が脳裏に蘇る。これが自分のするべきことなのだろうか? だがそうである気がした。少なくとも今は。

 

「……そっか」大きく息を付き、劉備は迷いを胸の内から追い出した。「急に変な話してごめんね。私はもう大丈夫だから、関羽さんたちの手助けに行こう!」

 

 張飛は頷くと、劉備と共に関羽の居る村の中央へと向かっていった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 首尾は上々だった。村の男たちは既にこちらの接近を気づいていたものの、その人数は少なく、抵抗はささやかと言ってよかった。

 戦闘はこれ以上ないほど有利に進み、一刻と経たずに村は男たちの手に落ちた。

 村の中はまさに宝の山だった。逃げ惑うばかりの女達は容易く捕まえて犯すことができ、店員の居なくなった酒家では上等な酒や食糧をいくらでも貪ることができた。

 賊の長である男もあらかたの仕事を済ませ、その甘美な報酬に与るべく村の中を巡っていた。

 空いた酒家から適当な酒と食べ物を拝借し、それらを口に入れながらまだ手を付けていない女が残っていないか歩き回る。先行した部下たちがあらかたの馳走は食べつくしてしまっているだろうが、探せばまだいくらか残っているに違いなかった。

 

「おい、そこのお前」不意に誰かが後ろから男を呼んだ。若い女の声だった。

 

 歩みを止めた男は素早く腰の蛮刀を引き抜くと、振り返ってそれを声の元へと突き付けた。切っ先の前には大刀を持った黒髪の女が立っていた。

 

「まだ生き残りが居たのか」男は冷静だった。襲撃した村で旅の武芸者と出くわすのはこれが初めてではなかった。「村の連中とは違うな。何者だ?」

 

 女は答えず大刀を男に向けた。「貴様が賊の親玉か?」

 

 相手の立ち振る舞いから、男は目の前の人物がどれほどの腕前なのかを見定めていた。このような場所で賊と出会って、未だ冷静でいられるのはある程度の経験を持った武芸者の証だ。生き残らせれば後々の障害となりえるかもしれない。ここで始末できるならば確実にするべきだろう。ならず者としての知識と経験が男にそう命じていた。

 

「だったらどうした?」胸の中の殺意を強く固め、男は言った。

 

「貴様のような連中がこの世界を腐らせる。お前のような奴が居るから私のような憎しみを持った者が生まれ続ける」女が大刀を握る力を強めた。「お前のような奴は、この関羽が一人残らず叩き斬ってくれる!」

 

 斬り掛かる女の動きは早かった。洗練された構えから放たれた大刀は、まるで尾を引いた彗星のように輝きを放ちながら男へと吸い込まれた。

 だが男の反応もそれに負けてはいなかった。蛮刀の刃先を僅かに大刀に擦らせると、それだけで女の一撃をいなして見せた。

 たった一合――言葉にすればただそれだけだったが、対峙している二人にとってそれは、互いの実力を知るには十分すぎる材料だった。

 

「関羽……?」男は気が付いたという風に言った。その名前には聞き覚えがあった。「そう言えば聞いたことがある。山賊狩りをしている長い黒髪の女。それが確かそんな名前だったはずだ」

 

「別に自分で名乗っている訳では無いがな」女が不敵な笑みを浮かべた。そして大刀を再び構え直し、刃先をぴたりと男の胸へと突きつけた。「ならば分かるだろう。これ以上私と戦えばどうなるか」

 

 男は既に自分の実力が目の前の武芸者よりも低いことを実感していた。無論、無抵抗で殺されるつもりは無かったが、こと一対一の勝負においてそれはあまりにも分が悪すぎた。

 確かにこのままでは自分の命はわずかの間にこの女に奪われることだろう。

 故に男は早くも隠していた奥の手を使うことにした。

 

「そうだな……」男は蛮刀を構えながらもう一方の手でその合図を送った。「結果はお前の負けだがな」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 突然それは背後から現れた。数本の弓矢。それが関羽の死角を突いて襲い掛かり、彼女の手足を幾重にも貫いた。

