第十二話・高町流教導
Side~月村雫
デバイスではなくいつもの二刀と服。
日も落ちて明かりも無い夜の闇。
その中を私はただ歩く、呼び出された場所へ。
「…奇襲しなかったね。」
そんな一言を、鋭い目で私を見ながら告げる女性…高町なのは。
「貴女に私が教育なんておかしな話です。第一、何の用かも聞いてませんし。」
「完全武装しておいて何言ってるんだか。」
彼女は淡白な私の口調に対して苦笑をもらした。
確かにそうだ、わかってる。
でなければ、こんな敵対心を隠す気もないように振舞うことは無い。
「試合…するよ。」
「お断り。お父様の許可で混ざってるけど、刀は簡単に振るっていいものじゃ」
半分予想通りの内容。だけど、お父様の名前は挙がらなかった。
許可がでてるかを聞いてないから帰ろうとして…
私の傍に、小さな光が叩き込まれた。
「逃げるなら、一撃で終わらせる。」
完全に戦闘態勢、と言った感じの表情だった。
模擬戦の時の集中してるだけの感じじゃない、犯罪者でも相手にするかのような鋭さだ。
「…どっちが犯罪者だか。」
まぁ、許可出てないはずが無いし、そもそもここまでされて逃げ帰るわけにもいかない。
次を撃たせる前に、私は一歩で斬りかかった。
Side~アインハルト=ストラトス
物思いに耽りながら回顧録を眺めていた私は、ふと感じた力に反応して窓の外に目を向けた。
「魔力反応?」
試合に使った陸戦場のほうから、魔力の反応があった。
明日の朝すら何もせずに休もうと言うことになっているタイミングで一体誰が何を…
「これ…なのはママのです。」
「ヴィヴィオさん、起きていたのですか。」
ゆっくりと寝かせていた身体を起こすヴィヴィオさん。
独り言…聞かれていたでしょうか。
少し恥ずかしくなったものの、ヴィヴィオさんの表情を見てそんなことを考えていられなくなった。
何か、不安げな表情。
「ヴィヴィオさん?」
「中、前衛で動き回ってたフェイトママが未だに戦闘訓練なんて無茶するわけない。他の皆もくたくたでダウンしてる。なのに今、こんな時間になのはママは戦ってる。」
クリスさんを握り締めて、淡々と状況を語るヴィヴィオさん。
一体どこの誰が…まさか…
「雫さん?」
「アインハルトさん、一緒に来てくれませんか?」
不安そうなままのヴィヴィオさんに誘われて、断る理由などどこにも無かった。
雫さんに少し話を聞けた事を喜んでいたはずなのに、何で今これほど不安そうなのか。
あるいは、ヴィヴィオさんにも不安の理由が確かじゃないのかもしれない。
「あたし達だけのけ者にしないよね?」
言いながら、ゆっくりとリオさんが身を起こす。
一緒にコロナさんも起きた。
傍で話しすぎたみたいだ。
「ごめん、起こした?」
「全然!いいもの見れるなら行くしかないでしょ!」
「そうだね、何かあったら心配だし。」
楽しげなリオさんとコロナさんを前にしても、ヴィヴィオさんは笑顔にはならなかった。
聡くて優しい子なのは、もう十分知ってる。
だからきっと、ただの胸騒ぎじゃすまないんだろう。
近接型でもないのに完全に攻撃を見切られていた気がするあの人に、雫さんの『力』ではどうしようも無い。そして、多分雫さんもそれはわかっているはず…
もし試合をする事になったのなら、『何をしてでも勝利しなきゃならない』守り手の雫さんがどうしてそんなことをしているのか…それが気になった。
Side~月村雫
通常の斬撃ではバリアジャケットを斬れない。
そう考えた私は、初手から居合い抜きを仕掛けたのだけど…
左の抜刀を受けられた。防御魔法でなくデバイスで。
通常の抜刀は右限定だけど、私達の場合左右がある。
それでも見切った?
