なのは+『未完の護り手』   作:黒影翼

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第七話・春色騒動

 

 

第七話・春色騒動

 

 

 

Side~アインハルト=ストラトス

 

 

 

「温泉だって!楽しみだね!」

「汗かいたし気持ちよさそうっ。」

 

明るく服を脱いで畳んでいくヴィヴィオさん達を余所に、私は気恥ずかしさを隠しきれないまま気を抜くと震えそうな手で脱いだ服を置いていく。

 

「貴女こういうとこ本当弱いわね…」

「そ、そういう強さはいらないと思います。」

 

既に服をしまい、タオルすら巻かずに堂々とした様相で突っ立っている雫さんに呆れられた。

すぐに反発したものの、考え直す。

 

風呂場で襲われたから負けました、とは言えないのでは?

あの雫さんならそれもありえる気が…

 

 

「…タオルの結び目見ながら何を真剣に考えてるのか知らないけど、私もさすがにお父様以外が入ってきたら叫ぶわよ?」

「っ!?」

 

 

バレバレだったらしく、肩を竦めた雫さんに苦い顔で呟きを漏らされる。

って…あれ?

 

「あのー…フツーパパが入ってきても叫ぶと思うけど…」

 

とっくに温泉入りの準備が済んだらしいリオさんが、恐る恐るといった感じで声をかけてくる。

見ればその背後ではヴィヴィオさんとコロナさんも頬を赤らめて目をぱちくりと瞬かせていた。

雫さんは心底不思議そうに息を吐いて…

 

 

 

「何言ってるの?親子だしお風呂くらい入るでしょ?」

「「「ないないないないっ!!!」」」

 

 

 

常識のように語った日常らしい光景を、三人にばっさりと全否定された。

 

「嘘だぁ!アインハルトは?クラウスさんとかなら入るでしょ?」

 

私に振られても味方は出来ないのでやんわりと謝ろうと思っていたのだけれど、よりにもよって何故かクラウスの名前を出された。

 

一瞬、記憶の残滓にうつる端整な顔立ちの青年に後ろから抱えられた状態で湯船に身を沈めた姿を想像してしまって…

 

「ひっ…人の先祖でなんて想像を…っ!!!」

「ちょ!え!?想像って何!?や、ごめん!分かったから離して!肩砕けるって!!」

「元気なのは分かったがそんなカッコで突っ立ってたら風邪引くぞー。」

 

完全にパニックになった私は、ノーヴェさんが止めに入るまで雫さんの両肩を掴んでがくがくと揺らし続けていた。

 

 

 

Side~高町ヴィヴィオ

 

 

 

雫さんが振ったとんでも発言に、いけない想像をしてしまったらしいアインハルトさんは、

温泉に入っても体を隠すように腕を組みっぱなしだった。

 

「駄目ですよ雫さん、アインハルトさん清楚な方なんですから。」

「どーせ私はお嬢様でもなければ学校にも行ってないわよっ。」

 

で、当の雫さんも私達全員から総出で否定された挙句、アインハルトさんに肩を痕が残る位の強さでつかまれてすっかりご機嫌斜めといった感じになってしまった。

 

家族でお風呂ってだけなら…うん、普通かも知れないけど…

 

試しにパパ『候補』の速人さん、ユーノさん、フレアさんと一緒にお風呂に入ってる所を考えて…

 

 

無理無理無理無理っ!恥ずかしいよ!

 

 

やっぱりどうしたって雫さんのフォローは今回は無理そうだった。

 

「あらら、雫ちゃん楽しんでくれてる?」

「温泉は気持ちいいわ。ちょっと傷が痛むけどね。」

 

様子を見に来たルールーには素直に答える雫さん。

温泉自体は楽しんでくれてるみたいだ。

 

でも、傷の話が気になって雫さんの体を見る。

 

湯船に浸かった雫さんの白い肌。その所々に何かですった様な傷跡や、切り傷みたいなものの痕がうっすらと…でもあちこちに見える。

一応女の娘だし、痕が残らないように治癒して貰ったりはしてるんだけど、雫さんを見る限りそういう事をしてるようには見えない。

 

「あの…傷治さないんですか?」

 

魔法で。

と言う事になってしまうから恐る恐る聞いてみる。

 

「あ、温泉的に?」

「それは気にしなくても、かけ湯通ってさえくれれば。」

「そう。ならこのままでいいわ。」

 

けど、雫さんは特に怒るでもなく、ルールーに確認だけ済ませてさっぱりとそう答えた。

 

「菌とか入るし痕も残るって言うんでしょ?でも致命なものじゃない場合自分で治すのも大事だからね。」

 

筋力が強くなるのに必要な工程の超回復も身体を治そうとする力が必要だし、その関係で魔法に頼らないようにしてるらしい。

私達も全快までは使わないけど、残りそうな傷口にはさすがに使ってる。…女の子だし。

 

