第九話・崩れる戦線
Side~月村雫
「紅蓮拳!」
打ち出される炎の砲撃を横っ飛びで回避する。
完全回避はブーストかかってないと難しかったかもね。
けど…お父様達なら対射撃の訓練もやってるんだろうけど、まだ私は対近接、投擲がせいぜい。
こんなもの撃たれっぱなしじゃ近づくのは無理そうだ。
時間もないし…やるか。
「ふっ!」
私は右の刀を思いっきり投擲する。
狙いはリオの左肩。
「っと!」
当然の如く回避される。
…ま、予定調和だけど。
「って!?糸!?」
0番鋼糸で結んであった刀。
私は右手の内に隠してあったリールを思いっきり引いて、内側に回避したリオに刀をぶつけ…
「くっ!」
ようとしたけど、リオが踏み込んできたせいで刀本体を外された。糸がリオの二の腕に触れ…
「あ…ったぁっ!!」
軽く引っ張ると、リオが悲鳴を上げた。
使い手の加減で石くらいなら容易に裂ける鋼糸に触れた状態で引っ張ったんだ。
当然少量だけどダメージが入る。
「えぇ!?今ので終わり!?」
どうやらライフがゼロになったらしい。
…どうにかなったか。
コロナとはクラウが戦ってくれてる、特にこっちが巻き込まれる気配もない。
攻撃の気配が無いことだけは確認した上で通信を入れる。
「キャロ、召喚して。フレアさんの相手は私がする。」
『わ、わかった。動かないで!』
少しだけ転送に時間が要るらしい。
私は座り込んで腕の傷を見ているリオを見て…
「怪我させてごめん、後で治してもらって。」
ノーヴェに怪我が無いようにって話を出されたのに、出血してしまってるので謝っておくことにした。
「あはは、かすり傷かすり傷。よかったらまたやろうねー!」
が、当のリオは手を振って私を見送ってくれた。
スポーツとしてはずいぶん汚い手も使ったと思うけど、まったくあの娘の友達は人がいい。
景色が変わり、キャロの傍に出る。
「さて…と、そろそろ来る?」
全体の様子を常に伺ってたはずのキャロに様子を聞いてみる。
キャロは小さくうなずいて…
「でもその前に雫ちゃんの回復しておこっか。石の破片でダメージ受けてるの気付いてた?」
コロナのゴーレムが破壊したビルの破片だろう。
ほとんど痛みもないし、はたかれた程度だから気にも止めてなかったけど、ポイントを見ると150減っていた。
脆いな、私の設定。
Side~クラウ=トーティア
僕の倍以上は軽くあるゴーレムが、器用に動いて攻撃を仕掛けてくる。
普通ならかわして操者を狙うんだろうけど…
「はあっ!!!」
突き出される拳に向かって、僕は全力で剣を打ち下ろした。
足場がビキビキと頼りない音を立て、僕も吹き飛ばされて地面を転がる。
そのまま立ち上がって構えなおすと、ゴーレムの指が二本ほど千切れるのが見えた。
「うわわわわ…打ち合って斬っちゃった…」
コロナが驚く声が聞こえるけど、答えている余裕は無い。
剣に魔力を溜め…
「雲斬。」
振りぬいて魔力刃を放つ。
面を小さく、鋭く強い刃を打てるようにとは常に思ってはいるけど…
「軽い飛び道具じゃ崩れませんっ!」
少し表面に痕がついてぐらついた程度で、とても破壊には至らなそうだった。
近づいてきたゴーレムは拳を叩きつけるように振り下ろしてきた。
僕はそれに合わせて全力で斬り上げる。
ゴーレムの拳と僕の剣が衝突し…
「っ…ぐ…」
僕は衝突に負けて剣を杖に膝をついた。
頭上からぱらぱらとゴーレムの破片が落ちてくる。
「あわわ…打ち合う度にゴライアスが砕けてく…」
コロナが驚いている声が聞こえてくる。