「っ!」
二刀を手に、連撃に切り替える。
けど、彼女はデバイスで私の剣を受け続けた。
彼女はデバイスを両手で手にしている。そこで、まっすぐに打ち込まずにわざと刀を傾けた。
そうして、受け止めたデバイスを滑らせるように握る手を狙う。
と、彼女は私の斬撃の向かう手をデバイスから放して、その手を私に向けた。
「くっ!」
光った瞬間、咄嗟に首を動かす。頭を掠めて光が飛んでい
「フラッシュインパクト。」
片手で握ったデバイスの一撃。
私はそれを両手の刀で受け止めて、吹き飛ばされて地面を転がった。
転がった勢いのままで刀を手にした拳を地面に叩きつけるようにして跳ね起きる。
デバイスを振りぬいた彼女は、特に表情を変えることも無く私を真っ直ぐに見ていた。
「ヴィヴィオにも言ったことだけど…まだ未熟なんだから、認めるだ認めないだの偉そうな話は早すぎるよ。」
「…一緒にしないで。」
「一緒じゃなくてヴィヴィオ以下。ヴィヴィオは雫ちゃんを尊敬してるけど、雫ちゃんは魔導師を舐めてるから。」
…ギシ、と、刀を握る手から鈍い音がした気がした。
駄目だ…こっちはコレでも我慢してるのに…挑発にのせられていい訳が無いのに…
やっぱり、私は未熟な子供らしい。完全に頭にきてる。
「…貴女にだけは…何も語る資格は…ない。」
「まだそう思うなら、黙らせてみたら?」
一切揺らがない彼女を前に、二刀を手に構える。
まだ…じゃない。
こいつには、『初めから』そんな資格無いんだから。
Side~高町なのは
上から目線で言ってみたはいいものの、鋭く繋ぎの速いしっかりとした剣閃は、正直冷や汗ものだ。
出力リミットかけたままで受け損なったら普通に斬られそうだ。
バリアジャケット、魔導師同士でも弱い攻撃なら止まるんだけどな…
湧き上がる感動と興奮を表情に出さないようにするのに必死だった。
コレでほぼ褒めないって…厳しい師匠だなぁ、恭也お兄ちゃんも。
朝の一戦が終わった所で、私は起きた恭也お兄ちゃんに雫ちゃんの試合の映像を見せに行った。
雫ちゃんの出来は悪くないと思うんだけど、どこか表情が浮かない気がする。
「…ずいぶん戦えてるな。ブーストか?」
「うん…キャロのね。」
正直、それを除いても強い。
まだ私の全開のバリアジャケットを抜くには至らないだろうけど、徹も使えるし、ヴィヴィオやアインハルトちゃんに勝ったのは、まぐれなんかじゃない。
…子供らしいところにつけこんだって言うのはあるけど。
「雫の様子は?」
「いつも通り…かな。無理してショックを受けてない風を装ってるようには見えなかったし、大丈夫だと思うけど。」
奇襲に対応できずに、問答無用の力を用いた魔法に対しての初敗北。
外に出る事自体が少ない雫ちゃんにとってはこういう敗北体験は多分ない。
心配してるのかと思ったんだけど…
「なのは。」
「何?」
「お前なら…余裕で倒せるな?」
そんな甘い訳が無かった。
振られて、なんとなく何をさせたいのか理解する。
「そう言うのはお兄ちゃんが十二分にやってるんじゃないの?」
「アイツは俺や速人に勝てない…いや、勝つ必要がまだないと思っている。並外れた力に自惚れないようにとしてきたし、まだ加減せざるを得ないほどの差があるからな。」
手加減されてる相手と真剣勝負とはいかない。
うん、それはわかるんだけど…
「…私が本気でやるの?」
「地上縛りなら、俺が全力で戦うよりは勝機もあるだろう。」
それはそれで、私を馬鹿にしすぎじゃないかと思って抗議したけど、ぐうの音も出ない返しをされる。
「それに…」
「?」
「魔導師に負けたほうがいい。」
まったく厳しい人だ。
とはいえ、それには私も同感。
偏見とかってよくないし、雫ちゃんが『戦えば勝つ』御神の剣士に正しくなるつもりなら尚の事。
「了解。」
言い訳しようのない魔導師相手の敗北、それを雫ちゃんに渡す。
剣士だから強いのでも、魔導師だから下手なのでもないのだと、上辺でなく思い知らせるために。
雫ちゃん相手だと余裕はそこまでなさそうだけど、エースオブエースにして高町家のお姉さん枠として、きっちりやっておこう。
と、引き受けたのはいいんだけど。
砲撃や全面防御みたいな技術で対処できないことをやっちゃうと、正直ただ魔導師へのわだかまりが深くなるだけだ。
だから、そういうのを使うのは出来るだけ避けて戦ってるけど…際どい斬撃を防ぐ度に肝が冷える。首狙いもあってちょっと怖い。
少し大きく右の刀振りかぶる雫ちゃん。
…徹だな、まだ完全に使えないから第三段階に移れていないらしいけど、私でも何かを狙ってるのがわかる。
振るわれた斬撃を回避しながら、振り切った雫ちゃんに向かって三発のシューターを叩き込んだ。
Side~月村雫
三発の光が水月と手足に一発ずつ。