「剣に理解を示してくれない人と結ばれる気なんて欠片もないから、修行で負った傷跡がいくら残っても関係ないわ。」

 

全く迷いも躊躇いもない済んだ声。

ここまで断言できるって本当凄いと思う。

 

「…漢だな。」

 

素直に感心していたのに、少し離れた所から聞こえてきたノーヴェの感想のせいで全部台無しになってしまった。

ノーヴェ…いくら何でもそれは酷いって。

 

 

 

Side~アインハルト=ストラトス

 

 

 

ぼー…っと、身を隠すようにして湯に身を委ねる。

妙な妄想にクラウスの姿を巻き込んでしまったせいで、下手にクラウスの事を思い出すと先の妄想まで出てきてしまう。

 

…どの道温泉で修行するわけでもないのですから、何も考えずにゆったりしましょう。

 

「きゃあ!」

「何!?何かいる!!」

 

甲高い声に思わず視線を移す。

恥ずかしげな悲鳴。何かがいる。

 

 

…何…か?

 

 

『誰か』ではないのだろうか?

恥ずかしさが残るまま浮かんだのは、痴漢の可能性。

思わず立ち上がって身構える。

 

「アインハルトさん?はわわっ!」

「きゃあっ!」

 

雫さんと話していたヴィヴィオさんが急に立ち上がった私をいぶかしんだ次の瞬間、ビクリと身を竦ませる。

続くように、コロナさんも悲鳴を上げる。

 

 

ブチリ…と、頭の中で何かが切れる音がしたような気がした。

 

 

妄想が妄想ですまなくなっている。

雫さんも異常に気付いたのか、立ち上がって少し私の傍に寄ってきた。

 

 

私の顔を見てくる雫さん。

刀もなく、魔力も使わない雫さんは、決め手になれない。

おそらく、トドメは私に任せると言う事だろう。そう判断して小さく頷く。

 

「…そこっ!」

 

雫さんが温泉の中に向かって手を突き入れる。そうしてそのまま引き上げて…

 

「アインハルト!」

「はいっ!!」

 

アイコンタクトの通り私に向かって差し出された犯人に向かって、散々やった水斬りの要領で、溜めた拳を解き放つ!

練習含めて今迄で一番の手ごたえで水が切れる感触がして…

 

 

「いぎゅっ!!」

 

 

メキッ…と、鈍い手ごたえと同時に聞こえてきた、女性の声。

 

 

…え?

 

 

恐る恐る私が手を引くと、鼻からだらだらと血を流している顔を両手で押さえる女性の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

「鬼だ…最近の子供は鬼だあぁぁぁ…」

「すみませんすみません!!」

 

鼻に紙を詰めてプルプルと震えるシスター、セインさん。

何でもサプライズでイタズラを仕掛けて脅かそうと思っていたらしいけれど、完全に痴漢だと思い込んでしまった私は、雫さんと揃って病院送りにするぐらいの気で攻撃してしまった。

 

鼻血が出たままでは温泉に入るのもままならないので、イタズラひとつで…というか、私がやりすぎたせいで完全に外野扱いになってしまった。

 

「いーんだよ、セクハラも犯罪なんだ。自業自得だ。」

「うぐっ…」

「何なら逮捕してもらう?局員が目撃してるし裁判揉めないわよー。」

「ううぅぅぅ…」

 

ノーヴェさんとルーテシアさんにステレオで呆れられて縮こまるセインさん。

過剰防衛と言われても仕方ない気がして私としては正直何も言えない気分だ。

直前にあんな妄想してたせいで、過剰反応してしまった。

 

「ま、いーんじゃない?古い芸人みたいで面白いし。減るものでもないし。」

「減るものでもないって…」

「お前ホントさっぱりしてるなオイ…」

 

雫さんは犯人が女性とわかった時点で温泉に浸かりなおしてのんびりとし始めていた。

あまりの軽さにティアナさんやノーヴェさんといった大人の皆さんが微妙な表情で雫さんを見ていた。

 

そんな周囲の様子に気付いた雫さんは、局員の皆さんを見渡し…

 

 

 

 

 

「大体、セクハラで逮捕するなら、元機動六課部隊長八神はやても逮捕するのね?」

 

 

 

 

 

続けて放った雫さんの一言で、周囲の空気が凍りついた。

 

「わかったら身内のイタズラ位スルーすれば?十分痛い目見てる訳だし。」

「そ、そうね、そうしましょうか。」

「ル、ルーちゃんもそれでいい?」

「まぁ…しょうがないわね、うん。」

 

すさまじく作られた空気の中、セインさんについての話はこれで片付けることとなった。

 

「あの…ヴィヴィオさん、八神はやてさんとは…」

「ママ達の親友で皆さんの昔の部隊長何ですけど…」

 

言葉を濁すヴィヴィオさんだったけれど、少し躊躇って視線を私から外して呟く様に…

 