とはいえ、もう残りライフは1050。
打ち合う度にこの調子じゃゴーレムを崩しきる前にライフが尽きる。
…小技でやっててもきりが無いか。
立ち上がって構えなおす。
次で…決める。
「っ!ゴライアス!!」
無言で駆け出した僕に向かって、焦ったのか呆れたのか、少しの戸惑いとともにゴーレムに拳を振るわせる。
僕はその拳を、前方に跳躍しながら回避した。回転しながらゴーレムの胸に向かって。
ぶつかる寸前、斬撃が入るタイミングで僕は…
「風車!!!」
回転の勢いを乗せた剣をゴーレムに向かってまっすぐに振り下ろした。
跳躍、回転の勢いを乗せた上で、単体を断つ為だけに振るう一撃。
確かな手ごたえとともに、ゴーレムが縦に二つに裂けた。
そこまではよかったんだけど…
「あ…」
一撃のみに集中した結果、残身も何も出来てない体勢で落ちていく。
平地なら着地くらい出来たけど、地上には切れて崩れたゴーレムの破片が散乱していて…
「っ…」
身を丸めるようにして落ちることしか出来なくて、ちょっと痛かった。
バリアジャケットもあるしそこまでではないけど、ライフは300ほど減った。
でもこれで…
「っ!!」
唐突に背中に衝撃。立ち上がろうとしていた僕はそのままうつぶせに潰された。
まだ終わってない。
とりあえず痛みは無視して無理やり立ち上がる。
コロナの姿を探すと、転んだのか立ち上がってスカートをはたいていた。
崩れるゴーレムの肩から飛び降りて、僕めがけて落ちてきたんだ。無茶をする。
「初心者レベルですけど…私も一応ストライクアーツやってるので。」
「…そう。」
綺麗なデバイスを手に、構えを取るコロナ。
追撃のおかげでライフは200も無いけど、操者から操作するゴーレムを奪えたんだ。
勝機はある。
Side~高町ヴィヴィオ
「はっ!」
「残念。」
「っ!!」
蹴りをかわされて、地に足が着く前に柄のほうでおなかを突かれて下がる。
止まらないどころか加速減速すら自由自在みたいで、どれだけ追いかけても全然捕まえられる気がしない。すごい移動法だ。
でも…弱点みーっけ。
「いきますっ!」
「あ…」
アクアさんの腰の辺りを覆うように展開したのは、リングバインド。
これ自体は背後に飛んで回避される。けど…
「今っ!」
「やば…っ!」
着地のタイミングを狙ってダッシュから思いっきり拳を振りぬく。
槍で防がれたけど、そのまま吹っ飛ばした。
やっぱり…両足が地面についたまんま、しかもふわふわとした状態を続けてないと続けられないんだ。
しかも、動いている最中は足を滑らせるような感じになってるから、踏み込みを使うようなちゃんとした攻撃が出来ず、ほとんど撫でる様な手打ちしか出来ない。
ちょっとライフも削られたけど、それだけわかれば…
「はああぁっ!」
「まず…」
またかわされながら追いかける。
でも、今度はアテが無いわけじゃない。
さっきから要所要所で私に打ち込んでた攻撃のときには、この移動法で避けられることが無い。
つまり、攻撃を狙ってカウンターを取れば!
「くっ!」
あせっているのが表情でわかる。
そして、予想通り足が止まって、顎に向かってくる一撃。これを空振りさせて…
「ぶっ!?」
タイミングを見誤って打ち上げられた。
地面から軽く足が浮き上がる。しかもやられたのが顎なせいで視界がちかちかする。
「乾坤一擲…」
半回転させて槍の先端を私に向けて溜めの姿勢になったアクアさんから、不吉な言葉が聞こえる。
これ…確か…フレアさんの…っ!