水月で吹き飛ばされて、手足を撃たれたせいで受身も出来ずに地面を転がる。
身体が壊れるような衝撃は無いものの、食らった箇所が疲弊を重ねたように重くなる。
犯罪者や敵対相手を止めるための非殺傷攻撃…
「っ…ぐっ…」
さすがに十数年分の経験の塊だけある。
狙う箇所も命中精度も弾丸の軌道も、嫌がらせかと思うほどやり辛い。
「もう終わり?」
そんな素直な感想も、彼女の冷めた声に消える。
「くっ…そおぉぉっ!!!」
鈍い身体を無理やりに動かして、袖口の針を投げる。
狙いは顔…目。
腕で覆えば問題ない針だけど、視界をさえぎることが出来る。
その間に距離を…
一個の光弾が、三本投げた針を打ち落とした。
当然視界がふさがる訳も無く、光弾はそのまま私に向かってくる。
「っ!」
跳躍しながら光弾を斬り、下降とともに刀を返す。
打ち下ろしになるため当然あっさり受けられるけど…
右の打ち下ろしを受けている間に着地して、左の刀で突きを放つ。
デバイスの下をくぐるように放った突きは…
刀とすれ違うように近づいてきた彼女を捉える事が出来なかった。
お腹に触れる、やわらかい感触。
「ディバインバスター・インパルス。」
それが掌だと知る前に、私は意識ごと吹き飛ばされた。
Side~高町なのは
…やりすぎた。
これで終わらせる気で撃った非殺傷近接砲撃。
心は折れそうに無いから、完全に意識を断つ為に撃ったんだけど…
砲撃そのもののダメージはともかく、吹き飛ばされて地面を滑った摩擦で、服の所々が破け、それだけで済まず石を滑った肌の所々から血が出ているのが見えた。
バリアジャケットなら無傷で済むところだし、雫ちゃん自体強かったから軽く配慮が欠けた。
さすがにコレで終わりだ。
地面との擦り傷って、剣で斬るようなのと違って小石や砂が皮膚の内側に張り付いて結構酷いし、早く手当てしてあげ
「雫さんっ!!!」
唐突に響く、意外すぎる叫び。
いろんな意味で驚いて視線を向けた先には…
今の悲鳴じみた叫び声を響かせたアインハルトちゃんと、ヴィヴィオ達がそこにいた。
Side~アインハルト=ストラトス
ヴィヴィオさんが心配するような『何か』。
それを知らなくても、今の姿を見ているだけで何かがあると悟るのには十分だった。
「まだです!まだ終わってない!」
酷な言葉だって、十分分かっている。
あの人とは私だって戦っている、砲撃魔法のダメージも、防ぐ手段もないままそれを受けた身体で戦えというのも、どれだけ残酷なことなのか分かってる。
でも…言わずにいられなかった。
動かない身体、笑み一つ曇らせる事が…何も出来ず、大切なものを護れなかった悲しい記憶の中のクラウス。その姿と…
かすり傷すら負わせられないヴィヴィオさんのお母様に向かって咆哮と共に向かっていく雫さんの姿が重なったから。
「これでいいはずが無い!立って…立てええぇぇぇぇっ!!!」
貴女は言った筈だ、そんな有様では護れないと。
貴女は言った筈だ、クラウスは失敗したのだと。
貴女は一声も上げなかった筈だ、私が裂いた腕の傷にもヴィヴィオさんに腕を折られたときにも。
そんな貴女が叫ぶ程大切な何かが…この戦いにある筈だ!
綯い交ぜになった怒りと悲しみに突き動かされて、私は必死で叫んだ。
Side~高町なのは
必死で呼びかけるアインハルトちゃん。
しばらくそうしていたかと思うと…
「近接封じさえかけられなきゃ雫さんなら勝てますっ!頑張れっ!!」
ヴィヴィオまで雫ちゃんの応援をしだした。
思わずずっこけかける。ま、まぁそんな状況じゃないから踏みとどまったけど。
戦ってるの私なのに、ヴィヴィオー…
「こらー!散々言ったんだからもうちょっと頑張れー!」
「負けないで!雫さん!」
そんなにいい印象無かったはずのリオちゃんやコロナちゃんまで、雫ちゃんの激励をする。
普段冷静な雫ちゃんが、叫びながら私に向かってきた様を見てたなら、そういう気持ちになっても不思議じゃない。
普段寡黙なほうのアインハルトちゃんがなぜか痛いほど必死に叫んでいるし、つられるのも分かる。
でも、もう聞こえているはずも無いからそれは…
もぞり、と、雫ちゃんの腕が動いた。
今更ながらに気付く。あんな状態でまだ尚、刀を手放していない事に。
そして…
私の身体を、何かが斬り裂いた。
それは強烈な殺気の幻。斬り殺すと言う研ぎ澄まされた意志の塊。
ゆらり…と、幽鬼のように立ち上がり、私を見た雫ちゃん。
その瞳が一瞬だけ…一瞬だけだけど確かに…
赤い紅い光を湛えていた。
SIDE OUT
刃物で指なんかを斬る傷とかより面で怪我する転んだ膝とかのほうが痛いし治るのに面倒だし大変なんですよね…壁にめり込んだりしてそういう怪我が無いって地味に便利な効果だと思います(笑)