第十一話・まだ無い答え
Side~月村雫
…ったく、冗談じゃない。
相変わらずジャケットだけで斬撃は防がれるし、枝葉落としは本来『間接破壊投げ』を行う武器投げ、萌木割りの斬撃版。
普通なら刃を支点に腕を捻り投げる訳だから『腕を落とす』技なのに、ライフ減っただけで関節を痛めた様子すら無い。
尤も、想定内だけど。でなきゃさすがに身内にこんなものやらない。
展開された魔法の道から少し外れたビルの上でにらみ会うヴィヴィオと私とアインハルト。
魔法の発動が先だと今の私には回避しきれない。
だから仕掛けようと、そう思った直後…
「ディバインバスター!!」
「「は?」」
ヴィヴィオは、私達が立つビルに向かって砲撃魔法を撃った。
…ちょっと待て。
「っ!」
崩落に巻き込まれたら瓦礫の破片だけで危険だと判断した私は…
咄嗟にビルから飛び降りた。
五階…か。
普通に落ちたらまずいな。
Side~高町ヴィヴィオ
直接的な飛び道具の無いアインハルトさんがこれですぐ攻撃仕掛けてくることは無いし、雫さんもこれでノーダメージって事は無いはず。
落下に巻き込まれながら私はソニックシューターを展開、同じく落下中のアインハルトさんに向かって放つ。
不安定だったから2発だったけど、どっちか1発でもあたればOK。
とか、簡単に思ってたんだけど…
撃ったシューターの1発を弾かれ、1発を投げ返された。
「あたぁっ!!」
直撃を受けた上で落ちる。
そして、そのまま瓦礫と一緒に落ちた。
「ったたた…」
落ちてみて、ずいぶん無茶をしたとわかった。
けど、アインハルトさんも空中でああまでして着地の姿勢制御仕切れなかったのか、行動不能判定になっていた。
私のほうはどうにか300残ってくれた。これで…
「っあ!!!」
背中に斬撃。
振り返ると、刀を振りぬいた体勢の雫さんがそこに立っていた。
Side~月村雫
居合い抜きでヴィヴィオのライフを0にした上で刀を納めて一息吐く。
…どうにかなった。
正直あの高さから生身で落とされたときにはどうしたものかと思ったけど、多点着地がうまく出来てよかった。
万一失敗してたらスプラッタだった可能性もあるのよね、まったく…2、3階ならともかく、普通に着地していい高さじゃないっての。
「ディバインー…」
「は?」
さっき聞いたばかりの不吉な名前を聞いた私は、声の発信源に視線を移す。
スバルさんが、こっちを向いて拳を構えていた。
あぁ、ノーヴェ負けてたのか…
「バスター!!」
ヴィヴィオの時どうにかできたのは、私が先読みして長距離移動で距離を詰めたからで、完全に息吐いていたタイミングで撃たれて砲撃なんてかわせるわけも無い。
せめてもの抵抗とばかりに腕を交差させたのもむなしく、青い光に飲み込まれて意識がブツリと途切れた。
Side~高町ヴィヴィオ
結果的にチームは勝ったけど、私的には大敗だった。
アクアさんには引っ掛けられたし、雫さんには斬られるし。
うぅー…次はがんばらないと!
なのはママは離脱前にフェイトママに先回りされて墜とされていたらしい。
攻撃着弾直前に無茶苦茶するなぁフェイトママも。
そして、5階ぐらいの高さから墜ちた『既に生身だったはずの』雫さんがなんでノーダメージだったのか…見てびっくりした。
足から降りた雫さんは、そのまま止まらず後転でもするように、全身で着地の勢いをばらしたんだ。
単純に言うとそれだけの事なんだけど、少しでもタイミングか何かを間違えれば、体のどこかで5階から落下した分のダメージを直撃することになる。
当然、いきなり出来るわけが無い。ということは、こんな練習も日常的にやってるんだろうか?