 関羽の顔に苦悶と激痛の表情が浮かび上がる。

 そして彼女が痛みに気を取られていた隙を付き、男は関羽をその得物が届く間合いへと十分に納めていた。蛮刀が唸りを上げて襲いかかる。

 矢が刺さった腕のまま関羽は大刀を操ると男の刃を防ごうと試みた。だがそのすべてを防ぐことは叶わず、逆に浅い切り傷をいくつも体に生み出す結果になってしまった。

 

「大丈夫ですかい、お頭」建物の陰から何人かの男達が出てきた。全員ちぐはぐな格好だったが、どの男も目印のように同じ黄色い布を腕や首や頭に巻き付けていた。

 

 関羽は自らに突き刺さった矢を引き抜きながら新たに現れた男達を睨めつけた。「貴様ら……!!」

 

「まさか一対一のまま戦うと思っていたのか?」男は冷めた目で関羽に蛮刀を突きつけた。「もう先ほどのようには動けんだろう。その邪魔な手足を切り落とした後、残った体の具合がどんなもんか、たっぷり確かめてからくびり殺してやるよ」

 

 男がもう一度合図を送ると、黄巾の男達は再び弓矢の狙いを関羽に定める。男は勝利を確信した。

 

 不意に関羽が意味深な笑みを浮かべた。「ふ……そうだな。誰も一対一で戦うとは言っていないな」それは数瞬前まで見なかった余裕の表情だった。

 

「何だと?」男は眉を顰めた。

 

 それと同時に不振な表情を浮かべる男に見せつけるかのように赤い風が一陣を吹き抜け、男の部下達を瞬く間に打ち倒していった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「愛紗!大丈夫なのだ!?」赤い旋風が口を開いた。身の丈以上の矛を持ったそれは紛れもなく関羽の義妹、張飛であった。

 

「遅いぞ鈴々。危うく待ちくたびれるところだったではないか」痛みに耐えながら関羽は満面の笑みを浮かべた。

 

「関羽さん!大丈夫ですか!?」張飛から一足遅れてやってきた劉備も関羽の負傷姿に思わず心配の声を上げた。

 

「劉備どの! そちらもご無事したか!」心配された方であるにも関わらず、逆に関羽は笑みを安堵の表情へと変えた。「助けるつもりで鈴々を送り出したのに、こちらが助けられる事になるとは、かたじけない」

 

「……仲間か」新たな敵の存在に男は舌打ちしたが、他に誰も出てこない事が分かると表情を元に戻した。「だがたったの二人か。生憎こっちには村中に手下が回ってる。ここで俺が一声かけりゃ……」

 

「ざんねんでした~。もうお前の仲間は鈴々がぜ~んぶやっつけちゃったのだ~!」

 

「なんだと!?」男は苛立ち交じりのざらついた声を出し、それが真実かどうかを確かめるべく大声で仲間に招集をかけた。だが結果は張飛の言うように、いくら叫んでも他の仲間が助けに来ることはなかった。

 

 男は鬼気迫る表情と共にありったけの罵声が口から飛ばした。品のない呪詛の言葉が三人に浴びせかけれたが、それだけだった。あまりの言葉の汚さに三人の眉根を寄せさせることには成功したが、それで状況が覆ることも無ければ、活を見出す案が出るわけでもなかった。

 

「さてどうする?」腕に刺さった矢を投げ捨て、関羽が言った。「城下町の軍もお前達がここを襲うことを知っている。もうじき討伐隊もやって来るだろう。彼らに大人しく捕まるか、それともここで我らに斬られるか。好きな方を選ぶといい」

 

 死の宣告を耳にしながら男は必死に考えを巡らせた。この危機から生き残るために。もう一度略奪の快楽を味わうために。

 そして最善かつ最も成功する可能性が高い方法を模索すると、それを実行に移すべく、蛮刀を手に劉備の元に猛然と走り出した。

 まさか一番遠い自分が狙われると思っていなかったのか、劉備は咄嗟に剣を抜いたものの、どうしたらいいのか迷ってしまっていた。

 

「お姉ちゃんには指一本触れさせないのだ!」男の狙いを阻止するべく、張飛は二人の間へと割り込んだ。

 

「そうくると思っていた!」劉備を狙えば必ずが二人のうちどちらかが止めに来ると踏んでいた男は、割り込んできた張飛の胸に狙いをつけると、蛮刀を薙払った。

 

