因みにこれでも毎日少しづつ書いていたのである。我ながら1日に100文字いかないのは残念過ぎる希ガス。
「…ふぅん、そっちから来たんだ。私もあなたが来ないなら今日押しかけようとしてたわ。私より早く話しをしに来たのは、懸命な判断ね。」
次の日、昼休憩の時間になるのと同時に、屋上にいる遠坂凛に、士郎は会いに行った。
士郎は屋上を見渡すと、一人アスファルトに腰掛ける彼女の姿が視界に入った。その両手にはコンビニのサンドイッチと、これまたコンビニで買ったであろうレモンティーが握られていた。しかしその素朴さとは裏腹に、その表情は険しかった。
「遠坂、取り敢えず飯にしないか?昼放課の時間にも限りがあるからな。昼を食べ損ねるのは午後の授業にもさし障る。」
士郎は手に持っている弁当箱を前に出し、笑顔で食事に誘った。
「……まぁいいか。……分かったわ、まずはお昼にしましょうか。私としてもお昼が抜きになるのは不本意だし。」
彼女も今すぐ事を構える気は無い様で、特に文句を言うこともなく了承をした。しかし士郎の構えることのない態度にどこか調子が狂うらしく、釈然としない表情を見せていた。
しかし、士郎の弁当が視界に入ると、その表情は魔術師ではない者に変化した。
「あら、綺麗なお弁当ね。衛宮くんの妹さんが作ったのかしら?この玉子焼きなんか凄く、綺麗に渦巻きができてるわ。」
遠坂凛も、魔術師なれども青春を走る立派な乙女である。身だしなみは勿論、料理についても人並み以上に努力をしている。故に、目の前にとても色合い豊かで、一品一品が丁寧に作られているお弁当があって、興味を持たない筈がなかった。
「いや、弁当は俺が作ってるよ。家事をこなせる人が家にいなかったから俺が小さい頃からやってたんだよ。そしたら自然と、な。あ、良かったら一つ摘んでみるか?」
直球に自分の作った物を褒められた士郎は、嬉しさと恥ずかしさ半分半分の気持ちに挟まれ、何ともむず痒い感覚を味わっていた。
「じゃあ頂こうかしら。んー、ここはやっぱり手の込んでそうな玉子焼きが気になるわね。どれどれ、はむ…………」
遠坂凛は口にした玉子焼きの味に、思わず目を強く見開いた。まず襲ってきたのはその食感である。玉子焼きとして綺麗に巻くことができ、かつ食感が無機質にならないように加減された、絶妙な火の通し方により、玉子は口で平等に広がりその味を舌全体に感じさせている。
更には塩と砂糖の黄金比により、塩の味の中に僅かに感じる甘みは人の味覚を喜ばせる実に理に適った味をしていた。
そして極めつけはその微量に含まれたスパイスだ。弁当の品物であるから、仕方無しにそれらは冷えてしまう。その要素を埋めるために入れられたそれは、どの部分にも均等に含まれており、味覚に感じさせる項目を増やしている。
それらの工夫は手間も掛かり難く、お金も掛からない。ただ圧倒的なまでの技術によるものだ。そんなものを口にした乙女は恐らくーーーーー
「……負けた、ぐうの音も出ないくらいに負けた………!何よこれ、一高校生が、しかも男子が作るレベルじゃないわよ……!」
ーーーー敗北の二文字を心にきざまれることだろう。それは大いなる悲劇、そう悲劇だ。実に憐れで堪らない。
「どうした?ひょっとして味が遠坂には合わなかったか?」
心の底より呟かれた敗北宣言は元凶の男には届くことはなく、逆に味の心配をする始末である。
「…いいえ、とても美味しいわ衛宮くん。……ええ、とってもね、うん……」
声は次第に小さくなり、士郎へと届いたのは自分の名前までだった。ガラスの如く繊細な乙女のプライドは、学校の屋上から砂の塔の様に崩れ、風に乗って彼方へと流されて行ったのだった。
「さて、一息着いたところで本題に入ろう。」
世間話に花を咲かせていた中、頃合いだと感じた士郎は和んでいた空気を自らリセットした。二人の表情は一変し、その空気は偽ることなく一触即発なものとなった。
特に遠坂凛の変化は大きかった。目が、目つきが明らかに鋭くなっているのだ。威嚇?いいや違う、それは蛇睨みと言えるほど見る者を萎縮させる眼光をしている。士郎も例に違わず、思わず後ずさりをしそうになる程、その眼は強い力を持っていた。
「 今日俺が遠坂に会いに来たのは、話しをするためだ。俺はお前と争うつもりは無いってのをしっかりと伝えたいと思う。」
けれど士郎はそれに臆することなく、偽りの無い言葉を彼女へ放った。
「それは構わないけれど、それと私がどういう対応を取るかは関係無いわ。私がしたいのはね、衛宮くん。貴方がどんな理由で隠すべき魔術を学校なんて人目の多い場所で使用したのか、それを聞くことだけよ。」
