第十三話・捨てられた宝物
Side~高町速人
「ばっ…馬鹿野郎!!!」
兄さんからの通信、その内容に思わず叫ぶ。
雫をなのはと戦わせてる、しかも一騎打ちで。
『…戦闘に関して偏見が絡むままでいいはずが無いだろう。』
「なのはに頼んだらまずい事に気付かなかったのか、全部承知の上でやったのか知らないけどな!後で絶対ぶん殴る!!」
俺は通信を叩き切ると、ただならぬ様子に気付いたらしいリライヴが顔を出す。
丁度良かった。
「頼む!カルナージまで飛ばしてくれ!カートリッジ使ってもいいからすぐ!!」
「…うん、わかった。」
「悪い。」
理由も聞かずに頷いてくれるリライヴに感謝しつつ、すぐに飛ぶ準備する。
くそっ…あの朴念仁!相も変わらず自分がどれだけ慕われてるかにはとことん疎い!
アイツも何で引き受けた!ったく!
雫にとってなのははどういう人間なのか、どっちも気付かなかったのか。
Side~月村恭也
俺相手とはいえ、速人の奴がああまで言うのも珍しい。
一体何を知っている気なのかと思い、魔力反応に気付いたらしいヴィヴィオ達の引率がてら様子を伺いに行く。
そこには、珍しく感情を剥き出しにして戦っている雫の姿があった。
違和感を感じないでもなかったが、速人の様子がおかしかったせいで偏見があるだけだと判断して…
子供達の声に答えるかのように起き上がった雫から感じた殺気で、それが間違っていることを悟った。
「す、凄い…あのダメージでここまでの殺気を試合で…」
すさまじい殺気。
対峙しているなのはも身が竦んでいるし、アインハルト以外の子供たちは声すら出せなくなっていた。
これは…
「違う。」
「え?」
「アイツに、ここまでの威を叩きつけることなど出来るはずがない。少なくとも…試合で。」
どうしたって、試合や練習なんかの本気とは違ってくる実戦。
いくら雫でも、人を本気で殺す気で刃を振るった事の無いまま、試合でこんなものを纏えるはずが無い。
「本気で、なのはを殺したいと心の底から思っていなければ、こうはならない。」
「ぇ…」
アインハルトのかすれた声と、身を竦めた子供達の服の擦れる音だけが、夜の闇にやけに響いた。
Side~月村雫
Js事件も片付いた折、ニュースに流れる映像。
幼い私は、特に何の気なしにその映像を眺めていた。
「なんだか目立ってるね。」
ニュースにてかてかと取り上げられる、レジアスおじさんの不祥事、解任の騒動と、暴いて防いだ局の部隊長、八神はやて。
代表格だからか映っている隊長の二人、なのはさんとフェイトさん。
「大事件だったからねぇ、これの解決に一役も二役もかってるんだからさすが速人。」
「俺は手伝っただけだって。」
モニターを横目に擦り寄るアリシアさん相手に苦笑する速人さん。
リライヴを落としたのが局外部の人とか広まっても管理局によくない。
ただでさえ高官の不祥事で大騒動だって言うのにこの上戦力まで他所が目立つようじゃ大変なことになる。
そういう事情で速人さんやお父様は、報道規制としては存在すら明かされない程厳重なものになっていた。派手に戦っていたので噂は漏れていたようだけど。
「俺達は守るべきものの力になればそれでいい、振り回して騒がれるためのものじゃないんだ。」
「…はいっ。」
お父様の念押しに真っ直ぐ頷く。
お父様は私にとって、誇りと尊敬の塊だった。
速人さんすら剣で及ばない、そんな力を持ちながら、言うとおり一切それを見せたがることも無く。
寡黙で厳しく、でも剣以外では優しい、凄いお父様。
私はそんなお父様の剣を継いで、絶え掛けた御神の剣の全てを収めることで、御神の生き字引になると誓った。
幸い生まれのおかげで寿命は長いし、いくらでも努力をするつもりもあったから、時間がかかっても辿りつけると少し楽観してた。
でも…私じゃなく、お父様のほうに時間が無い事に気がついた。
修行しても修行しても、痛いのに耐えても時間をいくら貰っても、まだ同じ年の頃の速人さんに追いつけていない。
学校にすら行かずに修行しているのに、こんな有様。
焦る、焦る、焦る。
せめて間に兄弟子みたいな人がいてくれたなら、まだ時間もあったのに…
魔法に進んだ高町なのは、高町の血を継いでいるはずの人。
英雄扱いになるまで何の苦労も無い、そんなことは無いとわかっていた。
苦労の山を越え、苦痛に耐えて鍛えてきただろう筈の身で、やっていることは戦い。
それなのになんで…あの人は刀を手にしていないんだ。
魔力が高く、魔法があったほうが便利だから後から知ったそちらを選んだならわかる。
速人さんにしても、ヒーローとして全ての手段を使い切るために魔法と剣を使っている。
それ故に御神の全ては継げてないって話だけど、それは仕方ない。
なのに…話を聞けば、のんびりすごしていたあの人は魔法に出会ってから魔法で戦い始めたらしい。
私の宝物、尊敬すべきお父様の剣。
誰より傍にあって見てきたはずなのに、目もくれずにスルーして、拾った魔法に染まって、実家の商売も剣も捨てたのに、英雄扱いの広告塔、高町なのは。
戦いを嫌って避けた訳でもないくせに、二刀を存在から無視して魔法に走った高町なのは。
いつからか、無力に焦り、魔法を見るたびに、それらが許せなくなっていった。
私が弱いのは、私の才能不足は私のせい、いらだつけれど、それで怒る権利は私には無い。
でも…だからなんだ!なんなんだ!