 致命的な傷は防いだものの、顔を横一文字に切り裂かれ、張飛の顔が苦痛に歪んだ。

 

「張飛ちゃん!」劉備が悲痛な面もちで叫ぶ。

 

「平気なのだ! それより愛紗!」

 

 その言葉に応えるように駆け寄っていた関羽は、既に男の背後を狙いに定めていた。

 

「分かっている!」裂帛の気合いと共に関羽は大刀を振るった。空気が唸りを上げ、銀線が男の首に向かって再び走る。「外道め!覚悟!」

 

 果たしてその刃は男の首を正確に捉えると、見事にそれを両断したのだった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 村を襲った黄巾党はその大半が関羽と張飛によって打ち取られ、僅かに生き残っていた負傷者たちも後からやってきた城の討伐隊によって即座に捕縛され、連行された。村は救われたのだ。大きな代償を支払って。

 戦死した男たちを含めた村の犠牲者は実に数十名以上にものぼった。そしてその中には劉備の母も含まれていた。

 聞いた話では母は自分と別れた後、逃げ遅れた村の子供を庇って斬り殺されたらしかった。いつも誰かのために尽くしていた母らしい最期だと、劉備は心の中でぼんやりと思った。

 そして同時に劉備は心に誓った。いつか自分も母のように誰かの為に生き、戦い、そして死んでいこうと。

 

 村の襲撃から既に数日が経過した。賊によって破壊された建物は存外にも少なく、人々は村の復興に向けての片付けや処理作業に追われていた。

 その日、劉備は村の奥にある桃園を訪れていた。目的は母を含めた村の犠牲者たちの埋葬だった。

 生き残った者たちで話し合った結果、彼らは桃園の下に埋葬されることになった。美しくも逞しい桃の樹と共に、この村を永遠に見守っていらるように。

 死装束を着せた母を木の根元に埋めた劉備は、その上にゆっくりと土を被せていった。別れの言葉は必要なかった。族の襲撃があったあの日に今生の別れは既に済ませていた。

 母の身体はここで大地の礎となり、同時に新たな実りの糧となる。だから何も悲しくはない。何よりもこの桃木が、母が生きた証となるだろう。

 土を被せ終えた劉備は静かに母に黙祷を捧げると、そのまま振り返ることなく桃園を後にした。

 

 埋葬と葬儀を済ませた劉備が自宅に戻ると、中から関羽と張飛が出迎えた。彼女たちは先の戦いで負った傷を癒すべく、村の援助を受けながら劉備の家で寝泊まりしていた。

 

「別れは十分に済まされましたか?」寂しげな面もちで関羽が問いかけてきた。どこか悲痛さを見せるその表情は過去に何かあったのかもしれない。

 

「うん。ありがとう関羽さん」そのことにはあえて触れず、努めて笑顔を作ると劉備は柔らかく明るい声音で答えた。「平気だよ。ちゃんと受け止めてるから」

 

「お姉ちゃん、大丈夫なのだ……?」今にも泣きそうな顔で今度は張飛がそう聞いてきた。天真爛漫な雰囲気を持つ彼女だが、やはりこういう空気には弱いようだった。

 

 劉備は彼女の優しさに笑顔し、その頭をあやすように撫でた。「大丈夫だよ張飛ちゃん。心配してくれてありがとうね」

 

 出会ってからまだ間もない二人だったが、その短い時間の中でも二人の人の良さ、武人としての強さ、そして胸に秘めた思いの大きさを劉備は十分すぎるほどに理解していた。

 この二人ならおそらく何があろうとも信用出来るだろう。そして彼女たちも自分を信じてくれるはずだ。

 

 覚悟を決めるように大きく息をつくと、劉備は二人に向かって真剣な眼差しを向けて言った。

 

「関羽さん、張飛ちゃん。今から二人に大事な話があるの」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 家の中はかつて無い空気に包まれた。熱く渦巻く気迫。それは理想に燃える戦士たちの興奮の熱気だった。

 居間に集まった三人は神妙な顔つきで席についていた。劉備は向かいに座る関羽と張飛を、二人は語り部である劉備の顔を見つめていた。

 

「関羽さんは私に言ったよね。今この世界は狂っていて、誰かがそれを正さなければいけないって」場を支配していた緊張と沈黙を破るように劉備がゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。

