「全ての希望を超え、未来を掴む!!来い、デウスマキナ――ビヨンド、ホォォォォォォォォォォォプッッ!!」
その瞬間、機械仕掛けの神は、空を割り、空気を裂き、天より飛来する。だが、その前に有希の意識は暗転した。
気がつくと、見知らぬ空間にいた。まるで、飛んでいるかのような錯覚もした。当然だ。有希の体は空中にあったのだから。
しかし、それを見て有希は安心した。ここは、デウスマキナ――ビヨンドホープの中だ。あの時、ビヨンドホープの名を叫んだあの瞬間、有希の体は光に包まれ、空から飛来したビヨンドホープの中へと吸い込まれていった。朱里と共に。
「有希!?こ、これ……」
「ごめんね、朱里。私にもよく分からないけど……これなら、私も戦える!」
ここは球体状のコクピットの中。周りの光景はビヨンドホープの頭部に仕込まれた全方位カメラからの映像。
操作方法は分からない。だが、逐一頭の中にそれらしき情報は流れ込んできている。
目の前の、トリガーやらボタンが沢山ついたレバーを握る。その瞬間に目の前のディスプレイにはこの機体の、ビヨンドホープの情報が表示される。
「SRDM-2ビヨンドホープ。武器はソードトンファーと肩部内蔵射出用ニードル、対地空ミサイル、火炎放射器……よし、大体分かった!!」
有希の声に反応してディスプレイが消える。そして、改めてコクピット内部の様子を確認する。全方位カメラ対応のディスプレイに、後ろには一人か二人の人が座れる補助シート。
そして、操作桿はレバー型ではなく、近未来の銃にありそうなグリップ型。体の横にはもう一つの操作桿。これはまだ分からないが、逐一ビヨンドホープが教えてくれるだろう。
朱里はまだ困惑しているが、ズヴェーリはそんなに待ってくれない。グリップを握りこむと、ふと自分の格好が白と青のパイロットスーツのような物に変わっているのが分かった。少し窮屈だが、まぁ仕方が無い。このまま戦う。
ビヨンドホープの操作方法はこのグリップと足のペダル。そして、自分のイメージ。大まかな操作をグリップで行い、細かい、腕の振り方などはビヨンドホープがイメージを汲み取ってくれる。
「行くよ、ビヨンドホープ――ソードトンファー、アクティブ!!」
有希の声に反応してビヨンドホープが腰のソードトンファーを手に持ち、構える。
ソードトンファーは見た目はタダのトンファーだが、手で持っている部分を捻る事で刀身が飛び出す。殴打にも突刺にも使える優秀な武器だ。
ソードトンファーを抜いたビヨンドホープはそのままトンファーを構えて走り出す。戦いは初めてだ。だが、不思議とビヨンドホープなら負ける気がしない。
地面を踏みしめ走り、トンファーで殴る構えを取る。それに反応してズヴェーリが手を剣に変えて斬りかかって来る。しかし、機神と比べれば怪物程度、塵芥にもならない。その攻撃をトンファーから刀身を出して受け止める。
金属と金属がぶつかり合ったような激しい音が鳴り響き、火花が散る。しかし、こちらの方が出力は上。トンファーでズヴェーリの手を弾き、がら空きの胴に蹴りを叩き込む。
ズヴェーリは蹴られた胴から青い液体を噴出しながら吹き飛び、地面背中がつく寸前に球体に変形してから人型に戻って再び地に立つ。
しかし、距離を取ったのは間違いだ。こちらには、遠距離武装だってある。
「ミサイル、アクティブ!!」
手の甲側の腕についているミサイル格納庫が開き、そこから有希の声にあわせて小さなミサイルが飛び出し、蛇行しながらもしっかりとズヴェーリへと向かっていき、着弾、爆発。
爆炎が上がり、ズヴェーリの姿が隠れる。有希がやった?と小さく呟くと、それと同時にズヴェーリが炎を掻き切って迫ってくる。それに驚き、反応に遅れるが、有希はすぐにペダルを踏み込み。レバーを思いっきり引く。
その動作に合わせてビヨンドホープが自動でバランスを調整しながら足のホイールを回転させ、ズヴェーリから離れる。そして、今度はグリップを押し込んで前へと走る。
「有希、もっとゆっくりと!」
「ごめん、あんまり気にかけてる余裕ない!!」
これでも一杯一杯だ。動悸は早まって、呼吸は乱れて。だけど、思考はクリアに、冴えて行く。まるで、この戦いを望んでいたかのように。
前へと走り。ズヴェーリとぶつかる寸前。右足の足の裏からピックが飛び出し、ビヨンドホープの体を固定。だが、左足のホイールが回転しているため、体は回転。
その回転はかなり速く、酔ってしまいそうだったが、構わない。このまま殴り飛ばす。グリップを離し、体の横の操縦桿に握り替えて思いっきり体を捻って操縦桿を後ろに。レーンに沿って操縦桿は動き、一番後ろまで行った所で今度は思いっきり前へと振るう。
「ぶっ飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
