この身は鞘でできている   作:内臓脂肪が多いガリノッポ

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型月の世界観の描き方が大変難しいです。今回も駄文になった希ガス。
あ、後夏イベの復刻で夏玉藻2枚目来ました。やったね。


始まりの夜にて

 夜風がふいていた。冬の寒さを運ぶそれは、遮蔽物のないこの場に確かな音を響かせている。屋上のフェンスに手を掛け校庭を見下ろすと、木々や掲揚塔が揺られていることから、それはこの夜に確かに存在しているようだ。

 

「ーーーこれで一通りは回りきったわ。どうかしら、頭に入った?」

 

 私の傍らには誰もいない。けれどそれはあくまで一般人から見た場合の話だ。私の言葉に答える為に、それは虚空より姿を見せた。

 

「ああ、ここら一帯の地図は全て頭に叩き込んだ。狙撃できるポイントも既に割り出してある。 しかし、良かったのかね?」

 

 自信のある言葉を返したその男ーーーー赤い外装に身を包んだその男は、その長身により見下ろす形で今度は此方に質問を投げかけてきた。

 

「良かったのかって何が?」

 

  「こんな夜更けまで無防備に出歩いていることだ。私一人に地図の一つでも渡せば、済んだだろうに。」

 

「それは駄目よ。その場に言って補足しなきゃいけないことがあるし、それに私自身篭ってるのは好きじゃないの。」

 

  「……君がそういう人物ということは、先の会話で分かっていたが、いささか迂闊過ぎる。」

 

 男は顔に手を当てる仕草をし、遠回しに仕方がない奴だと言った。私からすればお前こそ全く失礼な奴だ、と言ってやりたいところだ。

 

「何よ、私の目的に何か文句でもあるのかしら?」

 

  「いいや、ただ呆れただけだ。君がマスターな以上、例え君が負けた相手にリベンジをするためにこの戦争に参加したとしても、私は君に従うさ。令呪まで使われてしまったのだからね。」

 

  男は私をからかうように次々と皮肉った言葉を口にする。その台詞と共に鼻で笑うものだから、余計にイラつく。

 

「……あら、随分と言うじゃない。それは私をマスターだと踏まえた上で言ってるのよね?昨日からだけど貴方、少しサーヴァントとして立場を弁えるべきじゃないかしら?」

 

「ふむ、マスターとして認めるとその昨日に、私は口にしたと思うのだがね。」

 

「その口の利き方が立場を弁えてないって言ってんのよ!何!?アンタ私に喧嘩売ってんの!?それならそうと早く言いなさいよ、令呪のもう一つぐらい使ってやるわよ!?」

 

 右手の甲を出し、男へと向ける。本来なら三つに分かれている筈のそれは一角欠けていた。

 

 

 

 つい昨日。私はサーヴァントの召喚をした。そう、この戦争の要となる重要な存在だ。過去、現在、そして未来から呼び出される彼等はこの地上で何かしらの功績を残した『英霊』だ。人類の歴史という広い範囲の中でも強い輝きを放つ彼等を、私たち七人のマスターは引き連れ、戦う。

 

 勿論彼等『英霊』たちにもピンからキリまでいる。戦いに向いている者、向いていない者もいる。だから、召喚するサーヴァントというのは大変重要なのだ。そういう訳もあり、気合を入れていた私なのだが、お父様が遺した課題を解いた影響で家中の時計が一時間早くなっていたことを忘れていた。

 

 結果魔力の高まりのピークを逃した私は、盛大な音を立てこの男を召喚した。

 

「お、落ち着けマスター!私も少し口が過ぎたようだ、謝ろう。」

 

「ったくもう!何か私に恨みでもあるの?態々人を怒らせるような真似して。」

 

「恨みがあるわけではないが、聖杯手に入れる気は無いなどと言われたら、私でなくとも文句の一つも言いたくなるだろう?そのマスターが迂闊な行動をしたのなら尚更だ。」

 

 この男、アーチャーを召喚した後、一悶着も二悶着もあって令呪をこんな序盤で使うことになったりもした。そんな次の日の今日、学校を休み戦争の舞台になるこの街をアーチャーに案内していた。

 

「だって本当にそうなんだもの。貴方も嘘よりか正直な方が良いでしょう?それに私は最優先事項がそれって言っただけで、別に聖杯を気にしないとは言って無いわ。」

 