言葉に野球の様な球種があるとすれば、士郎の言葉は正にストレート。ストライクゾーンの中心目掛けて全力で飛んでいく真っ直ぐな球だ。変化球などは一切使わず、曲線を描くことなく相手に自分の思いを伝えようとしている。
しかし遠坂凛はバットを振る事はなく、そのボールに目を向ける事すらしなかった。自分が欲しいコースに球が来るまで何食わぬ顔で立ち続けているのである。
そう、つまりは士郎とは違い遠坂凛には野球、もといまともな会話をするつもりは無かったのだ。相手から自分の求めることのみを聞き出すこと、辞書から言葉を選ぶのならば、それは『尋問』と言う他ないだろう。
「それじゃ衛宮くんのお望み通り『話し』をしましょうか。まずは私の質問に答えて欲しいのだけれど?」
「わかったよ。そもそもあの日俺が魔術を使った理由はーーーーー」
彼女の剥き出しにされた敵意などは何のその。士郎は臆することはせず、相手の求めるコースに全力のストレートを投げた。この場面になっても正面から挑むその心意気には、甲子園のピッチャーも驚くことだろう。
士郎は魔術を人助けに使ったこと、その無用心さに関しての謝罪、そして話しの端々に自分に敵意が無いことを彼女へ話した。
話しを聞いていた遠坂凛は終始その鋭い目つきを変えることなく、黙って士郎の言葉を耳に入れていた。
「ーーーそれで?そんな理由じゃあ私が異端者を見逃す理由にはならないわ。」
しかし彼女が出した結論は敵対の二文字だった。
「なっ、なんでさ!?俺はお前と争うつもりは無いって「ーー私にはあるのよ」
士郎言葉を遮った遠坂凛は淡々と、そして冷徹に言葉を並べた。
「そもそも貴方、何か勘違いしてないかしら?確かに、私は魔術を使用した理由を説明しろとは言ったけれど、それは貴方が使った理由じゃないわ。貴方が魔術を使ったことで、私に何の得があるのかを聞いてるの。私が貴方を逃がすに足る理由を聞いてるのよ。理解してくれたかしら?」
そう、遠坂凛が聞こうとしいたのは逃がすことで、自身に何か益があるのか。士郎へと問い掛けていたのは初めからその一点のみだった。その他の事情など全くもって如何でも良かったのだ。
士郎は間違えていた。話しをするなど夢のまた夢だったのだ。初めから相手から見て自分は獲物、あるいは害虫でしかなかったのだ。それに気付くことができなかったのだ。
「まあ、話しの内容からして私に益なんかこれっぽっちも無さそうだし。あんたと話してても平行線のままでしょうし。私も長々とこんな不毛なことはしたくない。そういう訳で、こんな面倒なことぱぱっと終わりしましょうか。」
瞬間、士郎は強い違和感を五感全てに受けた。それは物理的にではなく、精神的にここに居てはいけないと感じさせるものが、今この場所に展開されたのだ。それは正に閉鎖空間の様なーーーーー
「ッッ!!人払いの魔術か!」
緊急事態により、士郎の脳は全細胞に警報を鳴らした。それにより士郎の脳内は人生でトップクラスの思考速度で廻っていた。
「そうよ、私もこんな所で魔術なんて使いたくはないけど、此処であんたを片付けた方が後に憂いを残さなくて済むわ。だからさっさとーーーー死になさいっ!!」
彼女の指先から魔力の塊が放たれる。それは銃弾の如き速さで、士郎へと向かって行った。
「ぐがぁッッ!!」
銃弾を至近距離で避けることはできる筈も無く、それは士郎に直撃した。
激痛及び退避の為、無意識にその場から転がり距離を取る士郎。そして直ぐ様立ち上がり、相手を視界に入れた。見えるのは変わらず此方に指を向ける遠坂凛の姿。士郎は即座にその光景にピントを合わせ、
全神経を集中させた。
命の危険を感じた士郎の思考は冷静なものとなっていた。如何すればこの場を切り抜けられるか、を目的とした思考へと切り替わっていたのである。しかしーーーーーー
「『その状態』で相手から視線を外さないのは褒めてあげるわ。腐っても魔術 士って訳ね。」
ーーーーー魔術が直撃した右の肘から先は跡形もなく消え去っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
痛い、痛い。痛い痛い痛い痛い痛い。右腕より激痛が走り、全身に駆け巡る。それにより気を失いそうになるが、何とか意識を繋ぐ。
肘から先が無くなった自分の腕に触れてみる。血は止めどなく流れていた。このままでは、と思い即座に上着を脱ぎ、腕に縛りつける。
体は何故か重く、力が入りにくなっている。遠坂から受けた魔術が原因だろうか。体調が悪くなる、か。
脳内の辞書を展開し、相手の手札を確認する。
「……もしかしてガンドか…?」
いや、しかしガンドは体調を崩す程度のものである筈だ。腕をふき飛ばす威力のガンドがあり得るのか。いいや、そんなことは今はどうでもいい!このままだと間違いなく俺は死ぬ!!