叫び声を上げながら回転の勢いをそのままズヴェーリへトンファーに乗せてぶつけ、殴り飛ばす。機体内部にすら響いてくる轟音と振動。有希は残心を残しつつ再びグリップに手を戻して前を睨む。
吹き飛んだズヴェーリは再び一度球体に戻って人型へと変身する。
埒が明かない。ズヴェーリは体の殆どを液体で構成する不定形の生命体。幾ら殴った所で幾らでも衝撃を受け流して再び立たれてしまう。
どうする。ズヴェーリを構成する液体全てを蒸発させるか?いや、それは時間がかかりすぎる。それに、デウスマキナとて無限に動ける訳ではない。機体内のエネルギーは有限。あまり長いことは戦っていられない。
どうやって倒す。いや、違う。どうやったら倒せる。このクソッタレな液体生物を。
悩みが機体に現れたのか、ビヨンドホープが一歩二歩と後退する。それを好期と見てかズヴェーリが突撃してくる。
出遅れた。トンファーのブレードを出し、その場で構える。構えたトンファーとズヴェーリの剣とぶつける。しかし、今度は不完全な状態で攻撃を受けたビヨンドホープが吹き飛んだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
有希と朱里の悲鳴がコクピット内に響く。しかし、ビヨンドホープは途中で踏ん張って地に手をつけたものの何とか倒れずに立ち上がる。
しかし、ズヴェーリの攻撃は剣だけではない。今度は手を銃に変形させて体液を弾丸のように撃ってくる。
ビヨンドホープに盾はない。横には建物。それを壊して避けるのは言語道断。気がついたときには両手をクロスしてその弾丸を全身に受けていた。
けたたましく鳴り響く警告音。コクピット内の赤いランプが点滅し、ビヨンドホープの全体図のあちこちが赤く染まって行く。ピンチもピンチ。後ろの朱里の悲鳴が痛々しく、だが有希に打開策はない。
何か手は。何か手は。色々なボタンを押し込んで何か無いか確認していく。
何か!そう叫んだとき、目の前のモニターにウィンドウが表示された。それは、まさしくこの場で最も求めていた物で、この状況を打破できる物だった。
これなら。有希は一度空気を思いっきり吸い込み、そのまま前を睨みつけ、弾丸の中を走り出した。
「ちょ、有希!!?」
「ぶち抜く!!」
何を!?どうやって!!?そんな朱里の悲鳴なんて無視して有希は突っ込む。
チャンスは一度。エネルギー的にこの一発のみ。外せば次は無い。なら、当てる。当ててみせる。
トンファーを腰にマウント。右腕を思いっきり引き、有希も右腕をもう一つの操縦桿にやり、思いっきり後ろに引く。その瞬間、ビヨンドホープの右腕に光が集まり、光りだす。
これは、ビヨンドホープの切り札。悪を滅する正義の一撃。明日へと未来を繋ぐ最強の一撃。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
咆哮。叫びではなく咆哮。この一撃で、この一発で、絶対に決める。
そして、モニターにはウィンドウが現れる。その文字は、『ShoutNow!!』
「超振動ッ!爆砕拳ッッ!!」
銃弾なんて知ったものか。このままぶち抜いてぶっちぎる。
銃弾を全身に浴びながらも、突貫。そして直撃。五月蝿いくらいの高音が鳴り響く。そして震えだすズヴェーリ。
暫らくの無音。まさか、倒し損ねた?有希の額に汗が一つ、浮かんだその瞬間に、ズヴェーリの体は徐々に崩壊していき、最後にはタダのゼリー状のナニかの山となり、まるで蒸発したかのように煙となって消えていった。
勝った。勝てた。生き残れた。その実感が湧くのには暫らくの時間が必要だった。拳を振りぬいた状態で動かないビヨンドホープと、横の操縦桿を握ったままの有希。何も言えない朱里。先に息を吐いたのはどっちだったか。両方だったかも知れない。
ビヨンドホープは直立になり、確かな勝利をかみ締めた。もう、ズヴェーリはいない。勝ったんだ。
「やったよ、有希!!」
「うわっ、朱里!?」
後ろから体を乗り出して抱き着いてくる朱里。それに驚きながらも首に回された腕に手を置く有希。今は、この時間が一番うれしかった。ずっとこのまま二人で勝利をかみ締めていたい。
しかし、その直後に再び地響き。何事?そう思ってモニターを見ると、目の前には赤いデウスマキナが日本刀のような物を構えて突きつけている。そして、モニターには相手のデウスマキナのパイロットであろう人物が映し出された。そういう通信方法なのだろう。
『ビヨンドホープのパイロット。今すぐ降りなさい。でないと斬るわ』
「「は、はい……」」
二人はコクピットの中で両手を上げて顔面蒼白で頷いた。何故なら、通信越しのパイロットの目は、今まで見た人間の中ではとびっきり危ない目をしていたのだから。
主人公機の名前はビヨンドホープ。デウスマキナは通称です