 街を回っている途中、アーチャーに聖杯戦争に参加した理由を聞かれた。私に特に嘘を言う必要は無かったから目的を正直に話した。

 

 "絶対に倒したい相手がこの戦争の参加者にいるの"

 

 最初は自分の実力を試すためだけだった。けれど、今は違う。子供みたいかもしれないけど、あの二人に勝って自分を正当化したい。それだけだ。

 

「しかしその相手と同盟を組んでいて、更には最後の二組になるまで挑めないと来た。……私でなければ君を見捨てていたところだぞ?この程度の愚痴は言わせて欲しいものだ。」

 

「それは素直に感謝してるわ。だからそれに応えようとも思ってる。だから改めて言わせて。」

 

 やれやれと、口にしながらも私と共に戦い抜こうとしてくれる彼に感謝はとてもしている。だからこそ彼には伝えなければならないだろう。

 

「ーーーこの戦争の勝者になりましょう、私たち二人で。」

 

 アーチャーは少し目を丸くした後、またニヒルな笑みを浮かべて、「言われるまでもない。」と言ってくれた。

 

 そろそろ本格的に夜が舞い降りてくる時間だ。街のは明かりは更には無くなり、人の気配も消え始めるだろう。今日はもう引き上げるべきだろうと、帰路に着こうとしていたーーー

 

 

 ーーーーーー刹那。夜風が止んだ。

 

 

「よお、嬢ちゃん。話しは済んだか?なら、次は俺とちっとばかし付き合ってくんねぇか。」

 

 ただならぬ気配と共に姿を現したのは、蒼に染まった外装の男だった。その野獣の如くギラつく瞳は、既に私たちへ焦点を合わせていた。つまりは敵のサーヴァントが現れたということだ。

 

「どうやらお出ましのようだ。マスター、指示を。」

 

 そんなの決まっている。私は逃げも隠れもしない、挑まれたのなら迎え討つのみだ。それにこの展開を予想してなかった訳じゃない。

 

「アーチャー、私が自ら外に出た理由はもう一つあるの。それはね、貴方の実力をこの目で見るためよ!」

 

「フッ、了解した。その目で私の力を見極めると良い。そこの青いの、君もそれで構わないだろう?」

 

 挑発をする様に、アーチャーは相手に笑みを向けた。そして同時に魔力の高まりを感じた。

 湧き上がった魔力が空気を穿ち、夜は一瞬で嵐の夜に姿を変える。相手の男からも同様に、魔力を高め今にも襲い掛からんとしていた。

 

「んじゃまあ、お手並み拝見ってことで、やり合うとするか、ねッ!!」

 

 その男は槍を手に持ち、目にも止まらぬ速さでアーチャーへとその矛先を向け飛びかかる。その軽い台詞とは裏腹に、込められている殺意は濃厚で、私は思わず後ずさりしてしまった。

 けれど、アーチャーはその不敵な笑みを絶やすこと無く、いつの間にかその手に握られていた短剣で、それを防ぐ。

 

「へっ、この俺と正面からやり合おうってか。面白い、そのチンケな得物で防げんのか!?」

 

「それは打ち合えば自ずと分かるだろうさ。」

 

 人類の枠組みを超えた神秘同士の激突が、今始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔術工房っていうのは魔術師にとって、命より大事な研究成果が隠されているもので、自分以外の者は一切入れないようにしてあるものらしい。

 

「……召喚、此処が最適。」

 

 いつも魔術の鍛錬をしている蔵。そこでサーヴァントの召喚を、俺たちは始めようとしていた。他の魔術師の前で魔術工房なんて大層な名前じゃ呼べないけど、この家では最も召喚に適した場所だ。

 

  「ああ。それじゃあ…、やるか。」

 

 少し息を呑み、覚悟を決める。もう、後戻りは出来ないラインに俺たちはいる。この一線を越えれば後はひたすら前に進むしかない。

 

「確認させてくれ。さや、本当に良いのか?俺なんかに付き合う必要は無いんだぞ?」

 

 本当は自分一人でなんとかしたい。けど、俺ができる事なんてたかが知れてる。俺一人じゃきっとただ死ぬだけだ。だからさやに頼らざるを得ない。

 けどそれは、俺が最も嫌っていることの筈だ。今も記憶に残っている小学生の頃の懇願する様にも見えた、さやの言葉。

 

 "…私、士郎の夢、見たい。…近くで、側で。"

 

 強い感情の高ぶりをその時感じた。その正体は未だに分からないけど、俺がさやを、妹を護らなければ、そう思ったのかも知れない。

 

「……好きでやってる。」

 

「…、ありがとう、助かる。」

 

 少しホッとした。ーーーーーーいや待て、何故そうなる!?先の自分の思考と全く噛み合っていない!!何故俺は安心したんだ!?何故感謝をしたんだ!?