 

 関羽は小さく頷いた。その眼は熱く燃え、次の言葉を強く待ちわびていた。

 

 劉備は言葉を続けた。「初めてその話を聞いた時、私はそんなことになんて全然興味なかった。だって、私みたいな女の子が何かした所で世界なんか絶対変えられないって思ってたし、それになにより暴力とか争いが大嫌いだったから……そしたら突然、村に黄巾が攻めてきて、お母さんから皇帝の血筋なんだって聞かされて、助けに来てくれた張飛ちゃんや関羽さんと一緒に黄巾をやっつけて……色んな事が次々に押し寄せてきて、もう何が何だか分からなかった」

 

「でもそれもようやく片付いて、改めてじっくり考えてみたの。これから自分は何をするべきなのかって」

 

「確かに今の私には何の力もない。お母さんは私が皇族の末裔だなんて言っていたけれど、だからって私自身に特別な力がある訳じゃないし、急に何かが変わる訳じゃない。でも、それでも……」

 

 椅子から立ち上がり、劉備は腰の宝剣を引き抜いた。鏡のように澄んだ刀身が決意の表情をはっきりと映し出していた。

 

「私は――この世界を変えたい。あんな風に自分の故郷が滅茶苦茶に襲われたり、誰かがその犠牲になったりしない世界を作りたい。所詮は夢かもしれない。世間知らずの世迷い言かもしれない。でもそう思えたのは、二人の力があったから。関羽さんと張飛ちゃんが私に力を貸してくれたから。だから私は二人のその思いに応えたいの」

 

 劉備が語る決意の弁に、揶揄も反論もせず挟むことなく静かに関羽はそれを聞いていた。同じく張飛も。その言葉を己の魂に刻みこむように一字一句聞き逃すまいと黙って耳を傾けていた。

 その四つの瞳が劉備に告げていた。もっと奮い立たせる言葉をくれと。

 彼女たちの期待に応えるように、劉備は言い放った。

 

「私はこの剣と私の魂にかけて誓う。もう二度とあんな事が起こらないように、必ずこの世界を変えてみせるって」

 

「劉備どの。いえ劉備様」石のように沈黙していた関羽がその言葉と共に重々しく立ち上がった。そして劉備の隣まで歩いていくと、その場に恭しく跪いた。「今日より我ら姉妹は旅の武芸者を脱し、貴女の剣として仕えたく思います。どうか我らを貴女の配下に加えていただけませんでしょうか?」

 

 関羽の言葉に呼応するように張飛も勢いよく立ち上った。「そうなのだ! 鈴々たちはお姉ちゃんと一緒にこの世界を変えたいのだ!」

 

 だが劉備は剣を収めると、それを拒むようにゆっくりと首を横に振った。「ううん。残念だけどそれはできません」

 

 関羽は目を剥き、悲痛な面もちと共に立ち上がった。「な、なぜです!? 我らの思いを汲んでくださるのではなかったのですか!?」

 

「だってまだ私には、まだ人の上に立つような力も経験もないから。そんな人がいきなり主君になんかなったって、きっといい結果は生まないと思うんです」劉備は強く二人の目を見つめた。「だからまずは私を二人の姉妹に加えて欲しいんです――いえ、加えて欲しいの。三人はいつでも一緒だって思えるように。何があってもこの三人だけは絶対にいつまでも協力しあっていけるように」

 

 是非もないと言わんばかりに関羽と張飛はその言葉を聞くと震えるように頷いた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 次の日、劉備は犠牲者と母が眠る桃園に再び赴いていた。

 美しい――と劉備は素直に感じた。春風に暖められた木々はその梢をいっぱいの花で彩り、そこから漂う雅な香りは園の空気を優しく満たしている。何も知らぬ者が見れば、どこか桃源郷にでも迷い込んだと勘違いしても不思議ではなかった。

 

「いい天気ですね」隣で控えていた関羽が感嘆とした声音を上げた。その様子は恍惚と言ってもよかった。「まるで我らの門出を祝ってくれているかのようです」

 