戦闘ってだけだと目立たない技術のはずなのに…穴がないなぁ。
その雫さんは、一戦目が終わったところでさっさとおやつを一口つまんで森に消えてしまった。
『別に試合があるわけでもないし、焦る理由ないわ。』
追求から逃れたくて雫さんが言っていた台詞。
でも、実際に戦って、スバルさんの生身でどうにも出来ない砲撃を受けて倒された。
やっぱりショックだっただろうか?多分、魔法には初敗北ってことになるだろうし…
少し心配になった私は、一人で皆の輪を抜けて雫さんの様子を見に行く事にした。
森の中、竹を手に、刀を鞘に納めたまま立つ雫さんの姿があった。
デバイスのほうはおいてあるところを見ると、いつも使ってる方の刀なんだろう。
声をかけられなかった。
竹を宙に投げる雫さん。そして…
抜刀で、宙の竹を両断した。
切断できた竹は、大きくは飛ばずにわずかにゆっくりと宙を舞う。
そして、左手を収めた刀に添えて…
左の抜刀と右の打ち下ろしを切断されて分かれた竹にそれぞれ打ち込んだ。
…ものの、次は切断できずに弾かれて地面に落ちた。
「やっぱり、集中した一撃以外はまだ甘いか…」
「それでも凄いです。」
何の気なしに賞賛の声を上げると、雫さんは驚くでもなく私に視線を向けた。
「作戦会議はいいの?」
「あ…えと…」
雫さんが心配で来た。なんて言える訳も無く口ごもる。
「何か聞きたそうね。」
刀を納めた雫さんが、私と向かい合う。
もうぼかしてもしょうがないか。
「そんなに焦るのは…なんでですか?」
わざわざ聞きたい事があると雫さんのほうから言い出してくれたのだから、もう答えてくれる筈。
それに、一応は砲撃魔法で倒されたはずの体でほとんど休みも無くこんなことをしだす雫さんが、今更焦ってないなんていっても絶対に信用できる訳が無い。
雫さんは、失敗したって感じの表情であたりを見回して…
「時間が無いのよ。」
焦るのに、ごくごく普通の理由を答えてくれた。
Side~月村雫
一応は周囲に何の気配も無いことだけは確認して、話を始める。
「地球の生身のアスリートの現役期間って、どれくらいだと思う?」
「え?」
「種目にもよるけど、40までやってる人はそういない。」
困惑しながらもうなずくヴィヴィオ。聡い人ならこれだけで感づくだろう。
「私の師にして、条件次第で魔導師すらそのままの身で完全に破る技を使えるお父様がその全てを振るえる時間は…そう長くない。」
「あ…」
私が20になる前に、お父様は40を超えてしまう。
全てを見せて貰えていない私は噂程度しか知らないが、その20ですら、奥義を使いこなせる『本家』の人間は稀だったという。
「じゃ、じゃあ魔導師が嫌いなのは?」
「そりゃその辺の子の数年で…下手したら素養だけで追い抜かれたらイラつくでしょ。焦ってるのは周りが強いからじゃないわよ。私は競技選手じゃないもの。」
競う必要が無いから、人が強いのは別に急ぐ理由にならない。
私は自分の紫色の髪を乱雑に掴むと、ヴィヴィオの前に翳す。
「見ての通り、剣士の血筋の才能より、お母さんの血のほうがずっと濃い。継いだ才能が…少ない。その証拠に、学校に行きながら片手間に混じってたはずの速人さんは、私と同じ年で私より先の段階に踏み込んでたって聞いてる。本当に…時間が無い…のよ。」
私は…私の『身体』は凄くなんて無い。
下手したら、同じ時間御神の訓練をしてたら、ヴィヴィオにすら置いてけぼりにされていた可能性すらある。
才能が欲しい、時間が欲しい。
勿論言い訳だ、わかってる。でもこれ以上どうしようがある?