 意図せず口から出た言葉の意味が、自分でもわからなかった。いや、分かりたくなかった。言葉の意味をそのまま取るならーーーまるで衛宮士郎は衛宮さやと一緒に戦争に参加したい、そう言ってる様ではないか。

そんなこと断じて認められない。あり得ない、俺が態々さやを危険な目に合わせるなんて、嘘だ。何かの間違いだろう。

 

「……士郎、呆けてる。」

 

「あ、ああ、すまない。ちょっと緊張してたみたいだ。」

 

 さやに声をかけられ、思考の渦から引き戻される。そうだ、今はそんなこと考えている場合じゃない。サーヴァントの召喚に集中しないと。

 

「……閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ(みたせ みたせ みたせ みたせ みたせ )ーーーーーーーーー

 

 

 

蔵に声が響く。詠唱の続きを紡ぐ中、俺は思考の海に沈んでいた。

 

俺がこの戦争に参加する理由。それは聖杯を手に入れて、願いを叶えることじゃない。寧ろその逆、願いを叶えさせないことだ。あの夜、切嗣は言った。”聖杯によって大火災は起こされた”と。

改めて考えてもみれば、態々聖杯に大火災を起こさせる奴なんていない筈だ。魔術師ならばより生産的で効率の良い願いを託すだろうし、仮に破滅を願うとしても火災で済ますだなんて、些かスケールが小さ過ぎる。

ならば大火災は聖杯の何らかの不具合によって起こされたと考えるべきだ。

 

そして今回の聖杯がそれを起こさない保証は無い。ならばそれは何としても阻止しなくてはならない。もう二度とあの地獄をこの冬木で生み出させる訳にはいかない。それが俺の、あの火災で生き残った俺の『使命』だと思う。

 

俺はあの日から憧れていた。あの日の切嗣に。人を救うことが出来る切嗣に憧れ、同時に嫉妬していた。あの日の俺は、誰も救えなかった。助けを求める人も、倒れている人も、さやも。俺はあの時の切嗣の様に、誰かを救える『人間』なりたい。さやを守れる『人間』になりたい。

もう、誰も助けられない自分は嫌だ。あれから10年、できる限りの努力はしてきたつもりだ。だから、だから今度こそは!

 

決意に呼応するかの如く、身体から大量の魔力が放出されていく。それにより床に描かれた召喚陣は強く発光し、魔力の循環は更に速くなる。

 

「ーーーーーー抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!」

 

瞬間、目をも思わず覆う程の輝きが発せられた。神々しさすら感じさせる白き光は、いつも光の入らないこの場所を強く照らした。

 

視界が元に戻る。突然の出来事で思わず尻餅をついていた俺は、見上げる形で『彼女』を見た。

 

「ーーーーーー問おう、貴方が私のマスターか。」

 

彼女がその身を鎧で包んでいるのを見る限り、きっと騎士なのだろう。けれど騎士には明らかに不相応に感じる余りの美しさ。まるでおとぎ話に出てくるかの様なその姿は、寧ろ妖精か何かじゃないのかと感じさせる。

 

その翡翠色の瞳は真っ直ぐに俺を捉え、見つめ続けている。強く凜としたその眼に俺は酷く既視感を覚えた。ーーーーーそうだ、この眼は鏡に映る自分自身の眼。変わりたい、変えたい。そんな思いをことを心に誓うとき、俺の眼は決まってこうなっていた。

 

「ーーーーーーーああ。」

 

感嘆の息を吐いたかの様な応答の声が口から自然と出た。理解の追いつかないこの状況に、俺は心の籠らない返事をすることしか出来なかったらしい。

 

きっと忘れない。この先どんな喜びや悲しみがあったとしても、この言葉にすることができない感動を俺は忘れることはないだろう。絵画の如く美しいこの光景を忘れることはできないだろう。

 

ーーーーーーこの日、俺は運命に出会った。

 

 

 

 

 




うむ、まあこんなもんです。次はもっとマシなやつが書けるといいなぁ。
それと、今年の夏イベも頑張りましょう。
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