 劉備は笑顔を浮かべて頷いた。「きっとそうですよ。ここで眠ってるみんなが私たちのために頑張って咲かせてくれたんだと思います」そしてこれで見納めになるであろう故郷の風景をしっかりと心の中へと焼き付けた。

 

「おーい!愛紗ぁ~!お姉ちゃ~ん!」桃園の入り口から聞き覚えのある明るい声が聞こえてきた。

 

 劉備と関羽は視線を声に移した。桃園の入り口から走ってくる赤毛の少女は、紛れもなく関羽の義妹であり、もうすぐ劉備の義妹になる張飛の姿だった。

 そして彼女は己の得物である矛の他に小さな瓶をその脇に携えていた。

 

「あんまり荒らされてなかったお店に頼んで分けてもらって来のだ~!」彼女が瓶を振ると、中から液体の入った音が聞こえてきた。それは関羽が手に入れてくるように命じた酒の音だった。

 

「おお、よくやったぞ鈴々」関羽は喜びの声を発した。

 

「えへへ、これくらい当然なのだ!」張飛はしばらく得意げな顔をしていたが、ふと気になったと言わんばかりに首を傾げた。「……でもどうして誓いを立てるのにお酒が必要なのだ?」

 

 関羽は当然だとばかりに言った。「何を言っている。神聖な姉妹の契りを立てる時だからこそ、その証として共に飲み交わす酒と盃が必要なのではないか」

 

「うーん……確かに愛紗の時にも一回やったけど、やっぱり鈴々にはよく意味が分からないのだ」

 

「なんだとぉ? お前なぁ……」

 

「まあまあ関羽さん。こんな時に怒ったってしょうがないですよ」不機嫌さを募らせる関羽を宥め、劉備は首をかしげる張飛に語り掛けた。「張飛ちゃんにはちょっと難しいかもしれないけど、こう言う大切な約束をする時には相手の人をちゃんと信頼してますっていう意味を込めて、同じお酒を一緒に飲むのが決まりみたいになってるんだよ」

 

「ふーん。そういうものなのかぁ」一応の納得をしたようで、張飛はぼんやりと頷いた。「じゃあ早くしようなのだ!」

 

「まったく……」やや呆れていた関羽だったが、やや肩をすくめた後に言った。「――では、はじめましょうか。劉備どの」

 

「はい」劉備は頷き、家から持ってきた盃に瓶の酒を満たすと、それを関羽と張飛に配った。

 

 盃を持った三人は三角形を描くように並び立ち、互いに見つめ合う。

 誰もがその関係を望んでいた。劉備は関羽と張飛の力を求め、関羽は劉備と張飛の存在を頼りにし、張飛は関羽と劉備の導きを必要としていた。

 三人がじっと見つめ合ってからどれほど経ったのか、やがて誰がともなく誓いの言葉を全員が口にした。

 

「「「我ら三人、生まれし日、時は違えども、姉妹の契りを結びしからは、心を同じくして助け合い、困窮する者たちを救わん。上は国家に報い、下は民を安んずることを誓う。同年、同月、同日に生まれることを得ずとも、同年、同月、同日に死せん事を願わん。皇天后土よ、実にこの心を鑑みよ。義に背き恩を忘るれば、天人共に戮すべし!!」」」

 

「我が名は関羽! 真名は愛紗!!」関羽が右手の盃を高々と頭上に掲げ、己の真名を告げた。

 

「鈴々の名前は張飛!! 真名は鈴々なのだ!!」張飛も合わせて盃を関羽のそれへと重ね、自分の真名を発する。

 

「私の名前は劉備――そして真名は桃香!!」そして最後に劉備が盃を持ち上げ、真名と共にその縁を二人のそれに打ち合わせた。「私は、私は世界を救いたい!! この楼桑村のように! そしてここで眠っているお母さんに見せても恥ずかしくない世界を作ってみせる!」

 

 宣言と共に三人は盃に満たされた酒を呷り、一気に飲み干す。

 この瞬間を以て、劉備、関羽、張飛の三人は晴れて義姉妹の契りを結び、世界再生の旅路へと繰り出したのであった。※3

 

http://imgur.com/a/Wp94q

《桃園の契り/Peach Garden Oath》

 

 

 





桃園の契りだけ見た目が本編とそぐわなかったのでカード画像を自作しました。ご了承ください

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。