死を感じるほどに思考の速度は加速していき、より冷静になっていく。脳内はこの場を切り抜ける事のみに使われ、相対的に感じる痛みはしだいに無くなっていく。
五感で感じ取れ、衛宮士郎。相手の情報を整理し、より多くの選択肢を作りだせ。俺は、まだ死ぬわけには行かないんだ。
「……フッ!!」
同調開始。心の中で呟くと共に自らの中にある撃鉄を下ろす。全魔術回路を流れる魔力全てを身体能力の強化に回す。そして間髪入れることなく地面を蹴り、遠坂に突撃する。
遠坂は俺を明らかに下に見ている。だからこそ、突然の捨て身の突撃をするなど、考えもしないだろう。その隙をつくんだ。
「なッ!?きゃあ!!」
予想通り反撃されるなど思ってもみなかった遠坂は先ほどの俺の様に、吹き飛ばされ、屋上のフェンスに身を打ち付ける。その隙を無駄にすることなく、即座に俺は校舎内へと駆け込もうと扉に手を掛ける。
瞬間、魔術の気配を感じた。
「なっ、開かない!」
魔術により扉は、その状態で固定化された。ドアノブは回らなくなり、扉はビクともしなくなった。つまり俺はこの屋上に閉じ込められたということだ。
「……ふん、一度巣で捕まえた虫を逃がす蜘蛛がいる筈ないでしょう?あんたが魔術師だってわかったときから、この学校の私のいる場所には、魔力に反応する仕掛けを設置しておいたの。」
既に体制を整えていた遠坂は、宝石を見せつけながら仕掛けの説明をした。
「本当に初めから話し合うつもりは無かったんだな…」
ああ、何処かでまだ話せると思っていたけどようやく無理だって理解ができた。俺は人同士だと思っていたけど、相手は俺を馬だと思ってた訳だ。だから念仏も唱える気も無かった、そりゃ話しなんて出来っこない。思えばさや だって言ってたじゃないか、無理だと。一体俺は何を勘違いしていたんだ。
「ーーー聖杯戦争。この言葉に聞き覚えはある?最後にこれだけは聞いておくわ。」
せいはい、せんそう?なんだそれは、いや、けど、たしか、いつか、そんな単語を耳にしたような、気が、する。
ーーーーー僕はそのときやっと、やっと自分が正義の味方なんかじゃない事に気がついたんだ。
爺さんは自分自身を貶す様に、呟いた。
そう、たしかあの満月の下で親父と話したときにそんな単語を、
ーーーーーそれに早く気がついていれば、きっとあの聖杯戦争も違った形になったのかな。……もしかしたらアイリも、イリヤも。他の『マスター』達も、
らしくなかった。穏やかであまり後悔の言葉を洩らさなかった爺さんが今宵は栓が抜けたように言葉が溢れていく。
「……『マスター』。聖杯戦争って聞いたってことはそういうことだろ?」
ああ、思い出した。あの夜の記憶は切嗣が忘れてほしいと言っていたから思い出そうとはしてこなかったけど、そうか、そういう事なんだな、爺さん。
「……やっぱり知ってたか。本来なら聖杯戦争で他のマスターになる魔術師を倒す気だったんだけど。あたしの感が言ってるわ。あんたは、此処で消すべきと。だから、此処で果てなさい!!」
再び遠坂の指から魔術が放たれた。あのとんでもない威力の魔術が向かってくる。俺の後ろには開くことのない扉。後ろに距離を取れない袋小路に近いこの状況では、横に避けても追撃には対応出来ない。客観的に見れば絶体絶命と言うだろうこの場面。けど、この数分間に何度もあった同じ様な場面とは、明らかに違うんだ。わかるんだ。ーーーーーこれが危険じゃないことが。
「……格好良いところ、見せたかったんだけどな。けどそれ以前の問題だったみたいだ。」
悔しい、悔しい。自分の身すら自分で守れないことが。
悔しい、悔しい。どうしようもなくわかってしまうのが。
悔しい、悔しい。それを止めることができないことが。
悔しい、悔しい、悔しい、悔しい悔しい、悔しい悔しい悔しい悔しい!!
ああ、知ってるさ。アイツはそういう奴だから。俺を大事に思ってくれて、俺と一緒に居てくれて、俺を尊重してくれて。
だから、誰に言われなくてもわかる。きっと、いや絶対に、彼女はーーーーー
甲高い金属音が響く。方向を晒された弾丸は地面にぶつかりタイルを砕き、破片が視界を遮る。
「…………その汚い指を士郎に向けるな。」
俺を助けに来てしまうんだろう。
そこには、俺の最も大切な宝物が日本刀を構えていた。俺が守りたい宝物は、逆に俺を守っている。
嗚呼、悔しい。俺はまだ、あの時から変われないでいる。なぁ、切嗣。また戦争が始まるみたいだ。
今度はあんたの立ち位置に俺は立てるのかな。
格好つけておいてこの体たらく。まるで毎日の私の様です。
因みに前半の玉子焼きのくだりは完全に蛇足ですのであしからず。いや、学生時代のある日にですね。親に全力で弁当作ってくれと頼んだらクッソ美味い玉子焼きが入ってまして。その作り方を聞いた覚えがあるのですよ。作り方はうろ覚えなんで、「玉子焼きこんな作り方しねぇぞクソワロスwww」といわれてもしかたない。
では