苦行を乗り切る意志の強さがあって選ばないほど、人を護りたいと思える心があるくせにどうでもいいほど、貴女にとってお父様の…御神の剣は価値がないものだったのか!!
そんな事をした人が、治安維持組織で人にものを教えてるって…何様だ!!
『一緒じゃなくてヴィヴィオ以下。ヴィヴィオは雫ちゃんを尊敬してるけど、雫ちゃんは魔導師を舐めてるから。』
舐めてる…だって?
お前が言う台詞か!!ふざけるな!!!
「…立てええぇぇぇぇっ!!!」
どこか遠くから聞こえるような、アインハルトの叫びに誘われるようにぼやけていた意識を覚醒させた私は、地面でもぞもぞと動いて刀身を見る。
磨き上げられた刀身、その銀の光に映る私の瞳。赤い…瞳。
力を使い、自分にアクセスする。
一つは、魔力ダメージと言う、怪我の無いはずの身体にまとわりついている倦怠感を払う事。
そしてもう一つは…
人の身が持つ全ての力を振り絞る…脳内麻薬の分泌による身体能力強化。
速人さんが自力で出来るそれを、私は一族の能力を自分に使うことで使用できるようにした。
当然、滅多なことで使わないようにとは念を押されていた。
お父様にも内緒で教わったものだし、夜の一族だって知れたらまずいから。
『絶対に負けちゃいけない戦いの時だけ…な、約束だ。』
教えてくれた速人さんと、確かにそう約束した。
だから…今使うんだ。
立ち上がり、口の中を満たす血の塊を吐き捨てる。吹き飛ばされる直前、意識を保つためにかんでおいた舌からの出血。
負けられない、負けるわけには行かない。
こいつにだけは何があっても…御神の剣で負けるわけには行かない!
「私は決して砕けない…」
絶望的な戦いなんて、苦痛と苦行を乗り切っての訓練なんて、山ほど受けてきた。
苦しみに私が涙しそうになると、速人さんが優しく『戦いなんてするもんじゃない』ってやめさせようとするから、泣き言だってほとんど言えなかった。
今までに比べて、こんな状況絶望的でもなんでもない。
あんな拾い物の力…未完成の私の剣でも絶対に破れる、破ってみせる。
「魔法なんかに、ましてやお前の魔法では、絶対に…砕けはしない!!」
二十数年のうち、半分近くがただのお子様だったような出来損ないに、御神の剣を捨てた奴に、よりにもよって戦いで…負ける訳には行かないんだ!!
