IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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連日投稿、フゥゥゥゥ!!


では本編をどうぞ↓


第155話 簪の独白、刀奈の独白

 

 

「……ひゅぅ、……ひょお!」

 

月明かりの照らす中庭に独特な呼吸音が響く。

それは更識簪のものだった。うっすらと額に汗を流しながら型を確認するようにゆっくりと身体を動かす彼女は真っ直ぐに前を見つめていた。

その動きは更識流体術のもの、それも楯無の操る柔の拳の動き。

彼女の頭に過るのは過去のこと、まだ自身が幼いときのことだった。

 

 

 

簪 side

 

───凄いな、さすが更識の娘! まさに天才だ!!

 

───刀奈にも負けてない、いや彼女以上かもしれないぞ!

 

 

 

いまでもはっきりと思い出す。道場で更識流の体術を習い始めた時のことを。

姉と一年遅れで習い出したそれは私に合っていたらしかった、私には才能があるらしかった。

すぐに姉さんに追い付いた。自分でもそれが嬉しくて堪らなかったことを覚えている。なんでも出来る姉さんに自分が並べる唯一のことだって、そう思っていた。でも…………。

幼い時の記憶と同時に私の脳裏に思い浮かぶのはそれから数年後のこと、更識の“柔”を司る老師との会話だ。

 

 

 

─向いてない、どう言うことですか!?

 

──お主には柔の拳を扱えん、ということだ。

 

─それなら継承者は誰に!

 

──刀奈が、いや次代楯無が継ぐ。柔の拳の才能ならば奴の方が上だ。

 

─そんな…………!!

 

 

 

“才能がある”と私にそう最初に言ってくれたのは誰でもない、老師だった。

姉より優れていると、姉より上だと言われたのは、言ってくれたのは老師が最初だった。

だからこそ老師の辛い修練にも耐えられた。それなのに、老師はあの時から私につきっきりで教えることはなくなった。何も教えてはくれなくなった。

全てを、持てる技を姉さんに教えると言って。

 

悔しかった、寂しかった、辛かった。

 

それまでの私を全て否定されたような気がしたから。

 

姉さんに修練の度合いで劣っていたとも思わない。最近の組手でも私と姉さんは互角だった。

でも、でも老師は姉さんを継承者に選んだんだ。

私よりも姉さんの方が相応しいと思って。

 

 

 

そして一年半、更識の“柔”を全て修めた姉さんの組手を見て私は心奪われた。

なんて美しい動きなのだろう、と。老師が私ではなくて姉さんを選んだ理由も頷けた。

しなやかで美しく、それでいて強靭、それこそが“柔の拳”が目指す場所なのだろう。だからこそただ強靭なだけだった私の拳は選ばれなかったのだ。

 

 

 

姉さんに憧れて見よう見まねで柔の拳の歩法や動きを真似したこともある。

その時に気がついた、いや気付かされてしまった。

 

“柔の拳”の完全な行使には特別な肉体が必要になるということに。

柔の拳はその美しい見た目とは裏腹に、使用者の肉体にかなり大きな負荷を強いる、その負荷を耐えるには先天的な肉体の強さと後天的に習得する業が必要になるのだということを。

 

私と姉の違いはそこだった。

私には才能がなかったのだ、柔の拳を扱えるだけの身体の強さが。耐えられるだけの強い肉体が。

 

それが姉にはあった。初めから決まっていたのだ、どちらが“柔の拳”を継ぐかなど……。

 

憧れていた対象にはなれないということを、この時に突きつけられた。

私が欲しいものを姉さんは持っていた。

その肉体も、才能も、全て。

 

それでも私が体術を求めていたのは、単に憧れだった存在から、無理だと分かっていても目を離したくなかった、背を向けたくなかっただけだろう。

 

一口で言えば“意地”だ。 私は天才なんだって、だからこそ更識の体術を手放さなかった。

蔵で見つけた指南書を独学で納め、更識に伝わる“剛の拳”を身につけて見せた。

でも誰も私を褒めてはくれなかった、理解を示してくれなかった。あの老師さえも。

 

