IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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今回はいつもよりやや短いです。


では本編をどうぞ↓


第157話 和解した姉妹、動き出す世界

 

 

──揺らいだ者に勝利はない

 

あの決勝戦で楯無から言われた言葉を思い出し簪は起き上がる。

場所は彼女がいつも使っている倉庫兼整備室。燦々と輝く日差しもあり倉庫の中は蒸し暑い。

蒸し暑さを少しでも軽減しようと簪は作業用のつなぎの上を脱ぎ、タンクトップ姿を露にする。

そしてどうせ休憩するならと軍手もその場に放り捨て、一つしかない小さな窓を全開にした。

そこまでしてやっと涼しさを味わえた簪は装甲を取り付けた玉鋼を見て息を吐いた。

 

「揺らいだ者、ねぇ……。」

 

暑さから額に浮いた汗が額から頬に伝い床に落ちる。

汗で張り付いたタンクトップが気持ち悪く、簪は胸元を扇いで火照った身体を冷やす。

あの決勝戦から時間が経っても思い出すのは姉の一言である。

確かにあの時彼女は揺らいだ。戦い方ではなくて自分の心が。楯無の反撃に一瞬だけ揺らいでしまったのだ。

それが彼女には悔しくて仕方がなかった。

しかし報われた部分もある。

あの決勝戦の夜のことだ。姉から呼び出された簪は呼び出されるままに応じた。そして誘われた部屋に入ると待っていたのは姉からの称賛。

 

認めてくれた、あの姉が、姉から認められた。

長年願ってきたことが不意に叶った簪はその時、訳も分からずに泣いた。

追いかけて、それでも届かなくて、でもやっぱり追い付こうともがいてきたあの人にようやく並べたような気がしたから。

だから彼女は泣いた。幼い頃、まだ姉に甘えていた時のように。

 

 

 

 

 

さて、そうして更識姉妹がまた姉妹の交流をしている頃、フランスのデュノア社では───

 

 

「お久しぶりですなぁ、デュノア社長。いや、暫くぶりです。」

 

「そうですねぇ、まぁ日本とフランスの間ですから仕方ないでしょう。」

 

如月重工の藤原とデュノア社社長のジャックが開発室で談笑していた。

開発室という、企業の秘中の秘とも言える場所になぜ藤原がいるのかと言えばジャックが招き入れた以外にはないのだが。

実を言ってしまえばデュノア社と如月重工は仲がいい。主にパイルバンカーで。いくつかの武装を共同で開発したこともある。

理由は波長が合ったから。技術者も上層部も。

そういった理由で如月重工はデュノア社が本当に苦しい時も支援を止めなかった。

 

だからデュノア社側から如月への信頼は篤い。

 

「それで……何の話でしたか……。」

 

「あぁ、それはコイツを読んでもらえば……。」

 

そう言って藤原は紙束をジャックに渡した。渡された紙束を手にとって中に書かれた内容を1文字1文字丁寧に読んでいたジャックが手を止めて藤原に目を向ける。

そこには相変わらず笑顔のままな藤原がいるだけだ。

 

「……中々に興味深いですなぁ……、しかし、世間が納得するかどうか……。」

 

「納得させるんですよ。ISは兵器じゃないって。その為にも貴方たちの協力がいるんだ。」

 

「兵器ではない、……そうですね。他の企業にもこれを?」

 

「勿論だ。如月(うち)とデュノア社だけが言っても意味がない。みんなが世界に言うんだ。今ごろはうちの交渉役が色んな所を飛び回っているはずさ。」

 

ジャックの質問に対して藤原は答える。その瞳は好奇心に溢れていた。まるで親に夢を語る子供のように。

 

 

 

「面白そうな話だ。(オレ)は乗るぞ。」

 

スペインのソフィア・ドラゴネッティも、

 

「あら? ソフィアが乗るのなら私も乗るわ。その方が面白そうだもの。」

 

イタリアのアナスタージア・ブロットも、

 

「……反対する理由がない。」

 

日本の井上真改も、

 

「あはは、藤原さん主導の企画に乗らない理由はありませんって。」

 

亡国機業(ファントムタスク)の巻紙・オータム・礼子も、

 

「面白い話だ。イギリス代表として1枚噛むぞ、なぁアーカード。」

 

「勿論だマスター。」

 

イギリスのインテグラ・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシングとその従者も、

 

「おもしろそー! 私が協力すればいいの?!」

 

中国の李青蘭も、

 

「ジャックには話が通ってる、ね。用意周到なことだ。……いいだろう、協力する。」

 

フランスのアンジェ・オルレアンも、

 

「よかろう、頂点たる余が力を貸してやる。ありがたく思えよ。」

 

「頂点ってあんた……。でも本当に面白そうね。」

 

「認めてあげるわ、その提案。」

 

スイスのイザベル・ローエングラムと岸波白野、ベルンカステルも、

 

「ほ、ほんとにヒルダが協力すればいいの?」

 

「そうらしいな。」

 

ドイツのヒルデガルト・ワーグナーとミュカレも、

 

「レイコが乗ったんだろ? なら私だって乗るぜ!」

 

カナダのアレクシア・ディオンも、

 

「私としては異論はありませんよ? 上はどうか知りませんが。」

 

フィンランドのスミカ・ユーティライネンも、

 

「ああ、協力しよう。後輩のためにな。」

 

アメリカのハスラー・ワンも、

 

「むしろこちらからお願いしますよ。協力させていただきますって。」

 

ロシアの更識楯無も、

 

皆がみな、藤原の提案した話を快諾する。

誰もが荒唐無稽だと思うことを彼女らは実現すると、確信していたのだ。

 

そうして、世界は大きく動き出す。

 

 

 

 





そろそろ最終回です。(南美編が、ですが。)

ではまた次回でお会いしましょうノシ


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