Side~高町なのは
殺気立っている雫ちゃん。試合の時と違って、作り物でない本気の殺意。
そっちの専門家である恭也お兄ちゃんには、自分に向けられたものでなくても区別がついたのか、見学の位置から近づいてくる。
おそらくは、雫ちゃんを止めるために。でも…
「止めるなっ!!!」
皆の方を見て、本気の一喝。自分でも少し驚くくらいに、夜の闇に響いた。
「止めにきたら…私がぶっ飛ばす、誰だろうと。」
様子を伺っていたヴィヴィオ達にも含めて牽制する。
恭也お兄ちゃんは、少し私を見てからヴィヴィオ達の下へ戻った。
『お前の魔法』
そう告げた雫ちゃんの言葉に、硬く握り締めている二刀に、全て…とまでは言わないけど、なんとなく察する。
私があの剣より、魔法を手にしたから、それで戦ってるから、出世やらなにやらちゃんと出来てて世間に称され、裏で命がけで戦っていろんな人を救ってきた速人お兄ちゃんが、それでも裏でだからいろいろ大変なのを目にしてるから…
見ず知らずの他人ならともかく、私がそんなんじゃ、雫ちゃんから見たら『裏切り者』以外の何者でもない。
『…貴女にだけは…何も語る資格は…ない。』
雫ちゃんの言うとおりだった。
私が御神の剣士に口出しできる道理は一つだってなかった。
魔導師を舐めてるんじゃなくて、許せなかったんだ。どれだけの理屈と理由を揃えて口にしても。
それでも我慢してた。私が教師役を引き受けて魔法で戦うなんて事になるまでは。
今の今まで、雫ちゃんはずっと、我慢してきたんだ。
どれだけ大切にしてるかなんて、その澄んだ『紫色の瞳』を見ればよくわかる。
何のために力を使ったのか詳しくは知らないけど、立ち上がることが出来たから、力を切ったんだ。
理性で我慢しきれないほど恨んでいるはずなのに…それでも、剣だけで戦う事に…御神の剣で私を倒す事にこだわっている。
今更、武器を収めて終わり。で済ませていいわけが無い。
そんな半端では、もう二度と雫ちゃんは私を認めてはくれないだろう。
「リミットリリース。」
普段の節約や、目立たないようにするための魔力のセルフリミット。
当然ながら、ヴィヴィオ達との試合の最中もしっぱなしだった出力制限、それを解く。
力が戻ってくるのを感じる。私の本来の力が、全ての力が。
「…全力で応えるよ。私の全力で。」
そうでなきゃいけない。
その上で…御神の剣士とか以前に足りないものがあることを、彼女に伝えないといけない。
だからまずは…
「いくぞ!」
「うん!」
応えるんだ。
私の尊敬する兄、姉達が収めた御神の剣を継いでくれようと必死になってくれている彼女に、その剣に、今の私の全力全開で。
Side~高町ヴィヴィオ
正直、ぞっとした。
なのはママの全力。
聖王の鎧を破り、魔力の働き辛いゆりかご内部にクレーターまで作った力。
それを、生身の人間である雫さんに振るおうとしているんだ。
雫さんに満ちている殺意といい、とてもじゃないけど正常でいられるはずがない。
まして…
「これは…」
今駆けつけたばかりの、割と心配性のフェイトママには。
後を見れば、ついてこれなかっただけで皆来ている。
「止めちゃ駄目だよ、フェイトママ。」
「っ、ヴィヴィオ!?でもこれ…」
険しい表情のフェイトママ。ただの試合じゃないって、なんとなくわかるんだ。
でも…
私は、数歩だけ進んで、反転した。
他の皆と向かい合う形になる。一人で、凄い人数相手に。
「戦ってでも、邪魔させません。雫さんとなのはママ、二人とも望んでて…きっと必要なことだから。」
執務官とかとなると、この空気は仕事で止めに入らざるをえない状況かもしれない。
それでも、迷いは無かった。
と、アインハルトさんが私の隣について、振り返ってくれる。
「すみません、同じく。」
「お前ら…けどこれただ事じゃ…」
険しい表情のノーヴェ。
当然ではある、何しろ片方が殺意を持ってて、片方が対事件でもそうやらない全力なんだから。
それでも折れない私とアインハルトさんを見ていたフェイトママは、ゆっくりと近づいてきて…
私達の肩に手を置いて、私達の向きを変えた。
「…わかったから、一緒に見よう。二人も気になるでしょ?」
「うん。」
背を向けていて見れなかったなのはママ達のほうに視線を戻して貰えた私達は、それで認めてくれたのだと少しだけほっとして…
ぴりぴりと肌を刺す緊張感に、再び身を竦めた。
どうなるのか…わからない。
それでも、この戦いはきっと、私にとっても見逃しちゃいけないものになる。
そんな気がした。
SIDE OUT
親、兄弟は皆相当に懐広いからほとんどスルーしてたけど、身内かつ余裕ないとなるとあっても不思議じゃない反応かな…と。
脳内操作は…記憶や意識をいじれるなら、その一環で練習すればいけるかなーと言う事で(汗)。