「…大きい胸好きなんです、無類の。」

「あぁ…」

 

この空気の原因が一言でわかってしまった私は、これ以上この件には触れない事にした。

そんな偉人が同じようなイタズラかスキンシップかに関わっていてはさすがにこれ以上何も言えないだろう。

 

 

 

Side~月村雫

 

 

 

自宅だとよくありそうな程度の騒ぎに、訴えるだなんだと物騒な単語が飛び交ってたので、さっさと黙らせただけだったんだけど…

 

「助かったー!ありがとう、えーと…」

 

どうやら当のセインには感謝されたらしい。

名前がわからないようなので素直に名乗ることにする。

 

「月村雫。」

「あー!あの恭也さんの!お母さんに似てるねぇ。」

 

鼻血の為お風呂に入れないセインは、水着のままで湯の外から話しかけてくる。

 

「って、家来たの?」

 

お父様のほうはJS事件で犯人の一人を倒したらしく関係者に知られているけど、お母さんのほうは特に名が売れるようなことはしていない。

となると、直接面識がないと知らないはずだ。

 

「ケーキ買いに行ったり、パーティーとかする時にね。全然どこにも来なかったのに今回はどうしたのさ?」

「お父様と修行に来た所で『偶然』会ってね。」

「あー…」

 

ほとんど棒読みで偶然だけ強調した事に、なんとなく事態を察したらしいセインは何かに納得したようにうなずいていた。

 

「のんびりしてる時間ないから、修行してたいんだけどね…」

「うへぇ…よく見れば細かいけど傷跡だらけじゃん…それでまだ修行してたいなんて、よくやるねぇ…」

 

苦い表情をするセイン。

実戦ができない今の私にとって、次の修行に移るために修行してるような状態なんだから、修行を嫌がってたら何も進まない。

 

…まさか、実戦というかお試しに戦える相手としてヴィヴィオ達と絡ませたんだろうか?

 

いや違う違う!調子に乗るな!

双方怪我して身内に振るうものじゃないってちゃんと再認識したはずだ。

 

「どうしたの?なんか首振って。」

「いや、我慢がきかなくてつい…」

「何々?襲いたくなっちゃったとか?」

 

ニヤニヤしながら胸を強調するセイン。

…悪乗りする人だっていうのはわかったけど、シスターがそれでいいのか。

 

「鼻ティッシュで何言ってるんだか。」

「うぐっ…子供の癖にどんだけ冷めた反応するんだよぉ。」

 

悪い冗談が特技の大人が周囲にいると、さすがに慣れる。って言うか、子供相手に何言ってるんだ。

 

にぎやかになっているヴィヴィオ達のほうに目をやると、模擬戦とかの話になっていた。

 

「明日の模擬戦の話みたいだね。雫ちゃんも参加するんでしょ?」

「しないわ、お父様との修行で来てるんだから。あまりいろいろする時間ないもの。」

 

参加したいわけでも、興味がまったくないわけでもない。つまりはどっちでもいい。

だったらだったで、絶対に必要な事柄を優先するのは当然で…

 

「あぁそうだ、恭也さんから話があってな。」

「え?」

 

ヴィヴィオ達との話から外れてきたノーヴェが、お父様の名前を出す。

 

「明日来るアクアとクラウ、フレア空尉と一緒にお前も朝は参加しとけって。練習会。」

「は?」

 

あっさりと、本当にあっさりと言われた事態についていけない。

ヴィヴィオ達も初耳だったのか、よってきたノーヴェの後に続くようにして私の顔を見ながら楽しそうに笑う。

 

「へへー…アインハルトさんやヴィヴィオだけ負けちゃって、魔法戦技馬鹿にされてたからねー。敵チームで当たったら全力で勝ちにいくからね!」

「私達だって結構強いんですよ?」

 

リオとコロナが私を見ながらそう声をかけてくる。

無理もないが、なんだかいつの間にか相当な悪役になってたらしい。

 

…これは逃げられないな。どの道お父様の指示らしいから、逃げるつもりはないけど。

 

「どうせやるなら私は実戦経験組のほうがいいんだけどね。」

「あーっ!まだ馬鹿にしてるー!」

 

軽口で返しながら、私は空を見上げる。

 

わざわざお父様がなのは叔母さんと口裏あわせまでやって巻き込んだんだろう魔導師戦。

何でかはわからないけれど、何かはある。

 

「…ま、やれるだけやってみるしかない…か。」

 

お気楽に笑顔で握り拳をかざして楽しそうに話すヴィヴィオ達を眺めながら、私は途方もない力を持つ魔導師達とどう戦うか考えながら目を閉じた。

 

 

 

SIDE OUT

 

 




厳格で厳しい部分もある家系ではあるものの、身内や好きな人には時によって甘甘な一家の片鱗、『一緒にお風呂』(笑)。
なのはも昔お父様に呼ばれてましたし(爆)。
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