「アブソリュートランサー!!!」
全てを貫く最強の槍を、突きと共に腕ごと砲撃で打ち出す、究極の貫通攻撃。
砲撃と共に放たれた突きを受けた私は、思いっきり吹き飛ばされてビルにめり込んだ。
とっさに両腕を交差させて受けたものの…なんと受けた腕が凍り付いている。
しかもライフ20にまで減らされたせいで行動不能判定を受けて、寒いのに動けない。
クリスの力も借りて全力で防御したのに…とんでもない突きだ。
見ればアクアさんの槍の先端に、槍を一回り大きくするような氷がまとわりついていた。砲撃まで氷結効果があったのか、アクアさんの腕も霜に覆われている。
「うぅさむっ…よくこんなもの撃つなぁフレアさん。ま、これで終わりかな。ヴィヴィオちゃんご退場ー。」
「あうぅ…」
念のためと言わんばかりの魔力弾が放たれ…
「ふぅっ、セーフ。」
「ルールー!」
着弾前にルールーに回収して貰えた。
よかったー…
「あの娘、なかなかの詐欺師ね。」
「え?」
「要所要所の攻撃見て、タイミング覚えてたんでしょ?あの娘、それを知ってて7~8割程度しか出さなかったのよ。で、さも追い詰められたって感じで苦し紛れを装って全力を出したの。初めから弱点見抜かれるのは想定してたみたいね。」
ニヤニヤしながらモニターを見るルールー。
確かにそれだと当然カウンター狙っても思いっきりタイミングがずれる。
移動法の弱点に気付いたのに浮かれて全然気付かなかった…
「化かしあいなら私も得意よ…ふふっ。」
「あ、あはは…」
笑いながら回復を進めてくれるルールーを横目に、モニターを見て…
一瞬で笑ってられなくなった。
Side~月村雫
一撃一撃、受けるだけで手がしびれそうな攻撃をどうにか捌く。
受け手に回っていたんじゃ追い詰められるだけなのはわかっているんだけど…
魔力を普通に使っているフレアさんが、ここまで強くなるなんて思わなかった。
こっちも普段と比べ物にならない身体能力になってるはずなのに、刀から手を離さず打ち合うのが精一杯。しかも、槍の先端に捉えられたら一撃で武器破壊されるとなると、回避か先端を避けて受け止めるかの二択になる。
当然いつまでも受けていられずに、大きく後方に跳躍することになる。
普通ならこんなことすれば着地を狙われるけど…
「アルケミックチェーン!!」
その瞬間だけ、私達から少し離れた位置にいるキャロが魔法でフレアさんの追撃を妨害してくれる。
操作されて複雑怪奇な動きを見せる鎖を、紙でもちぎるかのように槍の先端で斬り落とすフレアさん。
正直、こっちから攻められる気がしないから、出来るなら魔法で終わってほしいんだけど…この様子じゃ無理な話だ。
フレアさんのライフは、ティアナさんが落とされる直前に入れた射撃の一撃分減っただけの1900。
正直、相打ち覚悟でも射撃を打ち込めたティアナさんには頭が下がる。
こっちは斬り合いメインなのに当てられる気がしない。
他が優勢になるなら時間をかせぐだけでいいけど…そういうわけにもいかないか。
右に手にした刀を腰打めに引いて深く構える。
速人さんが実家の空手家から学んだという吼破、その高威力を利用した突き、銃刺突『ガンブレード』。
これで、残りを削るしかない。
「…私と突きで勝負する気か。」
「戦闘中に喋るなんて珍しいですね。」
少なくとも家じゃ滅多に無いことをしだしたフレアさんに指摘すると、フレアさんも黙って突きの体勢になった。
おそらくは…それだけの自信と誇りがあるんだ。何より、彼の突きの威力と精度は私だってよく知ってる。
でも…やって見せる。
SIDE OUT
試合で0番鋼糸(首、腕の切断可能)て(汗)。でもジャケット込みなので括ったりしなければそこまで重体にはなりませんが。
糸での切断目的より、極細で視認が困難と言う理由で主に使用しています(汗)