年数回家族で遊んだり出かけたりするくらいで、ほとんどの期間を修行に当てているのにこの有様。
唯一残る奥義の全てが記載された書物は実家。
現状純正の御神の剣士で一番若いのは、私を除けば美由希さんだけ。
このままだと…技の全てを知ることすら間に合わず御神の技が絶えてしまう。
努力を続ける意志はある。だから、才能が言い訳だとしても、せめて時間くらい…
現状を丁寧に思い返すと、常に胸を締め付ける不安と憤り。
私はそれを首を振って打ち消した。
こんな弱さ、お父様の前で見せても刀を持つ資格がないと証明するようなものだ。
だから、飲み込んで進むしかない。それしかない。
「言わなかった訳わかるでしょ?話した所で、どうあがいても解決方法無いのよ。それどころか、こんなのお父様や速人さんに直接知れたら…」
私の弱さを問題として剣士の資格を失うか、そこまでいかなくてもいらない責任を押し付けてしまう事になりかねない。
今更こんな話を知り合いにしたって御神の剣士が沸いて出る訳じゃないんだから、無意味な悩みだ。
「いい?誰にも話さないでよ?特になのはさんとかに!」
「な、何でなのはママ?」
胸倉を掴んでの念押しに戸惑うヴィヴィオ。
でも、これだけはしっかりとやっておかないといけない。
「速人さんからの話だけど、あの人上司特権で漁った情報を身内共用してべらべら喋ってた前科があるの!今回速人さんとかお父様に…『身内』に!知れたらまずい話なんだから、そんな危ない人に伝わったら困るの。OK!?」
「は、はい…」
大好きなお母さんをコケにされたヴィヴィオとしては素直に頷けないかもしれないけど、それでもこれだけは承諾して貰わないといけない。
「でも…そこまで念押しするくらいなら、何で話してくれたんですか?私に関係ないって言うことも出来たはずなのに…」
「ヴィヴィオには話をしたって事実があれば、周りの人を変に不安にさせなくて済むかなって。」
誰にも話さず抱えてるって事そのものが問題で、知ってる人もいるのなら話が違ってくる。
まぁ確かにヴィヴィオがべらべら喋らないかって問題もあるはあるんだけど…
と、ヴィヴィオが唐突に笑顔を見せた。
「何で笑うのよ?」
「師匠さん達以外では私が一番信用されてたって事ですよね。ちょっとうれしくて。」
そんなところが喜ばれたのかと思うと、なんか少し恥ずかしくなる。
私よっぽどとげとげしく見えるんだろうな…しょうがないけど…
「それがうれしいならホント頼むわよ?」
「はいっ、約束します。」
差し出された小指を絡めて互いに頷きあう。
明るく優しい親戚の少女との約束を信じることにして、私は修行に戻った。
本当の意味で時間が無いのだと知って、さすがにヴィヴィオは私を止めようとしなかった。
でも、多分…お父様も感づいているから学校に通わせずに私に修行させてくれてる筈。
なのに…どうしてこんな…
無関係の魔導師と少ない時間を使ってまで関わらされてるのか、どうしてもわからなかった。
Side~アインハルト=ストラトス
雫さんこそ一戦で抜けてしまったものの、その後も熱く激しい時間は瞬く間に過ぎていって…
全力を絞りすぎた私は、ヴィヴィオさん達と一緒にベッドに倒れてビクビクと痙攣気味にしか動けなくなっていた。
「……打ち上げられた魚の集団ね、まるっきり。」
「貴女こそ何でそんな余裕なんですか…砲撃の直撃でダウンしてるでしょう…」
朝の話とはいえ、基本的に魔力が無いも同じの雫さんがそんな目に遭って平然としてるなんてどうかしている。
それどころか、ヴィヴィオさんの話ではそれからすぐに鍛錬を始めていたらしい。どんな身体をしてるのか…
「あらら、皆くたくただね。」
「アクアはそんなに頑張らなかったの?」
「基本が脱力だから、体力そんなに使わないの。クラウはやせ我慢して修行中。」
「いや、止めてきなさいよ馬鹿姉。」
元気なアクアさんと、呆れ混じりの雫さんを見ていると、どちらが年上なのかとわからなくなる。
「あ、そうそう。アインハルトちゃんも勧誘しようと思ってたんだけどさ。今日のが面白かったならこれどう?DSAA。」
アクアさんが表示してくれたモニターには、戦う魔導師達の姿と、今日のように設定されているライフポイントが写っていた。
公式魔法戦…か。
「正直、出たいです。けど…」
「けど?」
一瞬、傍にいるヴィヴィオさんがものすごい不安そうな表情を見せる。
「その前に一つだけ確認したいことがあるので、返事はそれが終わってからでいいですか?」
「いいよ、答えられる事なら何でも聞いて!」
胸を張って答えるアクアさん。
でも、私は慌てて首…を振る力が無かったのでゆっくりと否定した。
「すみません、私の個人的な事ですから…宿泊中にでも確認しておきます。」
「そう?」
私はそれだけ答えて目を閉じる。
覇王の悲願、その可不可、覇王流、私の気持ち。
雫さんに砕かれ、断ち切られたそれらに対しての私の答え。
それが無ければ、私はきっと大会に出る資格が無い。
SIDE OUT
何気に使用している旋衝破(笑)。
魔導師にぴりぴりしている雫ですが、性格等関係ないところを判断するときにはちゃんと区別して判断するように心がけてはいます。