側にいてくれたのは本音だけ。

 

なぜか、それは姉の存在があったから。

たった一人でISを組み上げ、その年で国家代表の立場になった姉さんを家の者たちは拍手して称えた。

 

だから私もISを組み立てた。

織斑一夏の存在で倉持技研のバックアップがなくなったのはむしろ幸いだった。

 

これなら姉さんと対等の条件に立てる、そう思ったから。

そうして自分の抱えたロマンを詰め込んだ玉鋼が完成した。

でも家の者は誰も褒めてくれなかった。むしろ更識の娘ならばできて当然のような顔をしていた。

もうこうなったら手は一つしかない。姉さんを超える。

それしか、なかった。

 

それ以外に、私が家の人間に認めてもらうにはそれしかなかった。

 

あの眩しかった姉さんを超える。

 

そして訪れた絶好の機会。学年を越えて、1対1の勝負。それに勝てば皆が、更識が私を認めてくれる。

 

もう姉さんの背中を眺めるだけじゃない。

私は越えたかったあの人を越えて見せる。

正面から挑んで姉さんを打ち倒してみせる。

 

 

どんどん昂る気持ち。そして見た彼女たちの試合。

南美の、鈴の、織斑一夏の、ラウラの、セシリアの、シャルの、箒の、皆の、そして姉さんの試合を見た。

 

誰もが輝いて見えた。

 

顔も身体も土煙や油、硝煙に晒して、どうなっても目の前の相手を倒そうという確固たる意思で皆はいた。

 

アリーナに立てば勝つこと以外を考えない、力強く、美しい姿。

 

普通の女の子なら誰しもが憧れるような、煌びやかな衣装や綺麗なメイクみたいな、そういう世界とは真逆の世界。

 

でもそんな雄々しい姿こそが最も尊い、私も、皆もそんな世界に生きている。

 

 

忘れていたような気がする。

そう私もそんな世界に憧れて、この道を歩んできた。

誰かに認められたい、確かにそんな気持ちもあった。

でも、そうじゃない。私がこの道を歩み始めたのはそんな理由じゃなかったんだ。

 

輝きたい、この雄々しくも美しい世界で。

私という、簪という私の姿を残したかったんだ。

 

 

今見上げた月は、とても白く輝いていた。

 

 

side out...

 

 

 

 

その日、決勝戦を明日に控えた夜のことだった。

 

更識楯無は一人、静かな道場で座禅を組んでいた。

 

白い月明かりが優しく照らすその中で静かに呼吸を整えながら楯無は何を思うのだろうか。

 

 

 

楯無 side

 

 

簪ちゃんの動き、老師に無理だと言われていた柔の動きをほぼ完璧にマスターしていた。

そして私が無理だと思った剛の動きも。

 

それにあの呼吸、更識に伝わる秘伝の呼吸法まで覚えてしまうなんて……本当に天才よ、貴女は。

 

でも負けない。私は“楯無”を継いでいるのだから。

あの時、楯無を継げと父さんに言われた時は心底驚いたわ。

まだ父さんは若い、これからも仕事ができるのになんでって。

でも納得した。父さんが完璧に柔の動きを扱えないからだって。

誰にも、何者にも、どんな状況にも流されない強靭な精神と柔軟な心を持たぬ者に楯無の本領は務めきれない。

 

そしてその心を作るのが更識の“柔の拳”だから。

 

だから父さんは私が柔の拳を継承した時に楯無の名も継がせたんだ。

自分では楯無の責務を十全に務めきれないから。

 

だからこそ私は揺るがない。自分を、楯無の在り方を。

 

 

簪ちゃん、明日貴女がどんな攻め方をしてきても私は揺るがないわ。

それが私の、楯無の武だから。

 

 

……ふと見上げた月はとても綺麗だった。

 

side out...

 

 

 

 





次回決勝戦!!


ではまた次回でお会いしましょうノシ

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